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童話迷宮 - (2017/01/27 (金) 03:00:14) の1つ前との変更点
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◇ ◇ ◇
人間とこの世界は、〈神の悪夢〉によって常に脅かされている。
神は実在する。全ての人間の意識の遥か奥、集合無意識の海の深みに、神は存在している。
この概念上『神』と呼ばれるものの最も近い絶対存在は、人間の意識の遥か奥そこで有史以来眠り続けている。
眠っているから人間には無関心で、それゆえ無慈悲で公平だ。
ある時、神は夢を見た。
神は全知なので、この世に存在するありとあらゆる恐怖を一度に夢に見てしまった。
そして神は全能なので、眠りの邪魔になる、この人間の小さな意識では見ることすらできないほどの巨大な悪夢を切り離して捨ててしまった。
捨てられた悪夢は集合無意識の海の底から泡となって、いくつもの小さな泡に分かれながら、上へ上へと浮かび上がっていった。
上へ―――人間の、意識へ向かって。
人間の意識へと浮かび上がった〈悪夢の泡〉は、その『全知』と称される普遍性ゆえに人の意識に溶けだして、個人の抱える恐怖と混じり合う。
そしてその〈悪夢の泡〉が人の意識より大きかった時、悪夢は器をあふれて現実へと漏れ出すのだ。
かくして神の悪夢と混じり合った人の悪夢は、現実のものとなる。
〈神の悪夢〉である〈童話〉に似た形で、恐怖は現実のものとなる。
◇ ◇ ◇
駅前の大通りから少し外れた通りにある小さな古い小道に、その建物は建っていた。
古い写真館のようなものを改装したらしい、レトロな雰囲気漂う白く塗られた木造の建物に、対照的な黒いセーラー服を着た少女が入っていく。
≪神狩屋――古物・骨董・西洋アンティーク≫
そんな厳つい文字の刻まれた看板と、その内容に相応しい古めかしい商品が並んだ店内をずんずんと少女は進んでいく。
少女趣味とはどう考えても言えない品揃えだが、少女は勝手知ったる雰囲気でカウンターの奥へと声をかける。
「神狩屋さん、いないの?」
神狩屋、店の名にもなっている店主の通り名を呼びかけるが、返事がない。
呼びつけておいて何なのだ、と不機嫌になるが、すぐに疑問が湧いてくる。
店の手伝いもしている少女、田上颯姫も姿を見せないというのは妙だ。
来客を忘れて、あるいは不意の対応で揃って席を外しているということも想定するが、それも考えにくいとカウンターのさらに奥の戸のむこう、居住スペースの書斎となっている空間に視線を向ける。
そこには心を病んでしまった一人の少女がいる。
夏木夢見子という、〈神の悪夢〉に心を壊され、今もなお〈悪夢〉に晒され続けている少女が。
その子の世話のために誰か一人は必ず残るはずで、誰もいなくなるというのはあり得ないのだが……
『ねえ、雪乃』
少女以外に人の気配のない店内に、少女の者でない声が響く。
一人しかいない空間、そのたった一人にしか聞こえない〈悪夢〉の声が。
神の泡による異常現象、それを曰く〈泡禍(バブル・ぺリル)〉と呼ぶ。
全ての怪奇現象は神の悪夢の欠片であり、この恐怖に満ちた現象は容易く人の命と正気を喰らうが、ごくまれに存在する〈泡禍〉より生還した人間には、巨大なトラウマと共に〈悪夢の泡〉の欠片が心の奥に残ることがある。
〈断章(フラグメント)〉と呼ばれるその悪夢の欠片は、心の中から紐解くことで自ら経験した悪夢的現象の片鱗を現実世界に喚び出すことができる。
少女…時槻雪乃もそんな〈断章保持者(ホルダー)〉の一人だ。
泡禍を引き起こした実姉、時槻風乃を己の〈悪夢〉として雪乃だけに認識できる亡霊として宿している。
雪乃に狂った言葉を囁き続け、〈悪夢〉の到来を知らせてくる、両親を惨殺した、雪乃にとっての悪夢の伝道者。
そんな姉が声をかけてくるなど、碌なことであるはずがない。
『――――索引が開くわ』
ぞく、と空気が変質した。
〈悪夢〉そのものである風乃の影響もあるかもしれない。
だがそれ以上の〈悪夢〉の気配が部屋の奥から洩れ出でている。
夏木夢見子の持つ〈断章〉、彼女を今も苛み続ける〈悪夢〉、〈グランギニョルの索引ひき〉の気配が。
それは〈悪夢〉の訪れを知らせる〈悪夢〉、対象となった者に避けることのできない恐怖の訪れを予言する〈断章〉。
ただしいつ〈悪夢〉が巻き起こるかはわからない。
予言をしたその次の瞬間に、〈悪夢〉が夢見子を殺す可能性も存在するのだ。
あるいは、すでにこの店の住人が巻き込まれている可能性も。
〈悪夢〉の気配を感じて雪乃はすぐに駆け出した。
カウンター奥の戸のさらに奥、夢見子のいるはずの書庫の扉を開け放ち、臨戦態勢で飛び込む。
そこにいるのは10歳にならないであろう少女。
床に広がるほどの長い黒髪をさげ、大きなウサギのぬいぐるみを抱えて絵本に見入る、いつもと変わらぬ夏木夢見子の姿があった。
その様子にほんの少しだけ、雪乃は安堵した。
突如ばたん!と大きな音を立てて、書庫の本棚から本が落ちた。
まるで雪乃の心の動きを戒めるように、〈悪夢〉は進行していた。
緑色の表紙をした分厚い本が、あまりにも不自然に落下する。
そして、そのページが風もないのにめくれ始める。
ぱらり
ぱらり
ぱらり
ぱららららららららららら
徐々に速度を増して、音を立ててページが流れていく。
触れる者もなく、ページが次々に捲られていく異常な光景。
ばん!
目当ての項にたどり着いたか、乱暴に表紙を叩きつけるようにしてページが止まる。
後にはしん、と不気味なほどに無音な空間が広がっていた。
『どんな悪夢かしら?』
風乃の囁きにつられて、というわけではないが落ちてきた本と、その捲られたページを確かめる。
本のタイトルは不思議の国のアリス。
開かれたページには、ハートの女王とトランプの兵隊の挿絵が描かれていた。
…………ふと、様々なスートと数字が刻まれているトランプの兵隊、その一人に何も描かれていないのに気づく。
落丁なのか、印刷ミスか、一人だけ〈白紙のトランプ〉の兵隊がいるのが妙に気にかかり
時槻雪乃の記憶は、そこからしばらく飛ぶことになる。
幾ばくかの空白を終えて雪乃が自分を取り戻したのは、やはり悪夢の中であった。
スノーフィールドという見知らぬ地で、かつて過ごしていた記憶のある家屋の食卓を囲んでいた。
席についているのは父と母……姉に惨殺された二人-トラウマ-が目の前にあるということに吐き気を催す。
「どうしたの?顔色が悪いわよ」
『おはよう、雪乃。起きた?それともまだおねむかしら?寝ても覚めても悪夢なんて、あなたも大変ね』
悪夢からの囁きに、憎悪と恐怖に脳裏を焼かれながらも雪乃は異常事態を認識する。
すでに〈泡禍〉は進行しているのだ、と。
ぱらり
と小さく音が聞こえた。
視線をそちらにやると、見覚えある緑色の表紙の分厚い本が開いていた。
以前と同じページ、〈白紙のトランプ〉の兵隊が描かれた挿絵が目に入る。
そして、そのページに白い指がかかっているのも。
死人のように白い四本の指が、開いたページから這い出るようにして、ページをめくったのも。
「逃げなさい!」
「ゆ、きの……何が」
「いいからどこか寝室にでも引っ込んでて!」
鬼気迫る表情の雪乃と現状に気圧されたか、二人は雪乃の指示通りに避難する。
ずるり
と指が伸びた。
腕が現れ、肩が現れ、体が現れ……
〈白紙のトランプの兵隊〉が、本から現世へ住まいを移した。
続いて、もう一枚。
二枚目の〈白紙のトランプの兵隊〉も現界する。
その異様な光景に雪乃は恐怖以上に敵意を覚える。
悪夢の顕現に釣られて汲み上げられるままに己が〈断章〉を振るおうとする。。
武装となるカッターナイフも、戦支度であるゴシックロリータのドレスもない、不安定極まりない状況で。
だが
「痛っ…」
右手首の内側に痛みが走り、雪の結晶のような聖痕が浮かび上がる。
そしてその痛みに断章が引き出され、左手に巻いた包帯から煙が上がる。
そして引き出された断章が、トラウマとは別の形でどこかに流れていくような感覚を覚え、そのせいで炎を引き起こせずに終わってしまう。
聖痕が刻まれるとともに、〈白紙のトランプの兵隊〉は少しづつ姿を変えていく。
白い色合いはそのままに、一つは大きく、一つは小さく。
やがて二つは胸に穴の開いた、長身の男性と小柄な少女の形になる。
そしてすぐに、男の方は霧散するように姿を消した。
「……っ、こ、の……!」
未だ鈍痛の残る左手首を抑えながらも、雪乃ははっきりと心に敵意を浮かべる。
その憎悪の炎で、突如現れた何かを焼き払わんとするが
『場所を改めて、話をしよう。ここじゃあ二人を巻き込んじまう』
穏やかな声が脳裏に響いた。
〈悪夢〉である姉の声とも違うその響きに少しだけ落ち着き……突如頭の中に刻まれた知識に気付く。
〈聖杯戦争〉という覚えのない知識に。
「早くいこーぜ。部屋を掃除するくらいなら待ってもいいけど?」
そう言いながら少女はリビングから二階へ向かっていく。
目を離したすきに雪乃の両親に危害を加えないか心配に……なりかけるが、〈悪夢〉の登場人物の行く末など心配してどうするとその愚考を振り払う。
『そうだな。二階ならあの二人にも影響は及ばないだろう』
また雪乃の頭の中に男の声がした。
「ここでいいでしょう。心配しなくてももう無闇に暴れたりはしないわ」
『巻き込んじまうって言ったのはあんたの力にじゃない。俺の力に巻き込まないために、離れてくれと言っているんだ。
どうやらあんた……いや、あんたたちは大丈夫のようだが』
男の声は雪乃だけでなく、風乃にまで言及する。
一人の例外を除いて、雪乃にしか認識できない筈の悪夢を認識する者の到来に風乃の声が熱を帯びる。
『あら、私のことも見えているの?雪乃とアリス以外に気付いてくれる人がいるなんて。
……一方的なんて寂しいわ。あなたももう一度姿を見せてちょうだいよ』
『ここではあの二人を巻き込んじまう。これ以上実体化した俺の近くにいると死にかねん』
ここで話し続けても埒が開かないだろうし、ましてやこだわる意味もないと皆揃って二階へと向かう。
雪乃の居室に入ったところで、部屋の片隅に先ほど少しの間だけ姿を見せた、トランプの兵隊だった男が像を結ぶ。
どことなく虚ろな雰囲気の白い服装で、開いた胸元から体の真ん中に大きな穴が開いているのが見える。
自分の体がそこにあるのを確かめるような仕草を見せた後、探るような視線を雪乃たちに向けて、ぽつりと声を漏らす。
「そうか……俺は、いや俺たちは、弱くなったんだな」
サーヴァントとなったことによる弱体化。
その事実を自嘲気に、しかし嬉しそうに受け入れる。
「何だか納得しているところ悪いけれど、色々と聞きたいことがあるわ」
「ん、ああ。俺に答えられることならね」
「〈聖杯戦争〉とは何か、そしてあなたとその子が何か」
予想通りの問いに面倒くさそうな顔をするが、一つ一つ答える。
アーチャーのサーヴァント、コヨーテ・スターク/リリネット・ジンジャーバックという存在である事。
聖杯戦争のルール、サーヴァントによる殺し合いと万能の願望器のこと、己が能力など。
『〈聖杯戦争〉、円卓の騎士の真似事が今回の〈泡禍〉の物語かしら?アリスの意見も聞いてみたいところね』
「ところであんたはマスターの何なんだ?破面の一種かと思ったぞ」
「その人は私の姉で、私の〈断章〉の一部。本当は私にしか認識できないはずなんだけど、あなたも人の悪夢を共有するとかそういう〈断章〉を持ってるの?」
白野蒼衣という風乃を認識できる〈断章保持者〉という前例がなければ、聖杯戦争の知識がなぜか植えつけられてなければ、風乃への対応に平静ではいられなかっただろう。
それでもこの男の能力に疑念を持ち、さらに問う。
「断章ってのは何なんだ?それがあんたの能力か?」
質問に対する答えは、補足説明の要求。
互いの常識の差異が理解を滞らせる。
風乃の発言も交えて〈泡禍〉について、〈断章〉について話す。
「私たちはこの聖杯戦争も泡禍だと考えているわ。英雄譚を集めた物語という形で、殺し合いという悪夢を引き起こす、とびっきり最悪のね」
「マスター達の経験と能力を疑うつもりはないが……些か飛躍しすぎじゃあないか?俺の力や、聖杯戦争そのものが泡禍だってのはよ」
「泡禍以外の異常現象が存在するとしても、聖杯戦争という〈物語〉の形をとっている以上、私はこれを泡禍と判断するわ。
人を異常な形で巻き込み、死傷に至るなら私にとっての敵と何も変わらないのだから……あなたはどうなの?私の敵になるなら」
殺すわよ。
左手の傷に力を籠め、そう凄む。
雪乃の纏う空気がまた剣呑になったところで
「なんだお前!あたしたちとやろうって――」
「よせ」
珍しく沈黙を守っていたリリネットが喧嘩腰に合流してくるが、それをスタークがめんどくさそうにあしらうと姿を消した。
「やかましい奴だが、悪い奴じゃないんだ。気を悪くしないでくれ……
さて、つまりあんたはこの聖杯戦争を否定するってことでいいんだな?」
「……受け入れられない、かしら?」
「いや、いいさ」
この場で殺しあうことも想定していた雪乃に、この呆気ない返答は予想外だった。
願いを求める殺し合い……それの真偽はどうあれ、主流に逆らう意向であることは間違いないだろうに、それを受け入れる。
寛大と言えるスタークの答えに、雪乃が抱いたのは疑念だった。
「……俺の願いは殆どもう、叶ってるんだ。あとはマスターと信頼関係が築ければ完璧なくらいだ」
「随分と都合のいい物言いに聞こえるけど」
『あら、そうでもないと私は思うわよ』
従順な姿勢を崩さないスタークに雪乃は疑惑の目を強めるが、対称的に風乃は愛おしいものを見るような目を向ける。
『彼はね、一匹狼なのよ。知ってる?本当は狼は群れで過ごす生き物なんだって。
普通は群れを乗っ取るか、一匹狼同士寄り添うことで群れを形成するものだけれど、彼はそれができなかったの。
あまりに強大になってしまったがゆえに共に過ごせるものはいなかった。当然よね、人と巨人が共に過ごせば些細なことで人は踏みつぶされてしまうでしょう。
私とあなたは知らず知らずのうちに野獣に寄り添う乙女になっていたのよ、雪乃』
時槻風乃は生前も人の内面を見通す少女だった。
スタークの語った能力とこれまでの振る舞いから、内に抱えた孤独を、その願いを見抜き、そして肯定する。
きっと、彼の周りにいた人はみな、先ほど倒れた雪乃の両親のように崩れ去っていったのだろう。
その孤独に耐え兼ね、彼は彼女を生み出したのだろう。
『絆という字はもとは家畜を繋ぐための縄の事、束縛やしがらみを意味するの。
それでも人は弱いから人と絆を結ぼうとする。たとえそれが絞首台の縄でも。
とても強いのに、こんなにも弱々しいなんて可愛らしいじゃない』
くすくすと笑いながらスタークを援護する。
ここまでは、風乃としては本当に心底から親愛を込めての言葉だった
『でもあなたの力が本当に〈泡禍〉によるものではない保証はないんじゃない?
泡禍はあなたの恐怖を具現する。孤独を恐れたあなたに孤独が訪れたのは泡禍によるものではないとなぜ言えるの?
あなたの〈断章〉が例えば周囲の人物を認識し、それを死に至らしめることであなたを孤独にするものであるとしたら、私を認識できるのにも納得いくわ。
雪乃の〈断章〉で無効化できているののは事実なのだし』
今度は悪戯心、程度の悪意を籠めた発言。
しかしさすがは〈神の悪夢〉の欠片か、トラウマに触れるその話しぶりにはスタークに仲間意識などない雪乃も顔をしかめた。
「……あんたの姉さん、いい性格してるな」
リリネットが分身であることは告げても、それを生み出した動機まで教えてはいなかった。
にも関わらず、無差別に振りまく霊圧(チカラ)からその意図を察し………あげくはある種マスターに向ける依存までも見抜かれた。
かつて傅いた男のことも否応なしに想起させられ、その観察眼と毒舌に皮肉交じりの称賛を贈る。
その評価を笑って受け止め、風乃は今度は雪乃へも些細な悪意を込めて言葉を紡いだ。
『〈断章効果〉が聞かない人間は三種類。〈断章保持者〉に〈潜有者(インキュベーター)〉に〈異端(ヒアティ)〉。
下にいる雪乃の両親のようなナニカは、聖杯戦争に則っていうならよく似た別の誰かさん。私たちの認識でいうなら〈泡禍〉により生み出された化生、〈異端〉だわ。先日焼いた赤ずきんの狼のようにね。
もしあなたの能力が〈断章〉で、かつこの聖杯戦争が〈泡禍〉なら彼らにあなたが触れても倒れることはない……試してみたら?』
能力と現状の確認、という一点だけ見ればその一手は効率的だ。
生じ得る犠牲の可能性を考慮しなければ、だが。
「……おい、いいのか?」
「…………あなたがいいなら、いいわ。やって」
偽りとは言え彼らは雪乃の、そして風乃の両親だ。それを危険にさらすような真似をするのか、という問い。
答えに悩むが、偽りに過ぎない両親への心配など無意味と切って捨て、むしろそんなくだらないことで〈断章〉を晒すのかという彼女なりの心配を返す。
僅かに煩悶したのちにスタークが首を縦に振った。
それを受け雪乃も戦支度を整える。
かつての雪乃の部屋にはなかったものだが、風乃の持ち物として用意されたのか、今の雪乃にあわせたのか黒いゴシックロリータと赤いカッターナイフが用意されていた。
愛用―とは言いたくない代物だが―の武装に極めて似通ったそれを身に着け、両親のようなナニカが〈異端〉であり、スタークの力に反応して襲い掛かってきても構わないよう戦闘態勢になる。
着替え終わると部屋の外で待たせたスタークと合流し、階下に降りて再び偽りの両親と邂逅する。
幸か不幸か、戦闘になることはなかった。
スタークが近付き少しすると、両親ともに意識を失ったから。
スタークはそれを見て悲しげな顔をするとすぐに霊体化し、今度はこちらからリリネットを召喚、両親をベッドに運ばせる。
雪乃の細腕では両親を運ぶことは難しく、スタークが実体化してては命を削ることになりかねないから。
「……あなたが〈断章保持者〉であるなら、聖杯戦争は〈泡禍〉ではない。逆に聖杯戦争が〈泡禍〉ならばあなたは〈断章〉ではない異能の保持者。
少なくともそれは認めなければいけないみたい、ね」
『ああ、そうらしいな。それでそれが分かって何か心情に変化は?』
「ないわ。聖杯戦争が〈泡禍〉であってもそうでなくとも、これの原因を断つ。その方針を改めるつもりはない。
あなたも、私の力で形になっている姉さんのようなものだと考えれば、〈断章〉みたいなものだと思える。戦力としては多少は当てになりそうだしね」
雪乃の宿す断章もまた、本来は悪夢の欠片だ。
仮にスタークが悪夢の結晶だったとして、今更気に掛けることも、ましてやそんなこだわりを見せる余裕もない。
ぎらつく戦意に身を任せ、少女は戦場へと身を投じる決意を固める。
『出立かしら、雪乃?』
そこへ風乃が声をかける。
ゴシックロリータのままだが、当然だ。これが雪乃の戦闘着で、きっと死装束なのだから。
学園の制服を着て日常にかまけるつもりなどない。
一刻も早くこの事態を解決する。
『この家とあの二人はそのままにしておくの?こんな愚かしい藁の家の存在を許すの?
こんな、聖杯なんてものに作られた偽りであっても日常を受け入れたら、あなたを動かしている憎悪、痛み、血、その全てを否定することになる。
……焼いてしまいましょう?このあり得ない歪な異物を灰に帰してしまいましょう?』
風乃が日常的に囁く、破滅への導き。
だがこの場に置いては〈泡禍〉を殺せ、という騎士としての責務でもあった。
いつもなら一蹴するが、これを一蹴はできず、彼女も騎士として答えた。
「神狩屋さんにも葬儀屋さんにも連絡がつかない以上、隠蔽ができない……今はまだ、早い」
家庭の夫婦の死、それが報じられては活動に支障をきたす。
田上颯姫の援護なしに大事は起こせない。
神狩屋がない以上、ここを拠点にする必要もあるだろう。
『あら、そう。つまり、〈食害〉や〈アンデルセンの棺〉が用意できるなら彼らを殺すのね?』
悪戯心などではない、明確な悪意に満ちた問い。
しかし〈泡禍〉を、怪奇現象を憎む以上、死者である両親がいるなどという異常事態は許せないのが〈雪の女王〉だ。
だから
「殺すわ」
カッターを強く握り、そう答える。
『それなら彼らとの連絡手段も模索しなきゃね。可愛いアリスとも話はしたいし』
愉快気に笑みをこぼし、妹に両親の殺害を教唆する姉の亡霊。
そして狂々と自論を語り続ける。
『でもそれが意味のある行動だといいわね?眠って起きたら、ここにいた。
忘れちゃだめよ、あなたは〈不思議の国のアリス〉のグランギニョルに巻き込まれると予言されたの。
いいえ、蒼衣-アリス-と夢見子-ウサギ-が出会ったあの時から、少女-あなた-は眠って悪夢-ゆめ-を見ていたのかもしれないわね……そして今も。
ここが少女-アリス-の見る夢なら、あなたは〈チャシャ猫〉のように巻き込まれただけかも。ここが夢なら、もしかするとアリスの姉が起こしてくれなきゃ、悪夢から覚めることはないのかも。
……それともこれは〈美女と野獣〉かしら?もしかすると〈雪の女王〉かもしれないわね?
神狩屋-マッドハッタ―-もいない今、あなたを導くのは誰かしら?スターク-トゥイードルダム-はどう思う?』
「うるさいわ。いい加減黙ってて」
どうでもいい。
これがどんな〈童話〉を象った〈泡禍〉でもどうでもいいのだ。
それが〈泡禍〉であるならなんだろうと滅ぼすと3年も前に決めた。
自分だって。両親だって。蒼衣(アリス)だって。
それが泡禍の根源なら、殺すだけ。
【クラス】
アーチャー
【真名】
コヨーテ・スターク@BLEACH
【パラメーター】
筋力C 耐久B 敏捷A+ 魔力C 幸運E 宝具EX
【属性】
中立・中庸
【クラススキル】
単独行動:EX
宝具により規格外にまでなっている、最早呪いじみた《孤独》の運命。
マスター無しでも現界、全力戦闘が可能。
しかし当然無尽蔵ではなく、宝具の乱発などすれば一人孤独に消えていくことになる。
対魔力:C
第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。大魔術・儀礼呪法など大がかりな魔術は防げない。
保有スキル】
十刃:A+
虚(ホロウ)が仮面を剥ぎ、死神の力を手にした種族、破面(アランカル)。その中でも指折りの戦闘力を持つ者に与えられる称号。
第一の数字を与えられ、また特に死神に近い特徴を持つ彼は最上位で保持する。
虚の技能である虚閃(セロ)という光線、死神の斬魄刀と能力解放を模した帰刃(レスレクシオン)
他に破面の技能である響転(ソニード)という高速移動や虚弾(バラ)という高速光弾、探査回路(ペスキス)という感知能力、身体特徴である鋼皮(イエロ)という強靭な外皮
さらに十刃のみが扱う王虚の閃光(グラン・レイ・セロ)に黒虚閃(セロ・オスキュラス)など多彩な能力を保持する霊的存在である。
神性を持つ相手に追加ダメージ判定を行う。相手の神性が高ければ高いほど成功の可能性は上がる。
また魂を喰らう種族であるため『魂喰い』による恩恵が通常のサーヴァントより大きい。
直感:D
戦闘時、つねに自身にとって有利な展開を“感じ取る”能力。
攻撃や敵の能力をある程度は予見することができる。
魂魄改造:―(A)
自身の霊体、魂を改造する能力。
このランクが上がればあがる程、正純の英雄から遠ざかっていく。
これにより彼は自らの魂を引き裂き分かち合い、スタークでもありリリネットである弾頭を呼び出せる。
またかつて自らの魂を斬魄刀ではなくもう一人の自分として形成したこともある。
帰刃状態でのみ行使可能なスキル。
道具作成:E
魔力を帯びた道具を作成する技能。
霊子で構成された武器を発現させる。
様々な武器を発現可能で、劇中では剣を発現させ使用している。
【宝具】
『一人(プリメーラ・エスパーダ)』
ランク:C 種別:対軍宝具 レンジ:1~8 最大捕捉:上限なし
十刃(エスパーダ)には個々に司る死の形があり彼のそれは《孤独》である。
実体化している限り、現界に消費した魔力量に応じて自身の周囲に無意識に霊圧を放ち、一定以下の実力者はその霊圧にすら魂を削られる。
レンジ内で長時間存在した場合、4つ以上Cランク未満のパラメータを持つ、または3つ以上Dランク未満のパラメータがあるもので意識混濁、4つ以上Dランク未満のパラメータがあるもので意識消失、しばらくすると死亡する。
大多数のマスターやNPCは堪えるのが難しいが、サーヴァント化により大幅に弱体化しており即座に離脱すれば影響は少ない。
また対魔力やそれに準ずる呪術、魔力、霊障などへの耐性、頑健や天性の肉体などの防御スキルがあれば容易く無効化も出来るようになっている。
この宝具は現界に消費する以上の魔力は要求しないが、自身のマスターにも効果を及ぼし、令呪を以てしても停止・破棄できない。
またいかなるクラスで召喚されようと単独行動のスキルをEXランクで保持させる。
『二人(リリネット・ジンジャーバック)』
ランク:EX 種別:― レンジ:― 最大捕捉:―
スタークが破面化した際、通常は肉体と刀に分ける虚の力を1体の虚が2つの肉体に分けた半身の様な存在。
彼女が存在する限りスタークは一人じゃない。
分身であるリリネットと一体化することで後述の宝具は解放される。
ステータスは筋力:E 耐久:C 敏捷:E 魔力:E 幸運:E 相当。刀身が湾曲した形の刀を武器とし、折れた角のような部分から取り出す。一応虚閃も撃てる。
本来スタークの一部であるため『一人(プリメーラ・エスパーダ)』による影響を受けない。
そして彼女も《孤独》の運命を背負っており、EXランクの単独行動スキルを持つ。
ある意味で魂の物質化という第三魔法に近付く偉業であるためEXランクとなっているが、戦闘などに役立つかといえば否。
猫の手よりはまし程度だろう。
一応宝具化に伴い霊体化というか、送還可能になっているが、勝手に出てくることもある。
基本的に余計を消耗を控える為に、用もなく出てくると引っ込められる可能性が高いが。
虚は死者の魂が心をなくしたものであり、大虚(メノスグランデ)はその集合体、破面はその進化系である。
そうした成り立ちの者が魂を引き裂き、固有の人格を成しているのは愛染惣右介の産み出したホワイトという虚に、ひいては二枚屋王悦の作り出した斬魄刀に近似する。
ただ力の核を刀の形状にした他の破面とは違い、もう一人の自分として《具象化》しているスタークはより《死神》に近い存在と言える。
『二人で一人の群狼(ロス・ロボス)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1~30 最大捕捉:10人
帰刃(レスレクシオン)状態であり、解号は「蹴散らせ」。
分身であるリリネットと一体化することで解放される。
解放するとオオカミの毛皮のようなコートをまとったカウボーイを思わせる姿に変わり、左目部分にポインターの様な仮面の名残が形成される。
リリネットは2丁拳銃に変化しており、会話も可能。
解放前に受けていたダメージの一切が超速再生し、敏捷と幸運を除くステータスが1ランク上昇する。
自分の魂を引き裂き分かち合う能力で狼の弾頭を召喚し、2丁拳銃からの虚閃と狼の弾頭を操って戦う。狼の弾頭は攻撃を受けると分裂する上、標的に喰らい付くことで大爆発を起こす。
魂を引き裂き過ぎると『二人(リリネット・ジンジャーバック)』を失うことになるが、十分な『魂喰い』か魔力供給があればそのリスクを減らせる。
【weapon】
・『浅打・偽』
四角形の四つの角に牙がついている鍔がある刀。
応宝具には劣るが、それなりの神秘は宿す。
大多数の破面と異なり彼は己の力の核を先述の宝具としているため、この刀の戦力は他の破面や死神に比すと劣るところがある。
【人物背景】
あるものが命を落とし、霊となった。
霊として長く在るうちに心をなくし虚(ホロウ)となった。
なくした心を求めて虚を喰らい、最下級大虚(ギリアン)となった。
ギリアンと化しても、さらに成長して中級大虚(アジューカス)となっても共食いを続け、圧倒的な力を持つ最上級大虚(ヴァストローデ)となった。
当然周りに誰もいなかった。
一人に耐えかねて仲間を作るが、自身の力に耐えかねてそこにいるだけで魂が削られ皆死んでいった。
一人に耐えかねて魂を分かち、二人になった。
二人以外にも仲間が欲しかった。
力に耐えられるような強い仲間が欲しかった。
そんなことを気にせずにいられる弱いやつが羨ましかった。
…………力を見込まれて強い男たちの仲間になった。
仲間が、そのなかでもそれなりの地位の男が倒れた。
弔い合戦なんて経験なかったし、柄じゃないけど、普通ならやるもんだろうと思ってた。
けれど、仲間だと思っていたやつもそいつの部下もそれに何の感情も表さなかった。
仲間じゃなかったのかもしれない。
また、二人になった。
戦いの中、ついに一人になった。
そして誰もいなくなった。
【サーヴァントの願い】
弱くなりたい……叶った。
またリリネットに会いたい……叶った。
あとは、仲間が欲しい。
命を懸けて守りあえるような、敵を討ちたいと互いに思い合えるような本当の仲間が。
【基本戦術、方針、運用法】
型月アーチャーに相応しく、近距離から遠距離まで柔軟に対応する。
剣を用いた近接戦闘に優れ、宝具を真名解放すれば二丁拳銃からすさまじい速度で虚閃を乱射し、敵を近づかせない。
スターク自身には呪わしい孤独の運命も高ランクの単独行動としてあらわされる聖杯戦争ではマスターへの負担を減らす大きなメリットとなり、戦力燃費共に優れたサーヴァント。
地雷となるのは宝具『一人(プリメーラ・エスパーダ)』の存在である。
並の存在では彼と対峙することすら命を削る。
敵に対して機能するうちはいいが、無差別に効果を発揮するこの宝具は大多数のマスター、ごく一部のサーヴァント、ほぼすべてのNPCに対して致命的な存在となる。
対聖杯のスタンスであるにもかかわらず、同行者を得ることは難しく、NPCの虐殺と取られれば監督役に目をつけられる可能性もある。
マスターの暴走の危険性も含め、取扱注意な主従であろう。
【マスター】
時槻雪乃@断章のグリム
【マスターとしての願い】
泡禍への復讐……だがそれは聖杯なんて訳の分からないものに託すものではない。
ましてや彼女は聖杯戦争も泡禍であると考えている。
【weapon】
・カッターナイフ
何の変哲もないカッターナイフ。
殺傷能力はあるので一応武器としても扱えなくはないだろうが、主に後述のトラウマ、ひいては断章を起動するための条件付けに用いる。
作中で名言はされていないが、トラウマを想起しやすいよう姉が実際に使っていた、またはそれと同じデザインのカッターであると思われる。
他の刃物や別形のカッターでは駄目な可能性が高い。
・ゴシックロリータ
何の変哲もないゴシックロリータの衣装
別に防刃加工とか魔術的な守りなどはない。
後述のトラウマ、ひいては断章を制御するための一助であり、これを身に纏うことで断章を引き出しやすくする。
逆にこれを纏わないことにより日常において断章が暴走するのを防ぐ役割もある。
リボンだけを身に付けることで日常と戦場を兼ねたような精神状態に身を置くこともある。
【能力・技能】
・断章『雪の女王』
かつて起きた〈泡禍〉により宿した神の悪意の泡の欠片。
『私の痛みよ、世界を焼け』と、断章詩を唱え自身の手首に刃を走らせることで炎を放つ、痛みを代価に火炎を発生させる能力。
ただし、その苦痛に集中していなければ、現出させた炎を維持できない。一度発生させていれば『焼け』の一言のみでさらに炎を発生させることができる。
詳しく言うなら『トラウマをフラッシュバックさせることでその原因もフラッシュバックさせる』能力、のような現象。
彼女の場合、実姉、時槻風乃の焼身自殺がトラウマとなっているため実姉のことを思い出すことで焼身自殺の状況を再現=発火現象を引き起こす。
また風乃の存在そのものもトラウマとなっているため彼女の幽霊のようなものが常に彼女のそばにいる。
より断章を引き出すことで風乃は実体を伴う現象にまでなり、それに伴いより鮮明に焼身自殺が再現される=より正確に強力な炎を放てる。
彼女の姉はゴシックロリータを常に纏い、リストカットの常習犯で、最期に「私の痛みよ、世界を焼け……」と呟いて家に火を放ち、父母と共に死亡した。
そのトラウマを想起する事象で身を固めることで断章を放つ。
引き起こす現象は極めて強力だが、発動にはトラウマをフラッシュバックさせる、リストカット、風乃による炎の行使にはさらに深くトラウマと向き合い今までのリストカットの傷全てが開くなどの条件が必要。
精神肉体両面でのダメージは激しく、トラウマに心を壊せば自信を含めた全てを焼き尽くす「焼身自殺」の再現となる。
なお風乃の幽霊は、生前の人格を再現しているのに加え、同種の〈泡禍〉を感知し、魔力も多少なら感知できる。
断章とは「無意識に住まう神の悪意の欠片」であり、つまり雪乃はアラヤの悪意とそれに伴う魔力を受け取っている。
例えるなら「この世全ての悪」の泥ではなく泡を宿している。
膨大な魔力を持つが、もしこの泡が弾けて器(雪乃)の外にあふれたならそれは〈泡禍〉という悲劇を招くだろう。
恐らく彼女のそれは、巨大な火災。
そしてすでに「神の悪意の欠片」を宿しているため彼女の意識の容量はすでにほぼ一杯であり、他の要素が入り込む余地が少ない。
そのため断章保持者は断章、ひいては神秘を伴う異能に耐性を持つ。
記憶を奪う断章に触れても不快感ですみ、、侵入を禁じ認識を阻害する断章の効果も受けず、針の山や鳩の爪によるダメージもそれが〈泡禍〉に由来するものならば少なく済む。
特に霊的、精神的異能に対しては強力な耐性となり、スタークの『一人(プリメーラ・エスパーダ)』のよる影響を受けていない。
……だがあくまで耐性にすぎず万能ではない。
人魚に変えられてしまう断章も少量なら傷の治癒でとどめることができるが、過剰に与えられれば異形になってしまう。
『一人(プリメーラ・エスパーダ)』は無力化が容易な宝具だが、他のサーヴァントによる異能などへの抵抗はほぼできないだろう。
そして逆もまたしかり、神秘の塊であるサーヴァントへの断章によるダメージは少ない。
纏めると「魔力タンク」「そこそこの異能耐性」
「魔力探知してくれる姉の亡霊(一部の能力者しか認識できない)がいる」
「詩を唱えリストカットをすることで周囲を焼き尽くす(サーヴァントにはあまり効かない)」
「詩を唱え、リストカットの古傷を全て開くことで姉の亡霊を受肉させ、さらに強力かつ正確に周囲を焼き尽くす(同上)」
「ただしめっちゃメンタル削るし、制御失敗すると『この世全ての悪』的な代物の欠片が暴走してヤバイ」
【人物背景】
道を歩くだけで人目を引くほどの整った白皙の美貌と長い黒髪を結んだゴシック調のリボンが特徴の美少女。
その外見は常に不機嫌そうに見え、冷たい瞳と手首の傷を隠す包帯が他人を寄せつけず、また彼女自身も他人と必要以上に触れ合う事を忌み嫌っている。
また、両親の惨殺死体と自宅が炎上する様を目の当たりにした事で、肉類が一切食べられないため、栄養補給の手段は専らサプリメントに頼っている(生前は精神安定剤と睡眠薬漬けだった風乃の劣化行為の側面も兼ねている)。
姉の時槻風乃に浮かび上がった〈泡禍〉で家族を全て失い、〈騎士〉となった。
多くの〈泡禍〉――時折〈童話〉にまで発展した――を焼き払い、〈雪の女王〉としての畏怖を集める。
そしておよそ三年〈騎士〉を続け、赤ずきんの〈泡禍〉を焼き尽くした傷も癒えてきたころの参戦。
周囲の大人達が心配するほど〈泡禍〉に対して激しい憎悪を持っており、それと同時に「普通の日常」に生きる事を放棄している。
好戦的な性格と無表情故にあまり動じない印象を受けるが、<断章>で人らしいものを殺した日の夜は風乃の<泡禍>を思い出して涙を流すことがよくあるらしい。
そもそも攻撃的な性格は<泡禍>との戦いのための行動の賜物のようで、余裕がないときなどには無意識のうちに元来の性格に由来する情に厚い行動をとることもある。
一応必要と判断すれば情報収集のためのコミュニケートはとるし、情報操作などのバックアップの必要性は分かっている。
現場での同僚無しでやっていた時代もあり、敵に容赦はないが、誰彼問わず敵対しようとなどはしない、作中指折りの常識人である。
……比較対象が〈泡禍〉に触れて精神的に病んでいる面のある人ばかりなのはあるが。
【令呪】
右手首内側、雪の結晶状。
一画使うごとに六つの角が二つ消える。
【方針】
対聖杯。
神狩屋たちと連絡を取る術を模索しつつ、この聖杯戦争の元凶となった者を殺し、止めるべく動く。
……それがたとえ自分や知り合いであっても。
*童話迷宮◆yy7mpGr1KA
◇ ◇ ◇
人間とこの世界は、〈神の悪夢〉によって常に脅かされている。
神は実在する。全ての人間の意識の遥か奥、集合無意識の海の深みに、神は存在している。
この概念上『神』と呼ばれるものの最も近い絶対存在は、人間の意識の遥か奥そこで有史以来眠り続けている。
眠っているから人間には無関心で、それゆえ無慈悲で公平だ。
ある時、神は夢を見た。
神は全知なので、この世に存在するありとあらゆる恐怖を一度に夢に見てしまった。
そして神は全能なので、眠りの邪魔になる、この人間の小さな意識では見ることすらできないほどの巨大な悪夢を切り離して捨ててしまった。
捨てられた悪夢は集合無意識の海の底から泡となって、いくつもの小さな泡に分かれながら、上へ上へと浮かび上がっていった。
上へ―――人間の、意識へ向かって。
人間の意識へと浮かび上がった〈悪夢の泡〉は、その『全知』と称される普遍性ゆえに人の意識に溶けだして、個人の抱える恐怖と混じり合う。
そしてその〈悪夢の泡〉が人の意識より大きかった時、悪夢は器をあふれて現実へと漏れ出すのだ。
かくして神の悪夢と混じり合った人の悪夢は、現実のものとなる。
〈神の悪夢〉である〈童話〉に似た形で、恐怖は現実のものとなる。
◇ ◇ ◇
駅前の大通りから少し外れた通りにある小さな古い小道に、その建物は建っていた。
古い写真館のようなものを改装したらしい、レトロな雰囲気漂う白く塗られた木造の建物に、対照的な黒いセーラー服を着た少女が入っていく。
≪神狩屋――古物・骨董・西洋アンティーク≫
そんな厳つい文字の刻まれた看板と、その内容に相応しい古めかしい商品が並んだ店内をずんずんと少女は進んでいく。
少女趣味とはどう考えても言えない品揃えだが、少女は勝手知ったる雰囲気でカウンターの奥へと声をかける。
「神狩屋さん、いないの?」
神狩屋、店の名にもなっている店主の通り名を呼びかけるが、返事がない。
呼びつけておいて何なのだ、と不機嫌になるが、すぐに疑問が湧いてくる。
店の手伝いもしている少女、田上颯姫も姿を見せないというのは妙だ。
来客を忘れて、あるいは不意の対応で揃って席を外しているということも想定するが、それも考えにくいとカウンターのさらに奥の戸のむこう、居住スペースの書斎となっている空間に視線を向ける。
そこには心を病んでしまった一人の少女がいる。
夏木夢見子という、〈神の悪夢〉に心を壊され、今もなお〈悪夢〉に晒され続けている少女が。
その子の世話のために誰か一人は必ず残るはずで、誰もいなくなるというのはあり得ないのだが……
『ねえ、雪乃』
少女以外に人の気配のない店内に、少女の者でない声が響く。
一人しかいない空間、そのたった一人にしか聞こえない〈悪夢〉の声が。
神の泡による異常現象、それを曰く〈泡禍(バブル・ぺリル)〉と呼ぶ。
全ての怪奇現象は神の悪夢の欠片であり、この恐怖に満ちた現象は容易く人の命と正気を喰らうが、ごくまれに存在する〈泡禍〉より生還した人間には、巨大なトラウマと共に〈悪夢の泡〉の欠片が心の奥に残ることがある。
〈断章(フラグメント)〉と呼ばれるその悪夢の欠片は、心の中から紐解くことで自ら経験した悪夢的現象の片鱗を現実世界に喚び出すことができる。
少女…時槻雪乃もそんな〈断章保持者(ホルダー)〉の一人だ。
泡禍を引き起こした実姉、時槻風乃を己の〈悪夢〉として雪乃だけに認識できる亡霊として宿している。
雪乃に狂った言葉を囁き続け、〈悪夢〉の到来を知らせてくる、両親を惨殺した、雪乃にとっての悪夢の伝道者。
そんな姉が声をかけてくるなど、碌なことであるはずがない。
『――――索引が開くわ』
ぞく、と空気が変質した。
〈悪夢〉そのものである風乃の影響もあるかもしれない。
だがそれ以上の〈悪夢〉の気配が部屋の奥から洩れ出でている。
夏木夢見子の持つ〈断章〉、彼女を今も苛み続ける〈悪夢〉、〈グランギニョルの索引ひき〉の気配が。
それは〈悪夢〉の訪れを知らせる〈悪夢〉、対象となった者に避けることのできない恐怖の訪れを予言する〈断章〉。
ただしいつ〈悪夢〉が巻き起こるかはわからない。
予言をしたその次の瞬間に、〈悪夢〉が夢見子を殺す可能性も存在するのだ。
あるいは、すでにこの店の住人が巻き込まれている可能性も。
〈悪夢〉の気配を感じて雪乃はすぐに駆け出した。
カウンター奥の戸のさらに奥、夢見子のいるはずの書庫の扉を開け放ち、臨戦態勢で飛び込む。
そこにいるのは10歳にならないであろう少女。
床に広がるほどの長い黒髪をさげ、大きなウサギのぬいぐるみを抱えて絵本に見入る、いつもと変わらぬ夏木夢見子の姿があった。
その様子にほんの少しだけ、雪乃は安堵した。
突如ばたん!と大きな音を立てて、書庫の本棚から本が落ちた。
まるで雪乃の心の動きを戒めるように、〈悪夢〉は進行していた。
緑色の表紙をした分厚い本が、あまりにも不自然に落下する。
そして、そのページが風もないのにめくれ始める。
ぱらり
ぱらり
ぱらり
ぱららららららららららら
徐々に速度を増して、音を立ててページが流れていく。
触れる者もなく、ページが次々に捲られていく異常な光景。
ばん!
目当ての項にたどり着いたか、乱暴に表紙を叩きつけるようにしてページが止まる。
後にはしん、と不気味なほどに無音な空間が広がっていた。
『どんな悪夢かしら?』
風乃の囁きにつられて、というわけではないが落ちてきた本と、その捲られたページを確かめる。
本のタイトルは不思議の国のアリス。
開かれたページには、ハートの女王とトランプの兵隊の挿絵が描かれていた。
…………ふと、様々なスートと数字が刻まれているトランプの兵隊、その一人に何も描かれていないのに気づく。
落丁なのか、印刷ミスか、一人だけ〈白紙のトランプ〉の兵隊がいるのが妙に気にかかり
時槻雪乃の記憶は、そこからしばらく飛ぶことになる。
幾ばくかの空白を終えて雪乃が自分を取り戻したのは、やはり悪夢の中であった。
スノーフィールドという見知らぬ地で、かつて過ごしていた記憶のある家屋の食卓を囲んでいた。
席についているのは父と母……姉に惨殺された二人-トラウマ-が目の前にあるということに吐き気を催す。
「どうしたの?顔色が悪いわよ」
『おはよう、雪乃。起きた?それともまだおねむかしら?寝ても覚めても悪夢なんて、あなたも大変ね』
悪夢からの囁きに、憎悪と恐怖に脳裏を焼かれながらも雪乃は異常事態を認識する。
すでに〈泡禍〉は進行しているのだ、と。
ぱらり
と小さく音が聞こえた。
視線をそちらにやると、見覚えある緑色の表紙の分厚い本が開いていた。
以前と同じページ、〈白紙のトランプ〉の兵隊が描かれた挿絵が目に入る。
そして、そのページに白い指がかかっているのも。
死人のように白い四本の指が、開いたページから這い出るようにして、ページをめくったのも。
「逃げなさい!」
「ゆ、きの……何が」
「いいからどこか寝室にでも引っ込んでて!」
鬼気迫る表情の雪乃と現状に気圧されたか、二人は雪乃の指示通りに避難する。
ずるり
と指が伸びた。
腕が現れ、肩が現れ、体が現れ……
〈白紙のトランプの兵隊〉が、本から現世へ住まいを移した。
続いて、もう一枚。
二枚目の〈白紙のトランプの兵隊〉も現界する。
その異様な光景に雪乃は恐怖以上に敵意を覚える。
悪夢の顕現に釣られて汲み上げられるままに己が〈断章〉を振るおうとする。。
武装となるカッターナイフも、戦支度であるゴシックロリータのドレスもない、不安定極まりない状況で。
だが
「痛っ…」
右手首の内側に痛みが走り、雪の結晶のような聖痕が浮かび上がる。
そしてその痛みに断章が引き出され、左手に巻いた包帯から煙が上がる。
そして引き出された断章が、トラウマとは別の形でどこかに流れていくような感覚を覚え、そのせいで炎を引き起こせずに終わってしまう。
聖痕が刻まれるとともに、〈白紙のトランプの兵隊〉は少しづつ姿を変えていく。
白い色合いはそのままに、一つは大きく、一つは小さく。
やがて二つは胸に穴の開いた、長身の男性と小柄な少女の形になる。
そしてすぐに、男の方は霧散するように姿を消した。
「……っ、こ、の……!」
未だ鈍痛の残る左手首を抑えながらも、雪乃ははっきりと心に敵意を浮かべる。
その憎悪の炎で、突如現れた何かを焼き払わんとするが
『場所を改めて、話をしよう。ここじゃあ二人を巻き込んじまう』
穏やかな声が脳裏に響いた。
〈悪夢〉である姉の声とも違うその響きに少しだけ落ち着き……突如頭の中に刻まれた知識に気付く。
〈聖杯戦争〉という覚えのない知識に。
「早くいこーぜ。部屋を掃除するくらいなら待ってもいいけど?」
そう言いながら少女はリビングから二階へ向かっていく。
目を離したすきに雪乃の両親に危害を加えないか心配に……なりかけるが、〈悪夢〉の登場人物の行く末など心配してどうするとその愚考を振り払う。
『そうだな。二階ならあの二人にも影響は及ばないだろう』
また雪乃の頭の中に男の声がした。
「ここでいいでしょう。心配しなくてももう無闇に暴れたりはしないわ」
『巻き込んじまうって言ったのはあんたの力にじゃない。俺の力に巻き込まないために、離れてくれと言っているんだ。
どうやらあんた……いや、あんたたちは大丈夫のようだが』
男の声は雪乃だけでなく、風乃にまで言及する。
一人の例外を除いて、雪乃にしか認識できない筈の悪夢を認識する者の到来に風乃の声が熱を帯びる。
『あら、私のことも見えているの?雪乃とアリス以外に気付いてくれる人がいるなんて。
……一方的なんて寂しいわ。あなたももう一度姿を見せてちょうだいよ』
『ここではあの二人を巻き込んじまう。これ以上実体化した俺の近くにいると死にかねん』
ここで話し続けても埒が開かないだろうし、ましてやこだわる意味もないと皆揃って二階へと向かう。
雪乃の居室に入ったところで、部屋の片隅に先ほど少しの間だけ姿を見せた、トランプの兵隊だった男が像を結ぶ。
どことなく虚ろな雰囲気の白い服装で、開いた胸元から体の真ん中に大きな穴が開いているのが見える。
自分の体がそこにあるのを確かめるような仕草を見せた後、探るような視線を雪乃たちに向けて、ぽつりと声を漏らす。
「そうか……俺は、いや俺たちは、弱くなったんだな」
サーヴァントとなったことによる弱体化。
その事実を自嘲気に、しかし嬉しそうに受け入れる。
「何だか納得しているところ悪いけれど、色々と聞きたいことがあるわ」
「ん、ああ。俺に答えられることならね」
「〈聖杯戦争〉とは何か、そしてあなたとその子が何か」
予想通りの問いに面倒くさそうな顔をするが、一つ一つ答える。
アーチャーのサーヴァント、コヨーテ・スターク/リリネット・ジンジャーバックという存在である事。
聖杯戦争の[[ルール]]、サーヴァントによる殺し合いと万能の願望器のこと、己が能力など。
『〈聖杯戦争〉、円卓の騎士の真似事が今回の〈泡禍〉の物語かしら?アリスの意見も聞いてみたいところね』
「ところであんたはマスターの何なんだ?破面の一種かと思ったぞ」
「その人は私の姉で、私の〈断章〉の一部。本当は私にしか認識できないはずなんだけど、あなたも人の悪夢を共有するとかそういう〈断章〉を持ってるの?」
白野蒼衣という風乃を認識できる〈断章保持者〉という前例がなければ、聖杯戦争の知識がなぜか植えつけられてなければ、風乃への対応に平静ではいられなかっただろう。
それでもこの男の能力に疑念を持ち、さらに問う。
「断章ってのは何なんだ?それがあんたの能力か?」
質問に対する答えは、補足説明の要求。
互いの常識の差異が理解を滞らせる。
風乃の発言も交えて〈泡禍〉について、〈断章〉について話す。
「私たちはこの聖杯戦争も泡禍だと考えているわ。英雄譚を集めた物語という形で、殺し合いという悪夢を引き起こす、とびっきり最悪のね」
「マスター達の経験と能力を疑うつもりはないが……些か飛躍しすぎじゃあないか?俺の力や、聖杯戦争そのものが泡禍だってのはよ」
「泡禍以外の異常現象が存在するとしても、聖杯戦争という〈物語〉の形をとっている以上、私はこれを泡禍と判断するわ。
人を異常な形で巻き込み、死傷に至るなら私にとっての敵と何も変わらないのだから……あなたはどうなの?私の敵になるなら」
殺すわよ。
左手の傷に力を籠め、そう凄む。
雪乃の纏う空気がまた剣呑になったところで
「なんだお前!あたしたちとやろうって――」
「よせ」
珍しく沈黙を守っていたリリネットが喧嘩腰に合流してくるが、それをスタークがめんどくさそうにあしらうと姿を消した。
「やかましい奴だが、悪い奴じゃないんだ。気を悪くしないでくれ……
さて、つまりあんたはこの聖杯戦争を否定するってことでいいんだな?」
「……受け入れられない、かしら?」
「いや、いいさ」
この場で殺しあうことも想定していた雪乃に、この呆気ない返答は予想外だった。
願いを求める殺し合い……それの真偽はどうあれ、主流に逆らう意向であることは間違いないだろうに、それを受け入れる。
寛大と言えるスタークの答えに、雪乃が抱いたのは疑念だった。
「……俺の願いは殆どもう、叶ってるんだ。あとはマスターと信頼関係が築ければ完璧なくらいだ」
「随分と都合のいい物言いに聞こえるけど」
『あら、そうでもないと私は思うわよ』
従順な姿勢を崩さないスタークに雪乃は疑惑の目を強めるが、対称的に風乃は愛おしいものを見るような目を向ける。
『彼はね、一匹狼なのよ。知ってる?本当は狼は群れで過ごす生き物なんだって。
普通は群れを乗っ取るか、一匹狼同士寄り添うことで群れを形成するものだけれど、彼はそれができなかったの。
あまりに強大になってしまったがゆえに共に過ごせるものはいなかった。当然よね、人と巨人が共に過ごせば些細なことで人は踏みつぶされてしまうでしょう。
私とあなたは知らず知らずのうちに野獣に寄り添う乙女になっていたのよ、雪乃』
時槻風乃は生前も人の内面を見通す少女だった。
スタークの語った能力とこれまでの振る舞いから、内に抱えた孤独を、その願いを見抜き、そして肯定する。
きっと、彼の周りにいた人はみな、先ほど倒れた雪乃の両親のように崩れ去っていったのだろう。
その孤独に耐え兼ね、彼は彼女を生み出したのだろう。
『絆という字はもとは家畜を繋ぐための縄の事、束縛やしがらみを意味するの。
それでも人は弱いから人と絆を結ぼうとする。たとえそれが絞首台の縄でも。
とても強いのに、こんなにも弱々しいなんて可愛らしいじゃない』
くすくすと笑いながらスタークを援護する。
ここまでは、風乃としては本当に心底から親愛を込めての言葉だった
『でもあなたの力が本当に〈泡禍〉によるものではない保証はないんじゃない?
泡禍はあなたの恐怖を具現する。孤独を恐れたあなたに孤独が訪れたのは泡禍によるものではないとなぜ言えるの?
あなたの〈断章〉が例えば周囲の人物を認識し、それを死に至らしめることであなたを孤独にするものであるとしたら、私を認識できるのにも納得いくわ。
雪乃の〈断章〉で無効化できているののは事実なのだし』
今度は悪戯心、程度の悪意を籠めた発言。
しかしさすがは〈神の悪夢〉の欠片か、トラウマに触れるその話しぶりにはスタークに仲間意識などない雪乃も顔をしかめた。
「……あんたの姉さん、いい性格してるな」
リリネットが分身であることは告げても、それを生み出した動機まで教えてはいなかった。
にも関わらず、無差別に振りまく霊圧(チカラ)からその意図を察し………あげくはある種マスターに向ける依存までも見抜かれた。
かつて傅いた男のことも否応なしに想起させられ、その観察眼と毒舌に皮肉交じりの称賛を贈る。
その評価を笑って受け止め、風乃は今度は雪乃へも些細な悪意を込めて言葉を紡いだ。
『〈断章効果〉が聞かない人間は三種類。〈断章保持者〉に〈潜有者(インキュベーター)〉に〈異端(ヒアティ)〉。
下にいる雪乃の両親のようなナニカは、聖杯戦争に則っていうならよく似た別の誰かさん。私たちの認識でいうなら〈泡禍〉により生み出された化生、〈異端〉だわ。先日焼いた赤ずきんの狼のようにね。
もしあなたの能力が〈断章〉で、かつこの聖杯戦争が〈泡禍〉なら彼らにあなたが触れても倒れることはない……試してみたら?』
能力と現状の確認、という一点だけ見ればその一手は効率的だ。
生じ得る犠牲の可能性を考慮しなければ、だが。
「……おい、いいのか?」
「…………あなたがいいなら、いいわ。やって」
偽りとは言え彼らは雪乃の、そして風乃の両親だ。それを危険にさらすような真似をするのか、という問い。
答えに悩むが、偽りに過ぎない両親への心配など無意味と切って捨て、むしろそんなくだらないことで〈断章〉を晒すのかという彼女なりの心配を返す。
僅かに煩悶したのちにスタークが首を縦に振った。
それを受け雪乃も戦支度を整える。
かつての雪乃の部屋にはなかったものだが、風乃の持ち物として用意されたのか、今の雪乃にあわせたのか黒いゴシックロリータと赤いカッターナイフが用意されていた。
愛用―とは言いたくない代物だが―の武装に極めて似通ったそれを身に着け、両親のようなナニカが〈異端〉であり、スタークの力に反応して襲い掛かってきても構わないよう戦闘態勢になる。
着替え終わると部屋の外で待たせたスタークと合流し、階下に降りて再び偽りの両親と邂逅する。
幸か不幸か、戦闘になることはなかった。
スタークが近付き少しすると、両親ともに意識を失ったから。
スタークはそれを見て悲しげな顔をするとすぐに霊体化し、今度はこちらからリリネットを召喚、両親をベッドに運ばせる。
雪乃の細腕では両親を運ぶことは難しく、スタークが実体化してては命を削ることになりかねないから。
「……あなたが〈断章保持者〉であるなら、聖杯戦争は〈泡禍〉ではない。逆に聖杯戦争が〈泡禍〉ならばあなたは〈断章〉ではない異能の保持者。
少なくともそれは認めなければいけないみたい、ね」
『ああ、そうらしいな。それでそれが分かって何か心情に変化は?』
「ないわ。聖杯戦争が〈泡禍〉であってもそうでなくとも、これの原因を断つ。その方針を改めるつもりはない。
あなたも、私の力で形になっている姉さんのようなものだと考えれば、〈断章〉みたいなものだと思える。戦力としては多少は当てになりそうだしね」
雪乃の宿す断章もまた、本来は悪夢の欠片だ。
仮にスタークが悪夢の結晶だったとして、今更気に掛けることも、ましてやそんなこだわりを見せる余裕もない。
ぎらつく戦意に身を任せ、少女は戦場へと身を投じる決意を固める。
『出立かしら、雪乃?』
そこへ風乃が声をかける。
ゴシックロリータのままだが、当然だ。これが雪乃の戦闘着で、きっと死装束なのだから。
学園の制服を着て日常にかまけるつもりなどない。
一刻も早くこの事態を解決する。
『この家とあの二人はそのままにしておくの?こんな愚かしい藁の家の存在を許すの?
こんな、聖杯なんてものに作られた偽りであっても日常を受け入れたら、あなたを動かしている憎悪、痛み、血、その全てを否定することになる。
……焼いてしまいましょう?このあり得ない歪な異物を灰に帰してしまいましょう?』
風乃が日常的に囁く、破滅への導き。
だがこの場に置いては〈泡禍〉を殺せ、という騎士としての責務でもあった。
いつもなら一蹴するが、これを一蹴はできず、彼女も騎士として答えた。
「神狩屋さんにも葬儀屋さんにも連絡がつかない以上、隠蔽ができない……今はまだ、早い」
家庭の夫婦の死、それが報じられては活動に支障をきたす。
田上颯姫の援護なしに大事は起こせない。
神狩屋がない以上、ここを拠点にする必要もあるだろう。
『あら、そう。つまり、〈食害〉や〈アンデルセンの棺〉が用意できるなら彼らを殺すのね?』
悪戯心などではない、明確な悪意に満ちた問い。
しかし〈泡禍〉を、怪奇現象を憎む以上、死者である両親がいるなどという異常事態は許せないのが〈雪の女王〉だ。
だから
「殺すわ」
カッターを強く握り、そう答える。
『それなら彼らとの連絡手段も模索しなきゃね。可愛いアリスとも話はしたいし』
愉快気に笑みをこぼし、妹に両親の殺害を教唆する姉の亡霊。
そして狂々と自論を語り続ける。
『でもそれが意味のある行動だといいわね?眠って起きたら、ここにいた。
忘れちゃだめよ、あなたは〈不思議の国のアリス〉のグランギニョルに巻き込まれると予言されたの。
いいえ、蒼衣-アリス-と夢見子-ウサギ-が出会ったあの時から、少女-あなた-は眠って悪夢-ゆめ-を見ていたのかもしれないわね……そして今も。
ここが少女-アリス-の見る夢なら、あなたは〈チャシャ猫〉のように巻き込まれただけかも。ここが夢なら、もしかするとアリスの姉が起こしてくれなきゃ、悪夢から覚めることはないのかも。
……それともこれは〈美女と野獣〉かしら?もしかすると〈雪の女王〉かもしれないわね?
神狩屋-マッドハッタ―-もいない今、あなたを導くのは誰かしら?スターク-トゥイードルダム-はどう思う?』
「うるさいわ。いい加減黙ってて」
どうでもいい。
これがどんな〈童話〉を象った〈泡禍〉でもどうでもいいのだ。
それが〈泡禍〉であるならなんだろうと滅ぼすと3年も前に決めた。
自分だって。両親だって。蒼衣(アリス)だって。
それが泡禍の根源なら、殺すだけ。
【クラス】
アーチャー
【真名】
コヨーテ・スターク@BLEACH
【パラメーター】
筋力C 耐久B 敏捷A+ 魔力C 幸運E 宝具EX
【属性】
中立・中庸
【クラススキル】
単独行動:EX
宝具により規格外にまでなっている、最早呪いじみた《孤独》の運命。
マスター無しでも現界、全力戦闘が可能。
しかし当然無尽蔵ではなく、宝具の乱発などすれば一人孤独に消えていくことになる。
対魔力:C
第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。大魔術・儀礼呪法など大がかりな魔術は防げない。
保有スキル】
十刃:A+
虚(ホロウ)が仮面を剥ぎ、死神の力を手にした種族、破面(アランカル)。その中でも指折りの戦闘力を持つ者に与えられる称号。
第一の数字を与えられ、また特に死神に近い特徴を持つ彼は最上位で保持する。
虚の技能である虚閃(セロ)という光線、死神の斬魄刀と能力解放を模した帰刃(レスレクシオン)
他に破面の技能である響転(ソニード)という高速移動や虚弾(バラ)という高速光弾、探査回路(ペスキス)という感知能力、身体特徴である鋼皮(イエロ)という強靭な外皮
さらに十刃のみが扱う王虚の閃光(グラン・レイ・セロ)に黒虚閃(セロ・オスキュラス)など多彩な能力を保持する霊的存在である。
神性を持つ相手に追加ダメージ判定を行う。相手の神性が高ければ高いほど成功の可能性は上がる。
また魂を喰らう種族であるため『魂喰い』による恩恵が通常のサーヴァントより大きい。
直感:D
戦闘時、つねに自身にとって有利な展開を“感じ取る”能力。
攻撃や敵の能力をある程度は予見することができる。
魂魄改造:―(A)
自身の霊体、魂を改造する能力。
このランクが上がればあがる程、正純の英雄から遠ざかっていく。
これにより彼は自らの魂を引き裂き分かち合い、スタークでもありリリネットである弾頭を呼び出せる。
またかつて自らの魂を斬魄刀ではなくもう一人の自分として形成したこともある。
帰刃状態でのみ行使可能なスキル。
道具作成:E
魔力を帯びた道具を作成する技能。
霊子で構成された武器を発現させる。
様々な武器を発現可能で、劇中では剣を発現させ使用している。
【宝具】
『一人(プリメーラ・エスパーダ)』
ランク:C 種別:対軍宝具 レンジ:1~8 最大捕捉:上限なし
十刃(エスパーダ)には個々に司る死の形があり彼のそれは《孤独》である。
実体化している限り、現界に消費した魔力量に応じて自身の周囲に無意識に霊圧を放ち、一定以下の実力者はその霊圧にすら魂を削られる。
レンジ内で長時間存在した場合、4つ以上Cランク未満のパラメータを持つ、または3つ以上Dランク未満のパラメータがあるもので意識混濁、4つ以上Dランク未満のパラメータがあるもので意識消失、しばらくすると死亡する。
大多数のマスターやNPCは堪えるのが難しいが、サーヴァント化により大幅に弱体化しており即座に離脱すれば影響は少ない。
また対魔力やそれに準ずる呪術、魔力、霊障などへの耐性、頑健や天性の肉体などの防御スキルがあれば容易く無効化も出来るようになっている。
この宝具は現界に消費する以上の魔力は要求しないが、自身のマスターにも効果を及ぼし、令呪を以てしても停止・破棄できない。
またいかなるクラスで召喚されようと単独行動のスキルをEXランクで保持させる。
『二人(リリネット・ジンジャーバック)』
ランク:EX 種別:― レンジ:― 最大捕捉:―
スタークが破面化した際、通常は肉体と刀に分ける虚の力を1体の虚が2つの肉体に分けた半身の様な存在。
彼女が存在する限りスタークは一人じゃない。
分身であるリリネットと一体化することで後述の宝具は解放される。
ステータスは筋力:E 耐久:C 敏捷:E 魔力:E 幸運:E 相当。刀身が湾曲した形の刀を武器とし、折れた角のような部分から取り出す。一応虚閃も撃てる。
本来スタークの一部であるため『一人(プリメーラ・エスパーダ)』による影響を受けない。
そして彼女も《孤独》の運命を背負っており、EXランクの単独行動スキルを持つ。
ある意味で魂の物質化という第三魔法に近付く偉業であるためEXランクとなっているが、戦闘などに役立つかといえば否。
猫の手よりはまし程度だろう。
一応宝具化に伴い霊体化というか、送還可能になっているが、勝手に出てくることもある。
基本的に余計を消耗を控える為に、用もなく出てくると引っ込められる可能性が高いが。
虚は死者の魂が心をなくしたものであり、大虚(メノスグランデ)はその集合体、破面はその進化系である。
そうした成り立ちの者が魂を引き裂き、固有の人格を成しているのは愛染惣右介の産み出したホワイトという虚に、ひいては二枚屋王悦の作り出した斬魄刀に近似する。
ただ力の核を刀の形状にした他の破面とは違い、もう一人の自分として《具象化》しているスタークはより《死神》に近い存在と言える。
『二人で一人の群狼(ロス・ロボス)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1~30 最大捕捉:10人
帰刃(レスレクシオン)状態であり、解号は「蹴散らせ」。
分身であるリリネットと一体化することで解放される。
解放するとオオカミの毛皮のようなコートをまとったカウボーイを思わせる姿に変わり、左目部分にポインターの様な仮面の名残が形成される。
リリネットは2丁拳銃に変化しており、会話も可能。
解放前に受けていたダメージの一切が超速再生し、敏捷と幸運を除くステータスが1ランク上昇する。
自分の魂を引き裂き分かち合う能力で狼の弾頭を召喚し、2丁拳銃からの虚閃と狼の弾頭を操って戦う。狼の弾頭は攻撃を受けると分裂する上、標的に喰らい付くことで大爆発を起こす。
魂を引き裂き過ぎると『二人(リリネット・ジンジャーバック)』を失うことになるが、十分な『魂喰い』か魔力供給があればそのリスクを減らせる。
【weapon】
・『浅打・偽』
四角形の四つの角に牙がついている鍔がある刀。
応宝具には劣るが、それなりの神秘は宿す。
大多数の破面と異なり彼は己の力の核を先述の宝具としているため、この刀の戦力は他の破面や死神に比すと劣るところがある。
【人物背景】
あるものが命を落とし、霊となった。
霊として長く在るうちに心をなくし虚(ホロウ)となった。
なくした心を求めて虚を喰らい、最下級大虚(ギリアン)となった。
ギリアンと化しても、さらに成長して中級大虚(アジューカス)となっても共食いを続け、圧倒的な力を持つ最上級大虚(ヴァストローデ)となった。
当然周りに誰もいなかった。
一人に耐えかねて仲間を作るが、自身の力に耐えかねてそこにいるだけで魂が削られ皆死んでいった。
一人に耐えかねて魂を分かち、二人になった。
二人以外にも仲間が欲しかった。
力に耐えられるような強い仲間が欲しかった。
そんなことを気にせずにいられる弱いやつが羨ましかった。
…………力を見込まれて強い男たちの仲間になった。
仲間が、そのなかでもそれなりの地位の男が倒れた。
弔い合戦なんて経験なかったし、柄じゃないけど、普通ならやるもんだろうと思ってた。
けれど、仲間だと思っていたやつもそいつの部下もそれに何の感情も表さなかった。
仲間じゃなかったのかもしれない。
また、二人になった。
戦いの中、ついに一人になった。
そして誰もいなくなった。
【サーヴァントの願い】
弱くなりたい……叶った。
またリリネットに会いたい……叶った。
あとは、仲間が欲しい。
命を懸けて守りあえるような、敵を討ちたいと互いに思い合えるような本当の仲間が。
【基本戦術、方針、運用法】
型月アーチャーに相応しく、近距離から遠距離まで柔軟に対応する。
剣を用いた近接戦闘に優れ、宝具を真名解放すれば二丁拳銃からすさまじい速度で虚閃を乱射し、敵を近づかせない。
スターク自身には呪わしい孤独の運命も高ランクの単独行動としてあらわされる聖杯戦争ではマスターへの負担を減らす大きなメリットとなり、戦力燃費共に優れたサーヴァント。
地雷となるのは宝具『一人(プリメーラ・エスパーダ)』の存在である。
並の存在では彼と対峙することすら命を削る。
敵に対して機能するうちはいいが、無差別に効果を発揮するこの宝具は大多数のマスター、ごく一部のサーヴァント、ほぼすべてのNPCに対して致命的な存在となる。
対聖杯のスタンスであるにもかかわらず、同行者を得ることは難しく、NPCの虐殺と取られれば監督役に目をつけられる可能性もある。
マスターの暴走の危険性も含め、取扱注意な主従であろう。
【マスター】
時槻雪乃@断章のグリム
【マスターとしての願い】
泡禍への復讐……だがそれは聖杯なんて訳の分からないものに託すものではない。
ましてや彼女は聖杯戦争も泡禍であると考えている。
【weapon】
・カッターナイフ
何の変哲もないカッターナイフ。
殺傷能力はあるので一応武器としても扱えなくはないだろうが、主に後述のトラウマ、ひいては断章を起動するための条件付けに用いる。
作中で名言はされていないが、トラウマを想起しやすいよう姉が実際に使っていた、またはそれと同じデザインのカッターであると思われる。
他の刃物や別形のカッターでは駄目な可能性が高い。
・ゴシックロリータ
何の変哲もないゴシックロリータの衣装
別に防刃加工とか魔術的な守りなどはない。
後述のトラウマ、ひいては断章を制御するための一助であり、これを身に纏うことで断章を引き出しやすくする。
逆にこれを纏わないことにより日常において断章が暴走するのを防ぐ役割もある。
リボンだけを身に付けることで日常と戦場を兼ねたような精神状態に身を置くこともある。
【能力・技能】
・断章『雪の女王』
かつて起きた〈泡禍〉により宿した神の悪意の泡の欠片。
『私の痛みよ、世界を焼け』と、断章詩を唱え自身の手首に刃を走らせることで炎を放つ、痛みを代価に火炎を発生させる能力。
ただし、その苦痛に集中していなければ、現出させた炎を維持できない。一度発生させていれば『焼け』の一言のみでさらに炎を発生させることができる。
詳しく言うなら『トラウマをフラッシュバックさせることでその原因もフラッシュバックさせる』能力、のような現象。
彼女の場合、実姉、時槻風乃の焼身自殺がトラウマとなっているため実姉のことを思い出すことで焼身自殺の状況を再現=発火現象を引き起こす。
また風乃の存在そのものもトラウマとなっているため彼女の幽霊のようなものが常に彼女のそばにいる。
より断章を引き出すことで風乃は実体を伴う現象にまでなり、それに伴いより鮮明に焼身自殺が再現される=より正確に強力な炎を放てる。
彼女の姉はゴシックロリータを常に纏い、リストカットの常習犯で、最期に「私の痛みよ、世界を焼け……」と呟いて家に火を放ち、父母と共に死亡した。
そのトラウマを想起する事象で身を固めることで断章を放つ。
引き起こす現象は極めて強力だが、発動にはトラウマをフラッシュバックさせる、リストカット、風乃による炎の行使にはさらに深くトラウマと向き合い今までのリストカットの傷全てが開くなどの条件が必要。
精神肉体両面でのダメージは激しく、トラウマに心を壊せば自信を含めた全てを焼き尽くす「焼身自殺」の再現となる。
なお風乃の幽霊は、生前の人格を再現しているのに加え、同種の〈泡禍〉を感知し、魔力も多少なら感知できる。
断章とは「無意識に住まう神の悪意の欠片」であり、つまり雪乃はアラヤの悪意とそれに伴う魔力を受け取っている。
例えるなら「この世全ての悪」の泥ではなく泡を宿している。
膨大な魔力を持つが、もしこの泡が弾けて器(雪乃)の外にあふれたならそれは〈泡禍〉という悲劇を招くだろう。
恐らく彼女のそれは、巨大な火災。
そしてすでに「神の悪意の欠片」を宿しているため彼女の意識の容量はすでにほぼ一杯であり、他の要素が入り込む余地が少ない。
そのため断章保持者は断章、ひいては神秘を伴う異能に耐性を持つ。
記憶を奪う断章に触れても不快感ですみ、、侵入を禁じ認識を阻害する断章の効果も受けず、針の山や鳩の爪によるダメージもそれが〈泡禍〉に由来するものならば少なく済む。
特に霊的、精神的異能に対しては強力な耐性となり、スタークの『一人(プリメーラ・エスパーダ)』のよる影響を受けていない。
……だがあくまで耐性にすぎず万能ではない。
人魚に変えられてしまう断章も少量なら傷の治癒でとどめることができるが、過剰に与えられれば異形になってしまう。
『一人(プリメーラ・エスパーダ)』は無力化が容易な宝具だが、他のサーヴァントによる異能などへの抵抗はほぼできないだろう。
そして逆もまたしかり、神秘の塊であるサーヴァントへの断章によるダメージは少ない。
纏めると「魔力タンク」「そこそこの異能耐性」
「魔力探知してくれる姉の亡霊(一部の能力者しか認識できない)がいる」
「詩を唱えリストカットをすることで周囲を焼き尽くす(サーヴァントにはあまり効かない)」
「詩を唱え、リストカットの古傷を全て開くことで姉の亡霊を受肉させ、さらに強力かつ正確に周囲を焼き尽くす(同上)」
「ただしめっちゃメンタル削るし、制御失敗すると『この世全ての悪』的な代物の欠片が暴走してヤバイ」
【人物背景】
道を歩くだけで人目を引くほどの整った白皙の美貌と長い黒髪を結んだゴシック調のリボンが特徴の美少女。
その外見は常に不機嫌そうに見え、冷たい瞳と手首の傷を隠す包帯が他人を寄せつけず、また彼女自身も他人と必要以上に触れ合う事を忌み嫌っている。
また、両親の惨殺死体と自宅が炎上する様を目の当たりにした事で、肉類が一切食べられないため、栄養補給の手段は専らサプリメントに頼っている(生前は精神安定剤と睡眠薬漬けだった風乃の劣化行為の側面も兼ねている)。
姉の時槻風乃に浮かび上がった〈泡禍〉で家族を全て失い、〈騎士〉となった。
多くの〈泡禍〉――時折〈童話〉にまで発展した――を焼き払い、〈雪の女王〉としての畏怖を集める。
そしておよそ三年〈騎士〉を続け、赤ずきんの〈泡禍〉を焼き尽くした傷も癒えてきたころの参戦。
周囲の大人達が心配するほど〈泡禍〉に対して激しい憎悪を持っており、それと同時に「普通の日常」に生きる事を放棄している。
好戦的な性格と無表情故にあまり動じない印象を受けるが、<断章>で人らしいものを殺した日の夜は風乃の<泡禍>を思い出して涙を流すことがよくあるらしい。
そもそも攻撃的な性格は<泡禍>との戦いのための行動の賜物のようで、余裕がないときなどには無意識のうちに元来の性格に由来する情に厚い行動をとることもある。
一応必要と判断すれば情報収集のためのコミュニケートはとるし、情報操作などのバックアップの必要性は分かっている。
現場での同僚無しでやっていた時代もあり、敵に容赦はないが、誰彼問わず敵対しようとなどはしない、作中指折りの常識人である。
……比較対象が〈泡禍〉に触れて精神的に病んでいる面のある人ばかりなのはあるが。
【令呪】
右手首内側、雪の結晶状。
一画使うごとに六つの角が二つ消える。
【方針】
対聖杯。
神狩屋たちと連絡を取る術を模索しつつ、この聖杯戦争の元凶となった者を殺し、止めるべく動く。
……それがたとえ自分や知り合いであっても。