弓削との登下校も日課になってきたな。
弓削「会長は朝は弱いんですよ」
遊佐「へぇ、いつも大変だろうな」
弓削「話によると、何か青春漫画とかそういうのを夜遅くまで見てるそうです」
遊佐「ははは、お肌に悪いとか言っておきながらそんなことしてるのか」
弓削「でも最近は遅刻とかないのでうれしいです」
遊佐「そういえば、弓削は俺と登校してるけど最近は起こしてないのか?」
弓削「会長の方から私に頼ってばっかりじゃだめっていって断ったんですよ」
遊佐「ほぅ」
でも、どうやって起こしてるんだ?
遊佐「家が近いのか?」
弓削「いえ、そうではないんですけどね」
遊佐「モーニングコールとか?」
弓削「モーニングコールですか」
遊佐「あ、いや」
流石にそこまでしたら何か通い妻じゃないか……」
変な想像するなよ!
弓削「あ、そうだ遊佐先輩」
遊佐「なんだ?」
弓削「携帯もってます?」
遊佐「持ってるけど?」
弓削「よかったら教えてくれませんか?」
遊佐「いいぞー、というか教えてなかったのはおかしかったな」
弓削「いえ、私も親に頼んで最近買ってくれたんです」
遊佐「そうなんだ」
弓削「はい、友達に今携帯持ってないとおかしいって言われました。」
遊佐「まー確かにまだ持ってない人は稀かもしれないな。」
弓削「それにまた緊急に連絡がとりたいときにも便利ですし」
あぁ……カラオケのときの電話番号は家のか
遊佐「しかし、よく急に買ってくれたな」
弓削「無理やり説得させました」
遊佐「なかなかやるな」
弓削「えへへ、でもちゃんとした理由もあったんで納得してくれましたしね」
遊佐「それなら納得するな……っとこれだ。ついでにメールアドレスも教えとこうか?」
弓削「そうですね、それではちょっと借ります」
遊佐「ん」
……

…………
カカカカカカ!
早!
何?! そのボタン捌きは?!
遊佐「は……はやいな」
弓削「そうですかー?」
まるで乱れうちじゃないか……。
弓削「はい、ありがとうございました」
遊佐「お、おぅ」
弓削「電話かけますねー、後もメール送っておきます」
遊佐「ん、ありがと」
弓削「いいえー」
遊佐「ちなみに聞くが……その携帯いつ買ったんだ?」
弓削「二日くらい前ですね」
遊佐「たった二日で!……凄いな」
弓削「ちゃんと説明書を読めば使い方はわかりますよ?」
それはそうなんだが……ボタン操作が凄すぎだろ……
弓削「それに会長が、意外と機械に弱いので」
遊佐「そ、そうなんだ」
弓削「だから会長もまだ携帯を持ってないんですよ」
遊佐「もっていないのか」
弓削「なんか操作自体が複雑で嫌らしいです。」
それなら朝はやっぱり直接起こしにいってるわけだな
遊佐「緊急なときはどうしてるんだ?」
弓削「今のところ緊急な事……は起きてないですから直接伝えられることが多いですね」
まぁ……おいそれとあったら怖いけど……
弓削「平和が一番です」
遊佐「だなぁ、適度にちょっとした事がおきればそれでいい」
何事もなかったらそれはそれでつまらないからな。

 

 

 

十分に余裕を持って校門前に到着
数日前ならありえなかったこの速さ、まあ嫌な気はしないけどな。
弓削「おはよー」
女生徒「おはよー梨香ちゃん。ねぇねぇ梨香ちゃんちょっとこっちに来て」
弓削「え?う、うん」
校門前でひそひそ話をし始める二人。

一方的にクラスメイトらしき女の子が喋ってるな。
弓削「えぇ?!そ、そこまでは……」
顔を真っ赤にしてるけど……
あ、俺のことか
もしかして急にお弁当とか作ってるのはあの子が吹き込んだからだろうか?
女生徒「えーそれは……」
弓削「でも遊佐先輩は」
なんだか凄い疎外感なんだが……腹立つというかなんと言うか……
甲賀「ふふふ……君は今、複雑な心境にいるみたいだね」
遊佐「うお!?」
なんだ?いつの間に後ろに!
甲賀「おはよう、遊佐クン」
遊佐「おはようございます、びっくりさせないでくださいよ」
甲賀「さっきから、ちょっと見かけてね」
遊佐「なら早く声をかけてください……弓削もいるんですし」
甲賀「青春してるなーって思って見てたら、この状況になって仕方なく顔を出したわけ」
隠れてたのか!
甲賀「私も野暮なことはしたくないのよ!」
遊佐「いや……野暮も何も……」
甲賀「で、どうだい心境の変化はあった?」
遊佐「ないですよ!」
甲賀「えー、あれほど念を押したのにまだ決まってないのか……しょーがないなー」
やれやれと言った顔であきれられる。
遊佐「ですが――」
女生徒「ん~また教室でね」
弓削「またね」
丁度話が終わったみたいだった。
弓削のほうを見ると弓削も気づいたようですぐさま駆け寄ってくる。
弓削「おはようございます」
甲賀「や、おはよ弓削」
弓削「今日は早いですね」
甲賀「まあね!たまには早く来ないと!」
弓削「いつもにしてくださいね」
甲賀「善処します。で昨日はどうだった?」
遊佐「それなんですが」

かくかくしかじか

甲賀「あはは、遊佐クンもいい友達をもったね」
遊佐「いい友達じゃなくてただの悪友です……」
弓削「それで……どうします?」
甲賀「遊佐クンの知り合いなんでしょ?ならその対処でいいんじゃないかな」
弓削「わかりました」
甲賀「ま、いざってときには遊佐クンが責任取ってくれるって言うし」
遊佐「本気ですか!」
甲賀「男に二言はないって言うじゃないか」
まあ、いいか……真剣に言ったら中島も聞くだろ。
遊佐「わかりましたよ……」
甲賀「それでこそ頼れる先輩ってやつだよ!」
弓削「ふふふ、そうですね」
こんな雰囲気もなかなかいいな。
甲賀「で、1学期のイベントも終わって生徒会の仕事も落ち着きを見せたわけだけど」
弓削「はい」
甲賀「まあ、あたしはともかく夏休み期間中はできるだけ学校に出てこなくするからさ」
遊佐「甲賀先輩はなんかするんですか?」
甲賀「遊佐クン……あたしは一応3年生なんだよ?」
遊佐「あ……」
弓削「何か手伝えそうなことがあったら言ってくださいね」
甲賀「ん~ありがと、でも弓削は何時も頑張ってくれるから。大いに楽しんじゃいな」
あーなんかやっぱりここでも俺はないがしろですか……
弓削「そんな……私は何も」
甲賀「はいはいそんな事言わない。でね、ご褒美ってちゃなんだけど」
弓削「ご、ご褒美ですか?!」
そんなにあせらなくても……てか弓削だけですか……
甲賀「そ、ご褒美。夏休みにね知り合いのところに行くんだけど、そこの海がとっても綺麗でね」
弓削「私も一緒に行っていいんですか」
甲賀「うん、本当に綺麗だから海底まで見えるよ」
弓削「へえ……楽しみです。それで遊佐先――」
甲賀「まあ、ついでだからそこの誰かさんも連れて行ってあげよう」
いや……ニヤニヤしながらこっち見られても……
っは!まさかわざわざチャンスをくれたのか!
遊佐「俺も行っていいんですか?」
わざと聞いてみる
甲賀「いいよ~?いやならいいんだけど~?」
遊佐「い、いえ!是非に!是が非に!」
弓削「一緒に遊びましょう!」
甲賀先輩……
甲賀「日取りはまだ決まってないから、でも夏休み前にはきめるけどね」
弓削「わかりましたー」
甲賀「そうそう、それでね弓削~?」
弓削「なんですか?」
甲賀「一緒に水着を買いに行こうか~」
っぶ、わざわざ俺の前で言わなくても……
弓削「へ?」
甲賀「海に行く前にそこの遊佐クンを悩殺する水着を買いに行こう」
弓削「悩殺……」
遊佐「悩殺……」
甲賀「別にスクール水着でもいいよ?ほとんどプライベートビーチみたいなところだから」
ス、スクール水着だってぇェェェェェェ?!
…………
妄想中
弓削「そ……それは嫌です」
遊佐「ぃぃ……」
弓削「へ?」
遊佐「いや、妄言だった気にするな」
危なく中島になるところだった……
甲賀「でねもう一つ朗報が――――」

甲賀「っていけない、職員室に用事がるんだった」
弓削「早く行かないと時間とか大丈夫なんです?」
甲賀「ちょっとやばい……かもしれないね~」
弓削「なら早く!」
甲賀「結局こうなるの~?」
自業自得だと思うが……
遊佐「約束は守らなきゃだめです!」
弓削「そうです!」
弓削のまねをしてみる、たまには遊んでみるのもいいし。

甲賀「何で二人して言うの!」
遊佐「連携!」
弓削「威力あっぷですよー」
弓削も、なかなか分かってきたな。
甲賀「はぁ……行ってくるわ」
弓削「はい、遅刻は許しませんからね~」
遊佐「許しませんからね」
甲賀「はいはい、それじゃまたね」
少し笑いながら校舎に走っていく。
遊佐「んじゃ俺たちも行きますか」
弓削「はい」
昼休みまで頑張りますかね!峠を越せば休日だしな!


こんこん。
弓削「あいてますよ」
甲賀「はいっておいで~」
時間は昼休み、異様に暑いで生徒会室に直行してみると二人とももう居るし。
扉を空けると――

なんか顔が垂れてる人が居る!

タレ甲賀だ! タレ甲賀! まったりしすぎだろ!
遊佐「教室いってもいないと思ったら先に来てたのか」
弓削「すみません……甲賀先輩に相談があったので」
甲賀「そそ」
遊佐「あ、いや気にするな。別にかまわないし」
もしかして夏休みの件かな?
自分のいつも座ってる席へ体重を預ける。
遊佐「夏休みのことですか?」
甲賀「そうだよー弓削には特別報酬があるからねー」
弓削「えへへ、ありがとうございます」
遊佐「いいなー」
甲賀「え~遊佐クンも欲しいの?」
遊佐「え?くれるんですか!?」
甲賀先輩がいつも座っているすぐ傍にパイプ椅子をカタンと置いた。
甲賀「いいよー?じゃーここに座って」
遊佐「はい」
甲賀「目を瞑ってねー」
遊佐「了解~」
甲賀「えっと……これが~こうか」
ごごごごごぉぉ
なにやらクーラーが微振動してる音が――
遊佐「さむ!」
さみい!? ちょーさみい?!
甲賀「どぉ~だい、とっても涼しいだろう」
遊佐「聞こえなかったんですか? 寒いですよ!涼しいって領域じゃないです!」
甲賀「クーラーの強さはこれで調節だよね?」
…………
遊佐「ちょっと見せてください!風の強さどんなのですか!」
えーっと……強さは4つ?

    丁度よい強さ。
  とても強そうだ。
  とてもとても強そうだ。
   計 り 知 れ な い 強 さ だ
……
…………
現在
計り知れない強さ
メーカーが計れない風の強さなんかを設定できるようにするな!
てか「強そうだ」とか曖昧だな、おい!
遊佐「とりあえず……丁度よい強さに」
甲賀「暑そうだったからさー、一番強くしてみてた」
弓削「会長…………」
甲賀「と……とにかく、まずは涼もう」
あ、逃げた……
ほんと立場が悪くなると話を流そうとするんだからなぁ……
クーラーの轟音が止み、のどかな空気が部屋を包む。
甲賀「ふぃー、夏はクーラーが聞いた部屋でやっぱりまったりがいいね~」
弓削「使いすぎるとよくないですよー」
遊佐「オフィス病?だっけそんなのも聞いたこともあるな」
甲賀「わたしは大丈夫なんだよ~、お昼前は体育だったし」
遊佐「今日は水泳じゃないんですか?」
甲賀「あ~体育館でバレーだった……体育祭もあった後なのに疲れるわ、そうだ! この時期は体育全部水泳にすればいいのよ……!」
弓削「また唐突なことを……」
甲賀「なに何言ってるの!クーラーが全教室につけれられないのならそれくらい当然でしょう!?」
弓削「大体そういうことは夏にはいる前に言うべきじゃないですか」
じと目で甲賀先輩を見てる弓削は何か笑えるな。
甲賀「う……」
弓削「それに、そんなの教育委員会が通すはずないです」
甲賀「うぅ……」
弓削「冬になったら今度は全教室にコタツを入れるとか言わないで――」
甲賀「うーー……運動することはなしてたらおなかすいちゃった……そろそろご飯にしようか」
また逃げた、
甲賀先輩って弓削のことになると強くなったり弱くなったり……

まあ、見てるこっちは面白いけどさ。
俺もお腹がすいたし、ここはフォローしておくか
遊佐「俺もそろそろご飯にしようかな」
弓削「そうですか、ならそうしましょう。お茶入れてきますね」
甲賀「ありがとー」
弓削「あ、今日はちょっと会長にも作ってきてますから」
甲賀「うわぁぉ! やったね! 久しぶりに愛妻弁当が食べられるよ!」
遊佐「すごい喜びようですね……」
尻尾とかあったら千切れんばかりに振ってるだろうなホント。
弓削「大げさですよー。あ、すみません遊佐先輩そこにある袋からお弁当出しておいてください」
遊佐「お安い御用ー」
甲賀「御用だよ~」
緑色をした手提げかばんから、3つ容器を取り出す。結構重そうだな
2つは軽いんだけど俺のっぽいのが意外に重い……
取り出した容器をテーブルに置くと甲賀先輩が疾風の如く掻っ攫っていった。
甲賀「これこれ!弓削と一緒に買った、あたし専用のお弁当の容器!」
遊佐「決まってるんですか……」
甲賀「そうだよ!なんたって弓削はあたしのお嫁さん候補なんだからね!」
遊佐「マジカッ……!」
弓削「勝手に決めないでください~」
甲賀「あたしのお嫁さんにならなくても、良いお嫁さんになることは保障しよう!」
ま、確かにな。それは最上級に同意しておこう。
遊佐「俺も立候補し――」
甲賀「婿になるやつは先にあたしを倒してからだけどね」
遊佐「えーじゃあ、俺挑戦してみようかな」
甲賀「まあ、倒される前に挑戦者共々道連れにしてあげるけど」
キッと目つきが変わったかと思えば……。
貴方は俺の味方ですか……それとも敵ですか……
弓削「何か言いましたー?」
甲賀「なぁんにもー」
遊佐「思わぬ伏兵がいた事に改めて気づいたよ」
弓削「伏兵ですか?」
遊佐「甲賀先――」
甲賀「ッシ」
一瞬殺気が放たれたかと思えば壁になにやら刺さってるんですが……
遊佐「ひ」
甲賀『ダマッテロ』
……
…………
わかりました……
俺の周りは怒らせたら簡単に人を殺しそうな人たちばかりです……
弓削「なんですか?遊佐先輩」
遊佐「な……なんでもない」
甲賀「それより弓削ーおなかすいたー」
弓削「はーい……って壁に何か刺さってますけど。どうかしたんです?」
甲賀「さーてね、最初っからあった気がするけど」
あんたがさっき投げて刺さったんだよおォォォ!
弓削「でも……しかもこれ普通刺さるようなものじゃない……ですよ……?」
甲賀「わたし知らないよー、もしかしたら、どっかのお社様とかの祟りなんかじゃない?」
弓削「へ?」
これ以上この雰囲気は怖いから話題を切り替えよう……
遊佐「そ、それよりも早くご飯にしよう」
甲賀「そそ、分かってるじゃない」
弓削「あ、はい」
この二人と付き合っていくのなら話題を受け流すか切り替えるスキルは必須だな……。
甲賀「それじゃー! いただきまーす」
弓削「いただいきますー」
遊佐「いただきます」
お楽しみのお昼お弁当の!ご対面!
甲賀「お、卵焼きが入ってる!」
弓削「入れてみました、この前そんな話をしてたので」
とっさについた嘘なんだがな……
まあ卵焼きが嫌いな人なんて滅多に居ないだろうからいいんだろうけど。
ちなみに俺のにも入ってるぞ。
遊佐「卵焼き気に入ってるから最後までとっておこう。美味しいもんなー」
甲賀「いいねそれ、私もそうしよう」
弓削「私は卵焼きないですから好きなミートボールをー」
甲賀「弓削のお弁当は絶妙だからね何でも美味しいけどやっぱり卵焼きでしょ~」
早速ほかのおかずにのばして――
甲賀「すきあり!」
遊佐「へ?」
甲賀先輩の姿がぶれたかと思うと俺の主食が一品消えていた
遊佐「なっ!返してください!」
甲賀「ふぁいふぃふぁふぇーん」
弓削「会長……お行儀が悪いですよ……」
甲賀「んく、たまにはいいじゃない!家じゃ絶対できないし」
遊佐「返してください!というか奪い返す!」
甲賀「あまい!取れるものならとってみなさい!」
遊佐「っく……」
弓削「そんなに真剣にならなくても……」
遊佐「せっかく弓削が作ってもらったのに……死活問題だ!」
甲賀「そうだよ!」
弓削「遊佐先輩は私のをあげますからー、会長は次から1品少なくしますね」
遊佐「っふ」
甲賀「なに!?」
弓削「いくらなんでも行儀が悪すぎですよ」
甲賀「……許して」
弓削「ゆるしませんー」
甲賀「遊佐クンにも謝るから……」
弓削「反省してますかー?」
甲賀「はい……遊佐ごめん……」
遊佐「え、あ、いえ気にしないでください」
本当にどっちが生徒会長なんだか……
弓削「楽しみにしてもらうのはうれしいですけど、取り合いになるのなら次から作りませんからねー」
甲賀「はーい」
遊佐「覚えとく……」
のんびりもいいけど甲が先輩が来るとにぎやかでいいな。
軽い話をしながら昼食はゆっくりと進んでいった……


甲賀「ん~、どれも美味しいねー食べるのがもったいないよ」
やっぱりしゃべりながら食べるとスピードが落ちるな。
昨日の今日だしもうちょっとゆっくり食べようか、一人食べ終わるのもさびしいし。
弓削「食べないと美味しいかどうか分からないですよ」
甲賀「弓削が作ったものはどれも美味しいの!」
遊佐「そうそう」
甲賀「特に最後の卵焼きなんかは絶品!」
あ、最後まで残しておっこうなんていっておきながらお箸を卵焼きに伸ばしてるし
甲賀「焦げ具合なんかもいいし、このふわっとした感触もなかなか!」
プニプニと卵焼きを突っつきだす甲賀先輩。
食べ物で遊んじゃいけませんよ!
弓削「卵焼きぐらいで大げさです」
遊佐「意外と卵焼きって難しいんだぞ?」
甲賀「そうそう、私が焼くと中身が半熟とかあるしね!気を抜くと水っぽくなって大変なんだよー?」
弓削「そんな、私料理の本を見てやってるだけですから」
甲賀「それでも難しいものは難しいの!」
遊佐「俺も自炊するけどこうも綺麗には作れないしな」
弓削「遊佐先輩も自炊するんですか」
甲賀「ほお、男の子にしては珍しい」
遊佐「あれ?言ってませんでしたっけ、俺一人暮らしなんですよ」
弓削「えぇ?!」
甲賀「一人暮らしか……」
遊佐「ま、今は夏休み前の様子見ってことで母親が着てたんですけど、今日帰るそうです」
甲賀「親に信頼されてるんだね~」
弓削「すごいですね……」
遊佐「いや……信頼というか無関心というか放任主義ですね」
甲賀「無関心じゃないだろう」
弓削「そうですよ」
遊佐「まあ放任主義ですね」
甲賀「ふぅん、なら夏休みでどっかに行くとかの許可とかもいらないんだ」
遊佐「ですね」
弓削「私のうちもちゃんと理由を言えばほとんど許可してもらえますから。ほとんど一緒です」
携帯もそんな事を言ってたな……
甲賀「あーあー……いいなぁ。わたしなんて家に帰ったら親のがすごいすごい」
遊佐「大変ですね」
甲賀「人事だと思って……唯一の楽しみといえばこの弓削が作ってくれたお弁当!」
弓削「だから大げさですってば、それに毎日作ってるわけじゃないですし」
甲賀「それでも楽しみなものは楽しみなの! さぁて……お楽しみの卵焼き~♪」
子供みたいだな本当に……どっちが上級生か分からなくなってきたぞ
甲賀「…………あり?」
どうかしたのか?何か変な顔して。
急いでお茶なんか飲んで……
弓削「どうかしたんですか?」
甲賀「なんでもないよ~」
何か食ってみろオーラが出てるな
ちょっと……俺も食べてみよう……
見た目は別に問題――
辛!?ってかしょっぱい?!
これは……確かに
弓削……まさかベタな間違いをするとは思わなかったぞ……
こりゃ塩と砂糖間違えたな……

~副音声をお楽しみください~

遊佐「美味しいですね~ご飯が進みそうです」
  訳(辛いですねこれ!ご飯が3杯いけますよ)

甲賀「でしょ」
  訳(辛い……)
弓削「?」
遊佐「こんなに美味しいとすぐなくなっちゃいますね」
  訳(早く食べて証拠隠滅を!)

甲賀「私のを少し分けてあげるよ」
  訳(私ギブ、半分が限界)

遊佐「えぇ?! 美味しいのに!俺にかまわず食べてください!」
  訳(えぇ?! 辛いのに! 俺に全部食べろと?)

弓削「なら私がもらいますね」
遊佐「へ?」
甲賀「は?」
返事をする前に弓削の口に運ばれる。
遊佐「あ……」
甲賀「あ~あ……」
一瞬にして弓削の表情が凍った。
弓削「か……からいです……」
遊佐「ほれ、お茶お茶」
弓削「はい……ありがとうございます」
甲賀「食べちゃったら仕方ないね~まぁ失敗は誰にだってあるさ」
弓削「すみません……」
遊佐「そそ、俺だって失敗するしさ」
弓削「普通こんな失敗しませんよね……」
遊佐「するって!俺なんかラー油とオリーブオイル間違ったことあるぞ!」
弓削「それでも遊佐先輩や会長に食べてもらってるんですから……」
甲賀「……私たちが食べさせてもらってるの間違いだね」
弓削「それでも……こんな事は……」
何なんだ?弓削って何でこんな小さいことでこんなに落ちこまなきゃいけないんだ?
遊佐「あのな、気にするなって言ってるんだそれでかまわないだろ?悔やむだけが失敗を取り戻すことにはならないだろう?」
流石に俺もちょっと言葉に熱が入っちまった……
弓削「……」
甲賀「……あ、あのさ」
弓削「はい」
甲賀「朝もう一つ朗報があるって言ってたじゃない?」
遊佐「言ってましたね」
ありがたい……結構強く言っちまったから話を切り出してくれると助かるな。
甲賀「明日さ、お祭り行かない?失敗するのはきっと気を張りすぎなんだよ」
弓削「……そうでしょうか?」
まぁ……そういう節があるのは確かだけどな。
甲賀「近いところの祭りはまだだけど、ちょっと言ったところで小さいけど夜店がいっぱい出るお祭りがあるんだ」
遊佐「へぇ、いってみたいな」
弓削「……でも」
甲賀「『でも』もなんでもな~い、行くと決めたらいくの! 良いね弓削? 生徒会長命令だよ!」
遊佐「ん、俺も先輩命令として、というか無理やりでも連れて行くぞ?」
弓削「はい……わかりました」
変わらず顔をうつむいたまま、納得いかないような口調で同意されてもな……
でも、祭りが始まったら気分も少しは変わるだろ。明日だしな
遊佐「……っま明日のお楽しみってね」
いつもより少し辛い卵焼きを口に運ぶ。
弓削「あ、あのそれは処分しますので――」
遊佐「ちょっと辛いだけだ美味しいぞ」
甲賀「そうそう」
弓削「無理に食べなくても!」
遊佐「無理だったら食べてない、無理じゃないから食べてる。文句あるか?」
甲賀「うん、ないよね」
弓削「…………」
気落ちした雰囲気は、べっとりと生徒会室にこびりついたまま昼休みが終わった。

最終更新:2007年03月30日 01:24