なんだかんだで数ヶ月が過ぎた。
聖はましろちゃんを諦め、俺と一緒に切り捨てられた。
俺もましろちゃんと話をする機会を取れず、もうあの頃を取り戻す事は出来なかった。
けれど、時間は残酷で優しかった。
ましろちゃんと関わることのない生活もすっかり馴染んでしまった。
聖「待ったか?」
遊佐「いや。全然」
聖と校門で待ち合わせ。
これが最近の俺の日常だ。
聖「どうした? 難しい顔をして?」
遊佐「なんでもないよ」
心配そうな聖に俺は笑顔で答える。
遊佐「なあ、この前言ってたチケット。取れたぞ」
聖「本当か!?」
遊佐「もちろん」
聖「そうか。それは楽しみだなぁ」
嬉しそうな聖に、俺もつい頬が緩んでしまう。
遊佐「じゃあ、当日10時に現地でいいか?」
聖「え? あ、ああ」
ちょっと残念そうに頷く聖。
遊佐「どうした?」
聖「いや。なんでもない」
遊佐「気になるじゃないか」
聖「なんでもないってば」
赤くなって否定する聖。
意地悪はこの辺にしておくか。
遊佐「冗談だよ。9時に迎えに行く」
聖「え? あ……。うん」
真っ赤になる聖。
単純なやつめ。
聖「……ありがと」
遊佐「何か言ったか?」
あえて聞こえなかったフリをする。
俺の意地悪さも磨きがかかったものだ。
聖「……ばか」
遊佐「そうかもな」
すっと手を差し出すと、自然に聖が俺の手を握る。
遊佐「帰ろうか」
聖「うん」
夕日に照らされ、俺たちの影も長くのびている。
俺たちの関係も長く続くと今は思う。
だって、それが……。
…………
……
杏「これが、あなたの選んだ結果?」
夕暮れの窓辺で静かに外を、いや、姉達を見つめている彼女に尋ねる。
彼女は冷めた表情で静かに見つめ続けている。
日常の彼女しか知らない人間には、想像すら出来そうにない。
杏「ましろ?」
名前で呼ぶと、ようやく彼女は振り向いた。
ましろ「そうだよ。これがわたしの作った結果」
彼女にとって、全ては予定調和だったとでも言うのかしら……。
杏「どこまで計算ずくだったの?」
私の問いに、彼女は目を伏せた。
杏「私の思い違いでなければ、あなたは……」
ましろ「わたしだって間違う事くらいはあるよ?」
私の言葉を遮って、彼女が語る。
こうやって遮るときは、質問を大抵煙に巻くときだ。
最近少し分かってきた気がする。
ましろ「でも、そこから修正する事は出来る。誰にだって、ね」
杏「本当にこんな結果を望んでいたの?」
ましろ「そうだよ? これがあの二人にとって最善の結果」
杏「あなたは……」
ましろ「これ以外の結果なんてなかったんだよ。最初から、ね」
杏「期待は、しないのね」
ましろ「そんな曖昧なもので、選択はしていられないよ」
話は終わり。とばかりに、彼女は窓辺から離れ、カバンを掴んだ。
ましろ「帰ろうか? 杏ちゃん」
杏「うん」
頷き、並んで教室を出る。
二人だけの時は、基本的に会話はない。
それは、私にとって少し楽な空間だった。
ましろ「ん?」
気づいたら足が止まっていた。
杏「なんでもない」
彼女は常に選んでいる。
『みんな』の幸せを。
その『みんな』に自分を含まずに。
杏「切り捨てられたのは、本当は誰だったのかしら」
口をついて出た疑問。
答えが帰ってくるなんて思ってなかった。
ましろ「誰も切り捨てられてないよ。本当は、ね」
杏「……そう」
嘘だ。
彼女は常に切り捨てている。
選ぶために。
『みんな』のために、常に。
彼女自身を切り捨てている。
彼女がどうしてこんな事をしてるのかは、私にはまだ理解できなかった。
でも、これから知っていこう。
多分、彼女が私を選んだのはそのためだと思うから。
でも、本当にこれでよかったのかしら……。
『予定調和』エンド
最終更新:2009年02月04日 18:52