第8話:賢者と…
「殺し合い……殺し合いって…ねぇ?」
レーベの村の真ん中で、誰にいうとも無く呟いていた青年がいた。
彼の名は
セージ。皮肉にも殺し合いの場として選ばれたこの地で「賢者」と呼ばれている青年だ。
蒼く、そして女性のように伸びた髪が風で揺らぐ。
彼は眼を閉じて静かに考えていた。
悟りを開いて時が過ぎ、闇から世界を救って時が過ぎ……そしてこのような殺し合い。
また自分は人を殺して時が過ぎていくのを感じるのだろうか。
それは嫌だった。
世界を救った人間としてのプライドが許さなかった。
「さぁて、行こうか」
目を開けてそう言うと、彼は歩き出した。
街の外へと向かうつもりである。歩きなれた道は彼の足を進ませる。
だが出口に近づいたその時、草叢から金色の何かが見えているのに気付いた。
「金色の何か」、それは髪だった。
後ろの髪を短く切りそろえている子どものようだ。
「頭隠して尻隠さず…いや、逆か」
そう言って苦笑すると、草叢へと近づいてこう言った。
「出てきなよ。取って喰ったりしないよ?僕はグルメだからね」
言ったが、隠れている子どもは出てこようとしなかった。
それを確認すると、更に言葉を続ける事にした。
「そりゃあまぁ…警戒するよねぇ。でもなんか僕だけ警戒を解くってのもフェアじゃないなぁ」
そして最後に一言。
「出てきなよ、ね?」
最後の言葉から、ほんの数秒。
草叢の中から金髪の少女が出てきた。
隠れていた場所が場所だっただけに、服や顔が少し汚れている。
そして、泣いていた。
声を押し殺しているのか、静かに震えている。
「………」
その姿を静かにセージは見つめる。
そして目線を合わせるように腰を下ろした。
すると少女は泣くのを…少しずつだが止めていった。
それをじっと何も言わずに待つセージの前で、震えながらこう言った。
「あなたも…ひっく…あんなに人を……ぅっ、殺すの?」
少女が見た光景。
大人たちに埋もれて何も見えなかった少女が、苦労してやっと見た光景はあの惨劇だった。
爆発音、飛んでいく首。小さな少女にはそれが大きな苦しみになった。
"殺されたくも殺したくもない"という強い願いが、少女をあの行動に駆り立てたのだった。
「大丈夫」
セージは静かに微笑んで、そう言った。
「大丈夫。君にもそんなことはさせないし、僕もそんな事しない。
……もし信用してくれるなら、一緒にいかない?」
そう言うと、少女はこちらに駆けてきた。
そして顔をセージの胸に埋めて、泣き始めた。
旗から見るとアンバランスな、2人の静かな戦いが始まろうとしていた。
「そうか、お兄ちゃんとはぐれちゃったのか」
「うん…あたしはずっとお兄ちゃんも一緒にいようと思ってたのに…」
話をしながら二人はレーベから少し離れた街道を歩いていた。
何気の無い話から、セージが判った事。
まず少女の名前。「
タバサ」と言うらしい。
そしてタバサが「
レックス」という双子の兄とはぐれたという事。
名簿上で名前が遠く離れていたのが仇となったらしい。
更にこの少女が非常に強い魔力を宿していることと、強い意志を持ち合わせている事。
この2つは…特に魔力は、一般の魔道師よりも強大だろうという事だった。
それらを知った上で、彼はこれからの道を決めた。
まずはレックスを探す。そしてかつての仲間と対面したなら、行動を共にするよう説得する。
以上の2点を、自分達の行動方針にした。
「とりあえず、僕の知っている限りの場所を探してみようか。森や砂漠以外の場所でね」
「わかった。セージお兄さんと一緒なら、きっと見つけられるよね?」
「"きっと"?違う違う」
「ぇ?」
「"絶対"だよ」
【セージ(DQ3賢者、元不明) 所持品:不明
行動方針:レックスを探す】
【タバサ(DQ5王女) 所持品:不明
行動方針:セージに着いて行く】
【現在位置:レーベの村東】
最終更新:2008年02月17日 22:30