ましろの想い人


○ 昼休み・屋上

  ドラマや漫画では屋上で友達と弁当を食べるシーンを良く見かけるので、そういった喧騒に迎えられる想像をしていた。しかし少なくとも今日のヴァナ・ディール学園の屋上では、そんな姿見当たらなかった。
  聖と二人だけの屋上。
  涼しい風が俺達の間を縫い、ついでに聖のスカートを煽ってくれた。

聖:ああっ!
俺:……見てないよ。

  逆切れされる前に先手を打ってみる。

聖:「何を」見てないんだ?

  ……しかし、裏目に出てしまったようだ。

俺:大丈夫だって。
聖:「何が」大丈夫なんだ?

  またまた。スカート押さえてるってことは分かってるんでしょ?
  なんて言うとまた余計な喧嘩になりそうだし、何より俺をここに連れてきてまで話したかったコトとは何なのかが気になった。

俺:それよりも用件は何?

  腑に落ちない顔で睨まれたが、聖にとってもスカートの中身より本題の方が重要らしかった。

聖:人が来る前に終わらせるよ。

  聖の表情にいつにない真剣な色が混ざる。

聖:ましろに必要以上に近づくな。
俺:え?

  それはどういう……

聖:これ以上あいつの心に入るな。惑わすな。

  聖にましろラブなところがあるのはこれまでの態度でも明らかだった。それはあくまで友達としての情愛だと思っていたが、まさか本当のラブだったりするのだろうか?

俺:よくわからないな。
聖:それでもわかってもらわなきゃならない。

  具体的に聞いてみるしかないのか。

俺:彼女のことが好きだとか?
聖:んなっ!?

  聖は顔を赤らめて数歩後退った。図星?

聖:お前バカか!? ましろとは同性だぞ? そんなことあると思うか?

  しかしそのうろたえっぷりには、知られたくないことを知られてしまったときの動揺が明らかに表れていた。いや考えすぎだろうか。

聖:とにかく! 私のことは置いといてだな。

  赤面のまま咳払いをひとつ挟み、彼女は言葉を続ける。

聖:――ましろには好きな人がいるんだ。

  それは初耳である。

俺:そうなんだ。
聖:だから……あまり近づくな。

  でも、なぜ好きな人がいると近づいてはいけないのだろう?

聖:まだ納得がいってないみたいだな。
俺:そりゃあ、理屈になってないからな。ましろとは友達として仲良くやっているだけなんだし。
聖:そう、友達なんだよね。
俺:いい親友になれそうだよ。

  その瞬間、聖の拳が飛んだ。

俺:うおぉ!?

  ――しかし、俺の鼻の正面、ほんの一皮挟んで寸止めされる。
  相変わらず手を出すのが早い女だ。

聖:わかるまで繰り返すよ。何とも思っていないなら、彼女に必要以上に近づかないで。

  何を必死になって言おうとしているのか理解できなかったし、うなずく理由も無かったけど、ひとつだけ言えることはあった。

俺:まあ好きな人がいるってんなら、見守ってあげるだけだけど。
聖:……なら安心だ。それ、信じるからな。裏切ったらこうだ。
俺:うぐ!

  止められていた拳が前に突き出され、俺の鼻が押しつぶされた。

俺:裏切る前からやるなよ!
聖:裏切ったらこれを本気でやるってことだよ。
俺:本気じゃない割りに痛いんだけど。
聖:さらに痛いってこと。……とにかく、これで心配事がひとつ減りそうだよ。

  一際強い風に、一瞬だけ心をかき乱された気がした。
  ましろとは本当に友達のつもりだったし、これからも変わらないだろうけど、おかげでひとつ気になってきたことがある。
  彼女の想い人ってどんなやつなんだろう――


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最終更新:2007年01月08日 04:20