病院へ着くといつものあの人が話しかけてくる。
香苗「いつもご苦労様、晶子ちゃんにその彼氏」
遊佐「聞き飽きたんですけど」
香苗「いいじゃない、暇なんだから」
公然と暇だというのもどうなんだろう。
香苗「あらぁ? 晶子ちゃん何赤くなってるの?」
神契「なんでもないです……」
赤くなってうつむいている。
香苗「ま、まさか彼氏!」
遊佐「いい加減名前を覚えてください」
香苗「えーっと、湯沢?」
遊佐「惜しいけど違います……。誰ですかそりゃ」
香苗「まぁ、彼氏。まさか晶子ちゃんと」
人差し指と中指に親指を入れてぐっと突き出してくる。
遊佐「ば、な、何をいってるんです! 突拍子すぎますよ!」
香苗「あらぁ、違うの。残念」
この人は駄目だ。何が駄目かって言うともう色んな意味で……。
先生「……香苗さん。やめなさいって前から言ってるでしょう」
香苗「先生。だってこの子達からかい甲斐があってつい~」
先生「つい~じゃないでしょう」
香苗「はーい」
先生「それじゃ、行こうか」
そうして、犬に会った。犬に会って様子を見ていつものように病院を去った。

遊佐「で、ついにここまで来たんだけど……」
俺は最後の難関の神契さんの家についた。昨日とは全然違う修羅場のように思えた。
遊佐「じゃあ神契さん、よろしく」
神契「うん……」
神契さんを玄関に送り出し(?)俺は何を言うべきか考える。
神契「ただいまー。今日も遊佐君連れてきたんだけど……」
大地「何ぃ! それは本当か晶子!」
うお、親父さんの大声が聞こえてくる、何でいつもこんな時間から家にイラッシャルンデスカ!?
大地「おお、遊佐君!」
玄関から例の親父さんが現れる。
大地「どうした? 今日もご飯食べていくか?」
遊佐「あ、あの、実は今日話したいことがあって来たんです」
大地「ほう? まあ上がりなさい」
俺はこの修羅場にいまこそ乗り出す。
楓「あらー晶子、帰ってきたの? で、どうだったの?」
神契「ひゃ、お、お姉ちゃん……」
楓「んー? その様子に遊佐君が居るということは、そっかそっかー」
お姉さんが晶子を抱きしめて撫でている。
楓「よかったわねー、勇気を出して」
この流れは、まさか。お姉さんが神契さんに? いや、むしろうれしい結果になったんだけど。
遊佐「……」
俺は何も言えずにそのほほえましい光景を見ていた。

大地「それで、話とは何だね?」
この席にはあのじいさんは居ない。
家族に宣言するような話、ではないのかもしれない。
でもこの神契さんの一家に黙っているのは俺が納得できないのだ。神契さんを愛しているこの家族。だから俺は今言う。
遊佐「はい、晶子さんとつき合わせてください!」
かなり恥ずかしいセリフ。まるで嫁にくださいと言うシーンみたいだ。心臓はこれでもかというくらい痛い。
大地「がっはっは!」
そして親父さんの大笑いが聞こえた。
大地「認める!」
豪快な一言だった。
涼子「あらまあ、お父さん」
楓「はははー! すごい! 見てるこっちが恥ずかしい!」
笑い転げるお姉さん。
もう失神しそうになっている神契さん。
俺ももう放心状態だった。

で、次が一番の難関なんだけど。
雷太「……」
道場で正座で構えているじいさん。俺はその正面で正座をしていた。
遊佐「おじいさん。昨日俺の根性を試すって言いましたよね」
……。
遊佐「晶子さんと付き合うのを認めてもらうために、俺がおじいさんと剣道をしてもし一本でも取れたら認めてください」
はっきりいってほぼ勝率は0%の条件だと思う。だが、このくらいしないと駄目だ。俺はそう感じる。
別に認めてもらう必要があるのかと聞かれたらわからない。
雷太「……十日、十日待つ。それまでにやってみせい」
遊佐「は、はい!」
十日、か……。

その日の食事は流石に遠慮した。俺は帰りに本屋によって剣道の本を買った。
すこしでも知識が欲しい。さすがに練習をしないといけないだろう。
遊佐「……剣道部に入るしかないか?」
さすがにこの時期に入っても明らかに怪しい人だが、形振り構ってる場合じゃない。
やれることがあるなら全力を尽くしたい。
遊佐「……うちのクラスの剣道部といえば……」
彼女しかいないだろう。
最終更新:2007年01月15日 23:28