遊佐「よーし、いい子だぞー。よくやった中島、後でジャーキーあげるからな」
息切れ気味の中島にできるだけの言葉をかけてやる。
中島「俺は犬か! 『よくやった!』じゃねぇよ……こっちは死ぬかと思ったんだぞ!」
遊佐「いや、俺も友人として鼻が高いぞ、あの多勢に囲まれながら風船を割られなかったんだから」
中島「おかげで美顔が台無しだよ!どうしてくれるんだよ!」
風船の攻撃をことごとく回避させながら、すべての攻撃を自分の顔へ集中……漢だな。
だってほら、涙を流しながら喜んでるしね。うん、喜んでる喜んでる。
中島「友人ならもっと早く助けに来いよ! 俺とお前との友情ってそんなもの!?」
遊佐「作戦だからだ……『泣いてバショクをKill』ってやつ」
あれ? 何か違うな……まぁいいか
中島「たばかったなぁぁああああ、柚子!」
頭を抱えながらのた打ち回って……そんなに興奮するほど嬉しかったのか……。
遊佐「柚子じゃねぇ遊佐だ、壊れたか?」
中島「それでオレが、ポックリ逝ったらどうするんだよ!」
遊佐「一発ネタとしては極上だな」
中島「ネタかよ! というかオレ一発芸じゃねぇし!」

遊佐「馬鹿が笑をとるために命を賭す……馬鹿らしく素晴らしいじゃないか、
  それがたとえ馬鹿な一発芸だとしても!」
中島「馬鹿3回言った! 3回言いましたよこいつ! というか、まだ死にたくない!」
遊佐「うるせーな……乱戦時、女子の太もも見たんだろ?」
中島「最高だった」
遊佐「分かりやすい奴だ」
中島「Nohhhhhーー!またたばかられた!」
遊佐「大丈夫、お前はやればできる子。今は本気を出していないだけ。
  キャラ的にちょっと出番が地味なだけ!」
中島「嘘だ! 絶対嘘だ! 目が死んでるもん! うぅ……死んでやる……」
遊佐「任せとけ!痛みは無いぞ」
中島「ちょ……本気にすんな! こっち向けるな! 自信ありげに言うな!」


●弓削ルートへ


遊佐「蔵人!そっちは任せた!」
中島「お前に友情ってものを小一時間問い詰めたいよ……ったく!
   やってやる! やってやるよ! 転んでもただじゃおきねえ俺!」
遊佐「リーチに気をつけろよ、特にその剣は長いんだからな!」
中島「これが性に合ってんだよ! お前こそ残量には気をつけろよ!
  鉄砲は持ってるだけじゃ何もできねぇんだからな!」
大剣を振りかぶって走り出した中島はさっきより頼もしかった。
遊佐「一撃必殺って奴を見せてやるよ……残弾がなくなるころには試合は終わってる――」
こちらも移動しようとしたそのとき何かに見つめられている気がして――
遊佐「?!」
気づいた時には体が勝手に動き物陰に隠れていた。
遊佐「なんだ?」
棒?いや、なんだこれ――先になんか怪我しないような仕掛けしてあるな
遊佐「っち、どっから……」
ざっと見ても俺を狙ってる奴はいねえ……
遊佐「まさか……遠くから狙われてる?この位置から狙って……って考えると……向こうか!」
なるべく物陰に隠れるように移動し始める
遊佐「遠くから狙える奴なんて……先につぶした方がいいからな」


少し後ろへ回りながら撃たれたほうへ走る。
途中敵と会うはずが、ほとんど会うことは無かった。
一対一ならこっちも自信があるからな……なんとかなるだろ。
遊佐「……ここら辺のはずなんだが……」
???「初撃は外すしちゃいましたか……私もまだまだですね」
なんだ、この雰囲気は……
背中がぞくりと、警報を鳴らす……
???「まさか、ここまでこられるとは思いませんでした。
  慢心ですね一撃で倒したつもりなんですけど」
だれだ……余裕ってかんじの言い振りだな。
遊佐「……油断大敵ってな、正直危なかった」
???「えぇ……できれば気づかれずに一撃で倒しておきたかったです……遊佐先輩」
遊佐「弓削……か?」
視線のみで殺しそうな雰囲気を纏って、何時もと違う弓削がこっちを見ていた。
弓削「まさか、遊佐先輩一人で来るとは思いませんでした」
遊佐「はは……みんな頑張ってるんでね。少しでもかっこよくやりたくなったのさ」
心臓の音がアラームにしか聞こえない……
弓削「大丈夫ですか? 顔色が悪いですよ? 体調が悪いのなら棄権してください」
口調は何時ものだけど……あの顔を見ると心配とかそういうのじゃないな。
弓削「人を傷をつけるような競技はしたくありませんけど……
  クラスメイトの期待を裏切るわけにはいきません」
遊佐「それは困ったな、そこを曲げて見逃してくれないか?」
冗談半分でいってみる。
弓削「……そうですね、それもいいかもしれません」
弓削「ですが――」
遊佐「そうはいかないよなぁ」
弓削「はい……残念ながら、ここで見逃すと後々徒になりますから。それに……」
ゆるりとエモノを構える……
弓?! そんなものまであるのか!
弓削「どうやら見逃せる実力では……なさそうなので」
遊佐「相手が弓削か、やりにくいな……」
弓削「すみませんが、ここで大人しくでやられて下さいね」
遊佐「残念ながら、俺もただやられるだけに来たわけじゃない」
いつでも動けるような体勢をとる。
弓削「余裕ですね。でも……やるからには下手に避けないで下さい」
!?やばい!
そう感じたときには――
そらした体の位置に何かを打ち込まれるのが見えた。
弓削「良い反応です……ちゃんと避けないと……どうなるか私にも分かりませんから」
遊佐「それは勘弁だな」
後ろに手を構える……
こちらの武器を見せたら向こうも対処してくるだろう、レンジ入るまでは隠しておくか……
弓削「何を隠してるかは知りませんけど……出し惜しみすると負けると思ってください」
どうする……こちらの射程は弓削より確実に狭い……避けながら間合いをつめるか……
遊佐「ふっ」
余計なことは考えず、全力疾走する。
力はすべて脚力に、意識は視界のみに反応させる……
狙われるところは分かってるから……後は、タイミングさえ分かれば!
弓削「……」
弓を構えたまま――動かない?
何を考えてるかは知らないが…………
数メートルこっちの射程!
遊佐「このまま行かせてもらうぜ!」
一気に間合いを――
急に目の前の地面が噴水のように跳ねる。視界が土煙に一瞬覆われた
遊佐「な……」
弓削「そこです……」
それと同時に、弓削の声が聞こえる。
土煙が晴れる前に弓削の一撃が――
遊佐「っくぅ」
身体を掠める。
遊佐「ぁっぶね」
弓削「びっくりです、またはずしちゃいました……
  だめですね……それとも遊佐先輩が凄いんでしょうか」
遊佐「はは……マグレは続かないさ」
冷たい雰囲気も異様だけど……それ以上にさっきのあれはなんだ……?
弓削にあんな武器はなさそうだが……
それに何で土煙が晴れる前にこっちが狙えるんだ……
弓削「無駄撃ちはしたくないんです、そのまま動かないで下さい」
遊佐「冗談!」
バックステップで後退しつつ右へ移動する。右足から着地、それを軸に左へ跳躍――
そのまま走り出す形で間合いを詰める。
弓削はそれを悠然と眺めながら。弓を構えた。
弓削「遠的でしとめればよかったです、こうちょこまかと動かれると怪我をされても困りますし」
遊佐「強気だな、自分がやられないとでも?」
弓削「えぇ、やられる気もありません、大体やられたらだめなんですよ」
遊佐「はは、そりゃそうだわな……で、その強気はさっきのマジックがあるからか?」
弓削「マジック……そうですね」
遊佐「できたら、タネ明かししてもらいたいわけだけどっ!」
フェイントをかけつつ、射程に踏み込む!
弓削「残念ですがそれはできません」
その答えと同時に――
遊佐「またかっ」
今度は少しはなれたところが、軽い破裂音とともに砂煙を発生させる。
同じように後退して物陰に隠れる。
弓削「手間を取らせないで下さい」
遊佐「まさか弓削にそんなことを言われるとはなー」
考えろ考えろ……
何で爆発する……なんで土煙が晴れる前にこっちに撃てる……
弓削「逃げるだけじゃ私には勝てませんよ?そんな体勢で考え事ですか?」
!? なんでこっちがわかる! 死角だぞ!
遊佐「怖いな……もう一つマジックでもしてるのか?」
弓削「もう一つ?」
冗談半分で聞いてみるか。
遊佐「死角なのになんで見えてるのかって事」
弓削「あぁ……足元とか体さえ見えれば、大抵の体勢とかは予想がつきますから」
遊佐「驚きだな、簡単にタネ明かしをしてくれるとは」
弓削「誰にでもできる事じゃないって言われましたからね、真似はできませんよ」
遊佐「たしかにな」
弓削「目がいいんです、少しの違和感とかもわかるんですよ」
それでか……。一つはわかった、ならもう一つのあの爆発はなんだ……?
まさか地雷とか……でもそんなの掘り起こさない限りは……。
わざと爆発させているとか?そんなの最初から埋まってる場所がわからなければ――
…………いや、そうでもしないと説明がつかないだろ。
遊佐「OK、マジックのタネはなんとなくわかった。数少ない地雷を誘爆させてるだろ弓削」
弓削「へぇ……」
遊佐「これで、同等ってわけだ」
中腰からの体勢からいつでも走り出せる体勢へと整える。
弓削「いいえ、そんなに簡単に突破はさせませんよ。ここに私がいる限り優位には変わりません」
ま、たしかにな。
弓削「地雷の位置がわからないと対処の使用もないですしね」
遊佐「たしかに一対一なら確かに好都合だけどな」
弓削「それなら問題ありません、そこら辺はクラスメイトがやってくれますから」
なるほどね……それで敵にあんまり出会わなかったわけだ。
遊佐「頼もしいことだな」
弓削「えぇ、ここから遠的をして一人ずつ仕留めていけば私の役目は達成されます」
その狙撃手を倒しに着たんだが、相手が弓削とは……
ここは絶対に倒しておかなければそれこそ俺がクラスメイトに何を言われるか……。
さて……どうしたものか……もう自分の手の内を隠しても無駄だろうし……
…………
……
やるか!
一気に走り出す。
弓削「何をしても無駄です」
遊佐「やってみなきゃわからないだろ!」
落ち着け……弓削はどうやら弓の扱いに対しては経験がるらしい……
だから経験がない動きをすれば……
遊佐「ふっ」
静止しないように急に方向を変える、目標は弓削を射程に入れるところまで!
弓削「直線的ですね……遊佐先輩らしいです」
直後、パターン通りに地面から音がして土煙が立つ――
遊佐「ああ、俺らしいっちゃ俺らしいな。けど、パターン通りに動く弓削も弓削らしいがな!」
それと同時に飛び込むようにして前転!
弓削が撃った第二射はさっきまでいたところに確実に打ち込まれてるだろ。
けど!
弓削「うそ……」
遊佐「これでチェックメイトだ!」
弓削「なんて……無謀な――」
かいくぐって、近距離からやれば!
引き金を引いて――
シュッ
何かが狙いを定めていた銃口に当たる、ぶれた標準は弓削を完全に見失う。
遊佐「な」
弓削「え?」
???「何か人の声が聞こえると思えば……どうして遊佐クンが弓削を狙っているのかな?カナ?」
弓削「甲賀先輩?」
こっちが射程外とわかったからか、弓削は即座に声をした方へ弓を構え直す。
少しはなれた樹の陰から、甲賀先輩がたっていた。
遊佐「くそ……」
甲賀「あたしが弓削を狙うならまだしも……ほかの人が弓削をやるなんて許さないからね……ね?」
甲賀先輩もなにやら武器を持っている。
いや、何あれ。鉈?
【鉈(なた)】刃が厚く幅広く短い柄のついた刃物。
なんじゃそりゃぁぁぁ!
弓削「会長……その手に持っているものはなんですか」
甲賀「ん?使えそうかなって思って持ってきた」
遊佐「いや……でもそれ」
甲賀「うるさいなぁ……武器は武器だからいいの」
弓削「会長それを捨ててください」
甲賀「この状況で『武器を捨てて』って言って従う人いないって」
弓削「だめです、それは認可されてはいないはずです」
甲賀「ふぅ、強情だなぁ……それより弓削、同じ敵を狙ってるんだから。
   遊佐クンを先にやらないかな?」
あわてて武器を構えなおす。
甲賀「動くな!」
その声と同時に静止する……ちょうど弓削と甲賀先輩を狙っている感じになり……三竦み状態に。
甲賀「目ざといねぇ……すぐこれだ」
遊佐「弓削それこそ、今は俺と組まないか? また後で決着を――」
甲賀「嘘だ!!!」
緊張感が一層高まる。
甲賀「そうやって、弓削をまたやるつもりなんだろう?」
弓削「会長いいですから、その武器を捨ててください。卑怯ですよ、最初選んだ武器なら認可されていて私も咎めはしません」
甲賀「いい? 弓削? 卑怯という言葉は敗者の言い訳でしかないんだよ。自分以外の大勢の期待を背負った時、
  人生の中では絶対に負けることができないシーンは絶対ある。 いくつもある。まさに今さ。
  その時、尽くすベストに上限なんて物はない。 ただひたすらに 勝つための努力を惜しんでいけないんだよ。
  自分らの努力に勝手に上限を設け、それ以上の努力をした相手をけなすす事は絶対してはならないんだよ」
弓削「何ですかその言い訳」
甲賀「さーてね、おじさんは分からないよー」
おじさん?ってだれだよ!
じりじりと甲賀先輩がつめてくるが、状況は変わらないまま戦闘が続く。
弓削「……戦争にも『ルール』というものがあります」
遊佐「そうだなぁ、ましてや生徒会長がそんなんじゃ示しがつかない」
甲賀「そう? 生徒会長が負けたら、それこそ示しがつきそうに無いけどな?」
弓削「勝ち負けだけで判断するだけですか」
甲賀「そうだよ、遊びなんて突き詰めていけば『勝つ』か『負ける』か……
  負けて悔しい思いをして負け犬呼ばわりされるのなら……」
弓削「そのためなら、なんでもするって言うんですか」
遊佐「……埒が明かない、俺達で対処しよう」
甲賀「俺"達"? 弓削を仲間に入れたつもり?」
都合の良い射程にはいったのかぴたりととまる。
弓削「……」
遊佐「弓削……」
甲賀「あぁ、それとねこの武器さ」
弓削「何ですか」
甲賀「弓削のクラスメイトから拝借したんだよー」
甲賀「負けたくないって気持ちは分かるから。
  見逃して戦ったんだけどね、ま、あたしの相手じゃなかった」
弓削「っ……!」
甲賀「それに、私はこれを使ってはいないしねー」
弓削「その保障はどこにもありません」
甲賀「ん~そだね……、じゃあこうしよう。
  今から一緒に遊佐クンを倒して……それから弓削に預けるよ」
弓削「……」
遊佐「おいおい……」
この状況で2対1になるなんて勝率なんて考えただけで無駄だぞ……。
弓削「分かりました……それでは遊佐先輩……」
甲賀「聞き分けのいい子は好きだよー」
遊佐「っち」
弓削「いきますよ……遊佐先輩」
その言葉と同時に甲賀先輩への迷いもなく一射。
甲賀「ありゃ……遊佐クンに取られちゃった」
まるで踊るかのように体を翻し距離を縮めだす。
遊佐「OK」
それに続いて、構えていた弓削に向けていた銃を甲賀先輩に向けて――
遊佐「弓削! 少し下がれ!」
弓削「すみません、距離をとります」
残弾なんか気にせず、ただ目標に向かって撃つ、撃つ、撃つ。
甲賀「あはっはっはー、数だけで勝てると思う? 思わないことだね!」
今度はかわさず直進、真正面からつっこんで来る――
とっくにあたっていいはずの弾がことごとく弾かれていた。
遊佐「なんだよ……」
甲賀「当たるのがだめなら、それが当たるより先に当てれば良い、簡単なことさ」
弓削「やります、遊佐先輩!」
弓削の有効射程にはいったのか、後ろから声がかかる
甲賀「ほらぁ! 遊佐クン、逃げないと巻き込まれるよ!」
まるで俺を弓削の盾にするように、一直線に踏み込んでくる。
落ち着け、弓削が『やるって』いったんだ……。
あの一撃をしてから避けても遅くは――無い!
甲賀「逃げないのかい……なら、遊佐クン貰っ――」
くる!
そう思ったときには、右前から破裂音が聞こえた。
甲賀「な……」
それを合図に、後ろへ下がる。
撃つ!撃って撃って撃ちまくれ!銃身が焼きつくまで撃ち続けてやる!
それを援護するように弓削からも矢が打ち出される。
弓削「手ごたえありです」
遊佐「やったか!」
甲賀先輩が居たさっきの場所には――
ありったけの火力に襲われた……あれ?
いねぇ――
甲賀「いや、驚いたよ。まさかそんな手があるなんてね……」
確認するために近づいた死角から声が聞こえた、
弓削「遊佐先輩!」
遊佐「真横?!」
確認するより早く後方へ……。打ち出される何かを確認する暇も無くよける。
甲賀「もう止めた。弓削は残念だけど……二人ともいっぺんに相手してあげる」
遊佐「くっ」
甲賀「二人とも、体育祭は初めてだもんねぇ。
  二人でやっとあたしの相手ができるってところかな?」
後ろへ後ろへ下がりながらの苦しい応戦。それでも少しずつ距離は縮められていく……
弓削との距離も考えながら下がらないと……余計な手間をかけるだけか。
甲賀「どんな手を使ってるかは知らないけど……結果として勝てばいいんだもんね。というか、そうでもしないとあたしには勝てないよ」
楽しそうに、降り注ぐ射線を右へ横へ揺らしながらよけていく。
弓削「甘く見ないでください」
遊佐「同感!」
残弾……OK、まだいける。
弓削「遊佐先輩! 近すぎます離れてください!」
確認した隙を逃さなかったのか、さっきまで保っていた間隔が一気に縮まっていた。
甲賀「逃がさないってねっ!」
遊佐「くっそ」
体を逸らしつつ、上半身をひねる。甲賀先輩に背を向ける形になるが……仕方ない。
それを分かっていたかのように、弓削からの援護射撃。
甲賀「ちょこまかと……鬱陶しいね……」
甲賀先輩も最小限の動きでそれを避ける。
弓削「早く離れてください! 投げてきますよ!」
振り返りもせずほぼ直角に右に跳躍――
塊のようなものが掠めていくのが見えた。
石? いや黒い……短剣?投げナイフ?
甲賀「っち……思ったより厄介だね……」
すかさず物影を盾にする。弓削も一度身を隠していた。
弓削「さっきも言いました。甘く見ないでください、と」
甲賀「まーそれについては謝るよ、しかしまぁ……武器までばれるとは」
逃げる様子も構える様子も無く、いかにも「やれやれ」といった感じで甲賀先輩はお手上げする。
遊佐「投げナイフっすか……」
甲賀「ん~……まぁあってるって言えばあってるね」
にやりと笑う。
弓削「……小石に投擲武器、いわゆる暗器って奴でしたよね、たしか」
甲賀「あ~……そっか弓削は知ってるか……ならこの大げさな武器も必要ないか……」
ぽいっと、今まで自己主張してきた鉈を捨てる。
なるほど……本命は隠し武器……あれはあくまでも目を引かせるためのものか……
遊佐「……鉈はおとりですか」
甲賀「まーねー、今までの相手は油断してくれたから仕留め易かったよ」
ふふん、と鼻歌交じりに自慢げに話す。
弓削「私達はそうはいきませんからね」
遊佐「やるからにゃ覚悟してくださいよー」
武器は分かったし……そろそろ仕掛けるつもりだな……OKOK……やってやろうじゃないか。
フゥと……一つだけため息をつく。いつの間にか近くまで移動した弓削が見えた。
なにやら手で合図をしてるな……手で……地面を撃つような合図を……俺に地雷を撃てってか!
そんなの無理……
……じゃ、無いな。
撃てっていってるんだから、俺は撃つだけで良いか。指示があるのなら言ってくれるだろう。
親指をピッとたてて合図をする。
何故か弓削は敬礼して……それが可愛くてちょっと笑えた。
遊佐「さて……そろそろ行きますかね!」
大声でわざと宣戦布告する、弓削でしとめてもらったほうが確実。
なら……俺は陽動役を買って出るまで!
腰を落としたして力をため、ばねの様に走り出す。
真正面から行くとこちらが不利だろうから……真横から!
甲賀「いつでもどうぞ~、上級生をなめると痛い目を見る事を教えてあげるよ」
弓削「それは、こちらのセリフです」
物陰に隠れていた弓削も、砲台になったように甲賀先輩に狙いを定める。
弓削が鬱陶しいのか甲賀先輩もまっすぐ弓削のほうへ。
甲賀「先に弓削を貰うよ」
弓削「かまいませんけど、遊佐先輩を侮らないほうがいいです。私がやれなかったくらいですから」
そういって放たれた物はまっすぐと甲賀先輩へ……。
甲賀「さっきみたいのはやらないのかい?」
余裕ありげにそれをかわす――
それと同時に弓削の第二射目が甲賀先輩の足元を打ち抜いた。
弓削「ご希望通りに」
軽い破裂音とともに土煙が舞う。
甲賀「それでも、同じ手は二度も通用しないさ!」
まっすぐ弓削のほうへと走り出す甲賀先輩。
遊佐「俺を忘れちゃ困りますよ!」
全力疾走で甲賀先輩を真横から射程に捕らえて撃つ!
甲賀「そんなの想定内!」
甲賀先輩が向きを変えて、突っ込んでくる……。
この人に慣性の法則とか聞いたら絶対逆に説教されそうだな。
遊佐「それがどうした!」
この後のことなんて考えても仕方ない! 今はありったけの火力で応戦!
それも甲賀先輩は無駄が無い動きで避けていく。
射程に入ったのか、甲賀先輩は腕を交差させてこちらを睨んだ。
弓削「正面前方!50cm!」
遊佐「イェス!マム!」
右手は甲賀先輩を応戦しつつ、残った左手で言われた付近を撃ち続ける。
たまたま二つあったのか2回破裂音が聞こえて、土が舞った。
弓削「仕留めます!」
遊佐「了解!」
目標に向かって一斉射撃。
同時に破裂音も聞こえた。
遊佐「よっしゃぁ!」
弓削「やったんですか?」
確認しようと近づいて――
甲賀「あーゆーれーでぃ?」
遊佐「は?」
甲賀「遊佐クンもーらい!」
弓削「遊佐先輩!」
俺のの風船が割れる音が聞こえた。
遊佐「え、ちょと」
いや! まて! 何で!
何で風船が割れてないんだ!音がしただろ!
甲賀「弓削ももらいー!」
その掛け声とともに、左手に持っていた武器をぶんどられ――
勢いあまって甲賀先輩の下敷きになる。
弓削「え、そ、それはひきょ――」
甲賀「卑怯じゃないよねー? ふふん、油断大敵!
  敗者にかける言葉はなし! 早く退場ゾーンにいっときなよー♪」
どうやら、奪われた武器で弓削もやられてしまったらしい……あぁ、不甲斐ない……すまん弓削。
弓削「はぁ……分かりました……でも、何で風船割れてないんですか……音聞こえましたよ」
甲賀「ん?あたしも弓削と同じ事をしただけだよ」
弓削「完敗ですね……」
とてとてと、足音が聞こえる。
弓削「大丈夫ですか?」
下敷きなって倒れていた、俺に優しく声をかけてくれる。
ゆっくりと起き上がり弓削の方向へ――
遊佐「あぁ……大丈っっぶーーー!」
弓削が何故か濡れ濡れで、肌にくっついた髪の毛が極上のえろs――
失礼、紳士たるものここは毅然に振るわないとな、うん。紳士は男子、男子といえば。
性欲を持て余す。
いやおかしいだろ!
まてまてまてまてまて、うぇーぃとぅ。落ち着け落ち着けよ、ここで落ち着かなきゃ、いつ落ち着く。
不健全とか健全とかそんなちゃちな事を考えるんじゃねぇ、これは脳 内 戦 争 だ。
警察が来て「弓削は、大切なものを盗んでいきました……貴方の視線です」とかそんなの通り越して。
ミサイル飛び交う戦争。そう戦争!理性と煩悩の戦争! せい戦!!
頭の中じゃ今やちょっとおかしな俺が小踊り死ながら機関銃ぶっ放してるに違いない。間違いない。
抑えろ……抑えろよ、俺の理性……負けるな!
そうさ……俺は男……そして紳士だ……TPOをわきまえる紳士……そして男だ。
OK……いいぞ……いいぞベイベー!
透けたた肌を見て逃げる奴は男だ! 逃げない奴はよく訓練された男だ!!
ホント戦場は地獄だぜ!ふぅはぁはぁ……はぁー……
…………
ぴっちりと方から腰まで体の形をなぞるようにくっついている体操服。
濡れた髪が異様に艶しくて……それで首なんかちょっと傾いてこっちを心配そうに見つめれたら……。
…………
……
軍曹ォオォォォーーーー!
メディーク! 早く軍曹に手当てを!今にも理性第一防衛ライン(最終)が突破されそうだ!
遊佐「……」
弓削「どうしたんですか?」
いや……髪を書き上げるしぐさとか、あ!ダメ!覗き込まないで!
そんな……その真っ白な細い腕とか……それ以上は……
大統領! 早まるな! それ以上動くんじゃねぇ! 俺の3丁目のマグナムが火を噴くぜ!
って変な想像してんじゃねぇぇっぇ。
っは!やばい!
下のほうでクーデター企ててやがる!これはまずい!
早急に手を打たないと!
甲賀「遊佐……葛藤するのはいいけど。何を見ているのかな?カナ?」
遊佐「ひっ」
あ……あぶねぇ……このままだと変な想像するところだった……
フロイト先生も爆笑だっぜ!
いや、フロイト先生は関係ないけどもな?
甲賀「…………」
遊佐「……すみません」
弓削「?」
甲賀「弓削~途中まで一緒に行こうか~」
弓削「え、でも試合中じゃ……」
甲賀「いいからいいから、遊佐、前歩きな」
遊佐「は、はひ!」
甲賀「ったく……憎まれ役買って出てやったのに遊佐がそんなのでどうするんだい」
事故なのに……


結局、主力だった弓削をを封じ込めることが出来た俺たちの作戦は大成功。
甲賀先輩をはじめとする三年生も、うちの精鋭(まぁ、アイツらだよ)たちが撃退。
途中で甲賀先輩がぬけたのもあるけど……。
ついでにルークも確保し、二年生は所持ルークを二つに増やす。
そしてそれからは一気に大量得点を追加だ。
試合開始直後にも関わらず二年生の得点は他チームを大きく引き離し、もはや独走状態になっていた。
いくら二年連続ゴールドバリスターの武僧先輩がいる三年生や、クセの強い子が多い一年生でも、俺たちとの間に生じた溝は埋められなかった。
そしてそのまま試合は進み……
最終更新:2007年05月06日 18:22