第162話:勇者と言う光
パウロは、目覚めてからやさしい女性の笑顔を見た。
本当に怖かった、でも彼女なら大丈夫と、恐怖がどんどんとなくなっていったのだ。
不思議だった、自分でも。
その後、自分のことを話した。
ロランのこと、
ムースのこと、シドーとかについて。
彼女、
セリスもいろいろ話してくれた、大切な仲間のこと、空駆ける不思議な船のこと、
ケフカという狂人のこと。
いろいろな話を聞いている途中だった、アリアハン中に響く一つの悲鳴と一つの叫び。
思わずパウロは持っていた紅茶を慌てて置く。
「セリスさん!今の声…もしかして」
「ええ、そうね。考えたくないけど……」
セリスもそこで言葉を切る、恐らく先ほどの声の主はもうこの世には居ないだろう。
ゲームに乗った人物が、自分の知り合いではないこと。
それだけを切に願っていた。
しばらく後、あの邪悪な魔女の声が聞こえた、死者の名前が読み上げられる
その中に居た
ティナと、
シャドウ。
仲間が二人…死んだ。嘘だ、そんなことがあるわけが無い、そう思いたかった。
「ムース…なんで?」
パウロも同様だったらしい、先ほどの放送で呼ばれた名前の中に、仲間が居たのだ。
それ以降、顔を下に向けてずっと呟いている。
ふと、参加者のリストを見る。ティナ、そしてシャドウのところに赤線がびっしりと敷かれている。
二人が死んだということを、もう一度思い知らせるような、現実という剣だった。
自分の中からこみ上げるやるせなさが彼女を包み込んだ。
少したってからだろうか、キィン!という一律の音が鳴る。
外から聞こえる金属音に反応し窓から外を見る、骸骨の怪物と自分と同い年ぐらいの青年が戦っている。
見るからに青年が劣勢だ、自分に出来ることならあの怪物を倒す手助けをする。できれば情報が聞きたいけれど…
セリスは、袋から樫の杖を取り出す、武器はこれしかない、だが無いよりかはマシだ。
杖を握り、セリスは青年たちを援護しに行かんと家から出ようとする、が。
そのセリスをパウロが慌てて止める、だがセリスはその手を振り払う。
「無茶ですよセリスさん!あんなでかい怪物とそんな杖で闘うなんて!」
その顔は、会った時の臆病な顔に戻っていた、セリスは冷たく言い放つ。
「パウロ?貴方は勇者でしょう?なぜ怪物と闘うことから逃げるの?」
刺すようなセリスの一言、パウロは下を向く。
「だって僕は…いつもロランとムースの後ろから援護してるだけだった。
あの二人が居たから、僕は戦って行けたんだ…あの二人が居ない僕なんて―――」
バシィッと高く音が響く、パウロが思いっきり吹き飛ばされる。
頬が赤く腫れる、痛い、ズキズキする、でもそれは痛みじゃない別の何かが。
「じゃあ貴方は勇者なんかじゃないわ、ただの臆病な戦士よ」
え?とパウロが顔を起こす、セリスの顔は子供を叱るような母親のような顔になっていた。
「本当の勇者って言うのは一人でも、どんな危険があっても、誰かを助けようとするの、例えそれが見知らぬ人でもね」
痛い、ズキズキする。叩かれた頬より心が。
何本もの槍で突き刺されているような気分だ。
「本当に、貴方が勇者の内の一人なら…私に着いて来て、そしてあの怪物と闘って」
最後の槍をパウロの心に突刺し、セリスは民家から出た。
その言葉を受けてからパウロは少し呆けていた。
(――ロラン、僕は…僕は一人で戦えるかな?
君なら戦えるだろうけれど僕は―――)
パウロはじっと己の手を見つめた、その手に託された可能性を見つけるため。
一回頷く、ゆっくりとドアに手をかけ勢いよく開けた。
破壊神を滅ぼした三つの光のうちの一つの光が、今もう一度目覚めようとしていた。
【パウロ 所持品:破壊の剣(使う気0)
第一行動方針:
サイファー達に加勢 第二行動方針:ロランを探す】
【セリス 所持品:樫の杖 シャナクの巻物
第一行動方針:サイファー達に加勢 第二行動方針:
ロックを探す】
【現在位置:アリアハン城下町東側の民家二階】
最終更新:2008年02月16日 15:11