昼休み。俺と聖は中庭で昼食を取っていた。
ましろちゃんが中島と杏を占有しているので、この構成は仕方がないだろう。
でも、これって多分ましろちゃんの計画?の一環なんだろうなぁ。
そういえば、ましろちゃんが変なこと言ってたっけ。
遊佐「なあ、聖」
聖「何だ?」
遊佐「お前さぁ」
ハムサンドを齧りつつ何となく尋ねる。
遊佐「俺のこと好きか?」
聖「は?」
聖の箸が止まった。
まあ、当然か。
聖「まあ、嫌いだったらこうして昼飯食べたりしてないだろう」
遊佐「いや、そうじゃなくてだな」
人のことは言えないがこいつも鈍いなぁ。
遊佐「ましろちゃんが言ってたんだが」
聖「ましろが?」
聞き返しながらずずっとお茶を飲む聖。
あ、展開読めた。
遊佐「お前が俺のことを好きらしい。恋愛的な意味で」
聖「ぶはっ、げほっけほっ」
遊佐「予想は出来たけどお約束として言うぞ。汚いなオイ」
聖「お前が変なこと言うからだろうが」
丁寧に口元をハンカチでぬぐいながら、文句を言う聖。
遊佐「まあ、変なことだとは思うが」
聖「だ、大体、どこをどう取ったらそうなるんだ」
遊佐「どもるなよ。本当っぽく聞こえるじゃないか」
聖「む、むぅ」
照れる聖。
むっ。俺内部聖好感度が上がってしまった。
ましろちゃんめ、侮れん。
遊佐「でさー」
聖「何だ?」
遊佐「ましろちゃんは俺とお前をくっつけたいらしい」
聖「ぶぅーーーーーーっ」
遊佐「だから汚いってば」
聖「す、すまん」
慌ててる慌ててる。
だろうなぁ。
遊佐「何でそんなことしようとするんだろうなぁ」
聖「私に聞くなよ」
遊佐「俺も聖もましろちゃん一筋なのにな」
聖「あ、ああ。って待て」
遊佐「ん?」
聖「俺も聖も、って今言わなかったか?」
遊佐「言った」
聖「やっぱりお前はましろを狙って……」
遊佐「まあ、落ち着け。俺もこの気持ちに気づいたのは最近なんだから」
冷たくされてもましろちゃん一筋なんだな。聖。
遊佐「で、こないだ告白したんだよ」
聖「お、お前という奴は……」
遊佐「そしたらさっきの話をされたわけだ」
なんかぷるぷる震えてる聖を置いといて話を続けてみた。
聖「はぁ……」
遊佐「ん? どうした?」
聖「いや、お前に何か言っても無駄な気がして来ただけだ」
遊佐「酷いなおい」
聖「事実だろうが」
遊佐「まあ、それはどうでも良いとして」
聖「まだ何かあるのか?」
遊佐「ましろちゃんにオーケーださせるにはどうしたら良いと思う?」
聖「お前……それを私に聞くのか?」
怒りを通り越して呆れた様子の聖。
遊佐「だって、他に良い相談相手思いつかなかったんだもん♪」
聖「キモイからやめろ」
相変わらずつめてーな。
遊佐「まあ、聖は反対しそうな気もするけど」
聖「当たり前だろう」
遊佐「でも、現状を打破するのに一番良い手段でもあると思うんだが」
聖「どこがだ」
遊佐「聖、落ち着いて考えてみろ」
聖「急に真面目になるな」
遊佐「ましろちゃんの目的は俺と聖をくっつける事だ」
聖「あ、ああ」
だから照れるなよ。好感度上がるだろうが。
遊佐「で、これを打開するには、俺か聖が、別の誰かとくっつくのが手っ取り早いんじゃないかと」
聖「そ、そうかなぁ?」
遊佐「このままずるずる居ても事態は良くならないと思うぞ」
聖「そう……だな」
遊佐「場合によってはましろちゃんの計画通りにされる可能性もある」
聖「……そうか?」
遊佐「あれだ。ハブられた二人が傷を舐めあってるうちに、何となく良い雰囲気になって……」
聖「オイ」
遊佐「気づいたら何だか公認カップルになったりしてたりする世の中な訳だ」
聖「それは妄想がはいってないか?」
むっ、こいついまいち分かってないな。
遊佐「本当はさ……」
わざと悲しそうな声と表情を作って伏し目がちにしてみる。
聖「どうした?」
遊佐「俺だって、きついんだよ……」
聖「そ、そうだろうな」
ちょっと慌てた様子の聖。
遊佐「聖と二人で居る空間、居心地良くて好きだ」
聖「へ? え?」
遊佐「だからさ、ましろちゃんの言うとおり、聖と付き合っても良いかもって、ちょっとは思ってるんだ」
真っ赤になる聖。
遊佐「聖は、顔立ちも綺麗だし、なんだかんだで面倒見も良いし」
聖「いや、そんな事は……」
遊佐「でもさ、聖は俺のこと、そんな対象には見てないだろ?」
聖「え? あ? う?」
遊佐「だから、聖には良い人を見つけて欲しいと思ってるんだ」
聖がトマトになっている。
にやり。
遊佐「でも、もし聖が良いのなら、俺……」
がしっと、聖の両肩を掴みじっと見つめる。
聖「え? あ? いや、ちょっ」
遊佐「ダメ……だよな……こんな俺じゃ……」
わざと弱気を装う。
聖「いや、お前は良い奴だと思うし、わ、私は……」
……あ、やばい。
俺もダメージ受けてる。
って被害状況を確認してる間、俺はじーっと聖を見つめた態勢のままで。
気づいたら聖は目を閉じちゃってるわけで。
まままままま待て。
どどどどどうするよ!?
ここでふざけたら殺される。
けど、このまま進んだらもっとダメだ!
おのれっましろちゃんめ!
どどどどどうしたらいいんだ?
遊佐「落ち着け俺ぇぇぇぇぇぇっ!」
聖「ひゃっ」
遊佐「はっ!? 俺は何を!?」
聖「へ?」
まだちょっと赤くなったまま、聖もきょとんとしている。
よし!
このまま誤魔化そう!
遊佐「あ、危ないところだったな聖」
聖「え?」
声が少し上擦ったけど気にしない。
遊佐「さっきのが俺の言った可能性の未来だろう」
聖「…………」
あ、ぷるぷる震えながら拳を握り締めてる。
遊佐「お、落ち着け聖。俺も正直危なかったところなんだから」
聖「……死ねぇぇぇぇぇぇっ!!!!」
遊佐「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
…………
……
中島「よう。お二人さん。って遊佐どうした?」
聖のフルボッコタイムが終わってから中島が来た。
遊佐「な、なかじま……もう少し……はやく……ぐふっ」
ダメージがでか過ぎて、さすがの俺も復帰は遅くなりそうだ。
聖「ふんっ」
不機嫌そうに鼻を鳴らして昼飯を再開している聖。
乙女心は怖いなぁ……。
中島「ま、良いや」
良くねえよ。
中島「最近ましろちゃんと何かあったのか? 聖。ついでに遊佐も」
ついでかよ。
聖「む?」
中島「まあ、いくら鈍い俺でもいくらなんでも気づくっつーか?」
まあ、最近昼食どころか休憩時間とかも別行動だしな。
聖「ましろに何か聞いたのか?」
中島「まさか? 俺はこう見えて慎重派なんだぜ?」
聖「というと?」
中島「状況的に、聖と遊佐をましろちゃんがハブってる。ましろちゃんに聞いたら俺がハブられちまうぜ?」
意外と鋭いな。
聖「ふむ」
中島「で、お前達に話を聞こうと思ったんだが……ん?」
聖「どうした?」
中島「いや、今日はやめておく。また今度聞かせてくれ」
手をひらひら振って中島は立ち去っていった。
聖「急にどうしたんだ? あいつ」
遊佐「多分。ましろちゃんを感知したんだな」
聖「急に復活するな」
いや、正直だいぶ時間かかったんだが。
遊佐「あいつ結構世渡り上手だなぁ」
聖「だな」
遊佐「まあ、それは置いといて」
聖「何だ?」
めんどくさそうに返事する聖。
そろそろ許して欲しいんだが。
遊佐「ましろちゃん個人としては俺の事好きらしい」
聖「あ゛?」
遊佐「睨むなよ。嘘とかじゃないから」
聖「で?」
遊佐「んで、みんなの幸せのために、俺と聖をくっつけたいらしい」
聖「…………」
聖はぷいっとそっぽ向いて、空になった弁当箱の蓋を閉じる。
遊佐「で、どうしたら俺とましろちゃんがくっつけるかという議題だが」
聖「しつこいな」
遊佐「途中でいらん話題とかでつぶれるからだろうが」
聖「さっきも言った気がするが、私がそれを支援すると思うか?」
涼しい顔をしてお茶をすする聖。
遊佐「このまま、ましろちゃんの計画通りに俺と付き合いたいなら諦めるが?」
聖「それは嫌だな」
きっぱり言うなよ。
傷つくじゃないか。
遊佐「という訳で、支援とはいかんでも、何か考えはないか?」
聖「うーん」
腕を組んで考え込む聖。
俺も一応真似してみる。
まあ、一晩考えても何も浮かばなかったんだけどな!
聖「ましろは『みんなの幸せ』を重視していたな」
遊佐「だな」
聖「じゃあ、手はあるかもしれん」
遊佐「本当か!?」
がばっと聖の肩を掴む。
聖「あ、ああ。けど、これはあまりして欲しくない手段なのだが」
遊佐「じゃあ、俺と付き合うのか?」
既にこれは脅し文句になりつつあるな。
聖「絶対断る」
遊佐「じゃあ、教えてくれ」
聖「……あー。これは、お前も引き返せなくなるぞ?」
遊佐「構わん!」
聖「じゃあ、ちょっと耳を貸せ」
遊佐「おう、後で返せよ」
お約束的なセリフを言いつつ耳を寄せる。
聖「はいはい……ごにょごにょ……」
遊佐「な、なるほど……」
その手があったか。
聖「提案しておいて何だが、あまり良い案じゃないと思うぞ?」
遊佐「問題ない。後は任せろ」
びしっと親指を立ててポーズを決めてみせる。
聖「やっぱり提案するべきじゃなかったか……?」
遊佐「ふふふっ。ましろちゃんの焦る様子が思い浮かぶぜ」
聖「……聞こえてないなぁ……」
遊佐「この勝負! 俺の勝ちだ!」
存在しない夕日に向かって勝ちポーズを決める。
聖「先行きが不安になってきたぞ」
聖の言葉は聞こえなかった事にしておく。
最終更新:2008年04月19日 20:16