さて、再び約束どおり生徒会室にきた。
遊佐「こんにちは」
甲賀「おーい」
伏せた甲賀先輩がだるそうに手を上げた。
遊佐「何ダレてるんですか」
甲賀「さっきまで暑いところにいたから。つい涼しくてね~」
服をぱたぱたしている。
遊佐「で、仕事は?」
甲賀「ん~じゃあこれ」
そう、それは。団扇! そう! この独特なフォーマル!
中心から放たれる甘美な線達。まさしく夏の涼!
遊佐「……」
ぱたぱた……。
あー、涼しいなぁ。
遊佐「……」
甲賀「んー」
遊佐「……」
甲賀「ん~!」
遊佐「……」
甲賀「んー!!」
遊佐「わかりましたよっ! 扇げばいいんでしょう」
パタパタパタ……。
甲賀「あー、いいー」
弓削「ちょっと、しのぶちゃん」
甲賀「何~?」
弓削「何してるのよ……」
遊佐「扇がされてます」
甲賀「扇がせてますぅ」
弓削「うぅ、仕事してよぉ」
仕事がたまるんだろうなぁ。目がうるうるしちゃってるよ。
かわいそうに。
遊佐「そうですよ。俺は団扇を扇ぎにきたわけじゃないんですよ?」
甲賀「あー、もう……じゃあこの書類を」
弓削「しのぶちゃんっ! 駄目だってば!」
甲賀「わかったわかった、よっ」
起き上がり乱れた髪を手櫛で直す甲賀先輩。
甲賀「えー、何々」
甲賀先輩は書類を見だした。結局俺は何をすればいいんだ?
とりあえず黙って団扇を扇いでいよう。
遊佐「……」
俺は、俺は……結局本当に何しにきたんだ?
甲賀「もうっ。これくらい何とかしろっちゅうに」
真面目に書類に向き合っている甲賀先輩。
やっと会長やってるんだなぁ、という実感が出てきた。
甲賀「ふん!」
ごすっ。
それでも時々謎行動が出るのは何だろう……。
生まれつきってやつなのか、落ち着きを感じないというか。
遊佐「なにやってんですか」
甲賀「いや、疲れたときって体を動かしたくなるじゃない」
俺の首に決まったチョップはそのまま。
遊佐「俺に当てる必要ないですよね」
痛いんだけど……。
甲賀「あ、これ? これはのびのーびしたときに当たっちゃったんだよ」
遊佐「まぁ、それならいいですけど」
甲賀「ふぁぁ……、ん」
欠伸をしている。
遊佐「眠いんですか」
甲賀「うん……昨日あんま寝てないんだ」
遊佐「そっか」
甲賀「うん」
…………。
甲賀「くかー」
遊佐「えー」
弓削「しのぶちゃんっ」
甲賀「う、うん……起きてるよぉ」
そういう時は大体寝ているのだ。
遊佐「ほら、色々たれてますよ」
そっぽを向いて忠告する。
甲賀「うそっ、やば」
弓削「もうっ」
遊佐「仕事進みましたか」
向き直して尋ねる。
甲賀「そこそこ……なんだけど。おかしいな」
遊佐「何が?」
甲賀「もうちょっとやったと思ったんだけど」
遊佐「大方夢の中で仕事やってたんじゃないんですか」
作業中にうとうとするとありがちなことである。
甲賀「うー、そうかも」
はぁ、とため息をついている。
甲賀「遊佐君やってー」
遊佐「無理ですから」
甲賀「うー」
弓削「ほら、しのぶちゃん」
甲賀「うー?」
弓削「私の方終わったから回して」
甲賀「いやっほー」
うわー、会長情けねー。先輩としての威厳ないな。
弓削「回しすぎだからっ」
ほとんど渡していた……。
遊佐「……はぁ」
…………。
段々と教室が赤色に染まっていく。
甲賀「んー、終わったぁ!」
どうやら終わったらしい。
遊佐「お疲れ様」
しかし、何でこんなに書類があるかね。
書類の束に目をやる。
弓削「お疲れ様です」
弓削「やっと先月分が片付きましたよ」
遊佐「え、溜まってたの?」
弓削「はい」
甲賀「……あはは」
遊佐「ちゃんとやりましょうよ」
俺は何もやらないんだけどね。他人には厳しく
甲賀「ま、私ももうすぐ会長終わりだし。ゆっくりやる」
遊佐「ん」
もうすぐ、か。先輩は三年だからなぁ。
弓削「それじゃ、今日は帰りましょうか」
遊佐「結局俺、何もやらなかったね」
弓削「いえ、そんなことないですよ」
帰る支度をしながら弓削さんが答える。
甲賀「……んーっ」
体を伸ばしていた。
弓削「助かります」
遊佐「そうかな? むしろ邪魔してたような気もするけど」
話しかけたり話しかけられたり。
弓削「先輩がいなかったら会長、急にいなくなったりしますから」
甲賀「へへ、とんこーとんこー」
遊佐「なんですかそりゃ」
意味不明だった。
弓削「見張ってないといけないんです」
遊佐「つまり俺が今日は見張り役だったのか」
弓削「はい」
甲賀「ま、ようやく終わったことだしよしってことで」
遊佐「先輩が〆てどうするんですか」
甲賀「はいはい、帰ろ帰ろ」
遊佐「はー」
涼しい部屋で一日中ぼさっとしてるのも悪くないかもなんて思った。
弓削「忘れ物ないですか?」
遊佐「うん、大丈夫」
そして消灯した生徒会室に鍵がかけられた。
遊佐「……」
明日も来るかな、なんて思ったり。
甲賀「それじゃ、帰ろっか」
言葉を投げかけられた。
遊佐「んー」
一緒に帰るのも変だし、ここで別れるのも何か不自然だ。
なんて困っている俺に。
甲賀「ほらっ、さっさと歩く」
遊佐「いて」
背中を叩かれてしまった。
ま、変なところで悩むのはやめよう。一緒に帰ればいいのだ。
後ろめたいことなんてなにもないわけで。
弓削「ふふ」
遊佐「へいへい」
下駄箱までくると、帰るんだなって気持ちになるのは何故だろう。
甲賀「んー、暑いなぁ」
遊佐「ですね」
これから段々涼しくなる時間だけど、夕方の色はまだ暑かった。
弓削「汗かいちゃいますね」
甲賀「夏は汗かかなきゃね」
遊佐「それもそうですね」
甲賀「でもさ、日があたるとあたらないじゃ随分違うよね」
遊佐「まぁ、そりゃ」
甲賀「影がいいよね、やっぱり」
そういって建物の影に走りだした。
弓削「……」
遊佐「そっちにいたら帰れませんよ」
何をしているんだか。
弓削「……いつも涼しい部屋にいるのに」
甲賀「ほらほらー」
走って校門の方へ。
弓削「あ、まってしのぶちゃん」
遊佐「相変わらず訳のわからん行動を」
俺も追いかけて走り出した。
遊佐「暑いから走らないでくださいよっ」
甲賀「あははー」
弓削さんはちょっと後ろを走っている。
弓削「ま、まってぇ」
遊佐「先輩っ」
甲賀「しょうがないなぁ」
弓削「はぁはぁ」
やっと二人とも追いついた。
弓削「余計暑く、なった、よぉ」
遊佐「はぁー」
シャツを仰いで服の中の熱気を出す。
甲賀「何か飲もうかー」
自販機で三人で飲み物を買う。
弓削「ふぅ」
冷たい飲み物が喉を通る。
甲賀「あったか~いは流石にないね」
自販機を見ている先輩。
遊佐「あったとして誰が買うんですか」
甲賀「あったか~い方が疲れにはいいって聞くけどな~」
遊佐「今は欲求のままに行動したいからつめた~い」
甲賀「そりゃそうだね」
しかし、一気に飲んでしまいそうだ。
甲賀「遊佐君はどっちなの?」
遊佐「あー、俺はあっちです」
指さす。
甲賀「それじゃちょっとだけ一緒だね」
弓削「そうですね」
遊佐「二人は一緒の方角なんですか?」
甲賀「うん」
遊佐「そか、じゃあ行けるとこまでご一緒願いますか」
甲賀「はい、頼まれました」
そして数分いったところで別れることに。
遊佐「また明日」
甲賀「あ、また明日ー!」
弓削「また明日」
最終更新:2007年09月12日 00:57