授業に出る気にもなれず、屋上でぼんやりしている俺。
何かダメダメだなぁ。

遊佐「まあ、しょうがないか」

昨日聖にはああいったものの、実際これからを考えると気が重くなる。
疑問を羅列したって意味がない。
けど、頭に浮かんでは消え浮かんでは消えするのはどうしようもないわけで。

がちゃっ

あれ? 誰か来た?
まあ、ここは入り口から死角だろうから気づかないだろ。
って、足音がこっち来てる。
どうしようかなぁ。

杏「あ」

考えてる間に向こうがこっちに気づく。

遊佐「おう」

杏がサボリにきただけか。

遊佐「先生が来たかと思ったじゃないか」
杏「…………」

黙って踵をかえそうとする杏。

遊佐「おいおい。別に逃げなくたって良いだろ」
杏「……良い思い出ないし」

それは多分俺に対する言葉だな。

遊佐「失礼な奴だな。俺はこう見えて紳士だぞ」
杏「……紳士は拉致したりはしないと思うけど」
遊佐「はっはっは。過ぎた事は気にするな」
杏「……ふぅ」

ため息をついて少し離れたところに座る杏。
気が変わったのかな。
しかし、引き止めたけど特に話題ないなぁ。
ましろちゃん関係は今出すべきじゃなさそうだし。
等と考えながらしばらくぼーっとする。

杏「……り?」
遊佐「え?」

杏から話題を振られるとは思ってなかった。
思いっきり聞き逃しちまった。

杏「どうするつもり?」

どうって……やっぱあの話のことだろうなぁ。

遊佐「聖が決める事だし、俺にはどうしようもないさ」
杏「……その後は?」
遊佐「はっきり言って考えてない」
杏「……そう」

きっぱり答えた俺に、杏はため息まじりに頷いた。

遊佐「なんせ分かってる事はほとんどないんだしねぇ」
杏「…………」
遊佐「ましろちゃんの考えてること、さっぱり分からない」

色々推測できる事は出来るが、明確な答えは出せない。
当たり前な事だ。
ましろちゃんはましろちゃん。俺の定規で測れるものじゃない。

杏「それで、何故こだわるの?」
遊佐「え?」
杏「ましろにこだわる理由」

こだわる理由……か。

遊佐「そう……だなぁ」
遊佐「考えてみれば、俺はそれをおざなりにしてたんだよな」

俺が彼女にこだわる理由。
散々冷たくあしらわれても、未だに彼女とのつながりを持とうとする理由。

杏「これからも続けるつもりなら」
遊佐「ん?」
杏「半端な気持ちはやめておくことね」
遊佐「……そう……だね」

今まで見たことのあるましろちゃんの表情を思い浮かべてみる。
大半は笑顔。
でも、今はその笑顔がなんだか悲しそうにも思える。
気圧されるほどの冷たい表情。
なんで、今思い浮かべると、全部悲しそうに見えるんだろう?
ましろちゃんは……。
俺は……。

がちゃっ

ん? また誰か来た。

???「答えは決まったの? 聖ちゃん」

この声、ましろちゃんだ。
聖も一緒なのか。
二人ともこっちには気づいてないらしい。

聖「ああ……」
ましろ「それで……?」

しばしの沈黙。
聖。がんばれよ。

聖「……私は」
ましろ「わたしは?」
聖「私は、遊佐を切り捨てる」
ましろ「…………」
聖「それが、私の出した答えだ」

良く頑張った。聖。
俺は心の中で聖にねぎらいの言葉をかける。

ましろ「……なんで?」
聖「私にとって、ましろの方が大事だからだ」
ましろ「…………」
聖「……ましろ?」
ましろ「……ダメだよ」
聖「え?」
ましろ「聖ちゃんはわたしを選んじゃダメだよ」
聖「何を言っているんだ?」

ほんとに何を言っているんだ? ましろちゃんは?
選ばせたのはましろちゃんだろう?

ましろ「ああ、遊佐君だね?」
聖「え?」
ましろ「遊佐君が、そうしろって言ったんだね?」
聖「いや、そんな事は……」
ましろ「でなければ、ありえない。こんな事」

もう滅茶苦茶だ。
聖がせっかく選んだというのに、どうして素直に受け取れないんだよ?

ましろ「こんな、こんな選択。わたしは認めないッ!」
聖「ま、ましろ?」
ましろ「こんなの……こんなの……」
杏「ましろ。今回はあなたの負けよ」
ましろ「杏ちゃん?」

あ、杏が自分から出て行った。
って待て、おれも自動で見つかるんじゃないか?

聖「あ、遊佐……」

聖、お前が見つけるなよ……。

遊佐「すまないな。サボってただけなんだが」
ましろ「遊佐君。どうして聖ちゃんに選ばせなかったの?」
遊佐「何のことだよ? 俺は聖に何も強制していない」

たしかに相談は持ちかけられたが、とぼけておく。

ましろ「そうじゃなければ、こんな結果になるはずがないもん!」
杏「ましろ。もう……」
ましろ「杏ちゃんは黙ってて!」

あのましろちゃんが、杏を一喝した。
ましろちゃんの様子が一変している。
いつもと違って全く落ち着きがない。

ましろ「これ以上、わたしを惑わすのはやめてよ……」
遊佐「ましろちゃん? 何を言って……」
ましろ「こないで!」
聖「ま、ましろ!」

走り去るましろちゃんを聖が慌てて追いかけていった。

遊佐「ましろちゃん……」

追いかけなきゃ……。

がしっ

遊佐「杏? 離してくれ」
杏「悪いけど、そのお願いは聞けない」
遊佐「何でだよ?」

叫ぶ俺に、杏はため息を吐く。

杏「……だからよ」
遊佐「言ってる意味が分からない。離してくれ」
杏「だから、分かってないからよ」
遊佐「何でなんだよ……くそっ……」

杏に襟首をつかまれたまま、俺は力なくその場に膝をついた。

杏「ましろは選び、結果を出す事に必死」
遊佐「知ってるよ……」
杏「理由は私も知らない」
遊佐「…………」
杏「それの邪魔になるという意味、良く考えてみたら?」

それだけ言うと、ぽいっと俺を放り出して、杏も階下に消えていった。

遊佐「俺が邪魔になる意味なんて、俺が知りたいよ……」

力なくへたり込んだまま、誰にともなく呟いた。
答えなんて返ってこない。
今、頭の中はましろちゃんの事でいっぱいだった。
最終更新:2008年08月15日 18:12