第534話:冒険のお話
「みんな、準備はいい? ここのぬしはどんなやつだろ?」
初めて見た旅の扉。そこに広がる、広くて深い異世界。今までとは比べ物にならない深さ。
深さはぬしの強さを表す。今度のぬしは相当強いに違いない。
ごくりと唾を飲み込む。それはヘルードも、グレンザも、ゴルゴも同じ。
最下層へ続く穴は、何よりも黒く、底がないように見えた。
仲間と手をつなぎ、勇気を出して穴へと飛び込む。
飛び込んだ先は深い闇。真っ暗。何も見えない。
「暗いな。みんな、俺から離れるなよ」
すぐそこにいるはずの仲間に手を伸ばす。その手は空を掴んだ。
「あれ? お~い、みんな、どこ行ったんだよ? こんなときに冗談はやめてよ」
返事はない。耳を澄ませると、聞こえるのは複数の息遣いだけ。
直ぐ隣には誰かが倒れていて、その隣にも誰かが倒れていて。それが延々と続いていた。
警戒しながら辺りを見渡すと、やはり暗闇だけがあったが…いくつかの気配を感じる。
恐らくは…他にも数人が起きていて、自分と同じように警戒しているのだ。
いつの間にか、明かりが付いた。
ただその明かりはとても小さく、蝋燭の様に儚く、そしてどこか冷たいものだったが。そして。
「ようこそ、選ばれた選手達よ…!」
その存在は、絶対的な力と悪を持っていた。それこそ自分の存在など、一瞬で消されてしまうような。
壇上に何かが積み上げられているのに気付く。
それは、ヘルードの、グレンザの、ゴルゴの、そしてタイジュで放牧していたはずの魔物たちの変わり果てた姿。
信じられない光景に足取りはおぼつかなくなり、よろけて、倒れる。
正面から目をそらすと、その先にわたぼうや、
わるぼうの背中が見えた。
(いや、大丈夫だ。わたぼうなら……)
「ねえ、わたぼう…」
こんな状況でも
わたぼうなら、わたぼうならきっとなんとかしてくれる。
そう思って、わたぼうの肩に手を置く。途端に、彼の頭が吹き飛んだ。
「わたぼうッッ!!」
「テリー! どうしたッスか!?」
とても慌てたような声が聞こえた。
辺りはまだまだ暗い。暗いけれど、命の気配も感じられる。
すぐそばに温かみを感じる光。周りには
ギード、
ティーダ、
アーヴァイン、
ロック。
ギードは叫び声で起きてしまったようだが、他の三人はもとから起きていたような感じもする。
そういえば、ティーダとアーヴァインの顔が腫れている気がする。
とにかく、魔女なんていなかったし仲間の死体もなかった。
「ううん、大丈夫。とっても怖い夢を見て…」
その夢を思い出してしまうのか、言葉に詰まる。
普段なら脅かすなよ、の一言で終わるところだろうが、状況が状況。
みな、いつどんな悪夢を見てもおかしくない、荒んだ心。
誰も彼を責めることは出来ない。
「まさか、また誰かが助けを呼んでいるとか、そういうヤツ?」
「ううん、
ロザリーお姉ちゃんのお祈りじゃなくて、ただの夢だと思う」
「そう…」
それならいいんだけどと言いかけるが、テリーの体が震えているのに気付き、グッと飲み込む。
「まだ夜は長いけど、眠れるかい?」
「怖くて眠れそうに無いんだ。もうちょっとだけ起きててもいい?」
「では、わしも起きておくとしようか。見張りも代わろう。そろそろ真夜中も過ぎたころじゃろ」
「ギードはもう大丈夫なんスか?」
「年をとると長くは眠れなくなっての。怪我のほうは大分よくなったわい。
お主らも、若くて元気なのは結構じゃが、眠れるときに眠っておかんと後々大変じゃぞ」
「全くだよな、真夜中までギャーギャー騒いでたら近所迷惑だっての」
(ロックだって人のこと言えないじゃん)
「アーヴァインくん、何か言ったかな?」
手をグッと握る音が聞こえてくる。
「じゃあお休みー!」
「ふわぁ~……やっぱりお言葉に甘えさせてもらうことにするッス」
アーヴァインに気を遣ってはいたものの、ティーダ自身はまともな睡眠をまったく取っていない。
一応眠ったふりだったはずのアーヴァインも、本当に寝息を立てている。
「まったく、眠れないんじゃなかったのかよ…。ちょっとはこっちも気遣えっての」
「なに、つらくなったらまた代わってもらうわい。ワシの体のことなら心配はいらんよ。
お主もゆっくり休むといい。明日も頼りにしておるからの」
「あー、俺としても眠りたかったんだが、あいつらのおかげで目が覚めちまった」
熟睡している二人を横目に、水分を補給する。
二人の若者が寝静まって、あたりにまた静寂が訪れる。
「テリー、おぬしはこのまま朝まで起きておくのか?」
「眠れなくてさ。寝たら夢の中にまた魔女が出てきそうで……」
「じゃあ、なんか話すか? 見張りってのも結構暇なもんだしな」
「どんな話?」
「そうだな……」
テリーとロックが話し出す。
「ええっ、一人で100人以上を足止め?」
「ああ、俺にかかれば帝国兵の100人や200人、ちょろいもんだ。逃げるのには苦労したけどな」
二人とも、冒険好きなだけあって、話すことには困らない。
「これが魔石ってやつ? なんだかあったかいね」
「バハムートの魔石だな。幻獣の中でも最強クラスだ。他にもミドガルズオルムの魔石があるらしい」
「ふーん、………出て来い、バハムート!」
「おいおいおい!! ……一瞬肝が冷えたぞ。召喚なんてむやみやたらにするもんじゃない。もうこれは終わりだ」
「え~~」
相変わらずあたりは静か。聞こえるのは虫の声と風の音だけ。
「異世界ねえ」
「うん、穴に落ちたら次の異世界に進めるんだよ」
「世界に大穴が開いてるのか?」
「うん、何故か入るたびに形が変わるんだ」
誰にも邪魔されず、二人の話が続く。
「モンスターの言葉が分かるのか?」
「うん、俺はマスターだからね」
「ドゥドゥフェドゥみたいなわけわからんやつの言葉もか?」
「どどへどぅ? なにそれ?」
「知らないか? 有名なモンスターなんだが。じゃあ
エドガーに教えてもらうといいぜ。あいつの城でいっぱい飼ってるからな」
ギードは、まるで保護者であるかのように二人の話に静かに耳を傾ける。
「異世界となると、見たこともない財宝が山ほどあるんだろうな」
「でも、一番下にいるぬしを倒さないと異世界からは戻れないんだよ」
話を聞いていて、ギードはふと考える。それは、テリーの冒険していた異世界のこと。
(この世界、テリー君の言う異世界とやらによく似ておらんか?
世界にあいた穴……別次元、いや、無への入り口のようなものか?
それによって繋がれた何重もの異世界…。
ならば、最下層には世界を統べるぬしの存在?
そうなると、魔女の居場所はもしや?)
まあ、結論を出すには時期尚早といったところ。
まだまだ情報量は絶対的に不足している。
だが、世界の謎、首輪の謎を解くカギは案外参加者の体験の中にあるのではないか。そう思える。
「イル ルカんしゅしゅ?」
「イルルカンカシュだよ。言いにくいがそういう種族名なんだ」
「変な名前のモンスターが多いなあ。俺ならもっとナイスな名前をつけてやるのに」
「例えばどんな名前だ?」
「ん~~、C・Jr?」
「……」
【ティーダ(変装中@シーフもどき)
所持品:フラタニティ 青銅の盾 理性の種 首輪
ケフカのメモ 着替え用の服(数着) 自分の服
リノアのネックレス
第一行動方針:待機
第二行動方針:サスーンに戻り、
プサンと合流
基本行動方針:仲間を探しつつ人助け/アルティミシアを倒す】
【アーヴァイン(変装中@白魔もどき、身体能力低下、一部記憶喪失、軽症、右腕骨折、右耳失聴)
所持品:竜騎士の靴 ふきとばしの杖[0] 手帳 首輪 コルトガバメント(予備弾倉×3)
第一行動方針:睡眠中
第二行動方針:ティーダが消えない方法を探す/ゲームの破壊】
【ロック (軽傷、左足負傷、MP2/3)
所持品:キューソネコカミ クリスタルソード 魔石バハムート 皆伝の証
第一行動方針:テリーと話す
第二行動方針:
ピサロ達と合流する/ケフカと
ザンデ(+ピサロ)の監視
基本行動方針:生き抜いて、このゲームの目的を知る】
【ギード(HP1/3、残MP1/3ほど)
所持品:首輪
第一行動方針:見張り
第二行動方針:ルカとの合流/首輪の研究】
【テリー(DQM)(軽傷、右肩負傷(8割回復)
所持品:突撃ラッパ シャナクの巻物 樫の杖 りゅうのうろこ×3 鋼鉄の剣 雷鳴の剣 スナイパーアイ 包丁(FF4)
第一行動方針:ロックと話す
第二行動方針:ルカ、わたぼうを探す】
【現在位置:サスーン南東・山の中、森との境付近】
最終更新:2008年02月16日 01:45