弓削梨香ルート 18日 【Rendezvous Point 】
 

遊佐「んじゃ、行ってきます」
扉を開けると、柔らかい日差しがすっと伸びてくる。
遊佐「ん~、いい感じ」
背伸びがてら空を見る。
今日も暑くなりそうだ。
時間はいつもより30分前、違う道を通るし、何より弓削を待たせるのは悪いしな。
遊佐「時間厳守!さて、行きますか」
足取りが軽く感じるのはきっと誰かさんの突拍子もない提案のせいだ。


遊佐「こっちであってるよな?」
自分に確かめるように来た道を見返した。
遊佐「多分あってる」
結構この付近は道とか知ってるつもりだけど、不安になるよな。やっぱり。
ましてや、弓削と待ち合わせなんかしたらなおさらだよな。
……。
緊張してるのか?俺!
遊佐「でも弓削は後輩だし!甲賀先輩にベッタリだし!」
……。
何弁解してるんだ俺…。急にむなしくなってきたぞ。
遊佐「はぁ」
ため息がでる。
弓削「遊佐先輩って独り言多いんですね」
遊佐「いや~虚言癖がある友達を持つと移るって聞いた事があるんだ」
…………
遊佐「おはよう弓削」
慌てても、どうせ聞かれただろうからこの際気にしないでおく。
弓削「おはようございます。遊佐先輩」
遊佐「早いな」
弓削「お弁当作るのに早く起きすぎちゃって。それより私の事をいってました?」
遊佐「へ?あ、いや弓削が作ったお弁当美味しいだろうなって」
弓削「嘘です、そのあと甲賀先輩がどうのこうのって」
やっぱり聞かれてるよな。うん。
遊佐「いや~、俺のも作ったんだから甲賀先輩のも作ったんだろうなって」
一応、最後まで足掻いてみる。
弓削「会長のは作ってませんよ?会長は何時もちゃんと持ってきてますから」
遊佐「ほう」
ごまかし成功!
弓削「時々は学食みたいですけど」
遊佐「自分で作ってるのかな?」
弓削「それはちょっと解らないですけど。美味しいです」
遊佐「食べた事あるんだ?」
弓削「おかずを時々交換するんですよ」
あぁ、そういえば女の子がそうしてるの見たことあるな。
弓削「美味しいって言ったら。私のも美味しいって言ってくて。」
弓削「私が作ったって分かったら凄く驚いてました」
遊佐「ほうほう、楽しみですな」
弓削「へ?あ、あの、あんまり期待しないでください」
弓削の片手にあるものをまじまじと見つめる。
遊佐「弓削が作ったんだろ。旨いって、自分に自信を持て」
弓削「あぅ……」
俺、なんか変な事言ったか?なんか俯いちまったんだけど。
遊佐「お~い、どうしたんだ?」
軽く覗きこんで――
弓削「何でも! 何でもありませんから!これ、お弁当です!」
遊佐「お、おぅ。さんきゅ」
弓削「それより行きましょう!送れますよ!」
遊佐「こっ、こら押すな押すな。まだ十二分に間に合うだろ」
弓削「早く行って、ゆっくりすればいいじゃないですか」
ぐいぐいと体ごと押して急かされもな……また何か焦ってるのか?
遊佐「分かった分かったから、歩いて行こうぜ?」
弓削「遅刻なんてさせませんからね!」
遊佐「おうよ」
少し離れて並んで歩いていく。
まぁこのペースなら遅刻なんてありえないだろ。
遊佐「そういえば弓削」
弓削「何ですか?」
遊佐「弓道部には結構いくのか?」
弓削「いえ、あんまり」
弓削「弓道部と生徒会と掛け持ちはいけないと分かってるんですけど。」
そうなのか?井草なんか助っ人とかで走り回ってるけど。
弓削「部長さんが気が向いた時でいいから、構えを手本にしたいから来てちょうだいって。」
遊佐「構えとか解らないけど、なんか……綺麗だったな。」
弓削「へ?……あ!構え!構え、親戚の家が弓とかを扱っていて小さい頃からさわってましたし」
遊佐「あぁ、それで」
弓削「礼儀作法は親が興味あるならやってみなさいって勧めてくれたんでここにはいるまでやってました」
遊佐「やめたのか?」
弓削「学生の本分は学業ですから」
遊佐「……やめることは無いだろうに」
弓削「だから時々、御厚意に甘えてよらせてもらってるんです」
あれくらい綺麗な構えとか、才能とかないと出来ないんじゃないか?
弓削「弓道部の人達には悪いと思ってるんですけど。」
遊佐「そんなことないだろ、部長がそういってるんだから部員全体が手本にしてるんじゃないか?」
弓削「……とにかく昨日は何かに集中したくて、よらせてもらったんです」
むぅ、もったいない
遊佐「あ、もかして。昼休みに部室棟で見掛けたのはその関係?」
弓削「使わせて貰いだけでは悪いですから。ちょっとした掃除と髪留め探しを」
遊佐「そっか、ごめんな?無駄足を踏ませて。遅刻しても朝渡せば――」
弓削「ダメですからね」
ちょっと声が冷たくなったと思ったら、何でそんなに睨むんですか!!
遊佐「分かった、すまん」
アレには敵いません……。
弓削「分かれば良いんです。でも、もう遅刻ぎりぎりなんて事はないでしょうけど」
遊佐「そうだな、期待にこたえますかね」
弓削「そうしてください。もし、来なかったら家まで行っちゃうんですから!」
……

風邪をひいた時はどうするんだ?


閉門20分前余裕の登校、こんなの普通じゃなさ過ぎるぞ……。
弓削「それでは、またお昼休みに」
遊佐「へ? お昼休み?」
なんかあったっけ?
弓削「あ……」
遊佐「?」
弓削「あの、よければお昼も一緒しませんか? 感想も聞かせて欲しいですし」
遊佐「おおぅ、そういうことか。そんなの当たり前だろ」
弓削「やった!」
折角作ってもらって「はい美味しかったです。」だけじゃなんか変だろうしな。
弓削「約束ですよ! 絶対ですよ? 嘘ついちゃダメなんですから!」
おーおー本当に、はしゃいじゃって。一応校門前なんですけど弓削さん
遊佐「OKOK、んじゃまたな」
弓削「はい!」
妹とかいたら絶対こんな感じ?かなり偏見な妹だけど。
…………

色々とごめん。


遊佐「うぃーす」
誰にも向けてない挨拶を教室へ。
まぁ誰か反応するだろ。
早乙女「おはよう、中島共々今日は早いんだな」
遊佐「お早うっす、今日は監視役がいたからな」
早乙女「監視役か……誰かは知らんが、あまり頼りにしてだらしなくならないようにな」
遊佐「へーい」
軽く会話して自分の席を見て絶句した。
中島「にやにや」
…………
変態さんがいる。
通報しなきゃ!
てか「にやにや」とか言葉に出して言うな中島!
遊佐「朝から変だな、教室の空気が淀むからやめろ」
中島「……朝からお熱のくせによく言う」
遊佐「なにが?」
中島「とぼけるなよ……1年の弓削って子と付き合ってんだろ」
遊佐「付き合ってるとかそういうレベルなのか?」
中島「それ以上!? それ以上なのか!」
遊佐「中島」
にっこり。
中島「くぁwせdrftgyふじこlp;@」
ぎゅっと首を絞めてみる。
遊佐「それ以上の関係じゃ絶対無い!」
中島「遊佐……ぎ、ぎぶ、ぎぃーぶrわかったから放せ」
ま、冗談はこれくらいにして……。
中島「ゲホ、ゲフ……ふー。で、ほんとのところどうなんだよ?」
遊佐「ん~、そうだな簡単に言うとどうしようもなく気になる妹って感じかな」
中島「それは、きんs」
にっこり、再び。
中島「ひっ」
そぉっと手を首に――
中島「わかった。わかぁったから冗談はすまんかった」
遊佐「わかればいいんです」
ちょっと弓削風に言ってみた。
中島「あれだな、後輩とか年下相手だとどうしてもそんな感じに恋愛の最初はなるわな」
遊佐「なんだ? お前にもそんな経験があったなんてはじめて聞いたぞ」
中島「え、だってエロゲだもん。」
…………
全米が泣いた
全世界のほうがよかったか?
遊佐「……中島」
中島「いやぁぁぁそんな目でみないでぇぇぇ」
別に変な目じゃないと思うが、どちらかというと哀れむ目?
中島「だって……現実に『先輩♪ごはんたべましょ♪』なんて事はありえない!むしろあったらそれは俺にとってエロゲだ!」
聞いてたのか……こいつ
遊佐「なら俺はその主人公か?」
中島「うん、そう」
遊佐「そうか、なら男キャラはこれ以上むさくるしいな」
中島「そうだな、シナリオ的にうざいだけだ」
遊佐「一人くらい消えても流れ的には問題ないな?」
中島「ゴメンナサイ」
遊佐「…………まぁ、なんかほっとけない後輩って感じだなホント」
中島「それは俺が聞いてるのと観点がずれてるぞ」
遊佐「そうか?」
中島「そうさ、後輩って事は男も入るだろ? なら男でも同じことが言えるかって事を聞いてるわけ」
遊佐「ならないな」
中島「さらに他の女の子の後輩で弁当とか作ってくれる子、他にいるか?」
遊佐「いないな」
中島「その子がほっとけないorいつの間にか気にかけてるって事はないですか?」
遊佐「それは時々あるな」
中島「ならそういうことだろ。自覚しろよ、お前風に言うとその子に失礼だぞ」
ぅ……説得力あるな。
中島「あれだな、友達に恋人とか出来る焦燥感をお前に教えてやりたいよ」
遊佐「ひでぇ言われようだな」
中島「あ~あ……この怒りは何処に向ければいいんだ!」
こっちはこっちでこのもやもやとした気持ちは何処に向ければいいんだよ……。
片山先生「はいはいそろそろチャイムが鳴るわよー」
中島「太もも降臨!」
数秒も持たずに誰かさんの怒りはどこにも向けられる事なく……

むしろ消え去ってるわけだが。


結局あれから授業の内容なんて耳から入って口からため息と同時に垂れ流しなわけだ。
あいつが変なことを言うから!
お昼が近いのにこのままだとろくに弓削の顔見れないぞ俺!
先生「じゃ、今言ったところ結構重要だから。ノートに控えとくように」
遊佐「やべ……」
この先生が重要って言ったら間違いなくテストに出すからな。
遊佐「ええと……」
何だっけ?
あ~も~、くそ!もう誰かにあとで聞こう。
中島「遊佐先輩お昼どうするのです?」
知ってるくせに忌々しい
遊佐「弁当だ、先約があるから行ってくる」
中島「あ、あれマジだったの。お昼一緒にって」
遊佐「なにぃ!?聞いてたんじゃないのかよ」
中島「いや、遠くからやりとりを見てただけだぜ?なんか見てて腹立ったからかまかけてみた」
遊佐「うぉぃ!」

理由が……恐ろしい……
中島「ま~遊佐に彼女ができるなんてな以外だったもんで、からかってみただけだ」
遊佐「っく……とにかく行ってくる!」
これ以上からかわれるのは癪だし……。
席をたって一年生の教室を目指す。
中島「おっしあわせに~」
遠くで気が抜けた応援らしいものが聞こえた。
あとでお仕置きだな、うん。
弓削の弁当は持ってるし後は階段を下りて一年生の教室へ――
遊佐「あ」
弓削「あ」
何ハモってるんだ!
じゃぁ、次はアレか?どっちかが話を切り出すのににモジモジか!?
弓削「今、そちらへ行こうと思ってたんですけど」
遊佐「お、おぅ。さんきゅ」
ろくに顔が見れないのだが……。
弓削「どうしたんですか?」
遊佐「あーえと、とにかく何処で食べようか?」
弓削「そうですね……、今日は暑いですから生徒会室を借りましょうか」
昨日と同じくらいの熱さなのに……、もしかして気を使われたか?
遊佐「いいのかな?」
弓削「生徒会役員の特権ってやつです、私だってそのくらいはしますよ」
弓削がいいって言ってるからいいか。
遊佐「そっか、じゃぁすぐだからいくか」
弓削「はい」


『コンコン』
見慣れた扉をノックする。
甲賀「うぃーあいてるよー」
遊佐「失礼しまーす、はやいっすね」
甲賀「生徒会長様に不可能は無いのです!」
いや、胸を張られても。
弓削「あ、片付いている私の席に座ってください」
遊佐「いや、ちょっとすぐだから片付けるよ」
書類やら本やら良い設備があるのに結構ごちゃごちゃしてるんだよなぁ……。
弓削「……、分かりました。その間にお茶でも入れますね。会長はいりますか?」
甲賀「わたし?そうだね、丁度ご飯まだだし入れてもらえるとうれしいかな」
弓削「はい、少し待っててください」
埃とかまわないように片付けないとな……っとテーブル拭きテーブル拭き……。
甲賀「ほい、ウェットティッシュでふきな」
遊佐「ありがとうっす」
甲賀「ねぇねぇ。」
ちょっと手招きされた。なんかニヤニヤしていつかのデジャヴなんだが。
遊佐「なんすか?」
またなんかへんなことでも考えてるんだろう……。弓削が見てないからって……。
甲賀「ナイショ話しよう」
遊佐「はい?」
甲賀「ほれ来る来る」
近くまで来ていたのでぐいっと引っ張られる。
甲賀「で、どうなのさ。遊佐クンは弓削と付き合ってるの?」
ぅ……またこの話か。
遊佐「傍から見ればやっぱそう見えます?」
甲賀「やっぱり、じゃなくてそうしか見えないし」
遊佐「いや、ですがね……」
甲賀「ちゃんと告白はしたの?」
いやだからまだ付き合ってるってわけじゃないですって……。
甲賀「青春だしいいじゃないか!こっちが告白してやらないと向うも踏ん切りがつかないだろう?」
遊佐「ちょっと甲賀先輩!自分から言い出しといてボリューム大きいですって」
甲賀「あ、あははは……」
弓削「どうしたんですかー?お茶ならまだ少し待っててくださいね」
ぴょこっと顔を出してこちらを伺う弓削が見える。なんか楽しそうだ。
遊佐「ちょっとお弁当のことで議論を!」
甲賀「あたしは甘い卵焼きじゃないとダメでね!」
弓削「まだ早いですよー」
壁越しに消えてゆく弓削。
甲賀「で、君の気持ちはどうなんだい?」
遊佐「確かに……気にかけてはいます。」
甲賀「ならどうして」
遊佐「例えるなら親愛ですか、寵愛でもいいです」
甲賀「よくわからないな」
辞書でも引いてください!
遊佐「恋愛とはまた別、というか凄い曖昧な気持ちなんです」
甲賀「青春だね~、それで? そんな気持ちじゃ此方から告白はしないってことか」
遊佐「少なくとも今は……ですね。」
甲賀「……」
遊佐「……」
甲賀「ならさ、弓削から告白したら君はどうするつもり?」
遊佐「それは……」
甲賀「こんな気持ちだからダメ、って断る?」
遊佐「わかりません、予想なんかしても」
甲賀「受け入れるにしても、君は心のどこかで安易に受け入れた自分を後悔するだろうね」
甲賀「こんな気持ちのまま付き合っても相手に失礼じゃないか?ってね」
腹立ってきたけど反論できる言葉が無い……。
遊佐「なら……俺は……」
甲賀「二人の関係に口を出すことはあまりしたくないけどさ、弓削を悲しませたりしたら許さないよ。」
遊佐「そんなことは!」
甲賀「っま、青春だしね……でもその気持ちはどこかで踏ん切りをつけておいて」
遊佐「……わかりました、絶対に」
甲賀「ん」
奥のほうからかちゃかちゃと音が聞こえた。そろそろ準備が出来たのだろう。
弓削「はい、準備が出来ましたよー」
甲賀「ありがとう、弓削は良い子だね~」
お茶を受け取るついでに弓削の頭を撫でている、甲賀先輩が妙にうらやましく見える。
弓削は隣でくすぐったそうに目つぶっていた。
弓削「はい、遊佐先輩」
遊佐「ありがと……」
思わず湯飲みをぎゅっと強く握ってしまった。
熱い……。
熱さが痛みに代わる、でも何故かそれでもいいと思った。
弓削「ちょっと遅くなりましたけどお昼です」
甲賀「お、今日はお弁当?わたしも今日お弁当だから弓削交換しよう!」
弓削「はい、かまいませんよ」
皆が一斉にお弁当を開ける。
遊佐「うぉ」
凄い
甲賀「何々?どうしたの、中身は空で実は500円が入ってたとかそういうオチ?」
ずいっと身体を乗り出して見に来る。よくあれでコケないよな。
甲賀「わーぉ、凄いじゃん。遊佐クンの――」
弓削と見比べてる、気づきましたか。
甲賀「弓削と一緒じゃん!どういうこと!」
なんか凄い栄養管理されてるようなメニューで彩が鮮やかというか華やかというか。
違うとすれば、弓削のお弁当と量が2倍近いあるって事だけ。
遊佐「それがですねー」
弓削「日ごろお世話になってますから今日作ってきたんです」
にっこりと甲賀先輩に笑いかける弓削。
遊佐「です」
甲賀「そんな!わたしには作ってきてくれないのに!」
弓削「だから交換してあげてるじゃないですか!」
甲賀「わたしは無償の愛が欲しい!」
弓削「私だって会長のお弁当楽しみなんですから!」
甲賀「あ、あら?そうなの?」
なんか、話のすり替えがうまくなってるな弓削。
弓削「そうです、だから交換しましょう」
遊佐「あ、じゃぁ俺も――」
な、なんか甲賀先輩がじと目で見てくるんですが……。
甲賀『アンタはダメ』
眼光だけでそう語ってた。
弓削「遊佐先輩? 食べないんですか? もしかして――」
甲賀先輩から殺気が放たれだした!!
遊佐「『もしも』も。しないぞ!美味そうだ!嗚呼!美味そうだ!」
慌ててお箸を持つ。
遊佐「そ、それでは」
遊佐 弓削 甲賀「いただきまーす」

昼食が終わり、食後の待ったりとした雰囲気を楽しむ。
弓削と会話したり、甲賀先輩が茶化したりしたりでこれはこれで中島と違う楽しみを見つけたかもしれない。
そんな時間もすぐに終わりが近づいてきて予鈴の少し前。
弓削「それじゃそろそろ」
甲賀「だね、あー熱い……全教室の空調設置案通そうかしら……」
弓削「それは予算上無理だと決定したじゃないですか」
甲賀「はー……考えるだけで無駄だわ……」
弓削「あまりクーラーを使うのもよくないですしね」
遊佐「そうだな」
甲賀「あ、そうだ言い忘れてた。」
弓削「なんですか?」
甲賀「わたし、家の事情で明日休むから。今日も色々とあるから生徒会の活動は今日はなし。明日は明日で先生の指示に従って」
弓削「はい、分かりました。」
甲賀「それと昼休み前にちょっと苦情が着てね。近頃不審者がいるらしいの」
遊佐「不審者ですか」
甲賀「そう、不審者パソ研からいつの間にか知らないファイルが増えてたり器具が動いてたりしてるから気持ち悪いって」
弓削「そうですか……それでは放課後に」
甲賀「いや、放課後は問題ないから明日の昼休みにちょっと調べておいて。遊佐」
遊佐「はい?」
初めて呼び捨てにされたかも
甲賀「不審者ってわけだから、男手でしか無理な場合がるそのときは頼りにしてるよ」
遊佐「任せてください」
甲賀「ん、任せたからね。それじゃわたしは行くわ」
弓削「私も戸締りをしていかなきゃ、遊佐先輩も遅れちゃダメですからね?」
遊佐「だな、遅刻はもうしないって約束したし」
弓削「はい、約束ですよ?」
守れない約束じゃないからな。
っと時間時間。
遊佐「じゃな」
甲賀「じゃね」
弓削「またです」
さて後半戦、眠気との戦いだな。

遊佐「あ~……疲れた~」
弓削「そんなに疲れたんですか?」
遊佐「昼休みのあとさー俺じゃなくて中島。あ、俺のダチね。遅刻してきやがって」
弓削「遅刻はダメです」
遊佐「ん、そいつか遅刻してきたから先生がそいつに集中的に当てるもんだから、俺も気が抜いてられなくて」
弓削「授業中寝れなかったから疲れたんですか?」
遊佐「うん、そ――」
う……、にらまれた気がする。
遊佐「そうじゃないぞ」
弓削「正直に言って良いんですよ」
にっこり。
何時もの笑顔に見えないんですが……。
遊佐「ゴメンナサイ」
こんなやり取りをしたような気がするんですが!また デジャヴですか?!
弓削「まぁ……私だって時々ウトウトしちゃいますから許してあげます」
遊佐「ありがとうございます」
弓削「ねぇ、遊佐先輩?」
遊佐「ん?」
弓削「お昼美味しかったですか?」
あ……、やべ。感想いってなかった……。
あんまりに美味しいから食べた後も呆けてたんだった。
まぁ……食べてる最中にじっと見つめられたら流石に平常心なんか保ってられない性分なわけで。
遊佐「十分すぎるほど美味しかったぞ」
弓削「本当ですか?」
遊佐「本当だ、ここでお世辞言うほど野暮じゃないぞ?」
弓削に嘘ついても説くかなんてないしな、本当の事を言って上げた方が弓削も嬉しいだろうし。
信号が赤に変わり始めて……
弓削「美味しかったですか!」
遊佐「おぅよ」
弓削「やった!」
はしゃいで横断歩道を――
遊佐「危ないぞ!後ろ!」
バイクらしいものが後ろを駆け抜ける。
弓削「ひゃ!」
思いっきり手を引いて引き寄せる。
遊佐「あぶねーって、喜んだりして周りが見えなくなるクセ何とかしなきゃな」
バイクじゃなくて自転車だったからよかったものの。
弓削「すみません……またやっちゃいました」
遊佐「はぁ……いつか死ぬぞ」
ぺちん、と軽くおでこをチョップしてあげる
弓削「ぁぅ」
遊佐「ふぅ」
チョップついでに頭を撫でてやる。
弓削「あ、あの。青!に青になりました」
遊佐「む、了解」
しっかりと信号が後になるのを確認してわたりだす。
遊佐「小学生みたいだな」
弓削「え?」
遊佐「ほれ、これ」
弓削「あ……」
繋いだ右手をくぃっと持ち上げる。
弓削「……」
遊佐「危ないからな」
いいわけじみたことを言ってみる。頭の中では中島と甲賀先輩の言葉ばかりがぐるぐる回っていた。
弓削「今は……小学生みたいって言われてもかまわないです」
遊佐「はは、それは困ったななら黄色い帽子を被らないと」
冗談めいた話を続け帰り道を一緒に帰る。
ただそれだけのことがとても居心地がよかった。

弓削「それではまた明日。」
遊佐「おうよ」
弓削「それでは」
遊佐「おつかれさん」
一礼をして自分の家へと続く道を歩き出す。
遊佐「さて、俺も帰りますかね」
陽射しが陰りを見せ始め、うっとうしかった風が心地よく感じる。
弓削「またでーーす」
声で後ろを振り向くと、大きく手を振って笑っている弓削が見えた。
軽く手を振ると、それを見て満足したのか弓削はもう一度ぺこりと頭を下げて。家路へ消えていった。
遊佐「約束か……さて何かお返ししないとな」

最終更新:2007年03月24日 23:29