第398話:Salva me, fons pietatis.
ウルの村ではまだ混乱が続いていた。カーバンクルの出現、レナの突然の逃亡。充分過ぎる程の騒動だ。
だが彼らが混乱している現時点での最大の理由は、やはり
エリアの重傷だった。
「早く治れ……治れっ!」
ソロは深い傷を負ったエリアの胸に、自分自身の魔力を込めた回復呪文を必死にかけていた。
ピサロもそれを手伝い、
ターニアは出来るだけ血を見ないよう宿屋で水や薬の調達をしていた。
そして「自分の事は良い、まずはエリアだ」と頑なに治療の拒否をしていた
ヘンリーだが、
ビビは彼を何度も何度も説得し、そして何とか彼の手当てをする事は出来た。
「あーあーあー!俺の手はもうこれで良いから!後だ後!後の傷薬は全ッ部エリアにだ!!わかってんな!?」
ヘンリーの怒号にも似た叫びを聞き、ターニアは傷薬を持ってエリアの倒れている場所へ向かった。だが、
「あ……ごめ、なさ……血が……ごめんなさ…い……やっぱり……」
「ビビ、この小娘を宿屋で休ませろ。血を見すぎて疲れが生じている」
「う…うん!おねえちゃん、早く行こう?」
「ごめんなさい……本当に……ごめんなさい……」
「小娘、貴様も耐えた方だ。本当に倒れる前にベッドで寝ておけ……よくやった、助かったぞ」
だがターニアも限界だった様だ。宿屋のベッドで療養する事になってしまった。
これで、回復呪文の有無に関係なく人の怪我を治すことが出来る人間は……怪我人のヘンリーを除いて3人。
足りない。足りなさ過ぎる。
回復呪文が使える人間が更にいれば。せめて
ロックだけでも帰ってくれば。
エリアの顔色は悪い、青ざめている。元々白かったその体も、今は青白い。最悪の状況だ。
「おい、帰ったぞ!」
が、その時ソロ達の元へロックが帰ってきた。これでやっと治療がスムーズに出来るとソロは喜ぶ。しかし―――
「すまん、また怪我人連れてきちまった……左足に酷い火傷だ。どうにかできないか?」
「どうにか……できませんよ!今の状況じゃ!もっと人手があればいいですけど!でも……っ!!」
更なる怪我人の出現に、ソロは戸惑いを隠せなかった。
今はエリアとヘンリーの怪我の治療に専念しなければならない。
故にそこで火傷を負った怪我人が来ても、その怪我人を切り捨てなければならない可能性も出てくる。
「とにかく今は……エリアさんを!」
ソロは断腸の思いで、そう叫ぶ。
今はエリアを必ず助けなければならない。
必ず生かし、そしてまた彼女が笑えるようにしなければならない。
「でもソロ!こいつは……」
「いくらなんでも、そんな余裕は……」
「応急処置くらいは!」
「人手が足りないんです!!」
そう言い争いをしている彼らは気づかなかった。
自分たちの傍に近づく者がいたという事に。
そう、彼女たちは―――
「あ、あのさっ!!」
突然女の子の声が聞こえた。
ソロは声を追う様に視線を移すと、そこには少女と……奇妙な、魔物の様なものがいた。
「何ですか!?今は精一杯なので……すみませんけど後で……」
「アタシは
リュック!突然だけどさ……あたし達にも、手伝わせて!彼女の治療!」
「わたわた、僕はわたぼうっていうんだ!僕も手伝うよ!」
少女と魔物は、突然そう言うと支給品の袋を遠くに投げた。
「ほら、これで丸腰だしさ!……信じて、くれない?」
「ピサロ、ちょっと治療頼んだ」
「わかった」
ソロは一旦治療を留めて立ち上がり、2人を見た。
「何故手伝いたいのか、その理由を聞かせてください」
その問いに、リュックは一寸間を置いた。言葉を探しているらしい。
「あの…実はさ!あたし達、前の世界でレナとエリアに出会って一緒に行動してたんだよ、ね」
「……え!?」
「だから、レナが急にあんな事して、あたし達には止められなかったからさ……だから、せめて……」
言葉の最後の辺りは、リュックの声は完全に暗くなっていた。
「お願い!今だけで良いから信用して!お願い……お願いだから……」
両目に涙を浮かべ、そう懇願するリュックを見て、ソロは信用しないわけにはいかなかった。
「じゃあ、あの火傷を負った人の応急処置をお願いします!それが終わったら……」
「エリアとヘンリーっていう人の治療の手伝いだね!」
「お願いします!」
「大丈夫!カモメ団の名に賭けて、絶対治すから!」
リュックとわたぼうはそう答えると、急いで
バッツの左足の応急処置を始めた。
それを確認すると、ソロはまたエリアの治療をしている場所へ戻った。
「ソロ……信用するのか、奴らを」
「ピサロ、今は人手の確保だ……察してくれ。それに僕は彼女達を信じたい」
そして、治療は続いた。
時間だけが過ぎる。だが時が経つにつれて、光が見えてきた。
バッツの応急処置を終えたリュック達が手伝いに来てくれたのがよかったのだろう。
エリアの汗を拭い取り、水を用意したりなどの雑用をこなしてくれる事はとても有難かった。
「ソロ、お前は魔力を使いすぎだ。後は私がやる」
「大丈夫だ……最初から、温存する気なんてない」
ソロはピサロの提案を却下し、自分の魔力を使い回復呪文を使い続けた。
そしてソロの魔力が尽きかけた時、エリアの容態は遂に回復の方向へ向かう事となった。
未だ意識は戻らないが、呼吸はしっかりと整っている。遂に、終わった。
「よかった……やっと………」
「終わったか……」
「いや、まだだ!皆さん!少しですが傷薬はまだあります!それをヘンリーさん達に!」
ソロはそう言うと、立ち上がろうとする。だが足に力が入らず倒れそうになってしまった。それをロックが受け止める。
「おいおい、大丈夫か?」
「ごめんなさい……ちょっと眩暈がして……」
「だから魔力を使い過ぎだと言っただろう、馬鹿者」
横からピサロが呆れたように指摘する。
そしてリュックはエリアの体を背負い、自分達の支給品も回収すると一足先に宿屋へとエリアを運んでいった。
そして宿屋室内にて。
ターニアは心労の蓄積が効いた様でベッドで寝ており、バッツも別のベッドに運ばれ眠っていた。
エリアは何の問題も無く眠っている。
そしてリュックが血塗れの服から着替えさせたらしい。清潔感には困っていない。
そしてヘンリーは、エリアの様子を見ていた。
自分も大変な怪我をしているのだが、それでも他人を気遣っている。
「ねぇ……」
「ん?ビビ、なんだ?」
「手……大丈夫?痛くない?」
「ああ、大丈夫大丈夫。なんかマシにはなってるから、治った後も支障ないと思うぜ」
ビビの不安な問いにも笑って答える。明るく事実を述べているおかげで、ビビの不安も取り除かれた。
そんなやり取りをしていると……。
「レナァ!!」
そんな叫びが聞こえた。
そしてそこにいる全員が、驚きながら声の主を見た。
声の主――先程まで寝ていたバッツ――は、ベッドから上半身を起こし息を荒くしていた。
悪夢でも見たのだろうか、脈絡の無い叫びで飛び起きたその姿は異様だ。
「あれ……レナ……?夢か……って、いっててて…背中が……ん?あれ、ここは……」
そして一人で混乱している。
それは至極当然のことなのだが、そこにいる人間はそれを知る由も無い。
「おい貴様」
「え?あ、ちょっ……おま……誰?」
「今"レナ"と叫んだな。知り合いか?」
「え?ああ……さっき、えっと……」
ピサロの問いにバッツは迷う。そして必死に思い出していた。
自分がどういう状況に置かれていたのか。
そして、それを思い出した。残酷な記憶を、レナのあの怯えた眼を。
「そうだ……レナが森の中で怯えてて……で、俺が近づいたら……フレアで……」
「成程、攻撃してきたのか」
「ああ、そうだ。それで……あ!
ローグ!ローグは!?ローグはいないのか!?」
「ローグ?」
「ああ、銀髪ショートで口調は俺みたいなので……知らないか?」
ロックは、その並べられた特徴で気がついた。
そうだ、あの森でバッツの事を自分に任せた男。
そして囮作戦だと言って一人でレナに戦いを挑んだ男。
「俺は……そいつに頼まれて、お前をここまで運んだ」
「な……っ」
「そんであいつはレナに一人で戦いを挑んだよ」
「一人で……じゃあ、どうなったんだ!?レナは!?ローグは!?」
「すまない、俺はその後の事は知らない」
「知らない……?知らないって、知らないってなんだ!?どういう事だてめぇ!!見捨てたのか!?説明しろ!!」
バッツがロックの胸倉を掴み叫ぶ。だがピサロの「怪我人がいる、静かにしろ」という言葉で、すぐに鎮静はした。
そして火傷で痛む足を摩りながら、バッツは溜息をついた。そして言う。
「とにかく……説明してくれ」
「ああ、わかった……でもまずはレナのことから話さないとな」
そしてバッツに今までの経緯を話した。
レナがヘンリーを殺そうと襲い掛かったこと、その事件の弊害としてエリアが瀕死の重傷を負ったこと。
そしてレナは混乱して森へ逃げ、そしてソロたちはエリアの手当てをし――――
「俺は、レナを探しに行って……そして、倒れてるお前とあいつに出会った」
ロックはそう言うと、今度はロック自身がローグの事を話した。自分の森にいたその時間に起こったことを全て話した。
レナの恐怖に支配された表情。ローグが自分に提案した事。自分が見た最後のローグとレナの姿。
そしてその話が終わると、バッツは苦虫を噛んだような表情で物事を整理し、ある事を頼む事にした。
「じゃあ、俺の代わりに誰か森に行ってくれないか?そこで2人がどうなったか……見てきてくれ」
そのバッツの頼みを聞いたのは、意外にもピサロだった。
「私が行こう。この状況、私にも些か解せない部分が多すぎる」
「ありがとう。地図で言うと……位置は大体ここら辺だ。ローグとレナがいたらここに来る様に説得してくれ」
「居なければ如何すれば良い?」
「そのまま戻ってきてくれ」
「わかった。では私は行く……その間お前達は休んでおけ」
そしてピサロは宿屋から出て行き、村からも出て行き、そして森へ向かっていった。
それを心底感謝しながらバッツはまたベッドに寝転がった。
彼は嫌な予感に憑かれていた。
ローグはもう既に自分をこの村に送るよう言って、死んでしまったのではないかと。
だがそれでも信じるしかなかった。この世界で出会った最初の友と、かつての仲間の無事を。
だが嫌な予感は、無残にも当たるものだ。
長い時間が経った後、ピサロは戻ってきた。
力なく眼を閉じ、動かない銀髪の男を抱えていた。
「ロー……グ……?」
「残念な事だが女は見つからず、この男が死んでいるのを発見した。特徴は合っていると思うが」
「合ってるよ。合い過ぎて……反吐が出る………」
ピサロはバッツの言葉を聞くと、床へそっとローグの遺体を置いた。
「そしてこれがこの男の遺留品だと思われる物だ、確認してくれ」
更にピサロは、支給品袋をバッツに渡した。
見るとその中には、当然だがあのローグの持っていた武器が入っていた。
バッツは呆然としていたが、すぐにその袋に武器を入れなおした。
そして布団を被り、重く暗い表情を浮かべた。
「悪い……ちょっとごめん、寝る。頭を整理したい……」
「そう、ですか……」
「で、誰かさ……ローグの墓でも作ってやってくれないかな?頼む……」
「わかりました。彼は、弔っておきます」
「ああ、頼んだ……じゃあ、お休み」
そしてバッツはまた眠り始め、ソロは言われたとおりローグの墓を作る為、立ち上がろうとした。
が、それはリュックに止められてしまった。曰く"まだ眩暈がするのだったら自分がやる"という事だった。
そしてリュックはローグをゆっくりと、大変そうに抱えて宿屋を出た。
「俺も手伝う」「僕も行くよ」
その直後に、ロックとわたぼうも同時にそう言って宿屋を出た。
眠り続ける3人。
勇敢な男を弔う2人と1匹。
宿屋にて静かに休息する4人。
彼らのいるその村は、いつの間にか静かに時が流れていた。
【ソロ(魔力ほぼ枯渇 体力消耗) 所持品:さざなみの剣 天空の盾 水のリング
第一行動方針:休息 基本行動方針:これ以上の殺人(PPK含む)を防ぐ+仲間を探す】
【ピサロ(HP3/4程度、MP1/3程度) 所持品:天の村雲 スプラッシャー 魔石バハムート 黒のローブ
第一行動方針:休息 基本行動方針:
ロザリーを捜す】
【ヘンリー(手に軽症)
所持品:G.F.カーバンクル(召喚可能・コマンドアビリティ使用不可、HP3/4) キラーボウ グレートソード
第一行動方針:休息 基本行動方針:
デールを止める(話が通じなければ殺す)】
【ビビ 所持品:スパス 毒蛾のナイフ
第一行動方針:休息 第二行動方針:ピサロ達についていく 基本行動方針:仲間を探す】
【エリア(瀕死からは回復 体力消耗 怪我回復) 所持品:妖精の笛、占い後の花
第一行動方針:睡眠中】
【バッツ(左足負傷)
所持品:ライオンハート、ローグの支給品(銀のフォーク@FF9 うさぎのしっぽ 静寂の玉 アイスブランド ダーツの矢(いくつか))
第一行動方針:眠って頭を整理する 基本行動方針:レナ、
ファリスとの合流】】
【ターニア(心労過多) 所持品:微笑みの杖
第一行動方針:睡眠中 第二行動方針:ピサロ達についていく 基本行動方針:イザを探す】
【現在地:ウルの村 宿屋内部】
【リュック(パラディン)
所持品:バリアントナイフ マジカルスカート クリスタルの小手 刃の鎧 メタルキングの剣 ドレスフィア(パラディン)
【
わたぼう 所持品:星降る腕輪 アンブレラ
第一行動方針:ローグを埋葬する
第二行動方針:
アリーナの仲間を探し、
アリーナ2のことを伝える
基本行動方針:テリーとリュックの仲間(
ユウナ優先)を探す 最終行動方針:アルティミシアを倒す】
【ロック 所持品:キューソネコカミ クリスタルソード
第一行動方針:ローグを埋葬する 基本行動方針:生き抜いて、このゲームの目的を知る】
【現在地:ウルの村 外(宿屋のすぐ傍)】
最終更新:2008年02月15日 01:01