だるい。
授業というものはなんでこう……だるいんだろう?
これは人類の永遠の命題だな。

ガラッ。

教室に響き渡る扉の音に、俺のどうでも良い思考は遮られた。
ん? 誰かトイレ行ってたっけ?
もうすぐ授業終わるんだし、のんびりしてればいいのに。

教師「ああ、月島妹か。座りなさい」

ちらっと視線を送ると、黒髪の女生徒が無言で歩いていた。
確か杏だっけか?
特に返事もしないで席に座ったけど、いつもの事なのかな。

遊佐「ん?」

つきしま……いもうと?
他に誰か月島って居たよな。

遊佐「うーん?」
ましろ「遊佐君。どうかした?」
遊佐「あ。ましろちゃん」

考えてる間に授業終わったのか。
どうでもいいけどな。

遊佐「月島って、誰だっけ?」
ましろ「へ?」

ぽかんとするましろちゃん。
まあ、自分でもはしょりすぎて分からない質問だとは思うな。

聖「呼んだか?」
遊佐「へ?」

突如現れた聖。
まあ、ましろちゃんの傍には大概いるから、少し慣れたな。
って、待てよ?

遊佐「うーん」
聖「ん?」

えーっと、確か聖の苗字は月島だったな。
と言う事は……。

遊佐「お姉ちゃん?」
聖「いつ私がお前の姉になった?」
遊佐「いや、俺じゃなくてだな」
ましろ「ああ、杏ちゃんのこと?」
遊佐「そうそう。姉妹なのか?」
聖「ああ、そうだが」
遊佐「ふぅん」

そうなんだ。

遊佐「あんまり似てないな」
聖「ん。まあ……」

聖が言葉を濁しながら、杏をちらりと見る。

遊佐「仲いいのか?」
聖「まあ、普通……かな?……」

あんまり突っ込まない方がいいかな?

遊佐「しかし……」
聖「なんだ?」
遊佐「姉属性もちだったんだな」
聖「何だそれは?」
遊佐「特に意味は無い。気にするな」

ふぅん。へぇー……。

ましろ「遊佐君は何か思い入れでもあるの?」
遊佐「ん?」
ましろ「兄弟とかそういうの」
遊佐「いや、無いけど」

さっぱり無い。

ましろ「でも、何と言うか……食いつきが良かったよ?」
遊佐「まあ、憧れ的なものはあるよ」
ましろ「ふむふむ。どんなの?」
遊佐「美人の姉が朝優しく起こしてくれるとか」
ましろ「ふむふむ」
遊佐「弁当作ってくれるとか」
ましろ「ふむむ」

何となく聖を見る。
まあ、容姿は十分か。
優しさは足りなさそうだけど。

遊佐「まあ、そんな感じ?」
聖「私に聞くなよ」
遊佐「聖は優しさが足りないからダメだな」
聖「頼まれてもお断りだ」

むっ。
そう言われると逆らいたくなるのが人情だ。

遊佐「顔は良いからやっぱり合格」
聖「寒いことを言うな」
遊佐「というわけで毎朝俺を起こしてくれ」
聖「絶対いやだ」
遊佐「何でだよ!」
聖「ダメ人間がうつる」
遊佐「俺のどこがダメ人間だというんだ」
聖「礼儀がなってない。授業態度は悪い。頭も悪い。ついでに顔もわるい。つまり全部だな」
遊佐「お前に俺の魅力を理解することは無理か……」
聖「いや。そんなもの無いだろ」
遊佐「おま……」

好き放題言ってくれるぜ。
ああ、何か視界が滲んできちゃった。

ましろ「ねえねえ」
遊佐「ん?」

真剣な表情でましろちゃんが割って入った。

ましろ「ちょっと思ったんだけどね?」
聖「どうした? ましろ」

ましろ「さっきの、毎朝俺を起こしてくれっていう台詞」
遊佐「ああ。うん。どうかした?」

不意に、ましろちゃんは照れたようにクネクネしながら、とんでもない事を言った。

ましろ「なんだか、プロポーズみたいだったね」

ん?
ああ、そう聞こえなくも……。
…………
……

遊佐&聖「ええええええ!?」

聖が嫌そうな顔をしながら距離をとる。
多分俺も似たような感じだ。

聖「きも! 死ね! 死んでしまえ!」
遊佐「俺だって嫌だ! 誰が聖なんかと!」
聖「こっちから願い下げだ! その口縫い付けてこい!」
遊佐「ふざけるな! 俺のさわやかボイスが無くなったら世界の損失だぞ!」
聖「どこが世界の損失か! むしろ公害だ!」
遊佐「歩く暴力なお前よりはマシだ!」
ましろ「まあまあ、夫婦喧嘩はそのくらいにしようよ」
遊佐&聖「夫婦じゃない!」

睨みつける俺と聖に対し、ましろちゃんが嬉しそうに微笑んだ。

ましろ「ほら、息ぴったり」

のおおおおおぉぉ!
がっくりとうなだれる俺と聖。

ましろ「とうとう聖ちゃんにも春が来たんだねぇ」

遠い目をしながら一人納得するましろちゃん。

遊佐「って、決定事項にしないでもらえるかな?」
ましろ「どうしようかなぁ」
聖「ま、ましろ。勘弁してくれ……」
ましろ「くすくす。冗談だよ?」
遊佐「そ、そうだよね……」
聖「良かった……」
ましろ「でも、思うんだけどね」

脱力する俺たちに、ましろちゃんが残酷な言葉を投げかける。

ましろ「いつもいつも喧嘩してたら『また夫婦喧嘩か』ってなると思うんだ」
遊佐「ぐふぅっ」
聖「うぐぅっ」

そ、それは避けなければ……。

ましろ「わたしにもじゃれあってるようにしか見えないし」
遊佐「そんな……」
ましろ「まあ、仲がいいのは良いことだと思うけどね」
遊佐「それは明らかに誤解だ!」

何とか弁明しなくては、俺と聖が仲良しさんになってしまう!

聖「ふ、ふふふ……」
遊佐「な、なんだ?」

気でもふれたか?

聖「ましろ。私は決めたぞ」
ましろ「どうしたの?」
聖「私はこれから、遊佐を無視することにする!」
遊佐「子供の喧嘩かよ!」
聖「これにより、私と遊佐は傍目にも完璧な他人。むしろ敵だ」


1.同意する
2.否定する

――――――1選択時 聖好感度-1

遊佐「確かにそうかも?」
聖「だから、お前もましろに近づくなよ?」
遊佐「それは無理」
聖「なん……だと……!」
遊佐「俺から心のオアシスを奪うような事を認めるわけがないだろうが」
聖「何がオアシスだ! お前は泥水でも啜ってるのがお似合いだ!」
遊佐「何だとゴルァ!」


――――――2選択時 聖好感度+1

遊佐「嫌だ」
聖「何故だ!」
遊佐「平和的に喧嘩しなけりゃいいんじゃないのか?」
聖「きもっ!」
遊佐「まともなこと言ったのに『きもっ』って何だよ!」
聖「うるさい! 私は無視するって決めたんだ!」
遊佐「どうせすぐ噛み付くくせに何言ってやがる!」
聖「誰が噛み付き亀だゴルァ!」


――――――選択分岐終了

再び威嚇を始める俺と聖をみて、ましろちゃんは軽くため息をはいた。

ましろ「やっぱり仲良しなんじゃないかな?」
遊佐&聖「絶対違う!」
聖「同時に言うな! 気持ち悪い!」
遊佐「お前がタイミングずらせば済むだろうが!」

俺と聖の戦いは授業が始まるまで続いた。
最終更新:2008年10月03日 03:06