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入場門にたどり着くと、ツンツン頭の金髪野朗が小躍りしていた。
中島「ねんがんのバスターソードを手に入れたぞ!」
 やっぱり言ってるよあいつ……
中島「おう遊佐! お前も早く武器受け取れよ!」
 ……おかしい。
 何故か俺よりも先に入場門にいた。
 確実にあいつ、死亡フラグ立ってただろ?
中島は身の丈ほどもある片刃の両手剣を楽しそうにぶんぶんと振り回している。
中島「テレッテッテー、蔵人はレベルが上がった!」
 まぁ、この際突っ込むのはヤボってもんか。
俺はそれ以上深く考えるのを止め、わけのわからんファンファーレをほざく中島を軽くスルーした。
???「遊佐。ここだ」
 振り向くとそこに、武器を配給しているという早乙女が立っていた。
遊佐「おっす早乙女。武器、受け取りに来てやったぜ」
 軽く挨拶をして歩み寄る。
すると、俺の目の前に壮絶な光景が広がった。
 ブルーシートに並べられた刀剣などの何種類もの武器。
ラックにかけられた短剣、かんしゃく玉などの投てき類。
その他諸々のウェポンが俺を待ち受けていたのだ。
遊佐「……お前、武器商人か?」
 アメリカのフリーマーケットじゃ実銃も普通に売ってるらしいけど……
 見た目だったらこっちの方が満場一致で危なそうだぞ。
早乙女「ふぅ……何とでも言え。確かにそう見えなくもないからな」
 露骨なため息を吐く。
さすが筋金入りの常識人。自覚はあるらしい。
早乙女「どうした。ボケっとしていないでさっさと選べ」
遊佐「ん、おぅ……」
 と、言われてもなぁ……俺には得意な武器なんてないし。
遊佐「早乙女の武器は?」
早乙女「私か? 無論、こいつだ」
 脇からリーチの長い模造刀を取り出す。
早乙女「三尺九寸の野太刀型。あの有名な刀剣デザイナー、魏流亀氏プロデュースによる、正真正銘、本物のギル亀印の模造刀だ」
遊佐「ふーん……」
 俺が今話の腰を折らぬようスルーしたのは『刀剣デザイナー』という職業と『ギル亀印の模造刀』という言葉。
 デザイナーが必要なほど世に刀は出回ってませんから。
 そんなブランドも知らないから。
が、ここも突っ込まず受け流すべきだろう。うん。
 早乙女は刀を一振りし、柄から切っ先までをゆっくりと見つめた。
 ……やけに長い気がする。
ちょっと待てよ、一尺って確か約三〇センチだよな。
 三尺九寸ってことは、大体四尺ってことだから……
一.ニメートルかよ!
くはー……鬼に金棒とはまさにこのことだ。
遊佐「俺も早乙女と同じのでいいか?」
遊佐「リーチが長いほうがやられにくいだろうし」
早乙女「そう思うなら、そうするといい」
早乙女「しかし、遊佐の手に最も馴染む得物が良いと、私は思う」
早乙女「『弘法筆を択ばず』というがな、実は、それは大衆から見た空海の虚像に過ぎん」
早乙女「空海自身、後に、筆は択ぶものだ、と言ったと伝えられている」
早乙女「名人巧者とて、やはり武器の使いどころを誤れば実力が出せないのだ」
遊佐「へぇ……達人はどんな筆でも関係ないのかと思ってたよ」
早乙女「『弘法筆を択ぶ』筆は書によって使い分けるべきである、と言う教訓だ」
早乙女「今回の場合、少し意味合いは違うが参考にはなるだろう」
なるほどな。
でも、んなこと言われたってなぁ……
そもそも俺に合った武器ってのが、なんなのかわからないし……
遊佐「ん?」
 多くの得物に混じって、ひとつだけ場違いとも言うべき武器を見つけた。
遊佐「銃?」
 銀色のボディの自動式ハンドガン。
まさか、本物じゃあるまい。
 多分、エアガンだろう。
遊佐「こいつもOKなのか?」
 無意識にそいつを手に絡ませていた。
あれだ、よくアニメとか漫画にも出てくる最強のハンドガンってやつ。
 確かデザートイーグルといったか。
 どっかの教会の婆さんシスターが愛用している、アレだ。
 じっと見つめていると、太陽の真っ白な光がステンレスの鈍い銀色に反射して、銃身は重厚な輝きを放った。
 な、なんかいい感じだ。
渋いぜ、こいつは!
早乙女「ああ、それはな……」
 早乙女が一歩踏み出し、俺の手からエアガンを奪い取る。
 かと思ったら、いきなりスライドを引いて弾を込めた。
 撃鉄が起きている。細かいギミックもちゃんと再現されているらしい。
 なかなか凝った動きだ。
遊佐「うおっ!」
 って、そんなことを考えていたら早乙女はためらいなく俺に銃口を向けた。
 こいつ、何する気だ!
遊佐「バッカかお前! 脅かすのも大概に」
 俺の抗議もむなしく、早乙女の指がグッと強くトリガーを引いた。
遊佐「ぐおっ!?」
 バチン!
 と、弾が発射されると予想していただけに、俺は呆気にとられた。
 俺を襲った感触は、痛みではなかったのだ。
遊佐「何だこれ……」
 何故か服が濡れている。
遊佐「水?」
早乙女「その通り」
 今度は空に向けて一発。
 軽く弧を描いて飛んでいった弾が、光をうけて虹を作り出した。
早乙女「IMIデザートイーグル50AE、口径は五〇。最強の威力を持つ自動式拳銃――」
早乙女「の水鉄砲だ」
 ずるぅ!
 俺はスッこけていた。
 今日の俺、よく転ぶな……
遊佐「み、水鉄砲?」
早乙女「当たり前だ。貴様風紀委員を舐めているのか?」
早乙女「エアガンで人を撃つなど笑止。冗談にもほどがあるぞ」
 風紀のためなら速攻で人斬包丁を取り出すような奴にエアガン云々で説教されてしまった。
遊佐「こういうのを圧政って言うんだよ……」
早乙女「何か言ったか?」
遊佐「いえ、何もっ」
遊佐「ところで、水鉄砲ってなにかメリットないのか?」
遊佐「このままじゃ、どう見ても最低ランクのヨワ武器なんだけど」
早乙女「ふむ、そうだな」
早乙女「近接戦には向かないな。かと言って弓矢ほどの飛距離が出るとも言い難く、遠距離が得意だとも言えない」
早乙女「しかし、だ」
遊佐「ふむ。しかし?」
早乙女「面白い武器だ」
遊佐「そうですね」
早乙女「うむ」
遊佐「それだけ?」
早乙女「うむ」
遊佐「なるほど」
 つまり結論として、
遊佐「面白いというだけですか!」
早乙女「まぁ、弘法筆を択ばず、というだろう?」
遊佐「さっきと言ってることが違うじゃねえかよ!」
 こいつ、俺をからかってるんじゃないだろうな……
遊佐「ていうか、いくら見た目が強そうなデザートイーグルでも、中身がただの水鉄砲って……」
遊佐「見た目と中身がともなってない元横綱K‐1ファイターのあの人を思い出すなー」
遊佐「確か一勝したんだっけ? でも大みそかは相変わらず勝てないんだよな」
早乙女「たわけ! 相撲取りを甘く見ると痛い目に遭うぞ!」
遊佐「はぁ。さいですか。しっかし、今年の年末こそは勝てるといいな」
早乙女「そうだな。私個人としては、ぜひとも『元横綱VS球界番長清原』というタイトルマッチを見てみたく思う」
遊佐「面白そうなのは否定しませんが、完全に元横綱をなめきってますね」
早乙女「もうそういうレベルだろう?」
 ひどい言われようだった。
早乙女「さて、話が逸れたな」
遊佐「恐ろしい逸れっぷりでしたね」
 本当に逸れまくっていた。
早乙女「どうする? 水鉄砲で良いならば、二丁の所持も認められているが?」
 その一言にピクッと俺の体が反応した。
 二丁OKってことは、ダブルハンドガンか?
 ぬぬ。それはなかなか、そそられるものがあるぞ。
早乙女「あと、ついでにこれも付属される」
 そう言って背後から取り出したものは……
早乙女「二丁分のホルスターと予備弾倉だ」
 ぐお! 男心を揺さぶる素敵なアイテムじゃないか。
遊佐「でも、所詮水鉄砲だしなぁ……」
早乙女「馬鹿者。たかが水鉄砲と言えど、そこらのへな猪口水鉄砲とはわけが違うのだぞ」
早乙女「今までの水鉄砲の常識を覆す恐るべき速射能力に加え、ホップアップ機能の装備により最大の難点であった飛距離不足も克服」
早乙女「さらには装弾数全十五発と、オリジナルの七+一発をはるかに凌駕した性能をほこり、そして極めつけには、薄い文庫本程度ならば貫通してしまうという本物さながらの威力を意識したパーフェクト・水鉄砲なのだ!」
遊佐「……」
 とことことこ……
早乙女「こら、どこへ行く」
遊佐「いやもう、俺なんかより北の将軍様のほうが欲しがるんじゃないかと思ってね」
早乙女「北なんぞにやるなボケ」
もはや水鉄砲じゃないだろう、こんな危険なもの。
早乙女「貴様、聞いて驚け。これを知ったら絶対に手放したくなくなるぞ」
遊佐「ほう」
早乙女「この水鉄砲、実はメーカーがすごいのだ」
遊佐「どこだ」
早乙女「ロレックス」
遊佐「マジでッ!?」
早乙女「でも何故かメイドイン・チャイナなんだ」
 ずるぅ!
遊佐「に、偽物じゃねえか!」
早乙女「さぁ、どうする。男なら男らしくスパッと決めろ。中国産だが」
早乙女「水鉄砲が気に入ったのなら、これでも良いんじゃないか? 中国産だが」
早乙女「遊佐に相応しい武器に見えるぞ。ほら、構えてみろ。中国産だが」
遊佐「うっせぇ! いちいち中国産ってつけんじゃねえよ! 中国産って言葉は、なぜか人をがっかりさせてしまう魔法の言葉なんだよ!」
 と、言いつつも、俺はしぶしぶ二丁のデザートイーグルをそれとなく構えてみる。
早乙女「ほう……やはりな」
 早乙女から感嘆の声がもれる。
遊佐「何が、やはり、だよ」
 意外と重い二丁の銃の重さに、俺の腕が疲れてきたところで、早乙女の表情がにわか真剣になる。
早乙女「初めてその銃を見たとき、お前は何をした?」
遊佐「何って……無意識に手にとって、握っただけだ。なんもしてねえよ」
 早乙女が満足気な顔に変わり、口をニヤリとさせた。
早乙女「遊佐、お前はその武器を使うべきだ」
遊佐「な、何でだよ。俺は別にこいつじゃなくても刀くらいなら使える自信があるぞ?」
 俺の言葉に、早乙女は鼻をならした。
早乙女「どうせ剣道の授業で何度か竹刀を握ったことがある、という程度だろう?」
遊佐「うっ、まぁ、それはそうだが……」
早乙女「だったら大人しくその水鉄砲を選んでおけ。よし、もう一度構えてみろ」
 言われるがままに、再び構える。
早乙女「……うむ。やはりな。遊佐には中国産の水鉄砲がお似合いだ」
遊佐「馬鹿にしてんのか?」


 と、言いつつも水鉄砲を選んでしまった自分がいた。






 午後三時。
灼熱の光がグラウンドを支配していた。
 暑い。くっそ、七月だってのにまるで真夏だ。
そんな熱波の中、汗を滴らせて必死に大声を上げる、キャプテンの井草がいた。
井草は太もも辺りまで伸びる長い真っ赤な鉢巻をたなびかせ、左腰には無骨なデザインの片手斧、右腰には刃が広く湾曲した青い片手剣、そして背中には特大のブーメランを背負っている。
 さすが万能娘。あの武器全部を使いこなせるだけの腕があるんだろうな。
井草「みんな。これだけは守って」
 両軍はそれぞれの陣営に分かれ、試合開始直前の最終確認を行う。
井草「必ず勝てると確信できる相手の時でも、タイマンはできるだけ避けること」
井草「もしタイマンの状況が出来上がってしまったのなら、すぐに応援を呼ぶか、誘い込んで多人数で一気に仕留める」
井草「いい? 単独行動は絶好のカモだよ。多勢に無勢、このことだけは絶対に忘れないで」
 そう彼女は言い終えると、メンバー全員の顔を見合わせた。
 念を押しているのだろう。
 ふむ、単独行動は禁止か。
 覚えておこう。


 最終確認が終わると、あとはいよいよ試合開始の笛を待つばかりとなった。
中島「へいっ、遊佐よ!」
 振り向くと中島がいた。
 やけにハイテンションである。
遊佐「うるさいぞ」
 むちゃくちゃ長い両手剣をアホみたいに振り回している。
中島「ふははは! オレはこの物語の主人公だぜ!?」
 どう見ても三枚目だ。
遊佐「大船に乗ったつもりでいろよ、オレのバスターソードの前に敵はない!」
遊佐「よくもまぁそんな大言壮語をやすやすと吐けるもんだな」
中島「ふん。なめてかかるとな……あとでこの大観衆の中、土下座することになるぜ……?」
 お前がな。
遊佐「ん?」
 ふっと、何かが頭をよぎる。
 こいつ――中島のヤル気を逆手に使えないだろうか。
 逆手っつたら言い方が悪いか。
 良い言い方をすれば……有効利用……か?
 あれ? むしろ余計に悪くなってるか?
 まぁどっちでもいい。
 ――良いこと思いついたぞ。
 さっきの井草の一言。
ヤル気満々な中島の、骨から皮まで使い尽くす最高の作戦を。
単独行動が禁止だとしたら、俺はそれを――
 よし、イケるぞ。
この作戦に賛同してくれるような奴と言えば……
 アイツしかいない。
遊佐「聖!」
 俺は、クラス一のバイオレンスガールの名を呼んだ。
最終更新:2007年02月18日 22:41