遊佐「おはよー」
ましろ「あ、おはよう。遊佐君」

教室に入って挨拶してみるが、聖の姿が見当たらない。

遊佐「ねえねえ」
ましろ「聖ちゃんなら、今お手洗いだよ」
遊佐「あ、そうなんだ」

何で分かったんだろう?

ましろ「そりゃ昨日の事があるし」
遊佐「考えを読むのはやめてくれない?」
ましろ「顔に出てたよ」
遊佐「むむむ……」
ましろ「あ、聖ちゃんおかえり」
聖「ただいま」
遊佐「おう、おはよう」
聖「あ、うん。おはよう」
遊佐「……えーと、その」
聖「な、なんだ?」

なぜか言葉が浮かばない……。

中島「よう。二人で見詰め合ってどうかしたのか?」
遊佐「なんでもねえよ」
中島「最近俺に対して冷たくねえか?」
遊佐「昨日俺を閉じ込めたヤツの台詞か?」
中島「気にすんなよ。元気に生きてるだろ?」
ましろ「そうだよ。おかげで二人は――」
遊佐「ストップ!」

さらっといらない事を言いそうな気配だった。

ましろ「ん?」
遊佐「人目を考えて欲しいんだ」
ましろ「そっかぁ」
遊佐「わかってもらえて何より」
聖「やっぱり嫌……か?」
遊佐「って拗ねるなよ。騒がれたり冷やかされたくないだろ」
聖「それは、まあ……」

だから拗ねるなってば。

ましろ「ふむぅ」
遊佐「というわけで、静かに行きたいんだ」
中島「何の話なんだ?」
遊佐「お前は黙ってろ」

むしろ消えろ。

中島「泣くぞ? いいのか?」
遊佐「知らん」
中島「いいのか? お前の人生それでいいのか?」
遊佐「むしろ泣かしたいんだが」
中島「くそう。この暴虐の化身め」

ふっ。勝った。

ましろ「えー! 遊佐君と聖ちゃん付き合うの!?」

勝利の余韻に浸る間もなく、わざとらしい叫び声が響き渡った。

聖「ま、ま、ま、ましろ!?」
ましろ「ふっふっふ」
遊佐「鬼だ。鬼がおる……」

教室中の視線は、がっちり俺たちに固定されている。
リンクどころかトレインだ。
連中の好奇心は計り知れない強さ。
となれば、だ。

遊佐「……聖! 逃げるぞ!」
聖「へ? え? ちょっ」

聖の腕を掴んで走り出す。
しかし、廊下に伏兵が居た。

??「そうはいきません!」
遊佐「誰だ!?」
??「まいごっどねすを誑かすとはやってくれますね。先輩」
遊佐「てっきりもう登場しないと思ってた影井!?」
影井「ぐはぁっ」

相変わらずのオーバーアクションで胸を押さえる影井。

影井「心に刺さることを言わないで下さい!」
遊佐「だってお前キャラ濃すぎで面倒だし」
影井「裏話もなしです!」
遊佐「で、何しに来たんだ?」
影井「ふっ、先ほどの叫びの真実を聞きに」

うわ、面倒くさいのが来た。

影井「私があれほど想っていたというのに、どういうつもりですか?」
遊佐「お前以上に俺が聖を大切に想っていた。それだけだ」
中島「うわっ、くっさ!」
遊佐「ヘイ。聖」
聖「スピリッツウィズイン!」
中島「ぐふぉっ」

乾坤一擲の一撃を受け、中島はボロ雑巾と化した。
ふっ、おろかなヤツ。

影井「認めません! 私は絶対に!」
遊佐「そういわれてもな……」

どうしたら諦めてくれるかな……。

聖「影井」
影井「……なんですか?」
聖「お前の気持ちは嬉しかった」
影井「気休めならば結構です」
聖「本心だ」
影井「…………」
聖「しかし、私は、その……」

そこで詰まるなよ。

聖「遊佐のことが……好きなんだ」
中島「ク……クサ……」
遊佐「デューンブーツキック!」
中島「ぷぎゅるっ!?」

ふぅ。KY生物は隣の教室に叩き込んでおいた。

聖「だから、すまないが、諦めてくれ」
影井「……分かりました」
遊佐「分かってくれたか」
影井「ですが、最後に……」
聖「何だ? 私に出来る事なら……」
影井「最後の思い出にボインタッチを!」

言い終わるや否や、聖にルパンダイブを敢行する影井。

聖「きゃぁぁぁぁぁぁ!」

悲鳴と共に鋭い右ストレートが放たれる。
飛び掛る影井の顔面に拳が埋まるのが、スローモーションで見える。
無茶しやがって……。
下らん心配をしてる間に、影井は5メートルくらい吹っ飛んでいた。

聖「び、びっくりした」
遊佐「大丈夫か?」
聖「あ、ああ」
遊佐「まあ、多分正当防衛だろ」

向こうでのた打ち回ってるけど。

女生徒「大丈夫ですか?」

変態に声をかける知らない女生徒。

影井「大丈夫じゃないです」

鼻を押さえながら顔をあげる変態。

影井「結婚してください」

唐突にその女生徒に告白する変態。
え?

女生徒「はい」
遊佐「ちょっとまてぇぇぇぇぇぇ!?」
影井「む、何ですか? 人の門出を」
遊佐「色々おかしいだろうが! 色々と!」

聖も後ろでぽかんとしているぞ。

遊佐「そこの知らない女子の人! 本当に了承していいのか!?」
女生徒「ええ(ぽっ)」

(ぽっ)っておい!
俺か!? 俺がおかしいのか!?

影井「では、早速学食でお茶などを致しませんか?」
女生徒「でも授業が……」
影井「まあまあ、めでたい日なのですから良いではありませんか」
女生徒「……(ぽっ)」
影井「では、先輩方、失礼します。」

女生徒をつれて去っていく変態。

聖「何だったんだ?」
中島「説明しよう」
遊佐「うわ、生き返りやがった」
中島「彼女のあだ名はふぉもるさんだ」
遊佐「本名は?」
中島「秘密だ。ちなみに影井のストーカーだ」
聖「ほう?」
遊佐「それって、ストーカーのストーカー?」
中島「お前らだけが生活してると思うなよ? 彼らの青春は広辞苑5冊くらい無ければ語れない」
遊佐「……見たくないな」
聖「同感だな」
中島「けど、もしほんとに式を挙げたりしたら、お前ら仲人なんじゃね?」
遊佐「……やめろ、頭痛がしてきた」
聖「考えたくもないな」

まあ、問題児が居なくなったから良しとするか……。

聖「あ、杏おはよう」
遊佐「ん? あ、おはよう」
杏「……おはよ」

惨事が終わった後にさらっと登場したけど、ひょっとして影から見てたとか?

中島「あ、杏。ちょっと聞きたいんだが」
杏「…………」

スルーされる中島。
ふっ、あの固有結界は易々と越えれないぞ。

中島「聖と遊佐が付き合うらしいんだけど、何かしってたか?」

ぴたっと杏の足が止まった。

杏「…………」
中島「その様子だと杏も知らなかったのか」
聖「あ、杏……これは……その……」

杏と聖の間に緊張が走る。

中島「何か空気重くない?」

明らかにお前のせいだろうが。

杏「……関係ないわ」

ぽつっと呟いて、そのまま教室に入っていった。
しょんぼりしている聖。

遊佐「大丈夫か?」
聖「……ああ、わかってたことだ……」

弱々しい笑顔。
何とかしてあげたいけど、どうしたらいいのか分からない。
二人の仲は、俺ではどうにも出来ないのだろうか……。
最終更新:2008年11月06日 02:07