第114話:夕暮れの哀悼
三人――レナ、
エリア、
ギルバートは、存外早く意気投合することができた。
それは、「クリスタル」という共通の話題があったことが大きい。
話してみれば、それは明らかに違う世界のものであったが、
それでもこの状況で、絆を結ぶのには十分なものだった。
「ここにいても仕方ないわ。誰かと合流したいなら、危険はあるけど人の集まるところにいかないと」
レナが提案すると、にわかに元気を取り戻したギルバートが頷いた。
「そうだね、僕もそう思う。この近くなら、レーベの村だろうね」
「けっこう遠いですね…」
「なに、日没あたりにはつくさ」
そんな会話をしながら歩き出して、しばらくのことである――あの声が聞こえたのは。
あの忌々しい声はあたりから消えた。青年たちに暗い影を残して。
死者の名前が告げられたとき、最初に反応をおこしたのはレナであった。
手頃な岩に座って、綺麗な唇に手を添え、じっと耳を傾けていた彼女は、
「
クルル」と呼ばれた瞬間目を見開きだんと立ち上がり、その変わりかけの空を見上げた。
次に反応を起こしたのは、ギルバートだった。
一見すると女性に見紛う端正な顔立ちの彼は、雪のように白い肌をますます青白く、
唇をがたがたと震わせただ一点を見つめていた。
その姿を見れば、唯一反応を示すことのなかったエリアにも、
彼らに何があったのかは容易に想像がつき、その心痛を察すれば、なんと声をかけてよいかもわからない。
………
放送の少し前のことである。
「水のクリスタル…」
エリアの口からその言葉が発せられたのに、レナは驚きを隠せなかった。
自分たちのいた世界とこの世界は、まったく別の次元のものに思っていたからである。
いや、実際のところはそれで正しいのだが、そのようなことがわかるはずもない。
「たしかに、私は水のクリスタルの加護を受けているわ。でも、どうしてそれが?」
「私は水の神殿の巫女です。わかります、心の中にあるその光は、クリスタルに選ばれた…」
「水の神殿?」
エリアの話を遮って、思わず聞き返した。
「水の神殿…そんなのあったかしら。風の神殿じゃないの?」
「風の神殿…?いえ、水の神殿ですよ」
レナは記憶を辿ってみたが、それらしきものは思い当たらない。
水のクリスタルがあったのはたしかウォルスの塔である。
そこのことだろうか?しかし、巫女がいるという話は聞いたことがなかった。
「ウォルスにあったよね、水のクリスタルは」
「ええ、ウォルス?そこどこですか」
「知らないんだ」
共通の話題を話しているはずなのに、話がまったく噛み合わない。
「あの…ちょっと、いいかな?」
申し訳なさそうにギルバートが口を挟んだ。
「水のクリスタルはミシディアにあるんじゃなかったかな?
それに、クリスタルに選ばれた戦士っていったいなんのことだい?」
「ミシディア?」
「…もしかして、ううん、やっぱり…知らないのかい」
三人は顔を見合わせると、この奇妙な状況に押し黙った。
………
エリアはふっと息をついた。
「クリスタル」という象徴的なものを共有する人間に会えたと思ったのも束の間、
それはまったく別の世界のこと。それと同時に、深い感銘もうけた。
自分の元いた世界以外にもクリスタルが存在し、
同じようにクリスタルに選ばれた戦士がいるという事実、
その人と水の巫女たる自分が会えたことに、運命の力を感じたのだ。
現に、彼女――レナの中にクリスタルの輝きを感じたのだから。
しかし――今その戦士の一人が死んだとするならば…。
それもまた運命なのだろうか?
それとも、運命だとか、もはやそのような力では抗えない状況なのだろうか。
手持ち無沙汰で、エリアは名簿をめくった。
エリアはあっと声をあげそうになるのをやっとの思いでこらえた。
つい先まではなんの変哲もなかったその名簿に、
血の滲んだような朱色の線が、ところどころに引かれているのである。
よくみてみれば、それはどれも先に名前を呼ばれたものたちの欄に引かれていた。
やるせない怒りにも似た哀感が、エリアを襲った。
名簿を閉じ、潤んだ瞳を閉じて――それは場の空気に影響されてかもしれないが――刹那、場違いな明るい声が響いた。
「いきましょう!さっき話し合った通り、レーベの村に」
いきましょう、というのが、どういう意味なのか少しエリアは迷ったが、それはどうでもいいことだった。
「今、名前で呼ばれた中に、クルルっていたよね。その子、私の仲間なんだ。…まだ、14歳なのにね」
「そうだ…
セシルと
ローザも、死んだ!」
ギルバートは吐き出すように叫んだ。
「ローザは…セシルの恋人だった。二人とも、いっしょに…いったのかな」
ギルバートは震えの収まらぬ膝頭をおさえて、遠くを見つめていた。
レナはもう落ち着いた表情向かうべき方角に体を向けている。
その冷静な挙措の中に、固く握りしめられた拳を、エリアは見逃さなかった。
「ええ、いきましょう。クリスタルの光を、信じて」
他に言うべき言葉が見つからなかった。
【エリア 所持品:妖精の笛、占い後の花
第一行動方針:レーベへ 第二行動方針:
サックスと
ギルダーを探す】
【ギルバート 所持品:毒蛾のナイフ
第一行動方針:レーベへ 第二行動方針:
リディアを探す】
【レナ 所持品:不明
第一行動方針:レーベへ 第二行動方針:
バッツと
ファリスを探す】
【現在位置:レーベ東の平原】
最終更新:2008年02月15日 00:52