ましろ「遊佐君。お昼どうするの?」
昼休みになって元気そうなましろちゃん。
その気持ちは凄く分かる。
遊佐「購買だけど?」
ましろ「いや、そうじゃなくて、一緒に食べる?」
遊佐「ああ、ちょっと外で食べてくるよ」
ましろ「そうなんだ? 最近続いてるね」
遊佐「秘密の避暑地を手に入れたからね」
ましろ「え? どこどこ?」
遊佐「教えたら秘密にならないじゃない」
ましろ「そっか。残念」
遊佐「じゃ、また後で」
ましろ「うん。いってらっしゃい」
軽く手を振って無難に去る俺。
パーフェクトに無難な俺の頭に衝撃が降り注いだ。
遊佐「いたっ」
この不条理な一撃、振り向くまでもなく聖だ。
遊佐「いきなり何するんだよ」
聖「何かうざかったから」
遊佐「横暴にもほどがあるだろ!」
聖「はいはい。さっさと行かんと売り切れるぞ」
遊佐「うわ、すっげームカつく!」
聖「しっしっ」
野良犬のような扱いを受ける俺。
だが、聖の言うとおりゆっくりしていたら売り切れの目に会うかもしれない。
遊佐「覚えてろ!」
聖「はいはい」
小悪党的な台詞を残して俺は購買に走った。
…………
……
遊佐「よっ。待たせたか?」
いつもの階段。
やはりというか杏は先に来ていた。
杏「待ってない」
遊佐「そうか、今来たところか」
杏「意味が違う」
遊佐「分かってる。ちょっとボケて見せただけだよ」
いつもどおり、なし崩し的に隣に座る。
遊佐「昨日の放課後のことなんだが……」
昼飯の菓子パンを取り出しながら、昨日のことを杏に伝える。
雑談のネタ他にないしな。
遊佐「……で、聖もにファンが居るようだな」
杏「……そう」
遊佐「物好きもいるもんだな」
杏「あなたもじゃないかしら」
遊佐「ん? どういう意味だ?」
杏「……はぁ」
何か重いため息をつかれた。
まあいいか……。
遊佐「しかし、あんな変わり者に追われるのはしんどそうだな」
杏「そうね」
遊佐「俺も気をつけないとナ」
杏「それはないわね」
遊佐「世の中分からんぞ?」
杏「世も末ね」
遊佐「そこまで言うか」
もう少し愛想があっても良かろうに。
遊佐「あ、そうそう」
杏「……?」
聖つながりで今朝のことを思い出した。
杏にも聞いてみるか。
姉妹だし。
遊佐「聖がましろちゃんを守ってるのってさ」
遊佐「ましろちゃん曰く『代償行為』らしいんだけど、意味分かる?」
杏「……さあ?」
ん。これはとぼけてるっぽいな。
けど、杏の性格からして、突っ込んだところでヘソ曲げそうだし……。
もう一個の方聞いてみるか。
遊佐「それと、守るって事の意味って何だろうな」
杏「……?」
遊佐「これもましろちゃんに言われたんだけどね」
杏「辞書でも引いたら?」
遊佐「多分辞書的な意味じゃないと思うんだ」
遊佐「なんていうか、哲学的な感じ?」
杏「……面倒ね」
遊佐「杏はどう思う?」
杏「……対象が傷ついたり悲しまないように自発的に動くこと、かな」
遊佐「ふむ……」
多分、普通な意見なんだろう。
ひょっとしたら辞書並みに。
俺もそう思ってたし。
遊佐「でも、何か違う気がする」
杏「何?」
遊佐「いや、何かこう……もっと深いものがありそうな気がするんだ」
杏「……そうね」
遊佐「杏もそう思う?」
杏「ええ。だって本当はどれだけ頑張っても、どうしようもない事もあるもの」
遊佐「確かにそうだけど、本当に守りたいって気持ちが大事なんじゃないか?」
あれ?
何か違和感。
……あ。
遊佐「ああ、そうか。だからか」
杏「?」
遊佐「聖は、何かの代わりに守っている」
杏「……そうね」
遊佐「それって、守れてないよな」
そうだ。守れてない。
だって、本当に守りたいものは別なんだから。
じゃあ、誰を?
そこそこの期間、聖とは仲良くしてきたつもりだ。
その間、聖がましろちゃん以外で、気を使っていた相手は誰だ?
……真っ先に浮かぶのは、杏だろう。
何せ姉妹だ。それも双子の。
理由は知らないが、二人の関係は微妙な状態だ。
だから、守れない。守りたくても。
もし、二人の関係が修復されればどうなる?
さすがに分からない。
けれど、良い結果になるだろうとは、思う。
遊佐「なあ、杏は聖と仲直りしたいか?」
杏「……は?」
遊佐「杏は聖が嫌いか?」
杏「……放っておいて」
遊佐「ふむ」
はっきりとノーとは言わなかった。
じゃあ、決まりだ。
遊佐「よし」
杏「……?」
遊佐「またな! 杏!」
決意を胸に俺は教室にダッシュした。
杏「いやな予感しかしないわね……」
最終更新:2008年10月18日 01:33