翌朝、俺が教室に入ってみると、聖がどんよりしていた。
まあ、原因は昨日の事だろうな。
遊佐「よっす。どうした?」
聖「…………」
無視されたがめげないんだぜ?
遊佐「まあ、アレだ。犬にでも噛まれたと思ってだな」
うんうん。
遊佐「それにほら、ましろちゃんを喜ばせれたんだから良いじゃないか?」
聖「やかましいっ」
うぉっこわっ。
聖「お前が焚き付けなければ、あんなことは起きなかったんだ」
遊佐「まあ、それを言ったら原因は中島じゃないか?」
俺に怒られてもなー。
聖「面白がってたくせに良く言うな」
遊佐「見てみたかったんだがなぁ」
聖「そしたらお前は、今頃海のそこだな」
遊佐「本気の目で言うなよ」
こえーって。
遊佐「で、どんなのを着せられたんだ?」
聖「私が言うと思うのか?」
遊佐「だろうなぁ」
少し残念だが、仕方ない。
遊佐「まあ、後でましろちゃんに聞くけどな」
聖「やはり息の根を止めておくべきか」
遊佐「だから本気の目で言うなって」
聖「ふんっ」
遊佐「よっぽど嫌だったんだなぁ」
聖「当たり前だ。私のキャラクターという物を考えてみろ」
遊佐「まあ、ましろちゃんしか見てないわけだし。気にするな」
聖「他人事だと思って……」
遊佐「本人が思ってるほど似合ってない事も無いんじゃないか?」
聖「知るか」
遊佐「やれやれ……」
これはお手上げだな。
ましろ「実際はかなり似合ってたよ」
聖「ま、ましろっ!?」
遊佐「ああ、おはよう」
ましろ「おはよう」
さりげなくPOPしたましろちゃん。
手ぶらなのは俺が来る前に登校していたんだろう。
ましろ「ああ、遊佐君。はいこれ」
遊佐「ん?」
聖「や、やめろっ!」
遊佐「あ、おい」
ましろちゃんから手渡されかけたペラ紙。
奪い取った聖が、勢い良くやぶって鞄につっこむ。
ましろ「あらら、んじゃ、これ」
遊佐「うん?」
聖「ダメだっ!」
ましろちゃんから(略)
奪い取った聖が(略)
ましろ「聖ちゃん。無駄だよ?」
にこにこと微笑みながら、あちこちからペラ紙を取り出すましろちゃん。
そしてポンポンと床に捨てていく。
聖「ぬああああ!」
慌てて拾い集める聖。
さすがに状況が読めてきた。
ましろ「で、これ」
遊佐「うん」
床のをかき集めている聖を他所に、ましろちゃんが例の写真を手渡してくれた。
遊佐「ほう。これはこれは……」
数枚の写真は予想通り聖の『かわいい』写真だった。
遊佐「うっわ。これなんかフリフリだ」
聖「やめろぉぉぉ!」
床の写真の群れを体で隠しながら、聖が涙目で絶叫する。
ましろ「これがオススメだよ」
遊佐「おー。なるほど」
ふむ。キャミソールにショート丈のベスト、ショートパンツ。
聖らしさを維持しながら、胸元のくまさんエンブレムがかわいさをアピールしている。
ましろちゃん。やるな。
ましろ「そのセットは聖ちゃんがお買い上げしたから、その内見れるかも。くまさん無しだけど」
遊佐「聖の根性なしめ」
聖「やかましい! というか見るな!」
ましろ「冬ならもこもこな服装とかでもっとアピールできたと思うんだけどねぇ」
遊佐「まあ、この季節は薄着が主体だから、素体に影響受けちゃうよね」
聖「見るなぁぁぁぁ!」
ましろ「靴もコーディネートしたかったんだけどね」
遊佐「この辺だとやっぱりスニーカーかな?」
聖「やめてくれぇぇぇ!」
ましろ「うーん。ブーツとかもいいかも?」
遊佐「ああ、そうだねぇ、けど季節的に微妙かも?」
聖「ああぁぁぁ……」
遊佐「聖。ちょっとうるさいぞ?」
振り向くと、聖が大量の写真が詰まった鞄を持ち上げているところだった。
遊佐「うぉぅ!?」
思わず飛びのいた俺の眼前に鞄が振りぬかれた。
聖「ふ、ふふふ」
遊佐「あの、聖さん?」
聖「その口、永遠に封じてやる……」
遊佐「お、おちおちおちおちつつけ?」
やばい。目が超マジだ。
ましろ「あやー。聖ちゃんが大量殺人犯になってしまう……」
遊佐「ちょっ。落ち着いてないで止めてよ!?」
聖「死ねぇぇぇぇ!」
遊佐「うひゃぁぁぁぁ!」
今日こそ俺は死んでしまうのか……。
先立つ不幸をお許し……。
遊佐「あれ?」
何か遅くないか?
いつもならこう……考えてる間に吹っ飛ばされてるような?
聖「うわぁぁぁ!」
聖の悲鳴に思わず目を開く俺。
そこには、ぶちまけられた写真を慌ててかき集める聖の姿があった。
ましろ「ふっ。必殺写真カウンターだよ」
遊佐「すげえ! ってか何枚持ってるの!?」
ましろ「ふっふっふ。それはね……」
ましろちゃんが自分の鞄を持ってきて、ばーんと開いて見せる。
遊佐「……やりすぎ」
ぎっしり詰まった。写真・写真・写真……。
ましろ「屋上からばら撒こうかと思って」
遊佐「そ、それはいじめじゃないかな?」
ましろ「こんなにかわいいのに……」
いじけたように写真をぺたぺたするましろちゃん。
聖「ましろ。お願いだ。やめてくれ」
遊佐「お。今度は早かったな」
ポケットに詰め込んだのか。
はみ出てるけど、黙っておこう。
ましろ「せっかくかわいいのに勿体無いよ」
遊佐「まあまあ、本人も嫌がってることだし」
ましろ「えー。でもー」
ましろちゃんがしょんぼりしている。
心が痛むが、ばら撒くのはさすがにかわいそうだし。
聖「お願いだ。ましろ。許してくれ……」
遊佐「ほら、本人もこれだけ頼んでることだし」
ましろ「うーん。仕方ないなぁ……」
聖「本当か!?」
ましろ「残念だけど、今回は諦めるよ」
聖「良かった……」
遊佐「聖。良かったな」
ぽんっと聖の肩をたたく。
聖「ああ、明日から学校に来れなくなるところだった」
遊佐「追い詰められてたんだなぁ」
聖「お前も原因の一部だろうが」
遊佐「はっはっは。気にするな」
中島「よっす。3人揃って何してんの?」
さわやかな笑顔でバカがやってきた。
中島「ん? 聖。何か落ちたぞ?」
かがんでポケットから零れ落ちた写真を拾おうとする中島。
聖「見るなぁぁぁ!」
中島「ぷげるっ!?」
サッカーボールのように中島の頭が蹴り上げられる。
遊佐「成仏しろよ」
俺は念仏を唱えながら、こっそり写真をポケットにしまっておいた。
…………
……
数日後、あの写真の一部がどこからか流出してしまった。
ひそかなファンの間で今も高値で売買されているという。
俺が原因じゃないからな?
一応まだ持ってるし。
最終更新:2008年10月10日 04:43