第233話:洗脳
ここはアルティミシア城の大広間。アルティミシアのしもべのうち何匹かが集まり、ゲームの管理をしている。
それは膨大な数の参加者の監視や旅の扉の調整などの仕事、また展開の記述、少し異なるがアルティミシアへのもてなしなど、
多岐にわたっており、非常にハードである。もちろん、報酬とか特別ボーナスといったものはない。
12時間で交代、控え室に入る。そこも庭園だったり宝物庫だったり、運の悪い場合は牢獄だったりするのである。
現在、昼間担当であったティアマトとウルフラマイターが同じ部屋で休憩中である。
「全ク、ハード ナ 仕事ダ!参加者達ガ死ヌ前ニ コッチガ クタバッテシマウ。体ノ アチコチガ ギシギシト鳴ッテオルワ!」
「この程度の作業に音をあげるとは。だからアルティミシア様に、牢屋に追い入れられるのだ」
「俺様ヲ貴様ト一緒ニ考エルナ。竜族ノ貴様ト違ッテ、俺様ハ デリケート ナノダ!」
「耐久力だけがとりえのくせに、よくいうものだ」
「何ダト…」
ウルフラマイターとティアマトの間に気まずい空気が流れる。が、それも一寸の間。
「ヤメダ、今ココデ争ッタトコロデ、何ノ得ニモナラン」
ウルフラマイターが壁にもたれかかる。金属のこすれる、嫌な音がする。
「全ク、アルティミシア様ハ何ノ目的デ コノヨウナコトヲ シテオラレルノカ?」
「目的が何であろうと、関係ないことだ。私はアルティミシア様に忠誠を誓った身。ただ、役割を果たすのみ」
「時ニ ティアマトヨ。貴様、生キ残ルノハ誰ダト睨ンデイル?」
「分からぬ。初めは
りゅうおうという者に目を付けていたが、まさかこうも早くも死ぬとは。あれでは竜族の恥曝しよ。
私ならば、あの5人など一瞬で灰にしてやるものを…。他の二体の竜族も見込みは薄い」
「ウン?
ドルバ トカイウ ドラゴンガ イタノハ覚エテイルガ、他ニ竜族ナドイタカ?」
「見ていなかったか?
スミスという者も、今一時的に姿を変えてはいるが、竜の一種だ。
もっとも、奴は様々な魔物に転生してきたらしいから、竜族としての誇りはもっておらぬだろうが」
会場の映像を見せる。巻物の効果が解除されそうなのだろうか、スミスの体から淡い光が発せられていた。
高位の変身呪文、モシャス。これを使うには、相当の訓練が必要である。
なりたい姿をイメージするだけではいけないのだ。相当量の魔力も必要なのだ。
そして、呪文を使ったとき、解除したときに、自身の周りの環境への対応力が変化する。これに慣れなければならない。
変身の巻物、これは訓練も魔力も必要としない。どんな魔法の素人でも、変身できる姿は限られるとはいえ、モシャスを使えるのだ。
腐った死体。ゾンビ。元は、魔術師が召使いとするために死者に精霊を憑依させたものといわれている。
精霊が抜けて、肉体が空となってしまえば、周りの魂などがその抜け殻に憑依してくるのだ。
この系統はもともと自我も意志も必要とはしない。何より、それらがあろうとも、半分腐った脳のため完全には保てない。
意識を失っても、この状態ならば、よほど多くの魂等の影響を受けない限り、体を乗っ取られることはない。
では、これに化けて、そのまま意識を失い、その状態で変身を解いたらどうなるか。
まず、闇の中をふわふわと漂っていた意識が、変身の解除によって強引に肉体へと引き戻される。
その、戻ってきた意識に、抜け殻の時に集まった意志や魂が浸透する。
結果、それらが入り込んだ分だけ記憶が抜け落ちたり、また既存の意志と新たな意志が混ざり合い、
相当の精神的ショックを受けることになる。
そこから立ち直っても、体を乗っ取られるとまではいかずとも、それまでとは全く異なる考えを持つ別人となることがあるのだ。
このゲーム会場には参加者達の生への渇望、死者達の無念が渦巻くだけではない。
アルティミシアのしもべ達の忠誠心も、アルティミシア本人の、ゲームを成功させんとする意志も渦巻いている。
当然ながら、会場はアルティミシアの造ったもの。アルティミシアの意志は、会場のあちこちに潜む。
もし、その意志の影響を強く受けてしまったならば…かつてのティアマトと同じように、忠実な僕となってしまうことであろう。
ところかわって、こちらは
カインと
フライヤ。
彼らは安全な睡眠場所を探してレーベから東の山脈の方へ移動中である。南に行くのはカインが渋った。
理由はもちろん、昼間の相手と鉢合わせる危険があったからである。その途中のことである。
「カインよ、お主も気付いておるか?先ほどから感じるこの気配」
「ああ、これは竜の気だな。それも俺たちと同じ竜騎士のものではないな。…本物の竜か」
カインとフライヤは辺りを見回す。竜騎士は、空中から相手に襲いかかる戦士。上空からでもターゲットを見つけられるよう、
目のよい者が多い。さらに、フライヤはネズミである。すぐ見つかった。
青い体色をした、小型の竜が倒れていた。念のため、武器を持って警戒しながら近づく。
「こやつ…飛竜ではないか?大分飼い慣らされているようじゃが」
「間違い無いな。仲間に加えることができれば何かと役に立つだろうが」
「が、何やらイヤな予感がするの」
あたりに漂う邪悪な気配。二人は再び周りを見回す。が、今度は何もいない。
気配が消えた。いつの間にか、その飛竜が意識を取り戻していた。
二人の顔をじっと伺っている。心の奥まで見透かされそうな目をしている。
一瞬フライヤはその目に何かを感じたような気がした。が、襲いかかってくるような様子も、殺気も無い。気のせいだろうか。
「ふむ、おかしな感じがしたのじゃが、思い過ごしか。お主も参加者のようじゃが、どうじゃ?一緒に来ぬか?
戦う気も無いようじゃし、どんな目的で行動するにしろ、仲間は多い方が心強い。」
フライヤが飛竜に手を差しのばす。
飛竜は起きあがり、鳴き声をあげる。承諾の合図のようだ。
「では、行くか。もう夜も更けてきた」
(ねぇ、アンタ、ゲームに乗ってるんだろう?)
フライヤに付いていこうとしたとき、カインの頭の中に声が響く。
「な…」
突然脳内に響いた声、しかも自分の真の行動を言い当てられ、言葉に詰まる。
(あまり大きな声は出さないでくれよ。連れの方に聞かれたら厄介だから)
すぐにカインはこの声が飛竜のものだと気付く。
(さっき心の中を見せてもらったんだよ。色々混ざっちゃいるけど、人を殺して生き残ろうっていう心が感じられた。
なんて言うか、丸見えだ)
カインは武器に手をかける。
(おっと、早まらないでくれ。別に非難してるわけじゃない。ちょっと確認を取りたかっただけさ。
心を覗けるっていっても、かなり漠然としたことしか分からないからね)
カインが武器から手を離す。殺す以外の目的があるように思えたからだ。
「俺に何をして欲しいんだ?」
フライヤに聞こえないよう、少し距離を置いておき、非常に小さな声で話しかける。
(大したことじゃないんだ。ただ、ゲームを成功させたいだけさ。やる気満々のあんたと協力して、ね)
「だが、生き残れるのは一人だ。協力しても、俺かお前か、どちらかが死ぬことになるが」
(その時は、僕を殺せばいいさ。だって、さっきまで死ぬつもりだったんだから)
カインはその話に少し違和感を感じた。が、嘘を言っている様子も無さそうだ。話を続ける。
「いいだろう。手を組もう。が、最後にもう一つ聞く。お前は何者だ?」
(僕はスミス。アルティミシア様に忠誠を誓った者さ)
会場に渦巻く、アルティミシアとそのしもべたちの意志に、スミスは洗脳されてしまっていた。
彼の心に入り込んだのは、ゲームを成功させんとする意志と、アルティミシアへの忠誠。
キャラバンでの思い出も、仲間のことも、
マチュアのことも、記憶のどこかに追いやられ、一度あの世へ旅立とうとしたことだけが、うっすらと残っていた。
【フライヤ 所持品:アイスソード えふえふ(FF5)
第一行動方針:カインと仲間を探す。まずは休めるところへ】
【カイン(HP 5/6程度) 所持品:ランスオブカイン ミスリルの小手
第一行動方針:フライヤについていき、攻撃の効かない原因を探る
最終行動方針:フライヤを裏切り、殺人者となり、ゲームに勝つ】
【スミス(変身解除、洗脳状態、ドラゴンライダー)
所持品:無し 行動方針:カインと組み、ゲームを成功させる】
※スミスは普通にしゃべれます。色々と記憶を失っています。
※スミスは心に話しかけることはできますが、相手の心の内は漠然としか分かりません。
【現在位置:レーベの村からずっと東】
最終更新:2008年02月15日 22:48