今日で三日め。
聖と杏の仲直りも進行していることだろう。
確認してないけど。
……俺のうっかりさんめ!
すっかり弁当うめーで一日終えてるじゃないか!
いかん。これはいかん。
とりあえず今日のお昼を済ませたら聞いてみよう。
遊佐「というわけで来たぞ」
杏「…………」
じと目の杏の膝の上には四角い包みがあった。
弁当だろう。
遊佐「どうかしたのか?」
杏「…………」
無言で包みを解く杏。
中から現れたのはやはり弁当。
だけど……。
遊佐「重箱……?」
杏「……何を言ったの?」
遊佐「え? えーっと……」
昨日そういえば、大きくしろって言ったっけな。
いや、でも重箱はどうなんだ?
遊佐「ま、まあ二人分と思えば何とかなるだろ」
杏「……はぁ」
一応買っておいたパンはオヤツにでもしよう。
マイお箸を持ってきておいて良かったぜ。
遊佐「さて、どれからいこうかな」
相変わらず美味そうだが、ブリの照り焼きとか。
ましろ「あれ? 聖ちゃん何してるの?」
聖「わきゃっ!?」
下の方からでかい悲鳴?が聞こえた。
遊佐「お?」
杏「?」
振り向くと階段の下で聖が変なポーズで倒れている。
遊佐「聖?」
聖「ふぉぉ!?」
ずざざっと砂埃をあげながら壁際に移動する聖。
倒れたままで。
……器用だな。
遊佐「何してるんだ?」
聖「え? あーえーそのー」
ましろ「あ、遊佐君」
しどろもどろな聖の横に、ましろちゃんが現れた。
遊佐「ましろちゃん?」
んん? 何だ?
ましろ「ふむむ。なるほど」
聖「ましろ! これは違うぞ!」
何か納得したましろちゃんに、聖が懸命に弁明している。
遊佐「なあなあ。何の話だ?」
聖「ええいっ。お前は黙っていろ!」
遊佐「っていうか何をしてたんだ?」
ましろ「遊佐君たちの様子を物陰からうかがってたみたい」
遊佐「なぬ!?」
聖「ばばばばバカな事を言わないでくれ」
ましろ「昨日からお昼になると居なくなると思ったら、そう言う事だったんだね」
聖「た、たまたまだ! ちょっと散歩していただけだ!」
遊佐「でも、昨日もおとついも、もうちょっと後でここ通らなかったか?」
聖「ぐ、偶然に決まってるじゃないか」
ましろ「相変わらず素直じゃないねぇ」
遊佐「とりあえず、まだならメシ食ってけ。良いよな? 杏」
杏「え?」
遊佐「ほら、杏もいいってさ」
多少強引だが押し切ってしまおう。
ましろ「そうしようか? 聖ちゃん」
聖「い、いや。私はもう……」
ましろ「その手に持ってるお弁当をとりあえず開けてみて、空っぽだったら戻ってもいいよ?」
聖「うぐっ」
遊佐「まあ座れよ。うん」
ぺすぺすと床を叩くと、大人しく座る聖。
ましろ「じゃ、私はお弁当とって来るね」
遊佐「うん。いってらっしゃい」
ましろちゃんが走り去ると、とたんに静寂が舞い降りる。
遊佐「えーっと」
うん。ここは俺が何か言うべきだな。
遊佐「聖って、意外と料理上手だったんだな」
聖「そんなことはない、私より上手い人はたくさんいるぞ」
遊佐「そうか? 十分嫁にいけるレベルだと思うんだが」
聖「ば、馬鹿なことをいうな」
遊佐「杏も気に入ってるし」
聖「ほ、本当か?」
ちらっと杏を見る聖。
杏「……(ぷいっ)」
しょんぼりする聖。
遊佐「照れてるだけだ。気にするな」
聖「そう、なのか?」
杏「……(ぷいっ)」
遊佐「俺が食べようとすると怒るんだ」
聖「そうなのか……」
遊佐「俺も味見くらいしていいよな?」
聖「あ、ああ。構わないぞ。そのために……」
遊佐「ん?」
聖「いや、なんでもない。なんでも」
遊佐「なんだよ。気になるじゃないか」
聖「なんでもない。それより」
遊佐「ん?」
聖「このところ昼休みに居なかったのは、いつも杏と一緒だったのか?」
遊佐「あー。まあ大体は」
聖「そうなのか……」
遊佐「最近少しマシになってきてるけど、まだまだ暑いしな」
聖「そうだな……」
遊佐「で、涼しいここを二人で秘密基地として活用している」
聖「二人で……か」
遊佐「ああ、どうかしたか?」
聖「いや、なんでもない。ましろ遅いな」
遊佐「ん? そうだな」
何か誤魔化された感があるな。
まあ、いいか。
遊佐「先に食べ始めておくか」
聖「しかし……」
遊佐「ましろちゃんはそのくらいで怒ったりしないよ。なあ、杏」
杏「……さあ?」
遊佐「相変わらず反応が薄いのな、全部食っちまうぞ?」
弁当に手を伸ばすと、ひょいと避けられてしまった。
遊佐「何だよ。どうせ一人じゃ食いきれないんだろ」
杏「…………」
無言で弁当の中身に箸を突き立てる。
遊佐「それは俺が目をつけていたブリの照り焼きじゃないか!」
杏「…………」
全部一口でいきやがった。
遊佐「なんてことを……」
杏「…………」
ひょいひょいとおかずばかりを口に運ぶ杏。
遊佐「お米を食え! おかずばっかり食うなよ!」
杏「……(ぷい)」
遊佐「許さん! 絶対に許さんぞ!」
全力で箸を突っ込み芋の煮っ転がしを強奪する。
うむ。やはり美味い。
と、それはおいておいて。
遊佐「次は卵焼きだ!」
箸で卵焼きをガードする杏。
その横をすり抜けて、から揚げを奪い取る。
遊佐「ふっ、バカ正直に獲物を教えると思ったか?」
杏「…………」
勝利のから揚げを口に放り込む。
杏のむっとした様子が逆に心地良いぜ。
聖「えーっと、もう少し平和的にだな」
遊佐「次はハンバーグだ!」
杏「……!?」
遊佐「ひっかかったな! 裏の裏でハンバーグ狙いだ!」
聖「……はぁ」
遊佐「ふふふ。さすがにそろそろご飯が恋しくなったろう」
杏「…………」
遊佐「だが、ご飯は既に俺が丸々鹵獲してある。欲しければ……」
杏「……!!」
遊佐「おまっ、人の話は最後まで聞け!」
杏「…………」
遊佐「こらぁ! 俺のご飯を蓋で強奪するな!」
…………
……
おかずの奪い合いをしている間に昼飯はなくなっていた。
杏も意固地になるとからかい甲斐があって面白いな。
遊佐「で、何か話してたっけ」
聖「知らん」
遊佐「何だ? 拗ねてるのか?」
聖「なにをだ」
遊佐「俺と杏のらぶらぶっぷりに」
杏「それはないわ」
遊佐「はっはっは。照れるなよ」
杏「……死ね」
さくっ
遊佐「はぅあっ!? 箸は人を刺すものじゃありません!」
聖「……仲良いんだな」
遊佐「これのどこを見たらそういえるのかね!?」
まだ箸ささってるんすけど!
ぐりぐりしないでぇぇぇぇぇ!
聖「やっぱりか……」
遊佐「何納得してるんだ!?」
早く助けてくれよ。
ましろ「ただいま~」
遊佐「あ、ましろちゃん」
天使降臨!
ましろ「ちょっと聖ちゃん借りていくね」
遊佐「え?」
聖「ん?」
ましろ「じゃね~」
聖「へ?」
腕をつかまれさらわれていく聖。
遊佐「何だったんだ?」
杏「……さあ?」
あ、聖が弁当箱忘れていってる。
遊佐「それはともかく、そろそろ刺すのをやめてくれないか?」
杏「…………」
遊佐「いだだだだだ!」
最終更新:2008年10月26日 01:42