第174話:レナとエリア
ヘンリーとビビが話すその横で、赤く目を腫らしたレナが、
エリアに泣きながら語っていた。
その言葉は不明瞭でまとまっておらず、聞き取りづらかったので、少しわかりやすくまとめる。
「ねえ、エリア…私、何もできなかったわ。本当に、駄目よね…。いったいどうして気づかなかったのかしら。
あんな臆病な人が、この状況で一人で外を歩き回るなんて、ありえないのに。
本当に、どうして気づかなかったのかしら。
この村に、私たち以外誰もいないなんて、ありえないのに。ゲームに乗った人がいたって、おかしくなかいのに。
ねえ、私、何もできなかったのよ。
そう、いつだってそうだった。私は、人の命を救えたことなんてないの。
たくさんの人が、何かのために、私の目の前で死んでいったわ。
一度でも、それを止めることはできなかった。
…そういえば、普段野宿するときなんかも、たいていは姉さんと
バッツが見張りをしてくれた。
危ないときは、いつも二人が私を助けてくれた。言ったかしら?私とバッツの出会いを。
それなのに、どうして私は何もできないの?
あのとき、私は
ギルバートを止めるべきだった。
ううん、それどころか、あたりを常に警戒してしかるべきだった。
そもそもここにきたのだって、誰かに会う為じゃない。危険を承知できたのに…。
それなのに、ああ、私、本当にバカだった。忘れてたのね、完全に。
ねえ、エリア。私、あなたと楽しくおしゃべりできて、本当に嬉しかった。
なんだか、
クルルと話してるみたいで。
でも、クルルはもういないのよね。
私、わかってなかった。全然。逃げてた。死を受け止めてなんていなかったの!
ああして、目の前で、冷たくなった彼を見るまで…わかっていなかった…
ううん、わかろうとしていなかったの。
ねえ、エリア…私が今泣いているのは、何も彼の死が辛いからじゃないのよ。
もちろん、ギルバートの死は悲しいわ。
でも、それよりもっと、もっともっと…私は怖いの。
だってそうでしょ?死ぬかもしれないのよ。ギルバートみたいに…クルルみたいに…
そして、今周りに姉さんはいないの…バッツもいないの!
前にも一度、こんなことがあったわ。そのときは、飛竜が助けてくれたっけ…。
…言わなかったかな、飛竜のこと。私、助けられてばっかりよ。
ねえ、今、誰が私を助けてくれるの?
あの人?あの森で、あなたたちを殺そうとした?そんなはずないじゃない。
私はあの人の言葉に従って、この宿屋にきたわ。
けれども、本当のところ、私はあの人のことを信用なんてしてない。
当たり前じゃない。殺そうとしてたのよ、あなたたちを…。
それでどうして、あっさりということをきいたかわかる?
誰でもよかったのよ…ただ私に、手をさしのべてくれるなら、その言葉に従おうと思ったの。
でもね、これはやっぱり駄目。全然安心できない。
…エリア、私ね、強いんだよ。剣だって。
そりゃバッツや姉さんには負けるけど…城の近衛兵なんかより強かったんだから。
バッツに教えてもらってからは、本当に強くなったのよ。
それに、魔法ならバッツにも勝つ自信があるし。
それでも、私、何もできなかった。
ねえ、エリア…これじゃいけないのよね?ううん、いけないの。
私、決めたわ。
姉さんと、バッツを探すつもりだった…。
でも、それは多分、無理なのね。今の私じゃ、絶対に会えないと思った。
だから、やめる。探さない。
それが、きっと二人にあえる一番の方法なのよ。
大丈夫、バッツも姉さんも、私なんかと違って、本当に強いから…」
エリアは頷いて答えた。その答えも、涙混じりで、やはり不明瞭であったが。
「レナさん、まず、あまり自分を責めないで下さい。
あなたがいなければ、私もギルバートさんも、あの森の中で死んでいました。
それに、私とギルバートさんこそ、あなたに甘えていたんです。
…ただ、あの人は、ほんとうに私たちのことを殺すつもりだったのか…
いえ、そりゃあ、あのままいけば、間違いなく殺されていたでしょう。
でも、私は思うんです。
レナさんが来る前に、あの人は私たちを殺せたはずだと。
しかし、そうしなかった。何故かはわかりませんが…何か、迷っていたのかもしれません。
とにかく、私がそのとき感じたのは、今のような恐怖ではなく、むしろ生への欲求でした。
本当に、あんなことは初めてでした。
使命だとか、そういうのとは無関係に、がむしゃらな生への欲望…。
いったいどうしてなのか、私にもわからないのです。
…レナさん、私は一つ、隠し事をしています。いっても信じてもらえないだろうと…
いいえ、本当に怖いのは、信じて貰ったときのことかもしれませんね。
久しぶりなんです、私と同じくらい…といっても、四つも年上ですけど…
それでも私にとっては、同じくらいといえるんです……
…すみません、話がずれてますね。言います。
私は、一度死んでるんです。あ、やっぱり驚きますよね。
冗談でも、嘘でもないです。
光の戦士をかばって、矢に射抜かれ、存在を消されました。
なんか、逆ですよね、普通。でも私は、それを当然のことだと思っています。
それが、私の使命だったからです。
レナさん、私がここにきて、一番不安だったのは何だと思いますか?
それは、どうしてここにいるのかが、わからなかったことです。
おかしいですよね。私は生前…なんだかこの言葉もおかしいな…
ええ、私にははっきりとした使命がありました。
水の巫女としての、使命がありました。
ですが、ここはいったい何なのでしょう?
私は何故ここにいるのですか?
私が今泣いているのは…そう、その意味じゃレナさんと同じです。
ギルバートさんの死が悲しいからばかりじゃなくて、そのことが急に現実のものとして、私に問いかけてきたのです。
この問題は、私にいい知れない恐怖を与えます。今、この瞬間も。
人はみな、何かのために行き、何かのために死んでいくと…そう思いこんでいました。
事実、私のまわりにいたのは、そのような人たちばかりだったんです。
それで、この状況は何なのでしょう?
ギルバートさんは、何故生き?何故死んだのでしょう?
それを考えたとき、私は怖くなりました。涙が溢れて、止まらなくなりました。
…でも、少しわかった気がします。
烏滸がましいかもしれないけれど、ギルバートさんは…私たちと出会うために、ここまできてくれたのではないでしょうか?
レナさんは、とても強い意志を得ました。
…すみません。私、こんな風にしか考えられないんです。
そのように育てられ、生きてきたんです。
でも、もしそうだとしたら…私は、今、なんのために、ここにいるんだろう…」
そのとき、
ターニアの叫び声が、辺りに響いた。
レナはそれを一瞥して、続けた。
「エリア…あなたは、水のクリスタルの巫女、よね。私は、クリスタルに選ばれた戦士…。
もし、私が何かのためにここにいるのなら…
エリア、あなたは私に勇気をくれた。
私は戦う。エリア、あなたを死なせない…」
続いて、カルナック城を彷彿とさせるように、あたりを火の手が囲んだ。
レナは立ち上がった…その手に、聖剣エクスカリバーをもって。
【エリア 所持品:妖精の笛、占い後の花
第一行動方針:現状打破 第二行動方針:
サックスと
ギルダーを探す】
【レナ ジョブ、アビリティは次の人が適当に。
所持品:エクスカリバー、他は不明
第一行動方針:現状打破 基本行動方針:エリアを守る】
【現在位置:宿屋】
最終更新:2008年02月15日 00:54