あれから二日たった。
俺の思考も少し落ち着いたところだ。
遊佐「俺が邪魔になる理由……か」
授業もとっくに終わり、放課後の教室には人一人いない。
遊佐「ましろちゃんはいつも選んでいた」
あの笑顔の奥で、いつも選び続けていた。
何かの結果を出すために。
その選択に、俺が邪魔になった。
邪魔になってると言われてまで、俺が彼女にこだわる理由。
遊佐「俺は……」
この前の泣き顔が脳裏によぎる。
俺のせいで彼女を傷つけた。
胸が痛い。
中島「お、お前まだ教室にいたのか」
遊佐「え?」
不意に声をかけられ、ふと顔をあげると、中島がいつもの調子で立っていた。
中島「丁度良いや、久々にゲーセンでもいこうぜ」
遊佐「いや、悪いがそんな気分になれそうにない」
中島「お前最近付き合い悪いぞ?」
まあ、このところ考え事ばっかりで、こいつの相手してなかったしな。
中島「どうした? 悩み事か?」
遊佐「まあ、な」
ったく、たまに鋭いんだからなぁ。
中島「なんなら相談にのるぜ?」
遊佐「いや、いい」
中島「気になるじゃねーか」
遊佐「興味本位なら聞くなよ」
中島「一応真面目に相談に乗るつもりだぞ?」
遊佐「へいへい」
中島「ましろちゃんと友達にしてくれたお礼ってやつだ」
急にましろちゃんの名前が出て、一瞬どきっとなる。
遊佐「お前に言っても仕方無さそうなんだが」
中島「まあ、そう言うなよ。人に話してる間に思考がまとまるとかあるだろ?」
遊佐「中島らしくないまともな意見だな」
中島「ほっとけ」
まあ、確かに言うとおりかもしれないけどな……。
中島「で?」
遊佐「ん?」
中島「何を悩んでるんだ?」
聞くまでは下がらないつもりか……。
まあ、個人名は伏せて聞いてみるか、一応。
遊佐「うーん」
中島「ん?」
でも、何を聞くかねぇ。
遊佐「邪魔になるから切り捨てる。ってどういう意味かねぇ」
中島「まんま、邪魔なんだろ」
遊佐「まあ、そうだよなぁ……」
だよなぁ……。
遊佐「切り捨てられたのに、その人と関わろうとするのって何だろうな」
中島「お前切り捨てられたのか? そいつに」
遊佐「ん。まあ、一応」
中島「ふむ。あえてそいつの名前は聞かないが」
遊佐「おう。そうしてくれ」
中島「お前、そいつのこと好きなんじゃね?」
遊佐「へ?」
中島「じゃなかったら、無理して関わろうとしねーだろ。普通」
遊佐「そっかな?」
中島「そうだろ」
そう、なのかな?
中島「お前は結構良い奴だ。顔は十人並みだが」
遊佐「あん?」
中島「俺が太鼓判を押してやるから、当たって砕けて来い」
遊佐「砕ける前提かよ」
中島「そりゃあ切り捨てられてるんだから砕けるだろうよ」
遊佐「なるほど」
中島「まあ、恋の悩みばっかりは当人が当たって砕けてみるしかねーだろ」
遊佐「そんなもんか?」
中島「お前、人に諦めろって言われて諦められるのか?」
ああ、そりゃ確かに。
遊佐「無理だなぁ」
中島「だろ? だから、砕けて来い」
中島「やらずの後悔よりは、やって後悔ってこったな」
遊佐「分かりやすいねぇ」
中島「おうよ」
自信満々に頷く中島。
中島「まあ、自分の気持ちも分かってないウブな遊佐は、それをちょいと考えてみる事だな」
遊佐「そうするよ」
中島「まあ、明日には砕けて来い。考えるのは今晩だけな」
遊佐「結構短いのな」
中島「長いこと悩んでてもろくな事にはならんだろ」
遊佐「へいへい」
確かに、その通りかもしれないな……。
中島「んじゃ、俺は帰るわ」
遊佐「あいよ。お疲れ」
中島「お前もさっさと結論だして砕けて来いよ」
遊佐「分かった分かった」
中島「じゃあな」
遊佐「おう。またな」
教室から去っていった中島の背中を見届ける。
遊佐「中島。お前やっぱ良い奴だわ」
俺自身気づいてなかった事。
お前はあっさり答えてくれた。
この気持ちが本物か偽者かなんて分かるもんじゃない。
今晩ゆっくりこの気持ちをかみ締めてみよう。
ましろちゃんには迷惑かもしれないけど、俺の気持ちをぶつけよう。
最終更新:2008年04月17日 09:59