第292話:動かざること山の如し
このゲームが始まって、多くのものが無念とともに命を落とした
この大陸を駆け回り愛するものを探すものがいた
自らを狙う敵から逃げんと、あるいは相手の息の根を止めんと駆け回るものがいた
だが、このゲームが始まって、いまだに開始位置から一歩も動かないものがいた
何時の間に眠ってしまっていたのか。
地を揺らす大きな地鳴りで
ブオーンは目を覚ます。
朝空に響く魔女の声。
その中にかつて自分を倒したものの名が含まれていた。
「そうか…あのガキ死んだのか…」
自分を倒したものすら殺される世界。
やっぱり動かなくて正解だったな、などと思っていると魔女が新たに続ける。
『これより二時間を『変革』の時とする。
御主等は新たなる舞台にて殺戮を続行してもらう。』
その知らせにブオーンはため息をつく。
できることなら、このままじっと動かず最後までやり過ごせないかと思っていたからだ。
自分の巨体では身を隠して進むこともままならない。
もし移動中に自分より強い敵に出会ったらと思うと…
ブオーンの瞳に弱気の光が宿る。
ブオーンはあたりを見渡す。
そもそもここはどこら辺なんだろう。
そういえば地図の確認どころか、いまだにザックすら空けていない。
そう思い、再度周りを見渡し誰もいないことを確認すると、ブオーンはザックに手をかけ器用に爪先で空けてゆく。
「…何だコリャ?」
中から出てきたのはハート型の器のような物と。
包まったじゅうたんのような物。
じゅうたんについていた説明書を読む。
『魔法のじゅうたん:これに乗れば浅瀬くらいならスイスイ越えていけるぞ
丸めてしまえば持ち運びも簡単!』
とはいえ、あまりにも自分のサイズと見比べ、このじゅうたんは小さすぎる。
とても乗れるとはとても思えない、そう諦めるブオーンだったが。
「…いや、試す前から諦める事も無いよなぁ」
そう思い直し、魔法のじゅうたんを広げその上に乗る。
しかし、というか案の定魔法のじゅうたんはブオーンの重さに耐え切れず地についた。
だが、地面をこすりながらも魔法のじゅうたんはくじけなかった。
地面をこすりながらもブオーンを乗せ、ゆっくりながら前に進む。
それは傍から見ればそれは山が動いているように見えただろう。
地図を広げ最も近い旅の扉を目指すブオーンと魔法のじゅうたん
その瞳には、先ほどまでの弱気な光ではなく、確かに強い、くじけぬこころが宿っていた
【ブオーン 所持品:くじけぬこころ、魔法のじゅうたん
第一行動方針:旅の扉に向かう】
【現在位置:レーベ南西の山岳地帯→ゆっくりと移動中】
最終更新:2008年02月17日 23:33