第249話:戦いは佳境に
「危ないぞみんな!離れろ!」
ジタンが叫ぶのとほぼ同時に、目の前の男の周囲から爆炎が吹き出る。
3人はかわす間も無く、その業火の中にとりこまれる、かに思われた。
「…まずいぜこりゃ」
吹き荒れる熱風の中に立ちながら、
サイファーが呟く。
彼らと炎とを、淡い光の壁が隔てている。
3人の中で一番
クジャから離れていた
リノアが咄嗟に張ったシェルだ。
だがその彼らの命を繋いでいる壁は、その炎の勢いの前にあまりにも頼りない。
これじゃ今すぐにでも破られちまうぜ…サイファーがそう思った瞬間、ガラスのような音を立てて壁は崩壊した。
(危ねえ!)
迫り来る炎に、最初に反応したのは、3人の中で一番戦い慣れしたサイファーだ。
彼はリノアと
リュカを咄嗟に抱え込むと、手頃な大きさの瓦礫が視界に入る。
文字通り火事場の馬鹿力を発揮し、人間2人を両腕に抱え、その岩陰に飛び込んだ。
「…大丈夫か?」
炎が収まって暫くすると、サイファーはほぼ倒れこむようになっている2人に声をかける。
「うん。ありがとう、サイファー」「僕も大丈夫みたいだ。助かったよ」
2人の答えに頷きながら身を起こそうとすると、サイファーは右脚に灼けるような痛みを感じた。
剣を構えて身を乗り出そうとしたサイファーが、急に呻き声をあげ、その場にガクンと膝をつく。
訝しげにリノアが彼の様子を見ると、その足がはいているズボンと区別がつかないまでに黒く焦がされていた。
赤黒く染まった脚は痛々しげに震え、血が流れ落ちている。
「サイファー!その脚…」
「しくじっちまったみてえだ…」
苦々しく言う。先程この岩陰に飛び込んだ時に、彼だけは炎から完全に逃れられなかったようだ。
「ま、待って!今なんとかするから!」
慌てて彼を横たえ、リノアが持っている限りの回復魔法を施す。リュカも呪文で治療する。
だが、いくら治療しても、回復の兆しはなかなか見えない。
戦う事はおろか 、歩く事すらもこれでは難しいだろう。
クジャが笑いながら歩み寄ってきたのは、丁度その時だった。
「おやおや、ウジ虫同士お美しいことじゃないか…」
勝ち誇った笑みを浮かべながら、クジャがゆっくりと近づいてくる。
「心配する事は無いよ。静かにしていれば、3人揃って、楽に逝かせてあげる」
言いつつ、右手にホーリーの光りを宿らせる。
しかし、それを眼前にした彼女の眼はクジャの予想とは少し違った。
怯えるような、許しを請うような惨めな瞳ではない。
逆に決然とした、静かな怒りを秘めている瞳がクジャを睨んでいる。
「…気に入らないね」
不機嫌そうに眉をしかめながら、ホーリーを放つ。
…が、その一撃はあえなく弾かれ、無力化されることとなる。
リノアの背から生えた、長大な純白の翼によって。
「リュカさん、サイファーの脚をお願い」
今度はリノアが、訝るクジャに向かってホーリーを放つ。
反応すら出来ない攻撃だった。気がついたときにはクジャは魔法の直撃を腹に受け、十数メートル後方まで押し戻されていた。
アルティミシアと同等の力を得た”魔女”が、そこに立っていた。
追い討ちをかけるように、リノアの右手に炎が宿る。
ええい、と呻きながら、クジャも魔法を放つ。
フレアとホーリー、二つの閃光が空中でぶつかり合い、互いに威力を無としあう、かに見えた。
リノアの放ったフレアの威力はいまだ死なず、まっすぐにクジャを目指して突き進む。
意表を突かれて避ける事も出来ず、またも後ろへと押し戻された。
この状態のリノアの強みは、ただ魔力が高まるだけではない。
魔法そのものの威力が、段違いに上がるのだ。それこそ、通常の魔法など比べ様も無い程に。
「おのれえええぇえぇ!!!」
半ば狂ったように怒りの雄叫びを上げながら、クジャは両手に魔法の光りを宿らせる。
リノアも迎え撃つように詠唱を始める。
それから暫くの間、常識外れに激しい魔法の応酬戦が続いた。
魔法と魔法は相殺しあい、辺りを夜が明けたかのように照らす。
トランスによって圧倒的な力を得たクジャと、ヴァリーによって無尽蔵の魔力を引き出したリノア。
どちらも全く譲らなかった。
だが、戦いの均衡は以外と簡単に傾いた。
眩しくて直視できない戦いを、リュカはサイファーの手当てをしながら見ていた。
2人ともありえない威力の呪文を次々と放って行く。
リュカは、数十メートル向こうにいるクジャの姿を見、自分のすぐ傍で戦っているリノアを見、
そして彼女の上空に、自然の物とは考えられない黒雲を見た。
雲はリノアの真上で渦巻き厚さを増し、黒雲の中には雷のような閃光が散見できる。
―――まさか。
「リノア!危険だ!避け…」
言うが早いか、魔女を天からの雷が射抜いた。
思わぬ攻撃を受け、仰け反るリノア。
その隙を逃すはずもなく、無数の閃光が彼女を襲う。
「…くっ!」
慌てて彼女の腕を掴み、間一髪の所で魔法の直撃を避ける。
「ごめん、リュカさん…」
「大丈夫?」
「動けない…」
雷の一撃がよほど効いたのか、白い翼は焦げ、痛みにひきつるような表情をしている。
「ふう…凄まじい物だね。トランスしたこの僕に、正面から魔力で張り合うだなんて」
不意に、あのシニカルな声が聞こえた。見ると、息を荒げながらあいつが近づいてくる。
「しかし力はあっても頭は無い。あんなありきたりな不意打ちで沈むだなんて、笑っちゃうよね」
ナルシストの言葉に、銃声が重なった。
「…無駄だよ」
目を細めながら、クジャ。
その手には、まだ熱を持っている銃弾が握られていた。
「そんなオモチャじゃ、子供の仇討ちなんてできないよ…」
「黙れ!!」
ガァン、ガァン、ガァン…
何発撃っても、クジャは銃の攻撃をうけつけない。
そうしている内に、彼我の距離は徐々に縮まってきた。
「さて、覚悟はできたかな、”お父さん”?」
不気味な笑いを浮かべながら、クジャが右手に炎を宿らす。
「くそ…」
唸りながらデスペナルティの引き金を引くが、焼け石に水、全く効果が無い。
その間にも、クジャは瓦礫の山を踏みつつこちらにやってくる。
瓦礫の山…そこまで考えが及び、リュカは頭の奥に何か閃くような物を感じた。
瓦礫の山、瓦礫の山…そうか。そうすれば。
「さよなら…」
クジャがフレアを放つ瞬間、リュカは彼ではなく彼の足下の地面に銃撃を浴びせた。
突如巻き上がった砂埃に視界を覆われるクジャ。
そのせいで少し体勢が崩れ、フレアの狙いが大きく逸れる。
その僅かな隙を突き、背後に回…ろうとすると、砂塵の中から拳が突き出てきた。
クジャに顔面をしたたかに殴られ、倒れこむリュカ。
「この程度で不意を突けるとでも?甘く見ないで欲しいね」
クジャは彼を容赦なく蹴りつけ、踏みつける。
そのクジャの背後に、剣を構えたサイファーがいた。
「!?」
「っらあああああ!!!」
それまで立つ事も出来ず座り込んでいたサイファーが、左足一本でクジャに跳びかかる。
その体は思ったよりも強い勢いでクジャに迫り――思ったよりも早く反撃を受けた。
「調子に乗るな!」
サイファーが突き出す剣の切っ先を掴むと、そのまま強引に投げ飛ばす。
次いで追い討ちをかけるように、倒れたサイファーめがけて火球を放つ。
サイファーも「クソが!」と毒づきながら、剣から炎を放って反撃する。
二つの炎は空中で激突し、熱風となって消えうせた。
「…おや?」
暫くして、クジャが訝しげに呟く。
「おかしいな。君ごときの魔法で僕の魔法を打ち消した?」
確かにおかしい。サイファーは魔力は強いと言っても到底今のクジャにかなうはずもなく、むしろかなり劣るはずだ。
…そんなザコが、僕の魔法にまともに対抗した…?
吹き荒れる夜風に肌寒さを覚える。さっきまでは全身が燃えているようだったのに。
ふと、自分の右手を見てみる。
その手の肌は氷のような蒼さが薄れ、所々がトランス前の白色に戻ってきている。
…ああ、そういうことか。
「運がいいね君達。この状態もそろそろ限界のようだ…」
ニヤリと不敵に笑い、再び宙に浮いて倒れた3人を見下ろす。
「まさかこんなにも早くトランスの力が尽きようとは…流石に一日で集めた魂ではこんなものかな?」
クジャのトランスは他とは違い、数百数千の生き物の魂の力を吸収して得た力だ。
半日死霊の魂をかき集めたからと言って、その数はたかが知れている。
吸収した魂の数が足りずに、トランス状態を維持しきれなかったらしい。
「まあ、それでも君達を葬るぐらいはできるかな…?
どうせだ。冥土の土産に僕のとっておきを見せてあげるよ…」
クジャは反撃する余力も無い3人に告げると、ある魔法を準備し始めた。
「震える魂よ…」
周囲の瓦礫が、カタカタと音を立てて揺れ始める。
「僕に従う死霊どもよ!」
彼の周りに、淡い魔力の輝きが集まり始める。
「今こそ僕に力を!あの虫ケラどもを滅ぼせ!」
魔力が空に高く高く放たれ、上空で一点に集中し、
「―――アルテマ!!!!」
無数の矢となって降り注いだ。
「―――グランドリーサル!!!!」
大地に襲いかかる魔力の紅い矢を迎え撃つように、
地上の、リュカ達からは少し離れた地点から蒼い矢が放たれる。
紅と蒼の閃光はアリアハンの上空で衝突し、昼のように辺りを照らす。
太陽が何個もあるような錯覚。
リュカもリノアもサイファーも、それにクジャもその眩しさに目を閉じる。
ようやく光が収まり、眼を明けると、そこには文字のような形の記号が数十と浮かんでいる。
そして蒼い矢が放たれた地点にはジタンがいた。
といっても先程までの彼とは外見が大分違う。
体はテラの光のように紅く、瞳はガイアの光のように蒼い。
すんでの所でトランスし、クジャのアルテマを防いだのだった。
「おやおや…あれだけしようとしても出来なかったトランスまでして何故この3人を?」
「言ってるだろ、クジャ…人を助けるのに理由なんか要らない…」
クジャの訝しげな問いに、短剣を構えながらジタンが答える。
トランスに必要な物は、つまりは感情の昂ぶりである。
ダメージに対する怒りだとか、敵に対しての憎しみなどに限った物ではない。
彼がトランスできた理由は、死に瀕した3人を救いたいという一心、ただそれだけだ。
実際、ジタンは今は亡き
ガーネットを魔物の手から救い出そうとした時も、こうしてトランスの力を発揮して見せた。
「僕への怒りではなく、仲間を助けようとする感情…得たばかりの仲間を失ってしまう環境への反発… まあ、君らしいと言えば君らしいね」
クジャの笑みからは、余裕の他に焦りも少し認められる。
「そんなことはどうだっていい!今とどめを刺し…」
言いながら次の裏技を繰り出そうとすると、ジタンは眩暈のような感覚を覚えて膝をついた。
体からみなぎる力が、急速に逃げていく。
トランスの力が、たった一回の技で尽きかけていた。
「…腐っててもアルテマと言う事か」
内心安堵したように、クジャ。
「僕がいくら弱っていたとしても、やはりアルテマを叩き落すのは容易ではなかったようだね?」
その通りだった。
アルテマの矢がアリアハンに迫る時、ジタンはとにかく渾身の力を込めてそれを迎え撃った。
その皺寄せが、もう来た。
いつのまにか、クジャはジタンの目の前に降り立っていた。
その姿は、もう魔物のような姿ではない。
彼もまた、トランスの力を使い果たしていた。
「僕も奥の手を使ってしまった後だが、幸い逃げる事ぐらいは出来そうだよ」
クジャの言葉と同時に、先程よりも大きな雷が近くに落ちた。
瓦礫が砕かれて粉塵となり、煙のように辺りを包む。
その光景は丁度、城下町で
セリスやサイファーを奇襲した時の物と同じだった。
「くそっ!」
ジタンが毒づきながら彼がいた筈の地点をグラディウスで一閃するが、空しく空を切る。
「覚えておくといいよジタン!今は退いてやるが、最後に生きる権利を手にするのはこの僕だ!
それを忘れるな!」
そう遠くの方から叫び声が聞こえ、遅れてやっと煙幕がやんだ時には、クジャの姿はどこにもなかった。
…………逃がした。
ジタンは思わず地面に拳を叩きつける。
後少し、後少しでクジャを倒せたのに。
もう少しで、あいつを止める事ができたのに。
震える拳を握り締めていると、ふとリノア達のことが気にかかった。
「逃がしたな…」
歯軋りしながら呟くリュカに歩み寄る。
その顔は、まるで修羅のように険しかった。
当然だ。なんといってもクジャは、彼の息子の仇でもあったのだから。
「大丈夫か?」
「僕はなんとか。でもこの2人が…」
答えられ、ジタンは傷を負った二人を見る。
リノアはサンダガのせいでところどころに火傷を負っているが、まあ問題は無さそうだ。
問題はサイファーだ。
リノアとリュカが治療したため火傷の出血はなんとかなっているが、
それでも深く残る傷跡が痛々しい。自力では歩けなさそうだ。
「脚がシャレになんないくらい痛えぜ。お前ら、あとでちゃんと治療してくれよ」
サイファーは軽口を叩いてみせる。それだけの元気があるならまだマシか。
「ね、ところでサイファー」
「あん?」
思い出すように、ヴァリーを解きながらリノアがサイファーに語りかける。
「あの女の人…
ロザリーさん、だっけ?は何処に行ったの?」
「武器防具屋だ。そこが今は一番安全だろうぜ」
「よし、行こう」
ジタンが言うと、4人はゆっくりと歩き出した。
「ふう…少し危なかったね」
アリアハン城下町を遠くに眺め、クジャ。
ダメージが思ったよりも酷い。今日の所はもう何処かに隠れて体を休めるのが良いだろう。
「
セフィロス…君とは少し別れるよ。まあ、君のことだから、また会えるよね」
独りそう呟き、歩き去った。
【リュカ(HP 1/5程度) 所持品:竹槍 お鍋(蓋付き) ポケットティッシュ×4 デスペナルティ スナイパーCRの残骸
第一行動方針:武器防具屋まで行く
基本行動方針:家族、及び仲間になってくれそうな人を探し、守る】
【サイファー(右足負傷) 所持品:破邪の剣、破壊の剣 G.F.ケルベロス(召喚不能) 白マテリア 正宗 天使のレオタード
第一行動方針:武器防具屋まで行く 基本行動方針:ロザリーの手助け 最終行動方針:ゲームからの脱出】
【ジタン(重傷、右足負傷) 所持品:英雄の薬 厚手の鎧 般若の面 釘バット(FF7) グラディウス
第一行動方針:武器防具屋まで行く 第二行動方針:仲間と合流+首輪解除手段を探す 最終行動方針:ゲーム脱出】
【リノア(重傷) 所持品:賢者の杖 ロトの盾 G.F.パンデモニウム(召喚不能)
第一行動方針:武器防具屋まで行く 第二行動方針:
スコールを探す+首輪解除手段を探す 最終行動方針:ゲーム脱出】
【現在地:アリアハン城堀→武器防具屋へ】
【クジャ(HP 1/5 負傷、MP大消費) 所持品:ブラスターガン 毒針弾 神経弾
第一行動方針:どこかに潜伏する 第二行動方針:皆殺し 最終行動方針:最後まで生き残る】
【現在地:アリアハン城下町東→移動】
最終更新:2008年02月16日 22:31