遊佐「いい天気だなぁ」
学校の屋上でのんびりしながら欠伸をする。
あの騒動から数日が過ぎた。
事情聴取やらであわただしかったけど、ようやく落ち着ける時間が取れる。
姫乃さんは伊従さんのと同じ様な手口で、他からも金を巻き上げていたらしい。
けど、どこかのホストに入れ込んで殆ど使い切ったというのだから笑い種だ。
取り巻きらしい男連中は全員お縄。
姫乃さんの実年齢とかを知って逆恨みしてるらしい。
馬鹿な連中だ。
伊従さんも詐欺やら何やらで、余罪がバンバン出て今も警察が色々調べている。
詳しく調べられると、ましろちゃんの虚言も危なかったかもしれないらしい。
けど、加村さんが有耶無耶にしてくれた。
他で証拠が十二分にある事件とかゴロゴロ出てきたから、後回しにしてくれたそうだ。
こちらから蒸し返さなければ、そのままになる可能性が高いらしい。
と、言うわけで平和な日常を取り戻した俺はのんびりと授業をさぼっていた。
色々忙しかったし、別に良いだろう。
ましろ「あ、ここに居たんだ?」
遊佐「ましろちゃんか……何しに来たの?」
ましろ「あはは。ひどいなぁ」
苦笑しながらましろちゃんが俺の横に座る。
確かに少し言葉が悪かったかなぁ。
ましろ「やっと一息つけるね」
遊佐「そうだね」
ここ数日本当に忙しかった。
その前は心労で忙しかった。
うむ。平和なのは良い事だ。
ましろちゃんとぼーっと空を眺めながら、また欠伸をする。
ましろ「今日は雲が多いねぇ」
遊佐「曇天って程じゃないけどね」
ましろ「遊佐君は雲好き?」
遊佐「ん? 考えた事もないかな」
ましろ「そっか」
そこで会話が途切れて、また静かになった。
ちょっと気になったので横目でましろちゃんを見てみる。
ましろちゃんは機嫌良さそうに空を眺めていた。
遊佐「ましろちゃんは好きなの?」
ましろ「ん?」
遊佐「雲」
ましろ「うん。好きだよ」
遊佐「へぇ~。何で?」
ましろ「空を見るのに退屈しないで済むから。かな」
遊佐「というと?」
ましろ「雲ひとつ無い青空って、見ててつまらないから」
遊佐「そうかな?」
ましろ「まあ、わたしにとっては、だけどね」
遊佐「ふぅん」
ましろ「だから、退屈な青空に浮かぶエッセンスって感じ」
遊佐「なるほど」
ましろ「エッセンスの意味しらないけどね」
遊佐「俺も知らないけどね」
小さく笑いあって、再び空を眺める。
気づいたら、空を流れる雲を見つめていた。
雲は形を変えながらゆっくりと空を進んでいく。
なるほど。退屈しのぎにはなる。
平和だなぁ。
この前の騒動が遠い出来事みたいだ。
遊佐「そういえば」
ましろ「ん?」
遊佐「ましろちゃんが、あんなに必死に引き止めてくれるとは思わなかったよ」
ましろ「ああ、そうだねぇ」
そうだねぇ。って他人事みたいに言うなぁ。
ましろ「それだけ遊佐君が大切って事なんじゃないかな?」
遊佐「疑問形なのか」
ましろ「わたしの自己分析なんてそんなものだよ」
遊佐「あらま、人生で選び続けたましろちゃんにしては弱気な事を」
ましろ「それは関係ないんじゃないかなぁ」
遊佐「でも、これから選ぶのに困るんじゃない?」
ましろ「そうかもね」
遊佐「選ぶのやめる?」
ましろ「あはは。それは無いよ」
にこやかな笑顔で否定された。
ましろ「わたしはこれからも選ぶよ」
遊佐「そっか」
ましろ「今までそうやって来たんだもん。急には変えられない」
遊佐「そりゃそうか」
ましろ「こればっかりはね。癖みたいなものだし」
遊佐「じゃ、もしもまた、ああいう状況になったら?」
ましろ「うん。もう決めてあるよ」
遊佐「さすがましろちゃん。仕事が速い」
ましろ「どういたしまして」
遊佐「それで、どうするの?」
ましろ「それはね……」
ましろちゃんがにこやかな笑顔を浮かべる。
ましろ「ないしょ。だよ」
今まで見たどの笑顔より、暖かな笑顔だった。
最終更新:2008年05月07日 23:45