遊佐「ん……」
……
えっと……朝?学校は――
あ、今日休みじゃん、今何時……
遊佐「まだ早い……」
二度寝……二度寝……
……
…………
ピピピ――
遊佐「うー何ぃ……」
携帯か……携帯……携帯さ~ん
ピッ
遊佐「はい~ 洲彬の携帯です……」
??「あ、おはようございます」
遊佐「おはよーございますー、はふ……、どなたですか~?」
??「遊佐先輩寝ぼけていますね?私です、弓削梨香です」
遊佐「弓削ぇ?」
弓削「はい、弓削梨香です。大丈夫ですか?」
弓削……弓削……ゆ……
遊佐「はひ! おはよう!」
弓削「ふふふ……おはようございます。朝早くすみません、今日のご予定とかあります?」
遊佐「いや、無いぞ!」
弓削「よかったら……一緒にお出かけしませんか?」
遊佐「良いぞ」
弓削「やった! よかったです!」
遊佐「あー……えと、すまん1時間くらい時間もらえるか?」
弓削「ぜんぜんかまわないですよ! 待ち合わせ場所は何時ものところでいいです?」
遊佐「わかった、急いで用意……うぉ!」
弓削「へ? あ、あの大丈夫ですか? 急がなくても良いですよ?」
っつぅ……シーツで転ぶなんて……
遊佐「大丈夫だ……また後で電話する……」
弓削「分かりました。それでは」
遊佐「ふぅ……」
朝っぱらから何動転してんだか……でも昨日の今日なのに弓削も元気だなー……
迷子になって探してそれで昔話聞いて……その後……
その後……
あれ?
よくよく思い出してみると……なんか俺すごい恥ずかしいこと言ってないか?
遊佐「あー……やっべぇな……どんな顔して合えばいいんだよ……」
とにかく顔を洗おう……
遊佐「ふぅ……」
急いで用意して、待ち合わせ時間よりかなり早くついちまったな……。
まあ、遅刻するよりかはましだろうけど。
弓削「こんにちは、遊佐先輩。ため息なんかついちゃ駄目ですよ? 幸せが逃げちゃいますから」
いつの間に……
遊佐「いや、ため息じゃないけどな」
弓削「どう聞いてもため息でしたよ? ……その、疲れているんですか? 無理に……」
遊佐「無理じゃないぞ無理じゃ。ただ、弓削と遊ぶならどこが良いかなって考えててな。思い浮かばない自分がふがいなくて!」
弓削「そんなことで気にしていたんですか?」
遊佐「そんな事とは何だ、そんな事とは」
弓削「だって、私から誘ったのですし。遊佐先輩はそんなこと気にする必要は無いです!」
そりゃそうなんだが、やっぱ考えるだろう……
弓削「それに……待ち合わせ場所でため息なんか疲れたら困ります」
遊佐「確かにな……すまんかった」
弓削「ふふふ……嘘です。困りませんよ、それより遊佐先輩本当に予定とか無かったんですか?」
遊佐「無いぞ?」
弓削「そうですか。えと、一応何時くらいまでです?」
遊佐「何時でも、というか弓削に合わせる」
弓削「わ、私にですか」
遊佐「何でそんなこと聞くんだ?」
弓削「あ……あの、時間を忘れて遊びそうなので……」
遊佐「ありえるな……まあ、なんだったら俺が言うしさ。気にせず遊ぼうぜ」
弓削「そうですね」
遊佐「それで……どこに行きたいんだ?」
弓削「それがですね」
遊佐「ん?」
弓削「まだ決めていません」
遊佐「行きたい所とかないのか?」
弓削「ないですよー、とにかく行ってみましょー!」
遊佐「お、おぅよ」
弓削「うわぁ……すごいですね……水族館みたいです」
遊佐「結構……本格的だな……」
弓削と一緒に楽しめるものといえば思いつくものはここくらいしかなかった。
ネットで検索していて、丁度この大型ペットショップの広告を見ていたのが幸いだったな。
弓削「見てください、これ凄いですよ」
遊佐「ん~?なんだ?」
水槽の中を見るとふわふわと半透明の海月が浮いていた。
遊佐「最近なんか海月を飼っている人が居るってニュースでもいっていたな、でもさほど珍しくないぞ?」
弓削「違うんです、よぉ~く見ていてください。照明が暗いですから分かります」
ふわ、ふわ、と本当に宙を舞っているように。海月が泳いでく。
遊佐「おおぅ」
弓削「ね? ね? 凄いんですよ、あの端の部分が虹色にきらきら輝くんです」
遊佐「これは凄い……確かに、テレビで見るとは大違いだ」
弓削「すごいですねー……こんなに綺麗に光るんですよ……」
遊佐「そうだな、飼うのも大変そうだ……」
弓削「こっち見てください、これこれ」
急がなくてもちゃんと行きますって。
遊佐「うぉ……なんか紐が長いな」
弓削「遊佐先輩……、紐じゃないですよ……」
遊佐「分かっているって……ゆらゆらしてるとこれも綺麗だな……」
弓削「踊っているみたいですね……流れ星みたい……」
遊佐「ん~……海月の体は……90%水?」
弓削「ふわ~90%が水ってびっくりですね」
遊佐「寿命は、1.2年か、結構長生きするんだな」
弓削「そうですか?ちょっと短くてかわいそうな気がしますけど……」
遊佐「たしかにな、買ってると愛着が沸くだろうし。そのくらいしか生きられないことを考えるとちょっとつらいものがあるな」
弓削「その分大切に飼ってあげないとだめですね……」
遊佐「……あ、でもさ」
弓削「はい?」
遊佐「ここに書いてあるけど、繁殖もできるらしいよ。難しいけど、その動画も映っている」
弓削「へぇ……海月の赤ちゃんって可愛いでしょうね」
遊佐「この液晶見てみ」
弓削「うわ……小さいですね」
遊佐「どうやって生まれるんだろうなこれ……」
弓削「想像がつきませんね~……」
遊佐「そうだな、すっごい小さい卵だったりしてな」
弓削「分裂したりして」
遊佐「分裂か、うにょーんって伸びながら分裂するのかな?」
弓削「ふふふ、ぷにぷにしていて気持ちよさそうですね」
遊佐「触って、刺されると痛いぞー?」
弓削「え、遊佐先輩は刺されたことがあるんですか?」
遊佐「ないけどな!それより他の所見てみようぜ」
水槽とにらめっこもいいけど他の所も回って見たいし。
弓削「あ、えと。ちょっと気になるところがあったんですけど……そこを見てもいいです?」
遊佐「弓削が行きたいところならどこでも。それで、どこに行きたいんだ?」
弓削「あのですね、エスカレーターで見たんですけど。猫のコーナーがいいです」
遊佐「なんだ、ここに来る前じゃないか。先に言ってくれればいいのに」
入り口から最初に目がついたから、ここに着たけど。言ってくれれば俺だって賛成するのに。
弓削「あ、あの、後から気づいたんです!後から」
遊佐「ふぅん……まあ、いいか言ってみようぜ」
弓削「はい!」
確かここの入り口方面に行けば一番早くいえるはずだけど……
遊佐「ここだな」
弓削「かわいいー!」
遊佐「確かに可愛い――」
弓削「見てくださいこの子!この子とってもおっとりしていると思いませんか?」
遊佐「お……おっとり?」
弓削「雰囲気とかそういうのです。音羽先輩みたいですね」
遊佐「そうか?」
弓削「そうですよ」
遊佐「この猫がね~……」
ガラス越しの猫に向かって指をぴたっとあわせて見る。
弓削「一生懸命に遊佐先輩の指を触ろうとしていますよ? かわいいですね~……触りたいなぁ」
遊佐「そうだな――」
弓削の後ろの方に視線が行く。
遊佐「弓削あれ見てみろ」
弓削「え?」
遊佐「なんか、ふれあいコーナーとかある見たいだぞ?」
弓削「そんなのあるんですか!」
遊佐「後の張り紙に書いてあるぞ、なんかお金かかるみたいだけど」
……1時間300円?安いな
弓削「絶対!絶っっ対!!やって行きましょう!」
そんなに興奮しなくても……
遊佐「そうだな……俺も猫とか好きだしやっていくか」
弓削「はい!あ、なんかネコちゃん買ってあげれるみたいですよ?」
ほぅ……
遊佐「どれどれ……」
弓削「自分の気に入った首輪とか付けてもいいみたいです」
遊佐「ふぅん……かっていくか?」
弓削「はい!」
遊佐「んじゃ、まず店員さんに聞いてからだな」
弓削「早く行きましょう!」
遊佐「まて、急ぐな急ぐな」
弓削「すみません、あの看板見たんですけど」
女性店員「あ、はい」
弓削「それと、首輪とかも買ってあげていいんですよね?」
女性店員「いいですよ。ペットフードとかもかまいません、でも与えすぎないで下さいね」
弓削「はい!」
女性店員「それじゃ、こちらの方に記入を御願いします。」
遊佐「んじゃ、弓削記入しとくから先に選びに見に行っていろよ」
弓削「はーい」
ほんと子供ですか……
ちょっとした用紙に記入していく。
女性店員「ふふふ……はしゃいじゃって彼女さん可愛いですね」
遊佐「へ?」
女性店員「あれ? 彼氏じゃないの?」
遊佐「あ、いや……その……」
女性店員「ここに遊びに来たのは正解、うまくいくといいわね♪」
遊佐「あ……ありがとうございます」
弓削「遊佐先輩~! こっちにきて一緒に選びませんか?」
女性店員「彼女呼んでいるわよ。ほら! 華の青春、楽しんでおいで!」
遊佐「はひ!」
声がした方へ足を運ぶ。
弓削「この首輪、こっちの赤いのと緑のどっちがいいです?」
遊佐「弓削はどっちが良いんだ」
弓削「決められないから遊佐先輩に聞いているんですよ~」
遊佐「ん~……そうだな、赤にしてみるか」
弓削「赤ですか?緑もいいと思いますけど……」
遊佐「ふむ……どの猫につけてあげるつもりなんだ?」
弓削「さっき見ていたあの子につけてあげようかと思って」
遊佐「なら、緑が良いかな」
弓削「緑ですね!猫ちゃん用のお菓子も上げても良いみたいですから」
遊佐「そういえばそう言っていたな……なら、ついでに買っていくか?」
弓削「えと……それじゃぁ……このお魚の形をしたクッキーで」
量は少なめ、まあ飼ってる訳じゃないからいいか。選ぶことも楽しいみたいだしな。
…………
……
弓削「やっぱり見るより、触れたほうが可愛さが増しますよね!」
遊佐「そーだなー……」
入ってから弓削はご満悦な訳だが……
弓削「みんな元気で可愛いですね~」
遊佐「見てる限りはな……」
弓削「遊佐先輩楽しくないです?」
遊佐「い、いや楽しいぞ!」
弓削「でも、遊んでないみたいですけど……」
遊佐「俺はほら!見てるほうが楽しめるんだよ!」
弓削「そうなんですか?」
遊佐「そうなんです!」
……
ゴメンナサイ、嘘です。
触ろうとしたら、全部逃げて行くんだが……相当嫌がられてるのか?
弓削「見てるだけでもいいですけど、この子、毛がふさふさですよ~」
遊佐「む……」
弓削「ほら、触ってみてください!」
目をきらきらさせながら猫を見せる。
遊佐「う、わかった」
触れた瞬間引掻かれたりしないだろうか?流石にこう避けられているとな……。
おそろるおそる少し差し出された白猫を撫でてみる。
弓削「ねー! 大丈夫です!よかったですね!」
遊佐「おぉ」
弓削「この子は平気そうですから、このこと遊んでみてください」
遊佐「分かった」
弓削「ふふふ」
遊佐「な、なんだよ」
弓削「だって、遊佐先輩が何時もとちがいます」
そりゃー、相手が言葉伝わらないし……なんか嫌われてるし……
遊佐「別に動物は好きだぞ」
弓削「それは見たら分かりますよ~、ね~? 君もそう思うよね~?」
実際、猫とじゃれあってる弓削を見てるだけでも満足なんだけどな。
遊佐「分かるのかな?」
弓削「分かりますよー、私がわかるくらいですからこの子達にも分かります」
……そんなもんかな?
遊佐「そうなのか?」
白猫「ふぎゃー」
答えるわけ無いか……ってどっかいっちゃったぞ!
遊佐「やっぱり嫌われてるのか?」
弓削「あはは……ちょっと気が乗らなかったんですかね……」
遊佐「やっぱり俺は見てるだけで良いよ」
弓削「えー……」
喜んでくれているだけで俺は満足だし。
弓削「でも、やっぱり――ひゃ!そ、そんな所に入いっちゃダメ!」
さっきまで首輪をつけて一緒に遊んでいた猫が服の中に入っていく。
遊佐「お、おい」
弓削「あ、あははは。だ、だめ、そんなところ舐めちゃ」
羨ましいな、おい!
弓削「だ、だめって。くふ、ふふふ。遊佐先輩も見てないでどうにか、あ!ダメだって!」
いや……どうにかしろって言っても……
と、いうかこのままほっといても良いですか?
弓削「あん……も、いい加減に……」
お腹に手を持っていって服に――
遊佐「まて! 待てって! 何する気だ!」
弓削「服を脱ぐんです! そうでもしないとこの子が取れません!」
遊佐「ちょ、落ち着け」
弓削「落ち着いてま――あ、背中に……」
もぞもぞとこいつめ……
羨ましいじゃないか!チクショウ!
弓削「あ、はひ! だ め」
遊佐「っちょっと待ってろ! 待ってろよ!」
弓削「服を! やっぱり服をぬぎま……ひゃぁ! せ……背筋にふさふさが……あん」
落ち着け……俺まずはこの背中に入った猫を……
遊佐「背中に手を突っ込むしか」
弓削「は、早くしてください~」
遊佐「分かった、分かったからあんまり動くなよ二人とも」
猫にいっても無駄だろうけど……とにかく早く捕まえないと!
ちょっとわくわくしながられっつごー!
弓削「もぞもぞ動いて……あ……」
よっし……動きがとま――
遊佐「いってぇぇ」
弓削「だ、大丈夫ですか?」
遊佐「大丈夫だけど……こいつめ……」
それを無視するかのように再び猫がもぞもぞとお腹を経由して――
ぴょこりと何事も無かったかのように胸の辺りから顔を出した。
弓削「いたずらっ子ですね~」
遊佐「むぅぅ」
弓削「かまれた所は大丈夫ですか?」
遊佐「あ、あぁ、強くかまれてないしちょっとびっくりしただけだ」
弓削「びっくりしました、いくら子猫とはいえ結構力あるみたいですから」
遊佐「こいつめ~」
子猫もこっちの視線に気がついたようでじっとこっちを見つめて――
子猫「にゃー」
遊佐「く……」
弓削「ふふふ、勝てませんねこの可愛さだと」
遊佐「怒れるわけが無いな……」
弓削「次はこんな事をしたらだめですよー?」
猫を撫でながら子供を言い聞かせるような口調でにっこりと笑う。
遊佐「やれやれ……」
弓削「それにしても、こんなところあるなんて知りませんでしたよー」
遊佐「俺も知らなかったんだけどな、ネットしていて見つけたんだ」
弓削「子犬とも一緒に遊べますし最高ですね!」
そんなに喜んでもらうとこっちも選んだ甲斐があるな……。
弓削「そうだ、猫ちゃんがだめならわんちゃんはどうです?」
遊佐「あそこで犬同士じゃれあってるのとか?」
弓削「そうです」
遊佐「こっちから行くとまたフラレそうだな」
弓削「そうでしょうか?」
遊佐「たぶんな」
弓削「遊佐先輩は猫と犬どっちが好きです?」
遊佐「俺? 俺は~どっちも好きだけど、場合によるな場合」
弓削「どっちも好きなんですか……」
遊佐「どっちも良い所あるしな、ただ今は猫が嫌いだな」
弓削「? どういう意味です?」
遊佐「噛まれたから」
弓削「あはは……それは仕方ないですね」
本当は別のところなんだけど……
遊佐「そろそろ時間か……」
弓削「えー……早いですね」
遊佐「もう少しいるか?」
弓削「ん~……いえ、他も遊佐先輩といきたいですし」
遊佐「う……」
弓削「どうしたんですか?」
遊佐「ナンデモナイゾー」
弓削「お昼も近いことですし、一度ここを出ませんか?」
遊佐「そうだな」
弓削「私、パスタの美味しい店知っているんです。雰囲気もいいですしそこでいいですか?」
遊佐「あ、あぁ。弓削が薦めるならそこに行こう」
弓削「ふふ、期待してください!」
お昼が終り日差し赤くなっているのに日差しは暑かった。
日に焼けるのもなんだし、アクセサリーショップでまた一休み。
店員「いらっしゃいませー」
弓削「ここ、かなり品揃えがよくて良く来るんですよ~」
遊佐「な、なんかおれ場違いじゃないか?」
なんか女性者しか見えないんだが……
弓削「そうでもないです、一回は女性物ばかりですけど2階は男性物も扱ってるんですよ~」
遊佐「ほぅ……シルバーアクセサリーとかいっぱい置いてるな」
弓削「ですよ~!髪留めもいいのがいっぱいおいてあるんです!」
遊佐「そうだな~……いいのがあったら買ってみるか」
弓削「それじゃ、色々見て周りましょう」
個人でやってると思って入ったけど結構大きいもんだな……
遊佐「本当に色々おいてあるんだな」
弓削「えぇ、髪留めから付け爪まで。流石に付け爪は買いませんけど……」
遊佐「趣味が髪留め集めなら確かにいいところだな」
弓削「はい!時々、甲賀先輩も来るんですよ~」
ふぅん……いい事を聞いたな。
遊佐「弓削も自分のを見るんだぞ?」
弓削「私は何時も来ているから、かまわないですよ」
遊佐「一緒に来てるんだからさ、気に入ったものあったら買おうぜ」
弓削「それは……その、そうですけど」
遊佐「ほれほれ」
弓削「うぅ……」
遊佐「ぱっとみ……迷うな」
弓削「これなんてどうです?ちょっとしたものでしたら、校則には違反しませんから」
遊佐「ん~、それも良いけど……こっちの樹をイメージしたやつなんかよくないか?」
弓削「それも良いですけど、やっぱり遊佐先輩にはこれが似合うと思いますよ?」
遊佐「俺のかよ……、弓削が誘ったんだから弓削の買おうぜ」
弓削「む~、今は遊佐先輩のを買っているんです! ほら!ちょっとつけてみてください!」
顔が!顔が近いって!
遊佐「ちょ……弓削……弓削って」
弓削「何ですか?ちょっと、じっとしていてください」
遊佐「は……はひ……」
顔が……というか女性特有の髪のいいにおいが……はふぅ……
……あれ?この髪留めって……
弓削「これで……はい!どうです?」
遊佐「……?」
弓削「遊佐先輩? どうかしました?」
遊佐「あ、いや。その髪留め……」
弓削「髪留めですか? あ! えと、久しぶりにつけてみました。どうです?」
あ~……こういうときどんな言葉かければいいんだ……?
……深く考えないで素直に言うか
遊佐「似合ってるぞ?」
弓削「えへへ」
遊佐「大切なものなのにいいのか?」
弓削「大切なものだからこそです……ちゃんと使って上げなきゃだめですから」
遊佐「むー、また落としたらどうするんだ」
弓削「今度は絶対に落としませんよ! あ、でも」
遊佐「ん?」
弓削「その時はまた一緒に探してくださいね?」
遊佐「おうよ」
弓削「で、どうですそれ」
遊佐「ふむ……これは意外となかなか……」
弓削「ほらぁ!絶対納得してくれると思ったんです!これにしましょう!これに!」
遊佐「ん~、そうだな。弓削が選んでくれたことだし」
弓削「それじゃお会計に行ってきま――」
遊佐「まて、どこへ行く」
弓削「だからお会計へ」
遊佐「誰が払うつもりだ?」
弓削「もちろん私が……」
遊佐「俺が買うんだから俺が出す!良いな!」
弓削「えー、だって……」
遊佐「『えー』じゃない!いいな!」
弓削「はーい……」
ったく……大体弓削に払わせるわけ無いだろう。
遊佐「そういえばさ」
弓削「はい?」
遊佐「ここ髪留めも売ってるんだよな?」
弓削「1階ですけど……売ってますね」
遊佐「一緒に会計できるんだよな?」
弓削「できるみたいですけど……どうかしたんです?」
遊佐「んじゃー下に行こう」
弓削「髪留めですか?」
遊佐「そうそう」
弓削「……その……誰かにプレゼントとか……ですか?」
遊佐「そだぞー、俺が弓削に」
弓削「え、それは。だめですよ」
遊佐「はいはい、何がだめなのかは知らないが。おいていくぞー」
弓削「あ、待ってください!」
………………
…………
……
一回に降りてきてはや30分……
弓削「遊佐先輩?」
遊佐「…………」
以外にも俺のほうが悩んでいた。
遊佐「弓削……結局どんなのが好みなんだ」
弓削「え……だから、その、遊佐先輩が選んでくれたのなら何でも……」
遊佐「そういうわけにはいかないだろう? こう、こだわりを教えてくれ」
弓削「うぅ……気持ちだけでもうれしいのに……」
遊佐「……しかたない……そうだな……」
弓削「何でも良いんですよ~」
遊佐「この赤いのなんてどうだ?」
弓削「へぇ……赤くて透き通ってて。綺麗ですね」
遊佐「どうだ?」
弓削「良いですけど……でも」
遊佐「なんだ?」
弓削「これ、宝石と同じ原石使ってるみたいで……」
遊佐「へぇ……何々…… カーネリアン……?」
あれ?どっかで聞いたことあるような……
弓削「宝石と一緒って事は高いですよ……」
宝石……あ……確かネットでそういうのみたな、パワーストーンだっけ……
確か自信をもたらすとか……
なら丁度良いな
遊佐「これにしないか?」
弓削「綺麗ですけどきっと高いですよー」
遊佐「こういうときは値札とか見ないもんだ……買うぞー」
っまそんなに高くないだろうし大丈夫だろ
弓削「あ……私もちょっと出します!」
遊佐「言っただろプレゼントって、気にすんな」
弓削「気にします」
遊佐「何時も昼ととか御馳走だったしな、それのお礼と思ってくれ」
弓削「それこそ気にしないでください」
遊佐「……頼むよ」
弓削「ぅ……」
遊佐「な?」
弓削「わ……分かりました……」
遊佐「ん、素直は好きだぞ」
弓削「えと……じゃぁ……つけてきても構いませんか?」
遊佐「ん~?良いですよね?」
女性店員「構いませんよ」
弓削「ちょっと待っててくださいね」
………………
…………
……
弓削「どうです?」
遊佐「お……良いねー」
弓削「思ってたよりすごいしっくり来るんで……嬉しいです」
遊佐「こちらも至極の限りで」
弓削「えへへ……絶対大切にしますかね!」
遊佐「ああ、んじゃでますか」
弓削「はい」
遊佐「さて……どこ行こうか?」
弓削「そうですね……」
???「やば……、こっち! 早くこっちに隠れて!」
???「急に引っ張るな! うわ……」
なんか……騒がしいな。
弓削「なにか……聞き覚えのある声がしましたよねぇ?」
遊佐「そうだなー」
弓削「あそこから聞こえましたよね~? 甲賀先輩の声が」
あ~……甲賀先輩がいるのか?
???「う……」
???「仕方あるまい、大体しのぶもこそこそと何をやってるんだ」
この声も聞き覚えがあるな。
甲賀「不二子が、早く隠れないからだめなんでしょ!」
早乙女「だからなぜ私が隠れなければいけないんだ」
甲賀「あたしが見つかるからでしょ!」
早乙女「見つかって、悪いようなことをしてるほうが悪い」
…………まさか様子を見てたんじゃないだろうな?
弓削「早乙女先輩、こんにちは」
早乙女「ああ、すまない。こんにちは」
遊佐「うぃっす」
弓削「それでです……そんなところで何をしているんですか」
甲賀「……」
早乙女「散歩がてらにこっちにきてみると」
甲賀「あ、あたしも散歩だよ!」
細い路地で散歩している人がどこに居ますか……
遊佐「……まさか、甲賀先輩後をつけてたんじゃ?」
甲賀「ち、違うからね」
早乙女「二人の関係が気になるから見守ってるって言っていたぞ」
甲賀「ちょっと! 何普通にばらして――」
早乙女「わざわざ変装もして」
ま……まじか……いつだよ……
弓削「……早乙女先輩、詳しく。いえ、やはり当の本人から聞きましょうか」
甲賀「ま、待って。私の言い分を聞いて、猫と戯れていた弓削が可愛かったとか、ちょっと変な声が可愛かったとか」
いや、それいい訳じゃないし。って近くにいたのか……
近くにそんな人居たっけ……?
ん~~……
……
『彼女呼んでるわよ。ほら! 華の青春、楽しんでおいで!』
あ……
遊佐「まさか……ペットショップの女性店員!」
弓削「へ?」
甲賀「あ、ばれた。じゃない!あ、あたしは知らないよ!」
と……言うことは……少なくともペットショップからは見られてた……?
早乙女「もう観念したらどうだ?」
甲賀「しらないったら、知らないの!」
弓削「甲賀先輩?」
にっこり
甲賀「ゴメンナサイ」
あ、甲賀先輩もあの笑顔は苦手なんだ。
早乙女「しのぶにも困ったものだな」
遊佐「……風紀委員……どうにかしてくれ」
早乙女「残念ながら、私生活までは注意できない」
弓削「それでも、これはちょっと考え物ですよねぇ?甲賀先輩?」
さっきからの笑顔が怖すぎる、狂気というか……ねぇ?
甲賀「ハイ、マッタクソノトオリデス」
早乙女「長話になるのなら、私は失礼するが……」
甲賀「待って! おいてかないで! というか逃げるの!」
早乙女「元はしのぶがまいた種だろう」
甲賀「美味しいお茶出す喫茶店知ってるからそこいこう! ね? もちろん私のおごりで!弓削も遊佐も、ね? ね?」
なんか……性格がぜんぜん違ってるんだが……
早乙女「ふむ……私はかまわないが」
遊佐「どうする? 弓削」
弓削「そうですね、甲賀先輩を問い詰めたいですし、行きましょう」
うわぁ……微妙に棘があるな
甲賀「うぅ……」
…………
……
弓削「それで……たまたま待ち合わせしている私たちを見つけて面白そうだからついて来たと」
甲賀「うん」
早乙女「興味本位で、私生活をのぞくな」
甲賀「だって、嬉しそうだったからさー」
遊佐「甲賀先輩……それはどうなんだろう」
喫茶に入ること30分程度永遠と問い詰められた結果、興味本位とはまあ……
甲賀先輩らしいといえばらしいか……。
甲賀「でも、全部が全部見てたわけじゃないから……」
早乙女「散々連れまわされて、何かと思えば……」
弓削「早乙女先輩は無理やり付き合わされたわけですね?」
早乙女「そうだ……しかし最終的に一緒にいたのだから責任はあるだろうな」
弓削「ふぅ……」
甲賀「あはは……」
弓削「ちゃんと反省してます?」
甲賀「してます……」
早乙女「すまなかった」
弓削「そうですね……反省をしているのなら早乙女先輩も今度、水着を一緒に買いに行きましょう」
あー、確かそんな事いってたな
早乙女「水着?」
弓削「はい、それで帳消しです」
早乙女「しのぶと行くのになぜ私が?」
甲賀「そうだよ!」
弓削「甲賀先輩と二人で行くと何をされるか分かりませんし……」
遊佐「はは……」
甲賀「ひどいよ!」
早乙女「ふむ……」
弓削「それで今回は水に流します~」
早乙女「わかった、いいだろう」
弓削「明日はどうです?」
早乙女「明日か」
甲賀「学校も早く終わるだろうし、丁度いいね」
早乙女「わかった、それまでにいろいろ勉強しておこう」
弓削「それじゃ決まりで!」
遊佐「とりあえずこれで解決か?」
甲賀「解決解決!」
弓削「そういうことで」
早乙女「しのぶが一方的に悪いのだがな」
甲賀「解決したんだから気にしない!」
それから結局、夏休みの算段やら。体育祭の裏話などで大盛り上がりを見せた。
弓削「はー、今日は楽しかったですね」
遊佐「まさか甲賀先輩が見てたとはな」
日が落ち、ゆっくりと太陽が沈んでいくのが分かる。
弓削「予想外でしたねー」
遊佐「ははは……ま……最後の夏休みだからな、ちょっとたががずれたんだろ……」
弓削「ちゃんと直さなきゃだめですねー」
遊佐「だな」
何時もの分かれ道に着く。
弓削「それでは、名残惜しいですけどまた」
遊佐「何言ってんだ、明日学校が終われば」
弓削「そうですね……また時間が合えば……一緒に遊んでくれます?」
遊佐「もちろん」
即答する。
だって断る理由なんて無い。
弓削「えへへ……それじゃ、おやすみなさい。また明日」
遊佐「ん、おやすみ」
弓削「あ、そうでした。髪留めありがとうございます!」
そういって振り返えった笑顔が……
これ以上の無い、今日の収穫だった……。