遊佐「穴場とやらにはまだ着かないのか?」
中島「もうすぐだって」
放課後、中島に穴場のゲーセンがある。と拉致られた。
正直、あんまりやる気は無かった。
しかし、ゲーセンの穴場ってどういう物を指すんだ?
中島「さっきの続きだが、俺は剥き甘栗だけは許せないんだよな」
遊佐「便利でいいじゃないか」
中島「ばっか、お前甘栗は自分で剥くのが良いんじゃないか」
遊佐「知らん」
心の底からどうでも良い話だと思うんだが、中島の熱弁が続く。
中島「良いか? アレはある種のエロスを含んだカタルシスがあるんだぞ」
甘栗でエロスを感じ取れるお前がすごい。
聞き流してる俺の目に、見覚えのある後姿が目に入った。
遊佐「ん?」
中島「どうした?」
遊佐「ああ、あれって、聖とましろちゃんじゃないかな」
中島「ん? ああ、そうみたいだな」
何か大学生風の二人組みに話しかけられてるみたいだけど……。
遊佐「何だろうな?」
中島「ナンパか何かじゃないか?」
遊佐「ましろちゃんはともかく、聖にトライするのは勇気があるな」
中島「ま、黙ってりゃ美人の部類だしな」
まあ、それもそうか。
遊佐「一応助けるか」
中島「その必要は無いんじゃね?」
中島が言い終わる前に、大学生の一人が……浮いた。
そして、何か嫌な音を立てて落ちる。
度肝を抜かれたのか、もう一人が倒れた方を引っ張って逃げていった。
中島「ナイスアッパー」
聖「む?」
ましろ「あ、遊佐君たち」
遊佐「あれって生きてるよな?」
聖「多分平気だろう」
嫌な音が鳴った気がするけど。
中島「ところで何してんの?」
ましろ「お買い物の途中だよ」
遊佐「で、さっきの連中は?」
ましろ「道を聞かれたんだけど……」
古典的なナンパじゃないのか?
聖「鬱陶しかったから殴った。特に反省していない」
遊佐「ふぅん」
つっこむのも面倒くさいな。
聖「不埒者を排除したのに、今度は遊佐と中川か」
中島「なあ、中川って誰だ?」
遊佐「お前のことなんじゃないか?」
中島「はっはっは。俺は中島だぞ? そんなわけ無いだろう」
聖「む。中島だったか」
中島「ひどいっ」
あ、いじけた。
ほっとこう。
遊佐「しかし、ほんとにいつも一緒なんだな」
ましろ「私はいいって言ってるんだけどね」
聖「何を言うましろ。本当なら24時間体制にしたいところなんだぞ」
遊佐「それはむしろ監視というんじゃないか?」
聖「どこがだ?」
自覚ないのね。
遊佐「ところで、買い物って?」
ましろ「うーん。色々だよ」
遊佐「ふぅん。服とか?」
ましろ「うーん。そこまでの余裕はないかも」
遊佐「ふむむ」
ましろ「まあ、細かくは決めてないんだけど。ね? 聖ちゃん」
聖「ああ、どこであろうと私が守ってみせるぞ。ましろ」
遊佐「何か会話が通じて無くないか?」
聖「気のせいだ」
遊佐「ていうか、聖は買い物はしないのか?」
聖「いや、人並みにはするぞ」
遊佐「じゃあ、ましろちゃんとお互いの服を選ぶとか」
聖「唐突に何を言い出しているんだ。お前は?」
遊佐「聖ちゃんカワイー。とか、そういうかわいらしい光景があったりするのか?」
ましろ「いや、あんまりないかなぁ」
遊佐「無いのかぁ」
聖「というか変な妄想をするな」
中島「否!」
遊佐「うわっ」
中島が急に復活した。
心臓に悪いぞ。
中島「断じて否である!」
遊佐「急にどうした?」
中島「そういう可愛い光景はやるべきだ! むしろやらなくてはならない!」
遊佐「おーい?」
中島「いつもはつっけんどんな子が可愛い服装を持ってて恥ずかしがるとか!」
それってひょっとして聖のことか?
中島「そしてしぶしぶ着て見せてくれるとか!」
力強くこぶしを握り締めながら、中島が吠えた。
中島「そういう萌えシーンは大事だ!」
遊佐「何のサービスなんだ?」
中島「分からないのか! ばかびゃぶら!」
俺を指差し罵倒しようとした中島が、横向きに飛んでいった。
高速で回転しつつ地面に落着する。
聖「人を妄想に使うなと言っている」
遊佐「多分聞こえてないぞ」
聖「全く、情けないやつだな」
遊佐「綺麗にあごに入ったなぁ。今の」
ましろ「……そうだ」
何か納得したような表情でましろちゃんが声をあげた。
いやな予感がする。
ましろ「中島君! 良く分かったよ!」
聖「ま、ましろ?」
遊佐「ま、まさか……」
ましろ「さあ! 聖ちゃん! 服を見に行くよ!」
聖「ま、待つんだましろ。あんなバカの言葉を信じるんじゃない!」
遊佐「ましろちゃん。中島なんかに感化されたらダメだよ! バカがうつるよ!」
説得を試みる俺と聖。
ましろちゃんがクワッとこっちに振り向いた。
ましろ「遊佐君!」
遊佐「は、はい」
ましろ「あの聖ちゃんが照れる光景を見たくない?」
…………。
遊佐「見たい!」
聖「アホかおのれはぁぁぁ!」
遊佐「ぷぎゅるっ!」
ハイキックを側頭部に見舞われきりもみ回転する俺。
くそぅ。パンチラくらいよこせよ。
遊佐「ま、まて、聖」
聖「しぶといな」
遊佐「何事も経験だと思うんだ」
ましろ「そうだよ。経験だよ」
聖「ましろ、私はそんな経験はいらない。あと、遊佐は黙れ」
遊佐「それに……」
1.たまには女の子らしいのも
2.かわいい聖が見てみたい
――――――1選択時(聖好感度-1
遊佐「たまには女の子らしいのもいいんじゃないか?」
聖「私が女らしくないみたいな言い方をするな!」
遊佐「モルスァ!」
――――――2選択時(聖好感度+1
遊佐「かわいい聖が見てみたいし」
聖「キモイことを言うな!」
遊佐「ぴぎゃっ!」
――――――選択分岐終了
吹っ飛ばされ地面を転がる無力な俺の目に、ましろちゃんのやる気に満ちた顔が映った。
遊佐「聖よ……」
フラフラだが何とか立ち上がる。
聖「くっ。今トドメを……」
遊佐「お前はましろちゃんの行くところなら、どこへでも行くんじゃなかったのか?」
聖「ぐっ」
拳を振り上げたまま固まる聖。
ましろ「ふふふふふ。聖ちゃん。そう言ってたよね?」
聖「ぐぬぁっ」
遊佐「観念するんだな。ふふふふふ」
ましろ「んふふふふ」
あやしい笑いを浮かべる俺達に、聖がたじろぐ。
聖「うう……。分かった」
勝った!
中島が生きていれば、踊りだしたであろう。
あ、死んでなかったっけ。
遊佐「じゃあ、行こうか」
聖「だが、お前はここで死ね!」
遊佐「ごふぅっ」
ぼ、ぼでぃぶろーだと……。
ましろ「遊佐君。あなたの死は無駄にはしないよ」
聖「ま、ましろ。ちょっとだけ待っ……」
がしっと腕を掴み、にっこりと微笑むましろちゃん。
ましろ「時間も遅いし急ぐよ。聖ちゃん」
聖「ああああああああ……」
聖がずりずりと引きずられていく。
遊佐「ましろちゃん。とりあえず、写真をたの……」
聖「貴様ぁぁぁぁ!」
聖が投げた空き缶が俺の額に直撃した。
最終更新:2008年10月10日 04:36