第448話:二人の懲罰者
「…で二十…七、か。明るいってのに随分派手に間引かれたな」
読み上げられたすべての名前の変化を確認し、名簿をザックへ放り込む。
聞いたことのある名前はいくつかあったが内容は自分には関係ない。
ラムザの奴もまだ生きているようだ。
仲間でも死んだのか姫様がソロだ
シンシアだとやかましい。
年長二人はそいつをなだめるのが大変そうだ。
ライアンと婆さんはまあ分かってるって感じだがお姫様は今までもこんな調子だったのか?
それで自分がやったことが間接的な人殺しだけってんだから救い難いバカだ。もっとも同レベルの偽善者さんもたくさんいそうだが。
大体婆さんにしたって探してると言っていた
ドーガとやらは死んじまったし、本当に脱出できるのかねぇ。
バカと甘ちゃんの役立たずばかり残ったって何もできやしないぞ。
しかし、27人も減ればずいぶん勢力図も変化していそうなものだ。
少しは脱出計画は進んでいるのか、それともそうでないのか。流れはどうなっているのだろうか。
自分の実力、位置付けはよーくわかっているから仮に動くとして「実動」の機会なんざ1、2回だろう。
この半日は隔絶されていたし、まだ様子見で大丈夫のはず。なんせまだ60人が動いているのだから。
とにかく大事なのは生き残ることだ。
まあグダグダだがとりあえずオレの不愉快な仲間たちも街へ向かう気を取り直したようだ。
腕の時計に目を凝らせば短針が7を過ぎていた。
四人は当然ながら出迎えも、それどころか明かり一つもない街の門をくぐる。
夜を迎えやや強くなった風に晒される街の空気は冷たく乾いていた。
「暗い街…ほんと誰もいないのね。……いやな気分」
「ふむ、確かに寂しいの。とはいえ、少し探してはみないかい?」
横で会話する二人をよそに、
アルガスは彼なりに損得勘定を計算する。
こいつらはお人よしのお節介焼きで、ただでなんでも洗いざらい教えちまうに決まってる。それでは取引もくそもない。
だからそうだ、交渉するならオレだけでやりたい。
「おい、ライアン! オレ達は向こうの方を探ってみるぞ」
「…へえ」
いかにも意外なことがあったという風に
アリーナが反応する。
「チッ……なんだよ」
「ううん、アルガスってもっとやる気ないかと思ってたんだけど~」
「黙れ。俺はただゾロゾロ動くより効率よく動いた方がいいって考えただけだ。
おい、ライアン、行くぞ! お前らは向こうでも探してろッ!」
二人の方を見た戦士にジェスチャーで行くように示すとライアンは大きくうなずいてアルガスを追った。
「おおライアン、待ち合わせは街の中央、広場にしとこう。頼んだよ、気ィつけてな!」
背中へ向けて忘れていた合流の手筈を叫ぶと無言で手が上がる。
やれやれ、と向き直るウネ。
「じゃ、あたしらはあっちに行くかねぇ」
「はいウネさん。………それにしても人の気配の無い町とかお城って…あっ、なんでもないの」
「動くでない」
カナーン、その北の丘に広がる林。
既に夕焼けの朱も消え去った暗闇の中に小さな火が浮かんでいる。
光源は片腕を失った男の右手。
その光の中で目を包帯で覆った賢者がかいがいしく男の左足を手当てしている。
苦労して見つけた真っ直ぐな当て木を衣服を破りとって作った緊急の紐で固定する。
光無き故に
クリムトにはかえってテリーが痛みに顔を歪めていることが良く分かるが、決してその男の口から苦痛の声やうめきがあがることは無い。
警戒と、いくらかの不安、そして信頼が入り混じった視線を感じる。
自らの肩と渡した右手の杖を支えに立ちあがった男を認識しながらクリムトは少し前のことを思い出していた。
地のうなりと共に天に現れた魔の感覚。それを察したのか、背後のテリーも目覚めたようだ。
粛々と続く死者の羅列の中にも動ぜずにいたその気配は「
ファリス」という名が呼ばれた時にわずかに揺らいだ。
「…知人か」
投げ込まれた石が起こす波紋のようにざわつき乱れていく心の様子が感じ取れる。
だが、乱れた波がやがて広がり消えていくようにその動揺はおさまっていった。
「確かに知っている。でもそれは偽名、ただの名前だ。本当はいない人間なんだ」
「偽名?」
「そう。姉さんは何か理由が――多分身を守るために、変装してまで偽名を使っていた。それがファリス。
……だから、大丈夫だ」
再度作り上げられた都合のいいシナリオ。
いや、心のバランスを保つためにはそれはテリーにとって必要なものなのかもしれないが。
「ああそうだ、姉さんを、
ミレーユ姉さんを探さなければ。
それに、もう一人の生き別れの妹、レナも。でも、姉さんは何処に? 一緒にいたはずなのに」
「ぬぅ……」
テリーの身内にレナという者がいるという話は聞いたことはない。
編集された記憶。テリーの状態を察することができたクリムトには適切な態度が思いつかない。
「……そうか、あいつらが…! スライムナイト! 悪魔の女! …奴らが邪魔をしているんだな。
見てろ。必ず奴らを殺して姉さんを取り戻してみせるッ!!」
取捨選択した記憶をパッチワークのようにつないで作り上げたストーリー。
そんな極めて歪な形ではあるにしろ目的、悪意をぶつける敵、そして虚構の安心を備えた今のテリーの気配はかりそめの安定を見せている。
だから黒い波動に取り込まれてもいないし、今のように考えながらクリムトに話をすることも出来ているのだ。
それが理解できてしまうクリムトには結局、真実は告げられぬままだった。
やがて出来る限りの治療を終え、ゆっくりとクリムトは杖をつきつつ、テリーはその肩に体を支えられつつ、二人はゆっくりと丘を下っていく。
町外れ、林と街並みの境界線をまたぎ、寂しげな街の人気のない通りを歩く。
その頃からテリーの鼓動が少しずつ早くなっているのはわかっていた。
しかし賢者とて万能全知ではない、その理由までは分からない。
ここがテリーが封印した記憶の舞台そのものであるなどとは。
それよりもいやでも気になるのは街に蔓延する哀しみの空気のほうであり、また恐らくこの世界のいたるところで多くのものが悲しみに沈んでいるのだろう。
クリムトはテリーの変化にもっと気を配るべきであったろうか。
否、姿を現した積み重ねらてきた結果に導かれるものにどう抗うことが出来ただろうか。
異変そしてトラブルは街の中央を東西に貫く通りまで二人がたどり着いたときに姿を現した。
不意に肩にかかっていた重さが離れる。
「どうした、テ」
「あああ……? 何故だ? どうして……?」
出会ったときのように何事かを小声で呟き続ける。
盲目のクリムトには見えないがその顔は蒼白で目は大きく見開かれている。
「違う! こんな街は知らない! どうして!? うわああああっ!!」
「落ち着くのだ、テリー!」
「触るな!」
心配するクリムトを嫌い、支えにしていた杖を振り回した。
結果、振り払われ突き飛ばされたクリムトと反動を支えきれないテリー、共にバランスを崩し冷たい路面に転がることになった。
そのまま断続的に苦しげなうめきを繰り返すテリーを見、その原因を探るべく感覚を研ぎ澄ませるクリムトが捉えたのは絶叫に惹かれたのか奥の暗闇から向かってくる気配。
高速で飛び込んでくるそれが発したものは確かに聞き覚えのある声であった。
「そこの人達、大丈夫? 何があったの?」
「アリーナ…どうやら元のアリーナのようだな」
「ああっ、クリムト!? ねえ、この人どうしたの? だいじょ…ッッ!!?」
突然の絶叫を耳にしてウネを放って駆けつけたアリーナと助け起こされるクリムトの目前で、
今までとは全く相を異にした気配が立ち上がる。
片腕片脚を失いながらも鬼気迫るテリーの姿がそこにあった。
見守る二人が息を呑む前で、やがて不自然に身を傾けたテリーは片脚にあらん限りの力を込め、跳躍する。その目指す先にはアリーナとクリムト。
判断を取り戻したアリーナはクリムトを守るべく一歩前へ進み出ると、振りおろされる杖を両腕でブロック、重さが身体を走り抜ける。
バランスをとれるはずもないテリーは痛そうな音を立てて石畳へと落下した。
「ぃったぁ……。ちょ…ちょっと! あなた何よ!」
「黙れ、悪魔」
地面から見上げる視線のまま、冷たく、そして黒い感情――憎悪をのせてテリーが短く言い放つ。
再び立ち上がるべくあがきながら、テリーは敵意に満ちた視線を保ち続ける。
「ねえ、クリムト…? あいつ一体なんなのよ?」
「テリーは……事情はわからぬが随分精神が不安定になっている。
しばらくは安定していたのだが……? む、これは…黒い波動? やめよ、テリー!」
とっさにテリーに近づこうとしたクリムトとアリーナを放たれた魔力の波が包む。
「いきなり呪文!?」
「ルカナンか! テリーよ、その力は邪悪…抑えよ!……ぐうっ」
なおも近づき、身体に触れようとしたクリムトを杖の一薙ぎが襲う。
無防備の頭部を強打された賢者は、うずくまるように路面へ崩れ落ちた。
「クリムトっ! ちょっと、テリーだったっけ、あなた、何考えているの?
クリムトはあなたを心配してくれてたのよ? それをいきなり…って、またルカナン!?
人の話を聞きなさいッ!」
「戯言は止めろ!」
問い掛けるアリーナを無視してルカナンを重ねるテリーに思わずぶつけた強い語調は同じような叫びに打ち消された。
「いいか? もう貴様と話すようなことは何一つ無い……悪魔がッッ!」
再度、身体ごとぶつかるように跳躍したテリーがアリーナへ向かう。
先ほどと同様に杖を受けた腕に響く衝撃は二度のルカナンのためかより重く感じられた。
バランスの悪い身体で受身を取れないテリーは今回は落下していることさえ無視して、腕力だけで脚の高さに水平に杖を打ち込んできた。
アリーナの足と石畳の上で大小二つの鈍い音がし、二つのうめきが漏れる。
「なんだってのよ、こいつはっ!」
睨み付けた眼下でテリーは現状できる最大の動き――すなわち地面を転がって離れ、三度ルカナン。
「こいつ、もう……いい加減に……しなさいッッ!」
杖を支えに上半身を起こし、またも残された力を頼りに立ち上がろうとするテリーへ疾風のように影が襲い掛かる。
まともな対応も出来ずわずかに身をよじる程度の相手を、アリーナは弱冠の手加減をこめて蹴り飛ばした。
片腕の男が石畳を転がり、やがて止まる。
痛みが全身を苛んでいるはずだ。しかし、休むことをせずに男はゆっくり動き出した。
「悪魔が……姉さんを……返せ。いや、力ずくで……取り返してやるぞ!」
再びアリーナを射抜く憎悪を集めた視線。そして途切れ途切れにぶつけられた言葉。
うすうすは予感はしていたことがアリーナの中で明確に形を取る。
そう、自分に向かってくる敵意が一体どこからきたのか。
そう、この目の前の相手は「誰」を悪魔だと呼んでいるのか。
そう、それはもう一人のあたし。
皆が休んでいる魔法屋を出てから
サイファーは積んである箱などをぶち壊しつつカナーンを縦断する水路のほとりまでやってきた。
流れのある水面のゆらめいた輝きさえも壊したくて石を投げ落とす。
黄昏る彼を現実へと引き戻したのは、北の丘に現れた小さな灯。
やがてそれはふっと消える。
(敵か?)
相談すべきだろうか? 魔法屋の方を振り向き、しばし思案する。
しかし、サイファーはその光の場所へ一人で向かうことを決めた。
この言葉に出来ない苛立ちをぶつける相手が欲しかった。ぶつけられる敵が欲しかった。
それから、それほど茂ってはいないとはいえ暗い林に苦労しながら、丘の上までたどり着く。
誰の気配もないが、ここまでの間も誰にも遭遇しなかった。
恐らく反対側を下っていったのだろう、そう考えてサイファーはそれを追う。
そして、今。昼間イザたちを探し回った路地にサイファーはいる。
かすかな絶叫を耳にして大体の方向と位置が予測できる。どうやら街の真ん中辺りだ。
「…いい加減に……しなさいッッ!」
怒気をはらんだ女の声。質量が転がる音。
「悪魔が……姉さんを……返せ。いや、力ずくで……取り返してやるぞ!」
執念の篭った声。
サイファーが路地から飛び出すと対峙する二人の男女の姿がある。
一人は左足に怪我、左腕は喪失、見るも無惨な状態でそれでも気迫をまとい杖を支えに立っている。
もう一人はとんがった帽子、栗色の髪、素手で戦う女…どこか情報に覚えがある容姿。
思い出せる断片の情報と今目にすることができる状態。
そして一暴れしたい願望が重なり合い、ある1つの結論が出来上がった。
それからアリーナへ向けて破邪の剣を手に構えなおす。
「…なるほどな。そういやそんな人殺しがいるって聞いたっけなぁ。
おい女。そんなに殺し合いが好きなのか……?
ちょうどイライラしてるとこだ、なら…俺が付き合ってやるぜッッ!!」
三人目の声が耳に届く。それらから予測される事態は平和とは程遠い。
ようやく現場までたどり着いた老魔術師が見たものはすでに見慣れた同行者へと迫る白刃。
【アリーナ 所持品:プロテクトリング、インパスの指輪
第一行動方針:状況の沈静化
基本二行動方針:アリーナ2を止める(殺す)】
【テリー(DQ6)(HP1/3程度、左腕喪失、左足骨折)
所持品:力の杖
第一行動方針:アリーナを殺す
第二行動方針:レナを探し、姉を見つけ出す
基本行動方針:自分の行動を邪魔する者、レナの敵になりうる者を皆殺しにする】
【サイファー(右足軽傷)
所持品:破邪の剣、破壊の剣 G.F.ケルベロス(召喚不能) 白マテリア 正宗 天使のレオタード
ケフカのメモ
第一行動方針:マーダーの撃破
基本行動方針:
ロザリーの手助け
最終行動方針:ゲームからの脱出】
【ウネ(HP 3/4程度、MP消費) 所持品:癒しの杖(破損)
第一行動方針:状況確認
基本行動方針:ドーガと
ザンデを探し、ゲームを脱出する
【クリムト(失明、HP2/3、MP消費、朦朧) 所持品:なし
第一行動方針:気絶中
基本行動方針:誰も殺さない。
最終行動方針:出来る限り多くの者を脱出させる】
【現在位置:カナーンの町・中央部】
【アルガス
所持品:カヌー(縮小中)、兵士の剣、皆殺しの剣、光の剣、ミスリルシールド、パオームのインク
妖精の羽ペン、ももんじゃのしっぽ、聖者の灰、高級腕時計(FF7)、
マシンガン用予備弾倉×5、猫耳&しっぽアクセ、タークスのスーツ(女性用)
デジタルカメラ、デジタルカメラ用予備電池×3、変化の杖
第一行動方針:相手を見つけて取引
最終行動方針:脱出に便乗してもいいから、とにかく生き残る
【ライアン 所持品:レイピア 命のリング
第一行動方針:アリーナ達についていく
第二行動方針:アルガスに借りを返す】
【現在位置:カナーンの町・東南部】
最終更新:2008年02月15日 01:41