遊佐「なんでこんな事になったのだろう？」
校庭の隅でぼろ雑巾のように転がりながら、人生を儚む俺。
ましろ「遊佐君。生きてる？」
遊佐「ギリギリ」
ましろ「そんなんじゃ当日生き残れないよ？」
遊佐「何で俺が……」
ましろ「う～ん。何でだろうね？」
遊佐「くそう……不条理だ」
ましろ「まあ、選ばれたんだし頑張るしかないと思うよ？」
遊佐「選ばれた……ねぇ」
そう。選ばれた。
体育祭のメイン種目への選手に選ばれてしまったのだ。
そりゃあね。１００メートル走とかなら頑張るよ？
でもさ？
遊佐「何で学校の体育祭に武器支給無差別格闘があるんだ？」
ましろ「うーん。伝統だからねぇ」
遊佐「納得いかない……」
ましろ「今年はチーム戦で済んで良かったかもしれないよ？」
遊佐「というと？」
ましろ「全生徒参加型だったら、怪我で済まないかもだし」
遊佐「そんな危険な競技、廃止にするべきだろ」
ましろ「とりあえず今年はあるんだし、頑張ろうよ」
遊佐「ふぇーい」
のろのろと立ち上がると、俺をぼろ雑巾にした人物が居なくなっていた。
遊佐「あれ？ 聖は？」
ましろ「部活に行ったよ」
遊佐「ふむ。じゃあ今日の訓練はここまでか」
ましろ「それは違うよ？」
遊佐「え？ でも相手いないよ？」
筋トレとかしたくないし。
ましろ「いるよ？」
遊佐「え？ でも、ましろちゃんしか……まさか」
ましろ「そのまさかだよ」
遊佐「いや、ましろちゃん相手に攻撃とか出来ないし」
聖ならともかく。
ましろ「じゃあ、ガードの訓練？」
遊佐「いや、殴られるのもいやだけど……」
ましろ「あれもいやこれもいや、って困ったなぁ」
遊佐「いや、でも……」
ましろ「遊佐君は強くなりたくないの？」
遊佐「うん。別に」
ましろ「えっと、じゃあ……ピンチのときとかに助けてくれないの？」
遊佐「それは助けるつもりだけど」
ましろ「じゃあ、訓練しようよ」
遊佐「え～」
ましろ「このままだと当日ひどい目にあうよ？」
遊佐「ひどい目？」
参加になった時点で十分ひどい目だとも思うが。
ましろ「バリスタというのは血に飢えた野獣の集まる、狂乱の祭りなんだよ」
遊佐「んな大げさな」
バリスタとはさっきの種目の名前だ。
ましろ「このままだと為す術もなく血祭りにあげられちゃうよ？」
なんか狂乱の祭りから血祭りにクラスチェンジしている。
ましろ「だから、少しでも鍛えておかないとダメだよ」
遊佐「うーん。仕方ないなぁ」
正直あんまり危機感はないけど、必死に説得してくれてるようだし頑張るか。
遊佐「でも、ましろちゃんを殴るとか、はっきり言って気が進まないんだけど……」
ましろ「むっ。わたしの実力が信じられない？」
遊佐「うん」
どちらかというとおっとりしてそうだし。
ましろ「むむっ。じゃあ見せてあげるよ。必殺技を」
遊佐「え？」
ましろ「いくよ～」
ましろちゃんに軽く棍棒？でどつかれ、よろける。
何だ、全然対したこと――。
ましろ「ぶらっくへいろー！」
そのままましろちゃんは体を一回転させ、勢いの乗った棍棒が俺に迫る。
遊佐「あっー！？」
バランスを崩していた俺は胸に強打をもらい、あっさり倒れてしまった。
というかすごく痛い。
ましろ「フタエノキワミ理論による一撃だよ」
呆然とする俺にましろちゃんがにこにこと解説する。
遊佐「多分、理論関係なくない？」
ましろ「それはともかく、これでやる気になれたかな？」
遊佐「正直あんまり」
殴られるのは聖で慣れてるしな！
うれしくないなぁ
ましろ「じゃあ、まじめに訓練したら何かご褒美をあげるよ」
遊佐「何かって？」
ましろ「うーん。何がいい？」
遊佐「考えてないんだ？」
ましろ「うん」
んー。仕方ないからまじめにやるかなと考えてはいたけど。
遊佐「じゃあ、せっかくだし、ましろちゃんの手作り弁当」
ましろ「え？」
遊佐「手作り弁当」
ましろ「遊佐君……」
遊佐「ダメかな？」
ましろ「遊佐君……死にたいの？」
遊佐「え？ 何で？」
ましろ「そんな恐ろしい物を希望するなんて……」
遊佐「え？ ただの弁当だよ？」
何で生死が関係するんだ？
ましろ「まあ、希望されたのなら仕方ない。死んじゃっても仕方ない」
遊佐「怖いこと言わないでよ！？」
ましろ「だってほら、手作りだよ？ しんじゃうよ？」
遊佐「えーっと、それって要するに……」
遊佐「ましろちゃんは料理をしない人？」
ましろ「違うよ？」
遊佐「違うんだ？」
ましろ「しないんじゃないよ！ 出来ないんだよ！！」
遊佐「自信満々に言わないでよ！？」
ましろ「頼まれたからには、作るのもやぶさかではないよ？」
ましろ「結果は知らないけど！」
遊佐「だから自信満々に言わないでよ！？」
ましろ「というわけで訓練をするよ？」
遊佐「ご褒美の変更を希望するのは……」
ましろ「もう締め切ったよ？」
遊佐「やっぱり？」
ましろ「ちゃんと当日に持ってくるから。胃薬忘れないでね」
遊佐「胃薬前提なんだ……」
ましろ「というわけで、訓練を再開するよ」
遊佐「分かった。当日までに胃も鍛えておくよ」
ましろ「んじゃ、行くよ？ 意識を得物に！」
遊佐「いいですとも！」
…………。
数時間後。
ぼろ雑巾と化した俺だけが校庭に取り残されていた。
念のために言うと、決してましろちゃんにボコられた訳ではない。
ただ、訓練の途中で聖が戻ってきただけだ。
何かブチ切れてて問答無用でしばき倒された。
……泣いてなんかないやい。
最終更新：2009年02月22日 23:13
