遊佐「うーん。俺にしかできない仕事って一体何だ?」
ぱっと自分のプロフィールを上げてみてもすごい地味なものだ。これといった特技もない。
既に
生徒会室間近で言うのも何だが、激しく不安だ。
今なら引き返すことだって可能だが……、約束を破るのはよくない。非常によくない。
遊佐「覚悟を決めるか」
生徒会室の前で一呼吸して、ドアを……開けない。昨日の失敗を思い出せ。
遊佐「……すいません。開けてもいいですか?」
ドアをノックしながら尋ねる。
返事がない。
遊佐「……」
誰も居ないのか? ここで待つか、中に入るか。
……ここで待つのも変な感じだな。中に入らせてもらっておこうか。
遊佐「失礼します」
そう声をかけてからドアを開ける。やっぱり誰も居ないようだ。
立ってるのもあれだし、適当に座って待たせてもらうことにしようか。
そう思って部屋の奥へ……
だぁあああん!
遊佐「うおっ!?」
忍「確保ぉ!」
遊佐「うわっ! ちょっとどこに隠れてるんですか!」
忍「机の下!」
そう言いながら飛びついてくる。
遊佐「そんなことは知ってま、ってうわ!」
がたたぁあん!
遊佐「あたたたた……何やってるんですか!」
忍「あはははは……ごめんごめん」
先輩に抱きつかれる格好で二人とも倒れてしまった。
忍「……」
遊佐「……」
しかも俺が下で、上には忍先輩。顔が、近い。非常に、まずい。
息が荒くなりそうなのを抑えて、俺は精一杯声を抑えて言う。
遊佐「と、とりあえずどいてもらえますか?」
忍「う、うん。ごめん」
遊佐「できれば、あまり触れないようにお願いします」
忍「え?」
遊佐「ああ、えーっと。とにかく、早くどけて」
俺は慌ててさっきの言葉をうやむやにする。
忍先輩が立ち上がり、俺も立ち上がって居直す。なんか、微妙な空気だ。
遊佐「それで、頼みごとってなんですか?」
なんとかお茶を濁そうと今日来た目的について訪ねてみる。
忍「うん、そうそう。これを頼もうと思って……」
一つの封筒を渡される。
遊佐「……これが俺だけにしかできない、"仕事"なんですか?」
忍「そう。これが遊佐君にしかできない……ことかな?」
遊佐「手紙だけ渡されても……ん?」
封筒には宛名が書かれている。
―マグリフォン茜さんへ
遊佐「マーちゃん……?」
ばっと忍先輩の顔を見つめる。
遊佐「どういうことですか?」
忍「んー、青春を応援して上げたいなーって思ったんだ」
遊佐「は?」
忍「本当は生徒会がこんなこと応援しちゃいけないとは思うけど」
遊佐「……こんなことしてどうするんですか? 大体封筒の中身は何ですか」
まったく意図がつかめない。この前の、見られたのが非常にまずかった。
忍「遊佐君。私はね、一人の女の子としてあの子を応援したい」
はぐらかされてしまう。
遊佐「じゃあ、俺に言わなくてもいいじゃないですか」
忍「んー、あの子なんか肩肘張ってるように見えるからね。それに」
ちょっとにやりとした顔がのぞく。
忍「遊佐君に言った方が効果的じゃない」
遊佐「くっ……。そもそも先輩には関係ないんじゃないですか」
忍「……好きなんだよ?」
……はい?
忍「……きっとあの子はね、遊佐君のこと好きだからさ」
遊佐「……そうでしょうか?」
忍「遊佐君、鈍感」
遊佐「はぁ……どうするんだこの手紙」
とりあえず受け取ったものの、正直もてあます。実際は
忍『後は遊佐君が決めてくれればいいから。渡さなくても渡してもってことで』
といって強引に渡されてしまったんだけど。手紙の中身は……結局教えてもらえなかった。
開けるな、とも言われた。……結局中身が分からないのでは渡すべきかそうでないのかわからない。
遊佐「マーちゃんがね……」
どうだろう? 確かにあの時は何か迫るものがあったにしろ……。ところで
遊佐「俺はどうなんだろう?」
あの時、キスした俺達は、一体どうなるんだろう? ただぼんやり感じていたあの時の
彼女の温もりは本当なのか? それとも子供の時の続きなんだろうか?
そういえば、結局"仕事"は、口実だった。
最終更新:2008年07月01日 02:35