412話

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*第412話:欠落のヴィジョン 生まれたばかりの命は祝福される。 サスーン城から……いや、クリムトと再会した時から、神なんてクソッタレのド畜生としか思っていないが。 少なくとも幸運は、自分を愛してくれているらしい。 易々と手に入った護衛を見やりながら、アリーナ2は唇の端を吊り上げる。 片腕で、頭もイカれているとはいえ、姉とやらに対する執着心は凄まじい。 命を賭けて、どころか、命を捨ててでも自分を守り抜いてくれるだろう。 さて、この手駒をどう使うべきか。 目障りな城の連中を仕留めるのに使うか。あくまでも生きた盾として傍に置いておくか。 その前に実力を確かめておかなくては話にならないが。 そんな算段をするアリーナ2に、前を往くテリーが振り返る。 「ファリス、どうしたんだ? 早く行こうよ」 ……姉に成りすます。それはいい。 問題は、自分と『本物の姉』との名前の違いをどう誤魔化すかだった。 本音を言えば、呼び名なんかファリスだろうがミレーユだろうが構わない。 だが、ご丁寧にも写真つきの参加者名簿がある以上、そんなことも言っていられないだろう。 この顔がある限り、自分はアリーナだ。甘いことしか言わないサントハイムの王女サマだ。 澄ました顔の勇者サマと仲が良い、吐き気がするような偽善者だ。 その事実を利用してこそいるが、内心では不愉快だとしか思っていない。 お人よしの脳筋姫と一緒くたの扱いをされて、面白いはずがない。 「名簿にはアリーナっていう偽名で乗ってて、みんなもそう呼んでるの。  でも、二人きりの時なら、テリーが呼びたいように呼んでいいからね」 ……そう言ってしまったのも、その辺の不満が根底にあったのかもしれない。 そして、テリーが何を考えて偽りの姉の名を選んだのかは、アリーナ2の知ったことではなかった。 テリーと姉が引き離された理由も、探りを入れてみようとは思っていない。 とどのつまり、どうだって良かったのだ。テリーの考えや事情など。 重要なのはどうやって利用してやるか。そこだけで。 ――シンプルな思考の仕方は、アリーナ譲りと言えるのだろうか。 欠けた心が宿る瞳は、果てしなく冷酷に、少年の姿を映していた。 行く手に見える、樹木の形をした消し炭と抉られた大地。 ラムザは周囲を警戒しながら、その一つに手を触れる。 温かみは、もう、感じられない。 「戦闘があったとしても大分前、か。  状況からして雷撃魔法みたいだけど、範囲も威力も桁違いだな。  さっき言ってた雄叫びみたいな音って、これのことかな?」 そう言って、ラムザは足元のアンジェロに目をやった。 『雷の音とは違うと思ったけど……』 不安げに身を摺り寄せつつも、アンジェロは首を傾げる。 「まぁ、音の件はいいや。  とにかく、並みの術者にできる芸当でない事だけは確かだよ。  気をつけて行動した方が良さそうだ」 『そうね。私の知り合いでも、ここまでできるのは本気になったリノアしかいないもの』 「……リノアって、君の飼い主の女の子だよね?  そうは見えなかったけど、名の知れた魔道士か何かなのかい?」 『有名なのはお父様とお母様の方よ。それに、リノアは魔道士じゃなくて魔女よ』 魔女。その異名を持つ存在の禍々しい姿が、ラムザの脳裏を過ぎる。 「あのさ……まさかとは思うけど、その子は巨大な竜を従えていたりしないだろうね?」 『違うわ。彼女を守ってるのはスコールよ。  あとは森のフクロウの仲間達と、Seedの人達かしら』 『スコール』『森のフクロウ』『シードの人達』。 それらの単語からラムザが想像できるものは、字面通りの光景でしかない。 「話……通じるといいなぁ」 どこか根本的な部分を勘違いしたラムザは、引きつった笑いを浮かべながら、力なく肩を落とした。 「さて、どうしよう。ここじゃあちょっと見晴らしが良すぎるかな」 『そうね、もう少し身を隠せる場所が良いと思うわ。  ゆっくりお昼ゴハンも食べたいし』 「あれ、もうそんな時間だっけ」 『そんな時間どころか、とっくに過ぎてるわよ。ほら』 言われるまで気づかなかったが、確かに太陽は大分傾いてきている。 詳しい時間はわからないが、午後三時過ぎといったところだろうか。 「少し山へ入って、そこで食事にしようか」 もちろん、食事中に探している相手とすれ違いになってしまう可能性も否定できないが、 こんな場所で食事を取るリスクを考えれば、数%に満たない確率を気にする余裕はないだろう。 万が一とはいえ、パンを咥えたまま死ぬようなことになってはご先祖様や仲間達に顔向けできない。 『山って、あっちの?』 「そうだけど、なんで?」 ラムザの問いに、アンジェロは俯きながら答える。 『何となくだけど……嫌な予感がするの』 「動物のカンってやつかい?  まぁ、本格的に山登りするわけじゃないし、深入りしなければ大丈夫だよ」 ラムザはそう言って、山の麓へと歩き出す。 それでもアンジェロは何かを言おうとしていたが、やがて諦めたように首を振り、彼の後を追った。 アリーナ2の後を追って山道を下りながら、テリーは思う。 ――城の人間を皆殺しにしてでも、ミレーユを取り戻す―― その誓いを忘れてしまったのは、いつのことだったろうかと。 『姉』は今、テリーの傍にいる。 けれど、彼の心は満たされていない。 姉が遠くに行ってしまうような喪失感。手を伸ばしてもすり抜けそうな虚無感。 必要とされないのではないのかという寂しさ。 ――もしかしたら、それは、心のどこかが真実に目を向けていたせいかもしれない。 けれど、テリー自身は自分の無力さのせいだと思っている。 姉のことを忘れ、引き換えとばかりに手にした強さ。 姉を守るために力を求め、確かに身に付けたはずなのに、守るどころか何の役にも立てていない。 そんな不甲斐なさと、姉を失う恐怖に、心が屈してしまっているのだと。 強くなりたい、今度こそ姉を守りたいと思いながら、テリーは歩く。 その姿を見かけた青年がいたことは――果たして不運だったのか、幸運だったのか。 「テリー!」 行く手の方から声が上がる。 視線を向ければ、岩の陰から飛び出した、特徴的な前髪のハネ。 そして見覚えのある、精悍なのか平和そうなのかわからない顔。 「……ラムザ?」 「やっぱりテリーか! 良かった、無事みたいで。  もうビックリしたよ、気づいたら君達とはぐれて一人になっちゃってたしさ。  湖の島でアンジェロ――あ、この犬ね。女の子なんだって――見つけて、一緒にここまで歩いてきたんだ。  いやもう疲れちゃったよ。誰も見つからないしさ」 再会早々に、ラムザは呆れるほどのスピードで自分の行動を説明し始める。 アリーナ2はおろか、レーベの件で多少は慣れたはずのテリーでさえ、口を挟む隙を見出せない。 心なしか、アンジェロも呆れているように見える。 そんな二人と一匹の反応を気に止めもせず、ラムザは言葉を続けた。 「だからね、向こうの方で休憩しがてら食事をしてたんだ。  そうしたらアンジェロが君の声を聞きつけてくれたんだよ。  ねぇ、君がここにいるってことは、ファリスも近くにいるんだろ?」 ラムザは事もなげに言った。同時に、アリーナ2が身を固くする。 それに気づかず、テリーは苦笑しながら答える。 「何言ってるんだよ。ファリスならここにいるじゃないか」 「……は?」 間抜けた声を上げながら、ラムザは目をぱちくりさせた。 テリーが指し示したのは、栗色の髪に赤目の少女。 どう見てもテリーと同い年、下手をすれば年下かもしれない。 当然のことながら、紫髪に緑眼のファリスとは似ても似つかない。 そして、混乱するラムザに追い討ちをかけるように、少女が叫ぶ。 「テリー、騙されないで! そいつはあたしを襲ったモンスターが化けてるのよ!」 「はぁ!?」 わけがわからない。一縷の望みと助けを求めて、ラムザはテリーに目をやった。 だが…… 「なるほどな。ラムザの格好で俺たちを謀ろうというわけか!」 あろうことか、テリーは雷鳴の剣を抜き放ち、ラムザに迫る。 「ま、待て、僕は本物だッ! 話を聞いてくれテリー!」 「問答無用!」 鋭い刀身が稲妻のように疾る。 ラムザはジャンプでその一撃を交しながら、全力で情報を整理し始めた。 わかっていることは以下の三点。 『理由はわからないが、テリーはあの少女をファリスと思い込んでいる』 『少女の方は、僕に対して明確な敵意と悪意を持っている』 『本物のファリスはテリーと同行していない』 そこから導き出される仮説は二つ。 一つは、少女が幻影の魔法か何かでテリーを騙し、操っている場合。 その場合、ファリスは少女に殺されたと考えるべきだろう。 もう一つは、テリー自身が何らかの理由で精神を病み、ファリスと少女を取り違えている場合。 この場合、ファリスもテリーの実の姉ではないという可能性が生まれるわけだが…… レーベでのかみ合っていない会話からして、真実であるとするなら後者か。 岩の上に着地し、再び宙へと飛び上がる。同時に、テリーの斬撃が虚空を切った。 大きな弧を描く刃の軌跡に、ラムザは思わず悪寒を覚える。 一秒でも遅れていれば、そしてジャンプをつけていなかったら、今ごろ胴体を真っ二つにされていただろう。 (どうにかして、テリーを正気に返せないか?) パラノイア――俗に言う妄想病患者への説得は困難を極めるが、それ自体は不可能ではない。 自分の話術を持ってすれば、何とか上手くやれる自信はある。 だが、問題はテリーが聞く耳を持ってくれないという事だ。 卓越した話術でも、聞いてくれなければ文字通りお話にならない。 (あるいは、少女に手を引いてもらうよう頼むか……) そんなことも考えたが、アリーナの表情を見た瞬間、その気は失せた。 何せ戦いを見ながら、唇の端を吊り上げて笑っていたのだ。 その邪悪さたるや、主催者の魔女とも引けを取るまい。 しかも一対一ならともかく、戦況は彼女に圧倒的有利。 果たして説得で手を引かせることができるか? 答えはNO。最低でも対等の状態に持ち込まなければ、この手合いは話し合いには応じない。 (下手に逃げれば、あの剣の魔法を使ってくるだろうし……) 雷鳴の剣の威力はレーベで見ている。 広範囲に降り注ぐ雷撃の雨は、避けることも防ぐ事も厳しいと思えた。 まして、戦線を離脱するならばアンジェロを連れて行かなくてはならない。 (……アンジェロ? そうだ、アンジェロはッ!?) ラムザは慌てて視線を巡らせる。あの利発な犬の姿はどこにもない。 いち早く戦場から逃げてくれたのだろうか、と考えた瞬間―― 吼え声と共に、短い悲鳴が上がった。 茶色の弾丸に直撃されて、テリーの身体が宙を舞う。 『大丈夫、ラムザ!?』 「アンジェロ!?」 テリーを蹴飛ばし、華麗に着地する。 魔女のペットという肩書に相応しい雄姿を見せつけながら、アンジェロは吼えた。 『貴方たち! これ以上ラムザに手を出すというなら、私が相手になるわ!』 当然、言葉自体はラムザ以外には通じないのだが、ニュアンスは伝わったようだ。 「ふざけるな、畜生の分際で!」 苛立ったテリーが雷鳴の剣を振り上げる。 美しい刀身に雷光が漲り、雷雲が渦を巻く。 だが――その魔力が解き放たれる事はなかった。 ――アリーナ2がテリーをけしかけたのは、彼の利用価値を試すという目的があったからだ。 かつての仲間と姉の言葉、どちらを信用するのか。 姉を信じるとして、果たして仲間に牙を向く事ができるのか。 そういったメンタル的な面では、まだ合格ラインと言えたかもしれない。 しかし。 「つっかえなーい。こんな奴ら仕留めるのに何分掛かってるの?」 強烈なブローが、無防備なテリーの背中を捉える。 悲鳴を上げる間さえ置かずに、ハイキックが雷鳴の剣を弾く。 回し蹴りが鈍い音と共に左足に食い込み、四撃目を――入れかけたところで、腕を止め、後ろに飛び退いた。 突進をかわされたアンジェロは、けれどアリーナ2の追撃を受ける事無く、踵を返して彼女と相対する。 唸り声を上げるアンジェロと、険しい視線を注ぐラムザから間合いを取り、アリーナ2は肩を竦めた。 「もう、腕一本無くしてる時点で気付くべきだったわね。  こんな足手まとい、もういらないわ」 「ね……え、さん?」 地に伏し、鮮血を口から零し、テリーが顔を上げる。 捨てられた子犬のように、必死で縋るものを求めるように、アリーナ2に視線を注ぐ。 けれどアリーナ2は、鼻で笑い飛ばした。 「バーカ。あたしと、犬にも劣る雑魚が、血の一滴でも繋がってるわけないじゃない。  自惚れないでよね、このキチガイ男。  そのまま死んでよ。邪魔だし、目障りだから」 そして、テリーは見た。 スカートの中から覗く尖った尾を。悪魔のような笑顔を。 どこまでも冷たい、蔑むような赤い瞳を―― 「テリー! わかったろう、そいつは君の姉さんなんかじゃない!」 ラムザが叫ぶ。 「思い出せ! 君の瞳と同じ色の髪を持つ、あの勇ましい女性の事を!  緑色の瞳を持つ、優しい女性の事をッ!  妹を、君を、家族を思いやる気持ちを持った――君の姉さんの姿をッ!」 その言葉に紫色の瞳が揺れた。 魔王が滅び、失われた記憶に気づいた時に、本来の色を取り戻した瞳が。 「そんなこと思い出す必要なんかないわよ!  どうせみんな、ここでくたばるんだからね!」 真紅の風がラムザに迫る。 アリーナ2の拳が唸りを上げ、走る。 神速の四連撃に一度でも捉えられれば、後は避けることもできぬままサンドバックと化すだろう。 けれど。 「くたばりはしないさ。こんなところで」 ジャンプを身に付けているラムザの逃げ場は、前後左右だけではない 山の中という場所は確実にラムザの味方をする。 斜面や岩、高低差のある地形。そして生い茂る木の葉の陰。 着地点を見定めることさえ容易ではないのに、まして、空を駆ける相手を拳で捉えられるだろうか。 「それに死ぬとしたら、僕ではなく君の方だね」 「どうして? 何か必殺技でも隠し持ってるっていうの?」 余裕の笑みを浮かべるアリーナ2を見据え、ラムザは笑い返しながら言い放つ。 「決まってるだろう。強い人ってのは、他者を庇うだけの余裕を有しているものさ。  人の力を頼りにして、あまつさえ簡単に使い捨てるなんて、実力の無い『雑魚』だけが取る行動だよ。  君は自分が強いとでも思ってるようだけど、とんだお笑い種だね。  井の中の蛙大海を知らず。君は井戸の中でいきがってるカエルと同レベルだよ」 プツン、と音が聞こえたような気がした。 「あたしが、雑魚……?」 アリーナ2は拳を止め、真紅の瞳をラムザに注ぐ。 背筋が凍りそうなほどの殺気を、しかし彼は平然と受け流しながら、言葉を続けた。 「おっと失礼。  カエルは自力で生きるし、他者を庇うこともするから……それができない存在はカエルより下だね。  今度カエルに会ったら謝っておかないとね。同じ扱いをするなんて悪い事をしたよ。  ……ああ、まだそこにいたの、君?  尻尾巻いて逃げたと思ったんだけど、やっぱり雑魚は頭も悪いんだね」 にっこりと笑うラムザに、真紅の風が迫る。 その一撃を避けられたのは、奇跡か、ラムザの実力の賜物か。 だが、怒りで我を忘れたアリーナ2は、ラムザが考えた以上のスピードを持って地面を駆けた。 (しまった、挑発しすぎたか?) ラムザが舌打ちする。その視界に映るのは、着地点に先回りし、地面を蹴るアリーナ2の姿。 (早い! ……つかまるかッ!?) ――アリーナ2は気付かなかった。 ラムザが何故、悪口を並べたてて、彼女の気を引こうとしたのか。 彼は、気付いていたのだ。 テリーの服の裾を噛み、必死で引き摺ろうとするアンジェロの姿に。 だが、ラムザも見逃していた。 テリーが、アンジェロに抗うように、雷鳴の剣へと手を伸ばしていたことだけは。 片腕は、とうの昔にない。 片足は有り得ない個所で、有り得ない方向に曲がっている。 純白に輝いていた背中の偽翼は、砂と渇いた血で汚れ、見る影もない。 どこが壊れてしまったのか、涙は止まることを知らない。 精神も肉体も悲鳴を上げているはずなのに、どこにそんな力が残っていたのか。 逃げようとするアンジェロとは反対に、前へと這いずり――その束を掴む。 テリーが手にした強さの象徴とも言うべき、その剣を。 「――うおあぁあああああああああああああああああああああっ!!」 絶叫と共に、剣から魔力が迸る。 全員の視界を紫電が駆ける。 降り注ぐ光の雨は、アリーナ2を、ラムザを、アンジェロを、テリー自身をも飲み込んで―― ――どれほどの時が立っただろう? 汚れた翼がはためいて、テリーの身体が浮き上がる。 焦点の合わない虚ろな瞳が、地面に倒れたラムザとアリーナ2を捉える。 けれどそれは数瞬のことで、テリーは二人に背を向けると、ゆっくりと空を飛び始めた。 「レ、ナ………」 ラムザの言葉でも、ファリスの顔を思い出させることはできなかった。 思い出せるはずがないのだ。 テリー自身が殺めてしまった姉の顔を、壊れた心が思い出させてくれるはずもない。 だからテリーは会ったこともない『妹』を求める。 彼女ならば、姉の顔を覚えているだろうから。 彼女ならば、偽者や魔物に惑わされることもなく、本物の姉を見つけ出してくれるだろうから。 「レナ……一緒に、姉さんを探そう……」 テリーは呟く。切ないまでの願いを込めて。 「暮らそう、三人で……もう一度、静かに……」 祈るように、呟く。 「誰にも邪魔させないから・……邪魔な奴は、俺が、みんな片付けるから……  だから、一緒に……今、迎えに行くから・……」 ――その瞳に宿った感情は、果たして何と呼ぶべきなのか。 左腕を無くした天使は、折れた左足をだらりとぶら下げ、作り物の翼を広げて。 壊れた誓いと家族の幻影だけを胸に、一人、宙を駆けた。 浮いては沈み、沈んでは浮く、不安定な意識。 忌々しい声をどこか遠くで聞きながら、アリーナ2は必死で覚醒しようと抗い続ける。 けれど、全身を走る激痛がそれを許さない。 『……大丈夫だよ。思ったより軽症で済んだ』 闇の向こうで喋っている、言いたい放題に言ってくれた、クソッタレの男。 雷が与えた重い痺れさえなければ、その舌を引き千切って犬に食わせていただろうに。 『テリーが操ったのかな。どうも、彼女に集中して落ちたとしか思えないんだけど』 そう。天から降り注いだ雷撃の大半は、アリーナ2の身体を打ちのめした。 ――実の所、それは「あらゆる魔法をかわすことができず、必ず効果が発揮されるようになる」という 『悪魔の尻尾』の呪いがもたらしたもので、テリーが意図したわけではないのだが。 少なくともラムザと――ラムザの考えを聞いたアリーナ2は、テリーの仕業だと信じた。 『まぁいい、早くテリーを追おう。  混乱してるみたいだし、僕らで保護してあげないと……』 ワン、という犬の吼え声がして、足音が二つ遠ざかっていく。 二人が止めを刺さなかったのは、ピクリとも動かない彼女を死んだと勘違いしたためか。 それとも、テリーを追い駆けるため、あえて無視しただけなのか。 アリーナ2にはどうでもいいことだ。 ただ、この身体が自由を取り戻したら、自分が『雑魚』ではないことを証明してやろうと思い。 最低でもあの二人だけは、この手で腸を抉り出して、散々苦しませた末に殺してやると…… そんな殺戮の誓いを胸に刻んでから、彼女は押し寄せた闇に意識を委ねた。 【アリーナ2(分身) (HP1/5程度、気絶、全身麻痺(時間経過で回復))  所持品:E:悪魔の尻尾 E皆伝の証 万能薬  第一行動方針:皆殺し(ラムザ、テリーが最優先。アリーナは殺さない?)  最終行動方針:勝利して、自分の力を証明する】 【現在位置:カナーン北の山岳地帯】 【テリー(DQ6)(HP1/3程度、左腕喪失、左足骨折、飛行中)  所持品:雷鳴の剣 イヤリング 鉄の杖 ヘアバンド 天使の翼  第一行動方針:レナを探し、姉を見つけ出す  基本行動方針:自分の行動を邪魔する者、レナの敵になりうる者を皆殺しにする】 【現在位置:カナーン北の山岳地帯→移動】 【ラムザ(話術士 アビリティジャンプ)(HP4/5)  所持品:アダマンアーマー ブレイブブレイド アンジェロ  第一行動方針:テリーを追い、保護する  第二行動方針:仲間を集める(ファリス、アグリアス、リノア優先)  最終行動方針:ゲームから抜ける、もしくは壊す】 【現在位置:カナーン北の山岳地帯→移動】

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