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昨日と同じく霞が居ない中でのバイトだが、昨日よりは手際よく出来た。
店長「今のお客さんで閉店だね」
遊佐「はい、お疲れ様でした」
俺はいつものように片づけを始める。
店長「遊佐君」
遊佐「はい?」
店長「今日も霞ちゃんの様子見てきたんだろう?」
遊佐「あ、はい。よくわかりましたね」
店長「ははは、わかるさ」
店長はそう言うだけで理由は話してくれなかった。
店長「どんな様子だったかな?」
遊佐「結構元気そうにしてましたよ」
俺は床を拭きながらそう言う。
店長「そうか。でも霞ちゃんは無茶をするからね。気をつけてあげないと」
遊佐「無茶をする、ですか。まぁなんとなく分かる気がしますね」
少し間があって。
店長「遊佐君、一つ質問してもいいかな」
遊佐「え、どうぞ」
店長「好きな人はできたかな」
…………。
遊佐「……松下さん。最初の面接で言いましたよね。好きな人ができたらどうするかって」
遊佐「俺、霞……の事が好きです」
遊佐「まだ告白はしていませんけど」
俺は今の気持ちを店長に言った。何故かわからないけど店長には秘密にしてはいけないと思った。
店長「……この前も話したけど」
店長が水周りの掃除を途中で止めて話し出した。
店長「実は、霞ちゃんがアルバイトをしている理由を私は知っているんだ」
遊佐「え?」
その言葉を聞いた時拓也の言葉を思い出した。
拓也『姉ちゃん、バイトしてる理由が実は……いえ、やっぱりいいです』
店長「私が言ってもいいものかどうか悩んでいたが、やはり遊佐君には知っていてもらったほうがいいかもしれない」
遊佐「……」
店長「あの子の家庭は父親が三年前死んだらしくてね。それ以来母親が切り盛りしてきたらしいんだ」
店長は悲しそうな顔をした。
店長「女でひとつで子供二人を育てるのは大変だっただろう。それで5ヶ月くらい前に病に倒れてしまったそうだ」
遊佐「……それで霞ちゃんが変わりにアルバイトしてるってことですか」
店長「霞ちゃんは高校に行くのも止めようと思ったらしい。でも母親がどうしても、と言うことで通うことになった」
もしかすると、あの時の霞の言動はそれでだったのだろうか。
店長「…………実はというと私もね。妻と娘を17年前に事故で亡くしたんだ」
遊佐「……」
俺は重い話に何も言うことができない。
店長「その時に後悔したんだ。私は仕事一筋だったから何もしてやれなかった。もっと二人にしてやれることがあったはずだと」
店長「大事なものは無くしてから気が付く、とはよく言ったものだ」
店長「それで私は二人の分も努力をしながら生きようと思った」
店長「働いていた会社も止め、昔からの夢だったこの喫茶店を始めた」
店長「……そして何年もこの喫茶店をし続けたある日、そう4ヶ月前くらいだね」
店長がいつの間にかコーヒーを入れていた。イスを引いて俺に座るよう勧めてくれる。
店長「霞ちゃんがうちにアルバイトしたいとやって来たんだ」
少し沈黙が訪れる。
店長「私は我が目を疑った。17年前事故で亡くした娘にそっくりだった……」
俺はコーヒーに目を落とした。どこを見ていいのかわからない。
店長「生まれ変わりとしか言いようが無かった」
店長がコーヒーを一口すする。
店長「…………それからあの子の家庭状況を聞いた時、私は本気で助けたいと思った」
店長「きっとそれは過去の自分の罪を償うという意味もあったかもしれないね」
店長「でもあの子はそれを拒否したんだ」
店長「他人に迷惑はかけられない、そう言ってね。私に出来ることはあの子をここで働けるようにするだけたった」
それで、少し時給が高かったりしたんだ。
俺はまるで父親と娘といった感じを受けていたのはそういう事だったんだ。
店長「遊佐君」
俺ははじかれたように顔を上げた。店長の顔は穏やかだった。
店長「もし、あの子が助けを求めてくる事があったら、助けてあげて欲しいんだ」
遊佐「……もちろんです」
そう、店長にとって霞は娘のような存在になっていたんだ。
たった4ヶ月。その前の空白の17年。
俺が生きてきた間より長い。
遊佐「好きな人を助けたいって思うのは当然です」
松下さんも霞を娘のように愛している。そう思った。
店長「そうだね」
遊佐「……人を愛するって何だと思いますか」
店長「私は、無条件で優しさを与えることが出来る。それが愛じゃないかなと思う」
俺は、まだ経験もない。だけど、まさしく今その気持ちだった。
遊佐「俺も、そう思います」

店長「遊佐君」
店を出るとき声をかけられる。
店長「長話につき合わせて悪かったね」
遊佐「いえ、むしろ考えさせられることが沢山あってよかったと思います」
俺は気になったことを尋ねた。
遊佐「一つ聞くのですが。何で、俺にこんな話をしたんでしょう?」
店長「君ならあの子も心を開いてくれる。そう思ったから……かな」
店長「……わたしはねあの子は甘えるのが下手なんだと思う」
遊佐「え?」
店長「あの子はやさしいからね。助けることは出来ても助けられることは出来ないんだ」
店長「それじゃあ、また月曜日に」
店長はそういうと店に入っていった。
俺は店長の言葉を頭の中で繰り返した。
遊佐「助けたいって気持ちが、好きだって事になるのかもしれない」
それが、特別な人ならなおさら。
最終更新:2007年02月11日 17:51