夕日の中、屋上でましろと俺は二人でたたずんでいた。

ましろ「あのね、遊佐君」
遊佐「どうかしたの?」

真剣な表情のましろに俺は優しく問いかけた。

ましろ「実は私……遊佐君が転校してきたときから……」
聖「ちょっと待ったぁぁぁぁっ!」

勢い良く飛び込んできた聖に、ましろの言葉は遮られた。

聖「ましろ! 遊佐は私のものだ!」
遊佐「え?」
ましろ「遊佐君。本当なの?」
遊佐「え? いや、俺はましろのことが……」
聖「遊佐! あの夜の言葉は口からでまかせだったというのか!?」
ましろ「あの夜って……どういうことなの!? 遊佐君!」
遊佐「ど、どういうことって……」
聖「乙女の純情を弄んだのか!? 遊佐!」

怒号とともに聖の拳が視界に迫る。
…………
……



遊佐「おぅっ」
遊佐「……教室?」

夢オチか!?
あー。ベッタベタな夢だなー。
手○先生に怒られるぞ。

ましろ「あ、おはよう。遊佐君」
遊佐「おはよう」

顔をあげると、目の前にましろちゃんの顔があった。

遊佐「あれ?」
ましろ「どうかした?」

『正面で』いつもの笑顔を浮かべながら首をかしげるましろちゃん。

遊佐「何で前の席に座ってるの?」
ましろ「遊佐君の寝顔見てたんだよ~」

机に突っ伏して寝てたから、寝顔見るなら隣の方が見やすいと思うけど……。

遊佐「お恥ずかしいところをお見せしてしまったようだね」
ましろ「確かに、『おぅっ』って言って起きたのは面白かったよ」
遊佐「ぐは」

ふざけて誤魔化そうとしたところに追撃とは、やるな……。

遊佐「ところで、今何時?」
ましろ「5時前だよ」
遊佐「余裕で放課後っすね」
ましろ「そうだねぇ」
遊佐「何故起こさなかったのかと問いたいところなのですが?」
ましろ「寝顔が面白かったから」
遊佐「そんな面白い顔してた?」
ましろ「なんか嬉しそうな顔してたよ?」

さっきの夢のせいか。
ああ、当人を目の前にすると顔から火が出そうだ。

ましろ「どんな夢だったの?」
遊佐「え?」
ましろ「どんな夢だったの?」
遊佐「えーっとそれはその」
ましろ「ふんふん」

学生手帳を取り出して、メモの用意をするましろちゃん。

遊佐「秘密でお願いします」
ましろ「え~?」

夢にましろちゃんと聖が出てきての取り合いをしてました。
等と答えられる訳がない常識的に。
どうでもいいけどなんで聖なんだよ。
他に候補居なかったのかと問いただしたい。

ましろ「ケチケチしないでもいいじゃない」

むーっとふくれっ面をしてみせるましろちゃん。
ああ、癒されるなぁ。

遊佐「ダメ」
ましろ「分かった」
遊佐「分かってくれたか」
ましろ「えっちな夢だったんだね」
遊佐「そういう方向の理解はして欲しくない」
ましろ「遊佐君も男の子なんだねぇ」

心持ち頬を赤く染めて視線をそらさないで!
本当のことみたいになっちゃうじゃないか!

遊佐「違うってば」
ましろ「本当に?」

ちらちらとこちらを伺う仕草は可愛いが、誤解は解かねばなるまい。

遊佐「本当だって」
ましろ「じゃあ、何の夢見てたの?」

堂々巡りか……。
よし! 誤魔化そう!

遊佐「ちょっと食べ物の夢見てただけだよ」
ましろ「そうなの?」
遊佐「食い意地張ってるみたいで恥ずかしいから、内緒にしておいてね」
ましろ「んー。わかった」

何か納得してくれたっぽい。
その素直なところがお父さんはちょっと心配です。

遊佐「んじゃ、帰ろうか」
ましろ「あ、うん。そうだね」
遊佐「途中まで一緒に行く?」
ましろ「良いよ~」

心の中で小さくガッツポーズをとる。

遊佐「んじゃ、すぐ支度するね」

いそいそと教科書とかしまっていると、遠くから爆音に近い足音が聞こえてきた。

聖「ましろ! 無事か!?」

バァンッと扉を開け放って聖が飛び込んできた。

ましろ「あ、聖ちゃん」
遊佐「いつもどおりだな。聖」
聖「ま た 遊 佐 か」

こめかみを押さえながら、聖が呟く。

遊佐「またって何のことだ」
聖「ましろにちょっかいかけにくるのは、最近お前ばっかりだと言っているんだ」
遊佐「かけてないかけてない」
聖「しかも私が部活の途中に手を出そうとするとは、相変わらず油断できない奴だ」
ましろ「そういえば聖ちゃん。部活はどうしたの?」
聖「嫌な予感がしたから一旦抜けてきた」
遊佐「すごく第六感を無駄遣いしてるな、お前」
聖「ましろの為の六感だから無駄な事などないぞ」
遊佐「いや、なんか……もういいや、はぁ……」

なんか疲れるぞ、おい。

聖「以前も言ったように、私の目の黒い内はましろを汚すような真似はさせん」
遊佐「言ってたっけ?」
聖「言ったぞ。記憶力の悪い奴だな」
遊佐「聖があちこちに言って混同してるんじゃないか?」
聖「いや、そんなことは……」

適当に言ってみたけど、ほんとにあちこちに言ってるみたいだな。

遊佐「もう少しましろちゃんを自由にしてやりなさい。ヒッキーにするつもりか」
ましろ「ヒッキーって……」
聖「ちゃんとましろは友達も居るし、そんなことには私がさせない!」
聖「もしましろを苛めるやつが居たら私がボコボコにしてやるしな」

ふふふ。と薄ら笑いを浮かべる聖。
正直怖いんだが。
ましろちゃんも困った笑顔だな、いつもどおりなんだろうなぁ。

聖「しかし、最近お前を妨害するのも疲れてきたところだ、時間割かれるし」
遊佐「さらっと何かひどい事言ったな」
聖「という訳で!」
ましろ「という訳で?」
聖「ましろとは生涯お友達で居るという証書に血判を押せば見逃してやろう」
遊佐「へ?」
聖「具体的な内容だが、その1ましろに触らない。その2ましろと会話した内容は全て私に報告する。その3二人だけで出かけない」

つらつらと生涯お友達契約の内容を述べる聖。
ましろちゃんもぽかんとしている。

聖「…………その62ましろを妄想に使わない。以上のことを守ればましろと晴れてお友達と認めてやろう」
遊佐「滅茶苦茶規則多いな」
聖「さあ、答えを聞かせてもらおうか」
遊佐「では……」

こほん。とわざとらしく咳をしてみせる。

遊佐「だ が 断 る」
聖「ばかなっ!?」
遊佐「というか聖の許可なんてなくても、もう俺とましろちゃんは友達だ!」
聖「認めん! 私は認めんぞ!」
遊佐「認めようと認めなかろうと、というかそもそも友達とはそういうものでは無いだろう」
聖「くっ」
遊佐「でも一応確認しておこうかな」
ましろ「?」
遊佐「ましろちゃん。僕達って友達だよね」

さわやかな笑顔を浮かべて聞いてみる。
懐かしいゲームのバッドエンド思い浮かべた奴。表でろ。

ましろ「あ、うん。友達だよ?」

疑問形なのは置いといて、友達とはっきり言われても少し悲しいものがあるな。
聞いたの俺だけどな。

聖「そ、そんなっ」

非情な現実を前に膝をつく聖。
ふっ。勝った。

ましろ「聖ちゃん。そろそろ部活戻らなくていいの?」
聖「うっ、うう。そうだな……行ってくる……」

トボトボと歩き出した聖が、教室を出たところで立ち止まった。

聖「遊佐」
遊佐「何だ?」
聖「ましろは私が守るからな!」

ずだだだだーっ。
はき捨てるように叫んで聖は去っていった。

遊佐「あいつ元気だねぇ」

あれ? 返事が無い。
どうかしたのかな?
ましろちゃんに振り向くとぽつりと何か聞こえた。

ましろ「……ちゃんを守れば良いのに」
遊佐「え?」
ましろ「あ、なんでもないよ。何でも」

笑顔で両手をパタパタと振ってみせるましろちゃん。
良く聞こえなかったけど……。
んー。

ましろ「行こ?」
遊佐「あ、うん」

うーん。何か気になるなぁ……。

ましろ「遊佐君ってやっぱりちょっと変わってるね」
遊佐「やっぱりって……」
ましろ「男の子でわたしの友達になってくれたの遊佐君だけだよ」
遊佐「え? ほんとに?」
ましろ「うん。わたしもちょっと苦手だし、あんまり話しかけられた事も無かったよ」
遊佐「親しくなりたいって奴なら多いんじゃない?」
ましろ「そんなこと無いよ。わたしは……ほら、聖ちゃんみたいにかっこよくないし」
遊佐「十分に可愛いとは思うけど」
ましろ「あはは。遊佐君はお世辞上手だねぇ」
遊佐「お世辞って訳でもないんだけどね」
ましろ「ありがとね」

しんみりと言われて、ちょっとどきっとした。
けど、お世辞としか受け取ってないみたいだなぁ……。
ま、いいか。

遊佐「じゃあ、男の友達第一号だね」
ましろ「うん。今後ともよろしくね」
遊佐「こちらこそ」
ましろ「それにしても」
遊佐「ん?」
ましろ「友達だよね?っていきなり聞かれたのはちょっとびっくりだったよ」
遊佐「まあ、普通面と向っては聞かないよね」
ましろ「まあ、確かにそうだけど……」
遊佐「ん?」
ましろ「ちょっと嬉しかった……かな」

可愛いなチクショウ!

遊佐「そういわれるとちょっと照れるなぁ」
ましろ「えへへ」

っと空気に流されてさっきの事聞きそびれたな……。
いや、この照れくさい青春の一ページっぽい空気も、それはそれでいいんだが。

遊佐「でも、ましろちゃんって友達多そうなイメージなんだけどなぁ」
ましろ「そんなことないよ?」
遊佐「ほんとに?」
ましろ「うん」

いや、気づいてないだけでいっぱい居るんじゃないか?
ましろちゃんが一声呼びかけたら、1学年くらい動員出来そうな気がする。
まあ、集まるのは友達というよりファンの方だろうけど。

遊佐「じゃあ、何人くらいいる?」
ましろ「う~ん」

首をひねって考え出した。
やっぱり多いんじゃないか?

ましろ「良く分からないかな」
遊佐「分からないくらい居るのなら、十分多いんじゃ……?」
ましろ「いや、そうじゃなくて……」
遊佐「ん?」
ましろ「友達って、どこから友達なのか良く分からないから……」
遊佐「へ?」
ましろ「だから、良くわかんないや」
遊佐「これはまた哲学的な」
ましろ「そうかな?」
遊佐「そんな明確な線引きなんてしないで良いと思うよ?」
ましろ「え?」
遊佐「個人で感覚も色々だし、ましろちゃんが一緒に居て心地良いと思ったら友達でいいんじゃない?」

世の中には、一回話しただけで友達って呼ぶような奴もいるしな。

ましろ「そかな?」
遊佐「そだよ」
ましろ「う~ん」
遊佐「ん?」
ましろ「やっぱり友達多くないかも……」
遊佐「え?」
ましろ「あ、何でも無い」

いつもにこにこしてるイメージのましろちゃんが、友達少ない?
それは……。

遊佐「意外とましろちゃんって、本心隠すタイプ?」
ましろ「え? あ、いや、そんなこと無いよ」
遊佐「いつも笑顔を浮かべ、心の中では相手に罵詈雑言を浴びせてるとか」
ましろ「あはは、それはひどいなぁ」

む、さすがにこれは違ったか。

ましろ「ところで遊佐君の方はどうなの?」
遊佐「へ?」
ましろ「友達」
遊佐「ああ、前はそこそこ居たけど、いまんとこは少なめかな」
ましろ「あ、そっか。そうだよね」
遊佐「まあ、そのうち増えるよ。多分」
ましろ「じゃあ、聖ちゃんとも仲良くしなきゃね」
遊佐「いや、アレは敵だ」

うむ。アレは敵だ。

ましろ「え~? なんで?」
遊佐「毎回ど突き倒されれば敵認定は当然だ」
ましろ「でも、良い子だよ?」
遊佐「俺は信じない! あの暴力女が良い奴だなんて!」
ましろ「ひどいなぁ。美人だし優しいところもあるんだよ?」

まあ、ましろちゃんの事で暴力振るわなければ割りと良い奴かもしれない。
からかうと面白いし。

遊佐「どっちにしても、俺がましろちゃんと仲良くしてたら聖は黙ってないと思うなぁ」
ましろ「じゃあ、それ以上に聖ちゃんと仲良くなるとか」
遊佐「それはごめんこうむる」

というか無理。

遊佐「それにしても、聖は何であんなに、ましろちゃんに過保護なんだろうね」
ましろ「う~ん」
遊佐「何か思い当たる事ある?」
ましろ「代償行為かなぁ」
遊佐「代償行為?」
ましろ「あ、ダメ。今のなし」
遊佐「今のなしって……」
ましろ「良くわかんないよ。うん」


1.聞かなかったことにする。
2.詳しく聞いてみる。


――――――1選択のケース(ましろ好感度-2

遊佐「そっか、分からないか」
ましろ「うん。分からないよ」


――――――2選択のケース(ましろ好感度+1

遊佐「今のなしは却下します」
ましろ「え~……」
遊佐「出来る限り、相手の事は知っておきたいからね」
ましろ「さっき、聖ちゃんのこと敵だって言ってたのに?」
遊佐「いや、俺が知りたいのは、ましろちゃんの事」
ましろ「え?」
遊佐「ましろちゃんが何を考えてるのか、ちゃんと知りたいから」
ましろ「あう……」

あ、照れてる。

ましろ「う~ん。やっぱり、内緒」
遊佐「何で?」
ましろ「この事は聖ちゃんの事だから、他人の事情を喋るのは良くないでしょ?」
遊佐「あー。なるほど。降参」



――――――選択分岐終了

ましろ「あ、ちょっと用事あるから、先に帰るね」
遊佐「え? あ、うん。また明日」

何か話を切り上げられてしまった。
前を走っていたましろちゃんが、ちょっと振り向いて、いつもの笑顔で手を振ってくれる。
うーん。気にしないでおくかなぁ……。
最終更新:2009年01月06日 14:43