遊佐「ふぅ……」
昨日のことで今日一日が本当につまらなかった。
誰のせいでもないだろうけどさ……
弓削があんなに落ち込んでいるところなんか見たくはない。
あの後、帰りも一言もしゃべらなかったし。どんなに話しかけても「はい」の返事しかなかった。
ちょっと変わった事といえば弓削からメールがあったことだけだな……。
『すみません、明日のお弁当用意できそうにないので……』
まあ……気が乗らないときもあるだろ。
静かな生徒会室を見る、外では部活に精を出している声が聞こえた。
甲賀「遊佐クン?今日は活動は無しだよ」
扉をノックしようとしたところに後ろから声をかけられる。
遊佐「そうっすか、弓削には言ったんです?」
甲賀「いや、先に来てるかなと思って来たんだけど……まだみたいだね」
遊佐「すれ違うこともなかったからまだ教室に居るんですかね?」
甲賀「たぶんそうだと思う」
遊佐「じゃあ伝えておきます」
甲賀「あ、待って」
遊佐「なんですか?」
甲賀「わたしもいくよ、昨日の今日だし。流石にあんな弓削ほっとけない」
いつもの気さくな雰囲気はなく、妹の心配をしている姉そのものに見えた。
遊佐「分かりました」
甲賀「ん」
足早く弓削のクラスへ向かう、その隣に甲賀先輩も並ぶ。
少しの沈黙がこんなに息苦しく感じる理由は……そういうことなんだろうか?
甲賀「あの子さ」
遊佐「はい?」
急に独り言のようにポツリと聞こえた声に少し戸惑う。
甲賀「昔はあんなにふさぎこむことはなかったんだけどね」
遊佐「昔?」
甲賀「あ……そっか、なんでもないよ。早く行こう」
遊佐「なんすか」
甲賀「入学当初はそんな子じゃなかったって事」
遊佐「そういう意味――」
急に甲賀先輩の背中が視界に入る。
ペースを上げなくてもなくても良いのに。
少しずつ赤みを帯びてゆく景色、丁度グラウンドを背に俯いている弓削が見えた。
遊佐「弓削」
甲賀「弓削~帰るよ?」
弓削「え……あ……」
遊佐「どうした、考え事でもしてたのか?」
弓削「いえ……少しぼうっとしてました」
昨日はどうにかなると思ってたけど、こんなに深刻になるとは……。
遊佐「弓削、昨日は昨日。失敗は確かにあったかもしれないけどな、そのまま考えても前に進めないぞ」
甲賀「いい事を言うね、あたしらがこう言ってるんだからそんなに考え込まないで」
いつもは茶化して笑ってる甲賀先輩も今日は真剣だな……弓削をこんなに大切にしてるのなら当たり前か。
弓削「……はい」
甲賀「『はい』じゃないって、ほらしっかりしな」
弓削の前に立ったかと思うと、しゃがみこんでおでこを『ペチッ』と叩く。
弓削「痛いです……」
甲賀「次からもっと痛くするよ。ほ ら、お祭りの準備もしなきゃいけないし行こう」
遊佐「んじゃ、この荷物は俺が持つ」
鞄をもって教室の入り口へ歩き出す。半日だし軽いからこれくらい楽だな。
弓削「じ、自分でもてますそれくらい」
遊佐「はいはい、早くついてこないとそのまま持っていくぞ」
甲賀「そ、置いて行くよー」
じっと座っていた弓削の傍を離れる。ゆっくりと教室の出口へ向かう。
弓削「分かりましたから、荷物を返してください」
遊佐「あー軽いからこのまま持っていこう、何なら甲賀先輩のも持ちましょうかー?」
何かに持つもちみたいになるけど、息苦しい雰囲気は嫌だしな……。
甲賀「ありがたいけどあたしも荷物なんかはほとんどないからかまわないよー」
遊佐「りょーかい」
弓削「待ってください」
甲賀「またないよー」
後ろのほうで甲賀先輩の声が聞こえる。同じ事をしてるみたいだな……。
まあ、こうでもしないと弓削も来ないだろ
教室の入り口に着き振り向くと、弓削もあわてて教室の入り口まで来ていた。
遊佐「ほれ、荷物」
俺が持っていっても構わないけど弓削が許さないだろうしな。
弓削「強情なんですから……」
甲賀「弓削がいつまでたっても動かないからだよ」
校門を目指しながら3人で歩いていく。何時もよりにぎやかさは足らないけど昨日より断然ましだな。
弓削「ですから、考え事をしていたんです」
甲賀「昨日のことは気にし――」
弓削「それもそうですけど……とにかく考えてたんです」
昨日のことじゃなかったら他に何を考えてたんだろう?
また何か落ち込むようなことでもあったんだろうか。
遊佐「また何かあったのか?」
弓削「へ?あ、あの気にしないでください」
甲賀「相談事なら乗るよ?」
弓削「相談するようなことじゃないんですけど……もっとしっかりしなきゃなって」
何言ってんだか。
遊佐「弓削はしっかりしてるだろ」
甲賀「うんうん、何時も手助けしてくれるじゃない」
遊佐「ミスは気をつけてもミスするし、終わったことを考えてもしょうがないさ」
甲賀「そ、だからこのお話は終わり。」
遊佐「ういっす」
弓削「分かりました」
何時もの帰り道、今日は珍しく3人で歩いていた。
甲賀「この景色も見慣れたなー」
弓削「最初は会長に教えてもらったんですよね」
甲賀「ん~、こっち方面から来るとこの道が一番近いしね。」
弓削「そうだったんですか?」
甲賀「そうだよー、遊佐クンもいち早く近道が分かってよかったじゃないか」
遊佐「近道分かる前は遅刻はしてましたけどね……」
甲賀「……それはお互い様……」
何かむなしくなってきましたよ……。
弓削「でも結局今日で1学期は終わりみたいなものですから。2学期からは遅刻は絶対出来ないものと覚えておいてください」
甲賀「分かってるよー、流石に遅刻ばっかりしてると進路にも響くだろうし」
遊佐「俺も……あてにしてるわけじゃないけど弓削が居るしな」
甲賀「あらまあ、頼りにしちゃって。羨ましい限りで」
ニヤニヤしながら横目で笑ってくる甲賀先輩はどっかの泥棒猫みたいだ。
弓削「頼ってばっかりじゃだめなんですからね」
遊佐「わかってるわかってる」
甲賀「ふ……青春だね……あたしも高校最後の夏だし大いに青春を楽しもうかー!」
弓削「開放感に浸り過ぎないように楽しんでくださいね……」
甲賀「ん~! あ、でね今日のお祭りだけど前言ったと通りちょっと遠出するから」
遊佐「え、移動手段と稼動するんです?」
甲賀「あ、それは大丈夫だよ。そこらへんは任せておいて」
弓削「安心しました、でも一応学生ですから――」
甲賀「だからわたしに任せておいてって」
何か甲賀先輩にまかせっきりだと不安なんだが……
まあ行こうって言い出した人だし、いざって時は頼りになるし気にしないで置こう
甲賀「それで、集合時間と場所なんだけど……あんまり早く行き過ぎるのもなんだから6時くらいでいい?」
弓削「分かりました」
遊佐「問題ないっす」
甲賀「ん、それじゃ集合場所はあの分かれ道で」
甲賀先輩が指をさした先には弓削といつも別れている道だな。
甲賀「あそこなら分かりやすいだろう?」
弓削「そうですね……あそこなら」
遊佐「分かりました」
甲賀「んじゃ、また後でね」
弓削「また後です」
あの二人はまだ途中まで一緒なんだっけ。
まだ時間あるけど早めに準備し解いても問題はないだろ。
さて……何を着ていこうか……
遊佐「ふぅ……涼しいな」
時間は……ん十分だな。待ち合わせの場所までもう少しだし問題はなさそうだけど。
暑かった昼間と違って、暮れかけた町はは涼しく風も心地いい。
何より、これから3人で祭りなんだから少し心地悪くても許せるってもんだ。
甲賀「あれ?遊佐クン、早いね」
遊佐「甲賀先輩もはやいじゃないですか」
私服だと1歳だけ年上とは思えないなこの人……。てか服が……。
甲賀「あたし?あたしは提案した張本人だからね、遅刻してくるほど馬鹿じゃないよ。」
ま、そりゃそうだろうな。
甲賀「あんまり早く着すぎてちょっと近くを探索! 遊佐クンも早いじゃん」
遊佐「遅刻したら弓削に殺されちゃいますから。正直ちょっと緊張してますけどね」
甲賀「ふぅん、正直だね~……」
遊佐「いや、まあ――」
甲賀「あっついわー」
え、何でこっち見ながら胸元を――
ってぅぉい!
遊佐「ちょ……何してるんですか」
甲賀「何ぃ? わたし扇いでるだけだよぉ~?」
わざとだ絶対わざとだ……
遊佐「待ち合わせ場所に行きますよ……」
甲賀「えー、お姉さんが暑いって言ってるのにまた歩くのー?」
はぁ……からかい出したらとことんからかうんだからなあ……
遊佐「い き ま す よ」
甲賀「ちぇー」
俺を新しいおもちゃと何か勘違いしてるんじゃないのか?
遊佐「それで甲賀先輩」
甲賀「なにかなー?」
遊佐「どこまで行くつもりなんです?移動手段も任せちゃいましたけど」
甲賀「ん~隣町だからそんなに遠くはないね」
遊佐「そうなんですか」
ゆるい曲がり角を曲がると少し開けた分かれ道が見えた。
甲賀「ありゃ、あそこに歩いてるの弓削じゃない?」
遊佐「ほんとだ」
結局みんな早い時間に着ちまったわけかよ。
遊佐「弓削~!」
気づいたようで手を振って返事をしているようだった。
小走りで弓削に近づく、甲が先輩もその後に続く。
弓削「こんばんは、遊佐先輩、会長」
甲賀「予想以上に早く集まっちゃったな~、そろそろ来るとは思うけど」
来る?あ、車かなんかか
甲賀「後、弓削」
弓削「なんですか?」
甲賀「会長って呼ばれるのちょっとくすぐったくなってきたかも」
遊佐「そういえば学校以外でも会長だとちょっと違和感あるな」
弓削「え、でも――」
甲賀「遊佐クンと同じ呼び方で良いよ」
遊佐「そのほうが自然だな」
弓削「分かりました、甲賀先輩」
甲賀「なんだったら、お姉ちゃんでも良いよ」
弓削「お、お姉ちゃんですか……」
姉妹っぽいとは思ってたけど、呼び方までそうなるとほんと姉妹になりそうだな。
甲賀「そうそう」
弓削「お、お姉たゃん」
あ、噛んだ。
それはそれでなんかぐっと来るものがあるんだが!
甲賀「いい!次から二人っきりのときはお姉ちゃんと御呼び!」
何か変な事いってるような……
遊佐「変な道に入らないでくださいね……」
甲賀「遊佐クンこそ変な想像しないでね?」
遊佐「う……」
甲賀「っふ……勝った」
弓削「あ、やっぱり会長か甲賀先輩がしっくり来ます。お姉ちゃんは却下で」
甲賀「ショーック!お姉ちゃんは悲しいよ!」
弓削「甲賀先輩も結構違和感あるんですからね……」
まあ、ずっと会長って呼んでたらそれは違和感あるかもな。
というかやっと何時もの雰囲気になってきたな。
甲賀「あ、来た来た」
甲賀先輩が見ているほうを見る、車のヘッドライトが見えた。
弓削「車で行くんですね」
甲賀「そうだよ、丁度用事がかぶってるから運賃とかもかからないし良いでしょ」
弓削「でも、良いんですか?」
甲賀「構わないって」
車が傍につく。甲賀先輩の両親らしい人が乗っていた。
父親「こんばんは、しのぶが何時もお世話になってるね」
弓削「今日はよろしくお願いします」
遊佐「こんばんは」
母親「一緒に行くのは二人だけかしら?」
甲賀「うん」
甲賀「あ、でねこっちが遊佐クンでこっちが弓削梨香ちゃん」
父親「よろしく、二人とも」
遊佐「こんばんは、こちらこそよろしくお願いします」
弓削「よ、よろしくおねがいします!」
母親「梨香ちゃんは、お人形さんみたいに可愛いわねぇ~髪留めなんかも可愛い」
弓削「へ?あ、ありがとうございます」
母親「ふふふ、遊佐君は両手に華ね。しのぶはちょっと梨香ちゃんより見劣りするけど」
弓削「い、いえ。私なんか甲賀先輩のほうが断然綺麗ですよ」
というか俺が一番廃れているような気がしてきた……。
甲賀先輩の両親もなんか……美男美人オーラが……
母親「あら、緊張しなくてもいいのよー?何もとって食いはしないから。」
遊佐「へ?あ、あの」
母親「ふふふ」
……
もて遊ぶスキルは母親似なわけね……
甲賀「意外とみんな早く集まっちゃってさ、別に早くなっても問題ないでしょ?」
父親「ああ、構わないぞ」
母親「あの子も喜ぶでしょうしね」
甲賀「よし! それじゃ、乗ろう乗ろう!」
弓削「そうですね、それでは失礼します」
遊佐「お邪魔しまーす」
中は結構広いんだな……これだと3人座っても問題はなさそうだ。
甲賀「二人とも別に緊張しなくてもいいんだよー?」
父親「そうだぞ、気にせずくつろいでくれ」
母親「あら、本当に両手に華になっちゃったわねー」
丁度俺が真ん中になっちまったな……これはこれで別の意味で緊張する……。
甲賀「よっと……そんなに時間かからないよね?」
父親「道が混んでなかったら30分くらいでつくと思うぞ」
母親「そうね~、混んでてもおしゃべりしてたらすぐよ」
母親「それじゃ、私達ちょっと用事済ましてくるわね」
甲賀「うん、いってらっしゃい」
父親「何かあったら携帯に――って忍は持ってないんだっけ」
甲賀「う……」
母親「しのぶちゃんは、私と似て機械に弱いから~」
遊佐「俺が持ってますからその時は連絡しますよ、番号教えてもらえますか?」
父親「ああ、すまないね。私の番号は――」
遊佐「分かりました」
甲賀「その時は遊佐クンお願いね」
遊佐「問題ないです、弓削も一応登録しておけばいい。後で消せるしな」
弓削「そうですね、そうします。えーっと……」
甲賀「携帯は便利だね……」
弓削「……」
遊佐「どうした?」
弓削「すみません、忘れたみたいです」
甲賀「あら……」
遊佐「そっか、まだ携帯持ち始めてそんなにたってないから仕方ないな。」
弓削「すみません……」
遊佐「あのな気に――」
パンッ!と乾いた音が鳴り響いた。
甲賀「お、お祭りが丁度始まったみたいだね」
母親「あら、そうみたいね」
父親「あれはいつになっても変わらないな」
母親「そうね……、あの子も待ってるし……行きましょ。しのぶまた後でね」
甲賀「うん」
父親「楽しんできな」
弓削「はい、ありがとうございます」
父親「遊佐君、いざって時は任せたよ」
遊佐「わかりました、全力を尽くします」
父親「はは、そうならないと思うけどね。それじゃ」
軽くヘッドライトが点滅したのを合図にゆっくりと車が遠ざかっていく。
折角ここまで来たんだから、本当に何事もなければ良いけど。
甲賀「それじゃ、まずは軽く見ていこうよ」
弓削「何があるんでしょうね?」
遊佐「ぱっと見神社は小さいけど楽しみだな」
甲賀「お店は結構出るよ、見てのお楽しみって事で!」
予想なんかしても無駄だな。
……
…………
日がうっすらと町並みを照らす時間になり。屋台の提灯や赤い旗が景色を彩る。
遊佐「しかし……思ってたより……すごいな」
弓削「人が一杯ですね……」
甲賀「想像以上だね……」
熱気もすごいけど人もすごいな……、弓削とか迷子になりそうだ……。
甲賀「ま、ゆっくり行こうか」
弓削「そうですね」
遊佐「あせっても仕方ないしな」
甲賀「お、輪投げだ」
弓削「やります?」
遊佐「迷うよりやってみようぜ」
甲賀「ふふふ……こういうのは得意なんだよね」
何か……燃えてるんですが……
甲賀「おっちゃん!あたし一回やるよ!」
遊佐「俺もやる」
おっちゃん「おぅ威勢の良い奴等だな。がんばりな」
甲賀「任せてよ! がっぽりもらっちゃうからね!」
おっちゃん「ははは、やってみな。あのでっかいヌイグルミ取れたら何かおごってやるよ」
指をさした先には、細目のこうもりの羽が生えたヌイグルミがあった。
でかいな、まじで……。
甲賀「む、言ったねおっちゃん!」
おっちゃん「おう、言ったぜ。だがなあれを取るには……ほれ、あれに3つ輪をかけるんだぞ?」
……
あんなちっちゃいのに輪をかけるのか……高さなんてほとんどないからかけるって言わないぞあれ。
甲賀「お縄を頂戴するよ!」
甲賀先輩……それ、何か違います……
おっちゃん「にいちゃんもやるんだろ?」
遊佐「おう」
おっちゃん「がんばりな、彼女にいいところ見せろよ!」
遊佐「げふっ」
思いっきり背中をたたかなくても……。ちょっとむせたじゃないか……
弓削「大丈夫ですか……?」
遊佐「あ、あぁ」
弓削「頑張って下さいね」
遊佐「ん、それで弓削何か取りたいものあるか?」
弓削「へ? 私ですか?」
遊佐「甲賀先輩はあのヌイグルミ取る気満々だし、俺も何か狙っていこうかなって」
弓削「そうですね……」
弓削「私もあのヌイグルミ欲しいです」
遊佐「は? 本当に?」
弓削「本当です」
マジかよ……難題だな
甲賀「遊佐クンも挑戦するの?」
遊佐「ま、まぁやってみます」
甲賀「どっちが取れるかな!?」
どっちも取れそうにないけど……やれるだけやってみるか……
おっちゃん「ほれ、一人5回」
甲賀「よし! 見てなさい~」
遊佐「あれは取らせてもらいますよ」
弓削「二人ともがんばってください!」
甲賀「一投目!いくよ!」
遊佐「うっす」
はいれよ!
……
両者失敗
甲賀「っち」
遊佐「惜しいな」
甲賀「次こそは……」
弓削「二人とももう少し力を抜いてー」
遊佐「了解、やってみる」
2投目……いけるか?これが入らなかったら後がないぞ……
……
…………
甲賀「よっしゃぁ!」
遊佐「げ……」
甲賀先輩は入って俺が入らなかったか……
……てか甲賀先輩……男っぽくなってますけど?
弓削「遊佐先輩脇をもっとしめて!」
遊佐「は、はひ!」
何か……弓削も気合はいってるな……
甲賀「残り二つ……決めさせてもらうよ」
落ち着け……落ち着くんだ俺……そうだ奇数を数えるんだ。奇数は間抜けな数字……
1、3、4、6……
Shit!即刻間違ってるし俺!
甲賀「ほいっと」
遊佐「っっく」
甲賀先輩が投げた後に続く、同じ場所に向かって――
甲賀「はいった!って、二つとも?」
遊佐「よっしゃ」
弓削「やりましたね!」
おっちゃん「やるな、お前等」
甲賀「ふふふ……おっちゃん景品とおごる代金の準備をしといたほうが良いよ……」
おっちゃん「ははは、こいつぁやべぇ。そこのにいちゃんもがんばりな」
遊佐「おぅよ」
4投目も……さっきの感じで。
遊佐「よっ」
甲賀「てい」
ほぼ同時に投げた輪は――
何を間違ったか、おおはずれ……
遊佐「Gyahhh」
甲賀「ざ……残念だったね遊佐クン」
遊佐「ちくしょー」
甲賀「だが! あたしはまだ一回チャンスがある!」
遊佐「くぅぅ……すまん弓削」
弓削「だから腕の角度が――」
いや、そんな真剣に分析されても……。
甲賀「任せなさいって、弓削」
弓削「甲賀先輩も力みすぎですよ」
そこまでよく見てるなぁ……
甲賀先輩ばっかりにいい格好されたら癪だし、1個くらい取るか。
遊佐「あのちっこい人形で良いか?携帯ストラップにもなるし……」
弓削「あれって言うと……あ、良いですね。可愛いです」
遊佐「んじゃ決まりって事で」
甲賀「乾坤一擲!」
じっくりと狙いをつけて……
さっき言われたことを思い出しながら――
遊佐「っふ」
投げる!
甲賀「はいれ!」
一瞬はいらないと思った輪は、見事に甲賀先輩の輪に当たり――
軌道をそれて目的のストラップの景品にかかる。
甲賀「こらー! 遊佐! 何してるの!」
遊佐「不可抗力ですって!」
おっちゃん「ふははは、ねえちゃん残念だったな。約束はチャラだ」
甲賀「くぅぅぅぅ」
弓削「甲賀先輩、力みすぎって言ったのに……あたってなくても入ってませんでしたよ?」
甲賀「む! そんなの分からないじゃないか!」
遊佐「そんなにムキにならなくても……」
甲賀「元はといえば遊佐クンが!」
弓削「はいはい……甲賀先輩大人気ないですよ……他行きましょう他」
何か冷たいな……
甲賀「まだ! まだやる! というか取れるまでやる!」
……居るよな……夏祭りとかになるとムキになって露店のゲームやる人。
型抜きを永遠とやるやつ知ってるけど、あれはもう別次元に入ってるとしかいいようがないからな……
遊佐「また後でやろう。他のところも回りたいし」
弓削「そうですよ」
甲賀「むぅぅぅ」
遊佐「お金、全部使うつもりですか」
甲賀「う……わかった……」
しぶしぶその場を離れる。祭りはまだまだ始まったばかりだ。
お社間で行くのに結構な長さの一本道を歩いてきたが。人が多い多い。
夜店の数もなかなか多かった。その誘惑に負けぬよう先にお社によって着たけど時間結構かかるな。
甲賀「ふー、ここまで来ると人が少ないね」
遊佐「ここまで来るのに人は多かったですけどね……」
弓削「うー……時々小さい子に髪の毛引っ張られました……」
帰りも同じことにならないことを祈ろう……
甲賀「折角来たんだしさ、おみくじと手を合わせていこうよ」
弓削「そうですねー」
遊佐「学力向上でも願っておこう……」
弓削「授業中に寝なければいいんですよ……もぉ」
それはそうなんですけどね弓削さん!
3人並んで賽銭箱の中にお金を投げ入れる。
――
カランカラン……
甲賀「……」
遊佐「……」
弓削「…………」
ほんの数秒周りの空気がとまった気がした。
弓削「………………うに」
弓削、声に出てるぞー
甲賀「さて、もういいかい?」
弓削「はい」
遊佐「うぃっす、お次はおみくじやりますか」
弓削「やりましょう~」
近くにあった売店に向かう。
…………
甲賀「中吉~」
弓削「大吉でした」
遊佐「う……凶……」
何で俺だけ凶なんだよ……
甲賀「結果はともあれ、がっかりしない」
弓削「結ばないとだめですよ?」
甲賀「そうそう」
遊佐「まあ……気にしてたらきりがないか……」
おみくじで白く染まった木に紙を結ぶ。
変なジンクスだよな……てかいっぱいになったらどうするんだろうこれ?
弓削「はい」
遊佐「っと」
甲賀「これでよっし」
遊佐「凶だからって祟られませんように」
弓削「そんな意地悪な神様いませんよー、いたら折檻です」
甲賀「はは、いいねそれ」
遊佐「だな、その時は頼むよ」
何時もの和やかな雰囲気になってよかったな……
甲賀「それで、戻りながら寄りたかった所を遊んでいこうか」
遊佐「うぃー」
弓削「輪投げにリベンジしです?」
甲賀「あのおっちゃんに、一泡ふかさなきゃ気が収まらないよ! 景品も欲しいし!」
遊佐「俺も惨敗だったからな……」
……
…………
おっちゃん「ねーちゃんも粘るな」
散々いろんなゲームをやったり、屋台でちょっとしたものを食べたりして結局最後は輪投げになった。
甲賀「女の子の意地を甘く見たら泣きを見るよ……おっちゃん」
おっちゃん「俺は一向に構わないぞ」
弓削「甲賀先輩……そろそろやめたほうが……」
遊佐「引き際も大切ですよ甲賀先輩」
なぜかこの露店で熱中してはや10分以上俺は4回でやめたけど甲賀先輩はもう8回近くになる……
あの人の財布は大丈夫なのか?
甲賀「大体! 数回やった程度でやめた遊佐の根性のなさにはがっかりだよ!」
遊佐「いや……根性とかそういう問題じゃ……」
甲賀「軟弱もの!」
そんな事言われてもなあ。
甲賀「それじゃ弓削を任せて置けないよ!」
弓削「遊佐先輩はそんな人じゃないですよ」
弓削……嬉しい事言ってくれますね!
甲賀「そんな人なの!」
弓削「……なら甲賀先輩は強情です」
甲賀「ちがーう」
弓削「……なら私と少し勝負しましょう」
甲賀「は?私と弓削が勝負?」
弓削「私が勝ったら遊佐先輩に言った言葉を撤回してください」
遊佐「お、おい」
弓削「カラオケからの第2戦目です」
甲賀「ふぅん……良いね面白そう。じゃー私が勝ったら――」
弓削「何でもかまわないです」
甲賀「強気だね、よしおっちゃん一回ずつお願い!」
おっちゃん「あいよー」
――――
――――――
甲賀「やるじゃないか弓削……」
弓削「まだまだです……」
4回投げて残り1回ずつ。
意外と弓削も粘ってその一回さえかければヌイグルミが取れるという長期戦になっていた。
甲賀「ふふん、最後に笑うのはあたしだからね弓削」
弓削「負けて笑うのならいくらでも付き合います」
おぉぅ……なんか喧嘩腰だな。
甲賀「言うじゃないか」
弓削「言うだけじゃありません、その結果を見せてあげます」
恐るべし……女の戦い……。
甲賀「それじゃあ……」
弓削「……行きます」
その言葉を幕きりに二人が投げる――
手から離れた輪は不安定な回転をつけながら……
甲賀「はいった!」
弓削「う……うそ……」
二つの輪は甲賀先輩のものだけが綺麗に入り、弓削のは惜しくも引っかかっただけだった。
甲賀「ふふふ、さーて弓削には何をしてもらおうかなあ?」
遊佐「本気だったのか……弓削無理だったら――」
弓削「や……約束は約束ですから仕方ありません」
おいおい……甲賀先輩も何を言い出すかわからないぞ。
甲賀「んー……」
遊佐「あんまりいじめるようなこと言わないでくださいよ……弓削が」
甲賀「分かってるって!大体、弓削は君の所為で…………」
弓削「遊佐先輩、気にしないでください。大丈夫です」
甲賀「あ、そうだ」
弓削「なんですか?」
甲賀「ん~ん~気にしないで。決まんないから思いついたら言うよー」
一瞬笑ったような気がしたんだが……
甲賀「それでおっちゃん、そのヌイグルミとってくれない?」
おっちゃん「お、おう。おめでとうさん」
甲賀「ありがと、二人は残念賞をもらうと良いよ!」
遊佐「くぅ……」
弓削「うー」
甲賀「とりあえず、遊佐クンにちょっと奢ってもらおうか!」
遊佐「いいっすよ」
逆らったら弓削がいじめられそうだしな……
甲賀「ちょっと戻ったところにさ、りんごあめあったよね?あれがいいなー」
遊佐「へいへい……買ってきますよ……」
弓削「あ、私も行きます!」
甲賀「ちょっとちょっと、分かれたら迷子になるから皆で行くよ」
遊佐「そうか、そうだな」
甲賀「弓削なんか特に」
弓削「ひどいです!これでも場所覚えたり把握するの得意なんですからね!」
甲賀「そういって何時も迷うじゃない……」
弓削「う……」
遊佐「まーまーいこう行こう」
甲賀「あ、これもってね」
もふっとヌイグルミを渡される。
遠くで見てたよりあんまり大きくないな……
しかしまあ……どっかであったことないか?お前……
甲賀「お祭りで食べるものといえばりんごあめだよねー」
弓削「舌が真っ赤になるんですよねこれ」
遊佐「だな、で結局全部食べれなくなるんだ」
甲賀「えーそうかな?食べ物を粗末にしちゃだめだよー」
弓削「わかって……」
遊佐「どうしたんだ?」
甲賀「ん~?」
弓削「あそこ、女の子がないてます」
遊佐「迷子か」
甲賀「そうみたいだね」
この人混みじゃ、流石に迷子になったら寂しいだろうな。
遊佐「迷子とか預かるそういう係りの人まで送ってって――」
弓削「行きましょう」
遊佐「へ?」
甲賀「そうだね、それに残念ながらそういう係りがどこに居るかも分からないし」
急いで駆け出す二人、あわてて俺も続く。
人混みに疲れたんだろう少し露店などが並んでいるところを避けて女の子が泣いていた。
弓削「大丈夫?迷子になっちゃったんだね」
女の子「うん」
追いつくと、しゃがんで顔を覗き込んでいる弓削がいた。
甲賀「お母さんとか一緒に来た人のお名前いえる?」
女の子「うぅん…………」
甲賀「そっか、これあげるから元気出して?ね?」
ちらりとこちらを見る。
…………
あぁ、これかヌイグルミね。
遊佐「はい」
女の子「ありがとう、お兄ちゃん……」
遊佐「それでだ……」
弓削「探しましょう」
言うと思ったよ……
甲賀「そうだね……ほっとけない」
遊佐「この人数ですよ?動き回るのもどうだと思うんだけど……」
弓削「それでもこの子をこのままにはできません」
遊佐「だけどな――」
甲賀「遊佐クンはそこで待ってればいいよ」
それは問題外だろ…………
ったく、仕方ないな
遊佐「わかった、俺も探すから」
二人だけ探すってのも気が引ける。何より男が廃るってもんだ
弓削「あ、お姉ちゃんは梨香っていうんだ。よろしくね」
女の子「あたし……かえで」
甲賀「かえでちゃんか、あたしはしのぶだよ」
かえで「リカおねーちゃんと、しのぶおねーちゃん……」
弓削「そうそう」
甲賀「それじゃ、一緒にお母さん探そうか?」
かえで「うん……」
相当不安だったんだろう、必死に弓削の手を握っていた。
……
…………
甲賀「いないねえ」
あれから社の方に一度戻ってみたが結局見つからなかった。
遊佐「流石にこの人混みですからね……」
弓削「それでも見つけなきゃ……」
かえで「…………」
かえでちゃんも、最初は一緒に探していたんだが疲れたんだろうな。ヌイグルミをぎゅっと握ったまま俯いている。
甲賀「んー母親の名前だけでも覚えてくれてたらな……」
弓削「そうですね……」
遊佐「これ以上動くのもなんだし……やっぱり係りの人に任せたほうが良いんじゃないですか?」
甲賀「いや、さっき聞いてみたんだけど。そういうのはないらしいよ」
まじかよ……。それじゃどうしたものか……
弓削「ねぇ?かえでちゃん?」
かえで「う?」
弓削「お父さんとお母さんと一緒に遊んだところ覚えてる?」
かえで「えっとね……きんぎょやさん」
甲賀「金魚すくいか……」
弓削「いってみましょう」
甲賀「そうだね」
金魚すくい言ったって2,3軒あるぞ……これ以上この子を歩かせるのもなんだし。
おぶってやるか……
遊佐「弓削、行くのはいいけど。流石にかえでちゃんも疲れてるだろうし俺がおぶっていくよ」
弓削「あ……ごめんねかえでちゃん大丈夫?」
かえで「うん……」
甲賀「そっか、気づかなかったよ」
ま……探すのに三人共、一生懸命だもんな。
しゃがんで背中を見せてやる。
遊佐「ほぃ」
かえで「え……?」
遊佐「乗って良いよ?疲れただろ」
かえで「……大丈夫あるけるよ」
遊佐「それはそうかもしれないけど、おんぶしたほうがお母さんとかの顔が見えるかもしれないし」
子供のプライドってやつだな……
弓削「かえでちゃんどうする?」
かえで「だいじょうぶだよ」
遊佐「……そか」
甲賀「辛くなったら遠慮なく言うんだよ?」
かえで「うん」
弓削「それじゃいってみましょう」
……
…………
やっぱりじっとして慰めているだけのほうがよかったんじゃないのか?
下手に探しててもすれ違う事だってあることだろうし。
やっぱり元の場所にいたほうが良いだろう。
遊佐「なぁ弓削――」
後ろに居るはずの弓削の返事がないな。
遊佐「弓削?」
やっぱり返事がない……
遊佐「甲賀先輩、弓削とかえでちゃんが」
甲賀「へ?」
遊佐「いない」
甲賀「うそ……なんで見てなかったの」
遊佐「丁度考え事してて……甲賀先輩こそ」
甲賀「私も……丁度――ああ!もぉそんなこと言ってる場合じゃないよ」
考え事をしてたのは一緒か……
遊佐「探します」
甲賀「それが先決」
分かれて捜してまた迷子になるのもなんだし、一緒に探したほうが良いな。
遊佐「一緒に行きますよ」
甲賀「もち!」
くっそ……
こんなときに携帯がないって本当に後悔するよな
遊佐「とにかく、かえでちゃんを見つけたところに一度戻ってみましょう」
甲賀「そうだね、いこう」
甲賀「いないね……」
遊佐「ここに来るまでも見てみましたけど……」
甲賀「……一度出口まで戻ってみようか」
遊佐「了解」
どこにいったんだ二人とも……
甲賀「ここまでくれば人が少ないから居ると思ったんだけど……」
遊佐「いないな」
もう少し注意していればよかった……
甲賀「しょうがない……ここは二手に分かれよう。そうだね……、30分後にここにきて」
遊佐「分かりました、甲賀先輩は時間分かります?」
甲賀「そんなの露店の人に聞けばいい、行くよ」
遊佐「なるほど、それじゃ30分後に」
甲賀「間違ってもミイラ取りがミイラにならないでね」
遊佐「甲賀先輩も、それじゃ」
甲賀「ん」
急いで、来た道を引き返す。
さて……どうしたものか……
いったところは回ったし……一度お社までいってみるか……
一人で来るとここまで静けさが居心地悪く感じる……どうしてだろうな。
さっきまで三人で必死に探して結局今は一人だ。
今、弓削はどうしてるんだろう?
また頑張ってかえでちゃんと探しているんだろうか?それとも……
遊佐「……」
かえで「あ、おにいちゃん」
遊佐「!?」
かえでちゃんか!ということは弓削が――
いない……
かえで「梨香お姉ちゃんのおかげでお母さんと会えたよ!」
男性「君らか、私たちを探してくれていたのは」
遊佐「え、えぇ」
女性「ありがとうね」
遊佐「いえ、それより弓削……いえかえでちゃんと一緒に居た女の子知りませんか?」
男性「それが私たちも探してるんだ、お礼が言いたくてね」
かえで「りかお姉ちゃんとはぐれちゃったの……」
遊佐「そうか……でもよかったねお母さんとお父さんに会えて」
かえで「うん!」
女性「その子を捜してるのなら私たちも一緒に探しましょうか?」
遊佐「いいえ、りかちゃんも疲れてるだろうし。お気遣いだけで十分です」
男性「そうか……すまない……。もし会えたらありがとうと伝えておいてくれ」
遊佐「分かりました」
女性「ごめんなさいね……」
かえで「おにいちゃんまたね」
遊佐「またな」
男性におぶられてかえでちゃんは手を振りながら人混みへ消えていった。
さて、一つ問題は解決したけど……弓削を探さないと。
後どこを探してないっけ……人ごみの中ですれ違ったのなら分かると思うけど……。
まさかあの雑木林とかに居ないよな?
…………
いってみるか。
遊佐「ふぅ……そりゃいないよな……」
こんな雑木林に入るなんて……薄気味悪いところだし。
それに女の子なら虫とかきにするだろ――
遊佐「あれ?」
何か蔓みたいなのが……
遊佐「弓削?」
弓削「はい?」
何でこんなところに居るんだ……
いや、見つかってよかったけどさ……。
遊佐「何でこんなところに……」
弓削「私は……かえでちゃんを」
はぁ……焦って自分のことをすっかり忘れてたな……
弓削「遊佐先輩こそ」
遊佐「あのな~……いきなり二人が後ろから消えてたら探すだろ」
弓削「あ……」
遊佐「それでかえでちゃんならさっき会った、無事に家族に会えて。ありがとうって言ってたぞ」
弓削「そうですか……よかった……」
安心したのか木にもたれかかる。
遊佐「お、おい大丈夫か?」
弓削「え、あ大丈夫です。ちょっと気が抜けちゃって」
遊佐「あんまりびっくりさせないでくれ……」
弓削「すみません……」
遊佐「ま……それよりここで休憩は止めとけ。ほれ、手」
弓削「あ……はい」
手を握ってぎゅっと引っ張る
弓削「ひゃ」
遊佐「うお、弓削!ちょっと軽すぎ」
あわてて受け止める。
弓削「すみません……」
遊佐「いや、謝りことはないぞ」
というか謝りすぎ。
遊佐「とにかく疲れたんだろ?人の少ないところで座ろうぜ」
弓削「はい……」
境内に少し来客用に作られたベンチに座る。
遊佐「ここなら落ち着けるだろ」
弓削「ふぅ」
遊佐「で、どうして急にいなくなったんだ」
弓削「最初はちゃんとついていってたんですけど。急にかえでちゃんがお母さんを見つけたって言って……」
遊佐「それではぐれたのか……」
弓削「はい……すみません」
遊佐「まあ、会えたから良いけどさ……」
弓削「駄目ですね……結局何もできなかった……」
遊佐「かえでちゃんが言ってたぞ弓削のおかげだって」
弓削「私は何もしてません……」
またこの雰囲気か……こまったな……
遊佐「自身持てって言ってるだろ」
弓削「ですけど……」
遊佐「何かあったのか?」
弓削「え?」
遊佐「いや、だからそんなに自信が持てないとかそういうのに理由があるのかな?と思ってさ」
弓削「それは……」
遊佐「あるのならよかったら教えてくれないか?一人で悩まないでくれ、力に……その……なりたいんだ」
弓削「……」
遊佐「駄目か?」
弓削「いえ……隠す必要も無いですないですし。少し思い出話みたいなものですから」
遊佐「わかった」
弓削「私がまだ小学校に入る前の話です」
弓削「ある日……何時も遊んでる場所から離れて遊んでたんです……そしたらかえでちゃんみたいに迷子になって」
そっか……だから必死に探してたのか
弓削「その先で、『レンちゃん』って女の子に出会ったんです。背が低くて……それでも男勝りの女の子でした」
遊佐「その子のおかげで帰れたのか?」
弓削「はい……それからです、一緒に遊ぶようになって。本当に楽しかった」
弓削「ある日、レンちゃんが秘密の場所へ連れて行ってあげるって行ってついて行きました」
弓削「きっとそれが間違いだったんですね……」
遊佐「何にかあったのか?」
弓削「看板ではいっちゃだめって書いてたんです。一度はとめたんですけど……」
弓削「それでもレンちゃんの後ろについていって……やっとついた先はちょっとした滝でした」
弓削「とっても綺麗で……夢中になって一緒に遊んでいました……。その時です、上から落ちてきた何かに、レンちゃんは……」
遊佐「その子……」
弓削「急いで大人を呼びに行って、レンちゃんは病院に運ばれていきました……」
弓削「運ばれていく間際に目がさめたレンちゃんに私が大切にしていた髪留めを渡したんです。」
弓削「頑張ってって……」
遊佐「よかった……」
弓削「でも……それっきりです」
遊佐「え……?」
弓削「髪留めが渡せてそれっきりでした」
遊佐「え……だって病院に運ばれたんだろ?」
弓削「はい……近くの病院に入院してるレンって女の子は居ないか探したんですけど……それっきりレンちゃんには会えませんでした……」
遊佐「そんな……」
弓削「今でも思うんです、もしあの時……ちゃんと看板を見て守っていたなら……」
遊佐「……」
弓削「たとえ守っていなくても大人を呼ぶ他に何かすることがあって、もっと、もっと助けれた何かがあったんじゃないか?って……」
遊佐「それは……そんなのその時は分からないじゃないか!まだ子供だったんだろう?」
弓削「子供だからって許されるとは思えません」
遊佐「だからって今もそれに縛られることは無いだろ?」
弓削「縛られてはいません……教訓です……」
それが……弓削……
遊佐「あのさ」
弓削「なんですか?」
遊佐「俺は諭すつもりも、止めろとも思わない。けどな……最良の選択肢が最良の結果になるとは限らない」
弓削「はい……」
遊佐「なら……学校で一緒に生徒会の仕事やってるときみたいにさ……力不足な所はお互い補っていけば良いじゃないか……」
弓削「私は……他人に頼りすぎです……」
遊佐「お願いだからそんな顔をしないでくれ……甲賀先輩も心配する」
弓削「……すみません」
遊佐「謝るなって……それにな?俺は弓削に頼られるの好きだぞ?」
弓削「え?」
遊佐「他人に頼るのが嫌なら、「俺」だけに頼れ。俺は弓削から頼られることを嫌だとは思わない」
弓削「それは――」
遊佐「昔起こったことがどうであれ、皆いろんなものを踏み台にして生きてる。でもな、弓削の考えは少し駄目な方向に向かってる、それだけは確か」
弓削「……」
遊佐「弓削が自分に自信が持てないのはその所為だろ……だからな。弓削が自分に自信が持てるまで俺が頼られてやる」
弓削「駄目ですよ……」
遊佐「駄目でも何でも俺は弓削のことを気にする、良いな?甲賀先輩に言えない事もどんとこいってんだ」
弓削「でも……」
遊佐「でもじゃないって、良いな!」
強情でも何でもいいやがれってーの!
弓削「……意地っ張り」
遊佐「はいはい、意地っ張りですよ。てか思い出してみると何を言いたかったのか分からなくなってきたな」
弓削「そーいえば……そうですね」
遊佐「俺もさ、こういうときがあるから。弓削がフォローしてくれよ」
弓削「あ、はい」
遊佐「さて……なんかしんみりしちまったけどさ、もう大丈夫か?」
弓削「え、あ、はい!」
遊佐「ん、そろそろ時間――」
弓削「どうかしたんです?」
遊佐「やっべ!待ち合わせ時間過ぎてる!」
弓削「へ?あ、あの」
遊佐「すまん、休憩したの意味が無いな、ちょっと走るぞ」
ぎゅっと弓削の手を握る
弓削「え?」
遊佐「走れ走れ!」
弓削「は、はいぃ」
遊佐「はっはっはぁ~」
弓削「あ……、っは……あは」
弓削のペースに合わせて全力疾走。
甲賀「弓削!」
弓削「あ、は……甲……賀先輩……」
甲賀「馬鹿……どこいってたの……」
弓削「すみません……」
甲賀「もぅ……とにかくちょっと飲み物かってくる。」
弓削「え、ぁ、私が……」
甲賀「良いからそこに居る、息が上がってるじゃない」
遊佐「すまん…………30分に落ち合う約束だったからさ……」
弓削「いえ……いいんです……ふぅ……私が迷子になったからいけなかったんですよ」
遊佐「そうそう!」
弓削「あぅ……熱弁しなくても」
うん……こういう感じがいい……やっぱり聞いて正解だったな
甲賀「弓削はいお茶で良いよね、遊佐クンも!」
遊佐「ちょ……投げないでくださいよ」
弓削「ありがとうございます」
甲賀「遊佐クンは文句言わない~」
遊佐「はいはいありがとうございます……」
弓削「ふふふ、いただきます」
ぷしゅー!!
遊佐「ちょ、甲賀先輩これ炭酸だし、しかも振ってるじゃないですか!」
弓削「へ?」
甲賀「あははは、引っかかったね!」
遊佐「手に思いっきりかかったじゃないですか……」
甲賀「そんなの手を洗えすぐでしょ!」
遊佐「そりゃ……そうですけど……」
甲賀「なら気にしない!それで、かえでちゃんは見当たらないけど大丈夫だった?」
遊佐「はい、無事でした」
弓削「けっきょくかえでちゃん一人で見つけちゃったみたいですけどね」
甲賀「そんなことは無いと思うけどね……まあ、よかったよ二人とも見つかって」
弓削「すみません……」
甲賀「謝ることはないと思うけど~、ちょっとだけ楽しかったし」
弓削「はい」
甲賀「そろそろ時間だし、遊佐クン電話お願いできる?」
遊佐「分かりました」
甲賀「ここでいいの?」
遊佐「ええ、ここまで送ってもらうだけでもありがたいです」
父親「そうか、気をつけて帰ってくれよ」
遊佐「はい、今日はありがとうございました」
弓削「遊佐先輩、今日はありがとうございました……」
遊佐「いや、俺は何もしてないよ。それじゃあな」
弓削「はい、おやすみなさい」
遊佐「おやすみ」
さてと……今日もいろいろあったし……さっさと寝るか……