7/26
遊佐「……」
ここは、昨日も見た場所だ。
遊佐「……てことは」
俺の夢の中?
周りを見渡す。どうやら町が見える。
そろそろ日が昇ってくる頃だろうか。
遊佐「今日は居ないな」
昨日も居たはずの霞、に似た人のことだ。
遊佐「なのに何故俺はここの夢を見ているんだろう」
潜在意識に残ってたから?
それとも何か別の理由が?
遊佐「なんつってな……」
どう考えても普通に夢を見ているだけだ。
だがどうも不安になるのだ。
遊佐「昨日の言葉……」
何故か引っかかっている。
遊佐「記憶?」
だとしたらここは俺の記憶にある場所なのか?
もう一度周りを見渡す。
遊佐「あれは……」
遊佐「……」
目を覚ました。何かが俺を突き動かす。
遊佐「起きるか」
夢の中で一瞬何かを思い出しかけた。だけどそこまでだった。
そして俺は着替えて部屋を後にした。
遊佐「……ま、散歩みたいなもんだよな」
適当にぶらぶらするつもりだったのだけど自然と足が向かう方向は。
遊佐「結局いつもの道か」
学校への道だった。
遊佐「学校は開いてねえぞ……」
夏休みだしそれ以前に時間が早すぎる。
まぁ他に詳しい道があるわけでもないし。
ふと気付くと先に何かが転がっている?
遊佐「ん?」
どうやら人らしい。
遊佐「嫌な予感……」
俺は駆け寄る。
遊佐「大丈夫ですか?」
そして気がついた。
遊佐「か、霞!?」
自転車を隣に倒したまま、霞はうずくまっていた。
遊佐「お、おい! しっかりしろ」
俺は咄嗟に額に手を当ててみる。
遊佐「うわ、酷い熱」
霞「ん……。あ、遊佐君だぁ」
遊佐「遊佐君だぁ、じゃない」
意識があるようなので俺は少し安心した。
だけどこのまま家まで行けるか? いやそれよりも。
遊佐「こんな状態なのに……」
ちらっと自転車の方を見る。
新聞がいくつか散らばっているのが目に入る。
遊佐「……新聞配達か?」
霞「えへへ……」
配らないとまずいのだろうか……。
霞「もうちょっとだから、届けないとね」
起き上がろうとする霞。
遊佐「無茶するな」
霞「ううん、ちゃんとやらなきゃ駄目だから……」
遊佐「どうしてもか?」
霞「どうしても」
俺は少し考える。
霞は頑固なところがあるんだよな。
遊佐「しょうがない。俺も付き合うから早く済まそう」
霞「ごめんね」
遊佐「そう思うならゆっくり休んでくれ」
霞「うん……」
確かにあと数部で配り終わった。
ここまで無茶をしてまでバイトをしないといけない。
相当な理由があることは俺でもわかる。
もう少しで家だ。口数も少なくなっていた。
遊佐「昨日は調子よさそうだったんだけどな、って霞?」
霞「……ん? 何」
遊佐「……いや、昨日は元気そうに見えたんだけど」
霞「そうだ、ね……」
貸していた肩にかかっていた体重がふっと軽くなる。
丁度家の前まで来たところで霞が倒れた。
遊佐「お、おい!?」
くそ、やっぱりかなり調子が悪かったのか!?
とにかく安全なとこへ……。
遊佐「後は……!」
インターフォンを連打する。
遊佐「誰か、起きてくれ……!」
暫くして部屋に明かりが灯るのが見える。
拓也「姉ちゃん?」
遊佐「俺だ! 遊佐だ!」
拓也「え? どうしたんですか!?」
玄関の扉が開かれる。
遊佐「霞が気を失った」
俺は霞を抱えたまま説明をする。とにかく冷静になれ……。
遊佐「救急車を呼んだほうがいい」
俺は拓也に指示を出す。
拓也「あ、えっと、救急車をお願いします!」
拓也は混乱しているようだ。無理も無い。
だからこそ俺まで混乱していてはだめだ。
遊佐「俺に代わってくれ」
ここは俺が話した方がいいと思う。
受話器を受け取る。
遊佐「あの、代わりました」
遊佐「拓也、住所は?」
まずは住所を知らせる。そして今の状況を説明する。
遊佐「はい、確認しました」
今はあちらの指示に従う。
拓也「姉ちゃん……」
遊佐「大丈夫だ。とにかく今は待とう」
俺もとてつもなく不安だったし心配だった。
俺も付き添って救急車に乗った。
車内の様子からそれほど緊迫した様子は無い。
つまり安心していいはずだと思う。
拓也「姉ちゃん、また無理して……」
遊佐「……」
無理をする……か。
俺は少し落ち着いた今になって気がついた。
なぜ家に拓也しかいなかったのか……。
何となく霞が無理をしている理由がわかってきたような気がする。
外は明るくなりかけていた。
何かを忘れている気がする。
遊佐「……」
あれ、前にもこんなことあったよな。
ふと下を向いていた顔を上げる。
病院に到着したようだった。
最終更新:2007年03月15日 12:31