第17話:一緒
「お茶、いれましょうか?」「ああ」
お城の中にあった台所。そこで私はお湯を沸かす。
彼――たった今出会ったばかりの旅の方は、大きなテーブルに突っ伏しながら、ぼんやりと窓の外を見ている。
疲れているのだろうか。それとも、こういうだらけたポーズが好きなのだろうか。
どちらの理由でも構わないけれど。
「……あーあ、あいつや
ハッサンや
バーバラは大丈夫かな」
「お友達ですか?」
カップに注いだ紅茶を運びながら私は聞いた。
「友達というか、仲間だな」
「きっと優しい人たちなのでしょうね」
「ああ、機会があったら君にも紹介するよ」
「ありがとうございます」と微笑みながら、私は紅茶を差し出す。
「これでうまいケーキがあればいいんだけどな」
彼はそう言って、砂糖も入れずにそのままぐいっと飲み干した。
私はダメだ。ミルクを入れて冷まさないと飲めそうにない。
ようやく飲める熱さになったようだ。私はゆっくりと、緋色の液体を口に運ぶ。。
「おいしいですね」
自分で入れた紅茶を自分で誉めたのはやはり変だったのだろうか。彼の返事は無い。
「ごめんなさい、付き合わせてしまって」
やっぱり返事は戻ってこない。仕方ないけれど。
「本当は一人でいくつもりでした。
でも、怖かった。たまらなく怖くて決意がつかなかったとき、あなたが現れて」
どこから吹いた風なのか。彼の髪が静かに揺れた。
「嬉しかったです。私のことを気遣ってくれて。一緒に行こうと誘ってくれて。
私、とても嬉しかったんです。だからこんなことをしてしまいました」
彼は答えない。答えられない。
「覚めない悪夢の世界にいるより、永遠の眠りにつきたかった。
絶望の中誰かに殺されて死ぬぐらいなら、少しでも安らいだ気分の中で逝きたかった」
ただ、命の抜けた体だけが、椅子にもたれかかっている。
もうすぐ私も彼のようになるのだろう。
「ごめんなさい、旅の人。身勝手な願いに付き合わせてしまって。
ごめんなさい、勇者様。あなたのことを置いて逝ってしまって」
やがて体が痺れ始め、視界が白く濁りだしてきた。
バランスを保っていられずに、懐に入れたままの小瓶を落として割ってしまう。
中身は無い。全部、二人分の紅茶に入れてしまった……
「――さようなら」
それが私の最期の言葉になった。
【現在地:アリアハン城・台所】
【
アモス死亡】
【
ローラ死亡】
【残り 134名】
最終更新:2007年08月11日 23:24