• #シーン5 『オールスターズ【ましろ、聖、杏、早乙女ルート】』
  • 登場キャラ『遊佐、中島、ましろ、杏、聖、早乙女、(田中学園長)』
  • BGM『緊迫感のある曲→高揚感のある曲』
  • 背景『グラウンド』
  • くどいようですが、今回は大筋を通すために最も感情度が高いキャラを【杏】と仮定して話を進めます。

田中学園長「誰もが望みながらも決して実現されることのなかった夢の対戦カード。それが『ヴァナ学オールスター戦』です」
田中学園長「二年生VS一年VS三年という、史上類を見ない掟破りの決勝戦が行われようとしています」
田中学園長「間もなく『レッセ・アレ』の合図が鳴り響くのでしょう」
田中学園長「名誉、プライド、絆、そして意地。バリスターたちの喜び、存在意義、すべてがこの試合に凝縮されようとしています」
田中学園長「さぁ、試合開始まで秒読み段階となりました」
田中学園長「あと、一〇、九、八、七……」

(暗転)

田中学園長「九、八、七、六――」
 彼女たちが俺に目配せをしてきた。
 無言で俺はうなずく。
(ああ、もちろんわかってるさ)
今回の作戦の一番のキーパーソンの背中……それををじっと見つめた。
遊佐「頼んだぜ、中島。お前がこの作戦の要なんだからな……」
 俺は、静かに応援する。
これから英雄になるだろう男の背中を。
 決して本人には聞こえないように、だけど。

(暗転。BGM→高揚感のある曲)
 ――五分前。

遊佐「杏!」
 この作戦に乗ってくれるは、こいつしかいない。
杏「な、何? 遊佐。そんな大声出さなくても聞こえてるわよ」
 杏は突然呼ばれたのが恥ずかしかったのか、会話の輪を抜けて真っ赤な顔ですっ飛んできた。
遊佐「ん、おう。丁度いい。お前らも来てくれ」
 杏と会話をしていたましろちゃん、聖、早乙女、中島も呼び寄せる。
中島「ん、なんだよ」
遊佐「頼みがある。聞いてくれ」
五秒ほど無言の時間が過ぎ、
遊佐「この俺に、お前らの力を貸してくれ!」
 力を込めて言った。
聖・ましろ・杏・早乙女・中島「は?」
聖「……お前、何を突然言い出すんだ?」
早乙女「何か、良い策でもあるのか?」
杏「……」
 一同の怪訝な顔が返ってくる。
聖「私はましろを守ると誓ったんだ。お前の茶番には付き合ってはいられない」
遊佐「頼む。ましろちゃんが必要なら、ましろちゃんと一緒に作戦に参加してくれてもいい」
聖「くどいぞ」
遊佐「頼む!」
聖「……」
 聖は俺を睨みつけてきた。
 が、俺も負けずに睨み返してやる。
 目を逸らしたら、俺は聖に屈したことになってしまう。
 お前の意地を見せてみろ。
 聖の目は、そう語っているみたいだった。
 ――まるで男同士の喧嘩だな……
 でも、こいつにとって、こんな不器用なやり方こそが、一番自分らしい感情表現なのかもしれない。
ましろ「聖ちゃん……遊佐くん、真剣みたいだよ。話くらい聞いてあげようよ」
早乙女「そうだな。思う念力、岩をも徹すと言うぞ。それくらいならいいのではないか?」
杏「聞いてやれよ。話くらいならいいだろ」
 聖はなかなか引かなかったが、面々の後押しもあってかやがて諦めたように表情を崩す。
聖「……話だけなら聞いてやる」
遊佐「本当か!? さんきゅう! 愛してるぜ!」
聖「なっ! お前、心にもないことを言うんじゃない!」
遊佐「別に、まったくそう思ってない、ってわけでもないぞ?」
 聖の顔が見る見るうちに赤くなっていく。
 うわっ、意外とウブなんだなこいつ。
ちょっとからかっただけなのに。
中島「あれ、聖照れてんの? なんか今日の聖、かわい――」
 言い終わる前に中島は地面に斬り伏せられていた。
聖は顔を伏せたが、前髪の隙間からほのかに赤い頬が見えた。
聖「勘違いするな? お前は井草に一目置かれているんだろう?」
聖「その井草が認めたお前ならば、私も認めてやってもいいというだけだからな」
中島「ふぅん……」
 中島が嫌らしい笑みで、地面から聖を見上げていた。
 なんだかむかついたので、俺は一発ボロ雑巾に蹴りをいれた。
杏「……で、何なの話って。私たちに用があったんじゃないの?」
遊佐「ん、ああ。って、こんなことしちゃいけねえんだ。中島、ほら立つんだ」
中島「なに?」
遊佐「お前に重要任務を与える」
中島「おほっ! そういうの待ってました!」
早乙女「単純だな。細かいことは気にしないのか貴様は……」
遊佐「そこが中島のいいところなんだよ」
呆れ顔の早乙女に、小声で言ってやる。
遊佐「さて蔵人君。君には、とある部隊の隊長をやってもらいたい」
中島「た、隊長?」
遊佐「そうだ。嫌か?」
中島「そんなことはねえが……すげぇ、このオレが隊長? オレなんかでいいのか?」
遊佐「もちろん。お前じゃなきゃ務まらないほどだ」
聖「お、おい遊佐。それは本当か? 適当なこと言うな」
早乙女「その通りだ。中島の実力で隊長なんて無茶だぞ」
中島「ふふん、あんまり俺をなめんじゃねえぞってことだ」
杏「語呂が貧弱。戦闘力3ね。このゴミ」
中島「何その謎の単位!? ていうかそんだけでゴミ扱い!?」
みんなの言いたいことはわかっていた。
遊佐「大丈夫だ。少し黙ってろ」
 だから、俺はあえて彼女たちを制す。
遊佐「少数精鋭の部隊で行く。メンバーはここにいる俺と中島、聖とましろ、杏に早乙女」
中島「ふむふむ……なんていうか、アレだ。すっげぇ攻撃的な部隊だな」
遊佐「よくぞ気が付いた。その通り。この部隊、名付けて『2‐B特殊突撃戦術部隊』だ」
中島「と、特殊突撃戦術部隊……ゴッツイ名前だな」
遊佐「だが中身は洒落っ気たっぷりなんだぜ。我々の主な任務は、敵にビッグ・サプライズをプレゼントすることだ」
中島「ビッグ・サプライズ? な、なんだそりゃあ」
遊佐「サプライズ・アタックだ。つまり『奇襲攻撃』のことである。中島、お前にはそのリーダーを担当してもらうことになるだろう」
中島「ほほう……なんか本格的で面白そうだな!」
遊佐「そりゃ何よりだ。ではこれから『奇襲攻撃』の詳細を説明する」
遊佐「我々は試合開始直後、一気に敵軍ルークに向かって突撃し、敵に奇襲攻撃を仕掛ける」
遊佐「お前は細かいことは考えずに、英姿颯爽と突っ込んでくれ。俺たちがあとから続く」
中島「切り込み役ってやつだね!」
遊佐「ああ。うん。そう、たぶんそんな感じだ」
早乙女「遊佐、もしやとは思うが“特殊”突撃戦術部隊ということは、まさか中島『だけ』を……」
遊佐「ん? さぁ何のことだか、俺にゃわからんね」
早乙女「お前……まさか、本当にやるのか? だとしたら甲斐性の塊だな」
遊佐「褒め言葉か? さんきゅう。愛してるぜ」
早乙女「調子に乗るな。軽々しく使って良い言葉ではないぞ」
 早乙女は呆れ顔を手で覆った。
中島「何のこと?」
遊佐「俺の作戦は素晴らしいな! ってことだよ」
そして俺はビシっと敬礼をした。
遊佐「中島隊長。この作戦の成功には貴官の働きが欠かせない。全力で任務をまっとうされたし!」
 彼女たちに目配せをすると、しぶしぶと中島に敬礼をした。
中島「……なんか遊佐以外の哀れむような目が気になるけど……まぁ、いいか!」
 ぶんぶんとバスターソードを振り回しながら、意気揚々と人ごみを切り裂いて歩いてく。
中島「よぅし! やるぞぉぉ!」
 そのあまりに惨めなピエロっぷりに、彼女たちはポカンとしていた。
聖「あいつは、本当にこれから自らに降りかかる不幸に気付いていないのか……?」
 俺は、そんな聖の肩をポン、と叩いてやる。
遊佐「無知は幸せなり。そういう事だ」
杏「貴方ね……まったく、呆れて物も言えないわ」
聖「まぁ確かに、あのアダムとイヴですら、無知で純粋であるが故に楽園に住まうことを許されていたんだしな……」
聖「無知は時に幸せになりうるのかも知れない」
 聖は苦笑いを浮かべる。
遊佐「な? 細かいことを気にしないって、幸せなことだろ?」
聖「まるでお前は、アダムとイヴに知恵の実を与えた蛇だな」
遊佐「ふっ。ありがとよ」

聖・杏・早乙女・ましろ「褒めてねえよ!」
最終更新:2007年03月02日 12:10