「encounter」の編集履歴(バックアップ)一覧に戻る

encounter - (2017/01/27 (金) 03:00:53) のソース

*encounter◆DpgFZhamPE

「助けて」「助けて」「助けて」

そんな声ばかりが、聞こえていたと思う。
この子だけでもいいから連れていって。
一杯でいいから水をくれ。
足が痛いんだ、この瓦礫を退けてくれ。
悲痛な叫びを聞けば聞くほど、喉に熱した鉛のような何かが貯まる。
少年にとっての、原初の地獄。

"―――うん。初めに言っておくとね、僕は魔法使いなんだ"

そして。
唯一生き延びた少年は、正義の味方に救われた。
最初は、何一つ受け入れられてなかったと思う。
毎日毎日、幽霊のように『家があった』場所まで足を運ぶ。
家のドアがあった場所で、扉を開く真似をし。
灰と瓦礫の上で、かつてあったものを見るように『ただいま』と言う。
…その少年の心は、現実をすぐ受け入れられるほど強くなかったんだ。
そうして何度も何度も焼け落ちた既に無い扉を開け、家の跡地で『ただいま』と言い、何もない現実と直面する。
ちょっとずつ、ちょっとずつ。
現実を咀嚼し、受け入れる。
一人だけ生き残った。
一人だけ、生き残ってしまった。
―――ああ、だったら。
この生命は、既に俺一人のものじゃない。
死んでいった人たちのためにも、この悲劇を二度と起こさない。
そう決意したのは、何時だっただろうか。
そうでもしなければ、自我を保っていられなかったのだろう。
一人生き残った責任と罪悪感からの、贖罪。
…恐らく、少年はこの時に壊れてしまったのだろう。
自分のためでなく、他の人のために生きると誓った時点で、彼は普通の人間ではなくなった。
壊れた人間―――出来損ないの破綻者。
人間、誰だって自分が一番大切だ。
当たり前のことを問うつもりはない。
少年はこの時点で―――人間としての、一番の根底の部分が欠落していた。
例えるならば、人間になろうとしているロボットのようなものか。
決定的に根底から間違えた『何か』は、誰かから与えられた借り物の理想を胸に成長した。

「爺さんはオトナだからもう無理だけど、俺なら大丈夫だろ。
まかせろって、爺さんの夢は―――」

そして訪れた、月下の誓い。
月下の呪い。
少年の歪みを決定的なものとした、運命の日。
多くの人間を助ける、正義の味方になる。
そんな独善染みた勘違いを持ったまま、少年は成長する。
成長する。
成長する。

―――分岐点。
ここが、量子記録固定帯。枝分かれしたイフ(if)の世界の一枝。
少年は、運命の夜を迎えない。
『聖杯戦争関係者』のサンプルとして、ムーンセルの貴重な情報源として、彼は導かれた。
その先は異国の地、日本より遠く離れたスノーフィールド。
さあ。
聖杯戦争を始めよう―――。


○ ○


「…ああ、そうだった。今日は土蔵の片付けをするんだった。
いけないな、最近忘れ物が激しい。爺さんじゃあるまいし、ボケるにはまだ早いぞ」

赤銅色の紙を揺らし、ポリポリと頭を掻く。
時刻はもう22時。
普段なら既に布団に潜っている時間だ。
うーむ、と頭を傾げ。
たった今食べ終えた晩御飯の食器を重ね、流し台へと持っていく。
小さな身体には少し荷が重いか、ふらふらと揺らぐが食器を落とすような真似はしない。
物は大切に扱わなければいけない。
ご飯は無駄にしてはいけない。
此、人としての常識也。

「寝る前少しだけなら、いいか。
別に徹夜する訳じゃなし、明日もどうせ暇なんだ。
ちょちょっと片付けよう」

とてとてとてとて。
草履を引っ掛け、和の趣を強く醸し出す家から駆け出す。
少し離れた場所に、その土蔵はある。

「うう、やっぱり冷えるな。
夜の寒さは伊達じゃない、っと」

ガラリ、と土蔵の扉を開けると、酷く散らかった空間が目に入る。
壊れたストーブから鉄パイプまで。
『とりあえず使えなくなったけどまだ使えそうだから詰め込んどきましたぜ』とでも言うような混雑具合。

「…爺さん、片付けぐらいやっとけっての」

小さな身体で、大きな荷物を担ぎ上げる。
まずは、要らないものと要るものの分別だ。
話はそれから。
がちゃがちゃ。
どさどさ。がらがら。
ごりごり。がらがら。
どんどんがらがらどんがらがっしゃん―――そのような雑音が響くこと約数時間。
何ということでしょう。
物置小屋同然だった土蔵が、何とも広々とした空間に生まれ変わったじゃありませんか。

「うん、こんなところかな。
…結構時間かかったけど。今何時だ。
…うわ、もう2時じゃないか!通りで寒いと思った、このままじゃ風邪引くぞ」

ひゅるる、とドアの隙間から入ってきた夜風に身体をぶるると震わせる。
締め切っていた土蔵の扉を開ける。
辺りは真っ暗だ。
こう見ると、アメリカンな町並みを残すこのスノーフィールドにおいて我が家は少し日本らしすぎると思う。
風景に馴染んでいないようにも思える。
まあいいか、と少年は疲労が溜まった肺に空気を流し込み、体内の熱を外に吐く。
ふと、空を見上げた。
満天の星空と―――煌々と輝く、月。
満月だった。

―――異様な、迫力を感じる。
月から目を離せない。
離してはいけない気がする。
離してはいけない気がする。
離しては―――手離してはいけない、記憶があった気がする。

少年―――『衛宮士郎』が『衛宮士郎』である限り、忘れてはいけないソレ。
何か、命より大切なこと。
多くの命を救う。正義の味方になる。
その呪いの―――願いの、権化。

『―――ああ、安心した』

誰も彼もを救おうとして。
誰も彼も救えなかった、男の願い。
最期はただの子供の言葉に救われて、看取られて、消えていった男の言葉。
ああ、忘れてなるものか。
記憶が消えていても。
記憶が奪われていたとしても。
その誓いは―――今も、この胸に。

「ッ…?」

突如堰を切ったように流れ出した記憶の奔流を、足を踏ん張りグッと堪える。
倒れない。
少しフラフラとするが、それだけだ。

「何が―――」

その先の言葉は、紡がれることはなかった。
背後から、眩い…正に、太陽が背後にあるのではないかと錯覚するほどの光が爆ぜたのだ。
発信源は土蔵の中心。
熱くはない。
怪我もない。
ただ、驚いて尻餅をついてしまった。

―――ふわふわと、土蔵の中のものが宙を舞う。
せっかく片付けたのになぁ、なんて場違いな感想を抱いている内に。
中心に現れた人型のそれは、士郎に問う。

「サーヴァント、アーチャー。此度の聖杯戦争にて現界したわ」
「此より貴方の命運はわたしと共にある。わたしの弓は貴方と共にある」
「問うわ」

それは。
まるで、久しぶりにあった旧友に言葉を投げ掛けるように。
しかして思いやりと厳しさが同居している、そんな声。
勿論士郎に聞き覚えはない。
ない―――のだが。
何処か、他人ではない気もする。

「貴方が、わたしのマスターね?」

長い髪をたなびかせ。
金の少女―――アーチャーは、そう問うた。

○ ○


この少年は―――酷く、歪だ。
アーチャーがマスターであるこの少年…衛宮士郎に見出だしたのは、ソレだ。
子供故か、それとも魔術師に遠く及ばない存在だからか―――召喚の魔力消費により、気を失うように眠っている。
比較的露出が多い格好のアーチャーにこれでも着るといいと赤面しながら差し出した士郎に『あら?子供の癖に恥ずかしがってんの~?うりうり、そんなに見たいならもっと崇めなさい』とからかい過ぎたのもあるかもしれない。
布団の中で行儀良く収まっているその姿は、アーチャーにとってとても幼く、弱く、小さい―――人間が小動物を見るソレに似ていた。

『聖杯戦争が何だか知らないし、俺が知ったことじゃないけど』
『誰かが犠牲になるのは、避けなきゃいけない』
『俺が止める』

聖杯戦争の概要を一般人にも分かりやすくかいつまんで説明した結果、帰って来たのはこのような言葉だった。
アーチャーは本来、神霊級の存在だ。
故に『人を見る目』というのはある程度持っているつもりである。
恐らく。
本当に目の前で誰かが死の危機に瀕していたら―――この少年は、その身を盾にしてでも乗り出しかねない危うさがある。
もう少し歳を重ねていたならば、その強迫観念からか人を守るための努力を積み、ある程度の危険も乗り越えられただろう。
しかし。
現実、この少年―――衛宮士郎は、まだ幼い。

「…はあ、子供ならもうちょっと子供らしくしてろっての」

寝ている頬をつんつんと指先で突く。
アーチャーは、我儘だ。
欲しいものは手にいれなきゃ気が済まないし。
嫌いなものは視界にも入れたくない。
聖杯なんてものにも興味はないし、大抵の欲しいものは得ている。
…得られなかったものもあるが、それはそれとして置いといて。
本来ならば、こんな聖杯戦争なぞに呼ばれる筋合いも必要もないのだ。
誰が頼んでも召喚されるつもりはないし、道理もなかった。
しかし。

「…なぁーんか、放っておけないのよね。
よく足掻き、よく藻掻く。
それだけで見ていて面白いからいいんだけど…それとは、別に」

この身体の影響かしら、とアーチャーは首を傾げる。
何故か。
この少年を、このまま見捨てるのは何か背中がむず痒かったのだ。
放っておけない。見ていられない。
そんな気分が、彼女の胸中を占めた。
…まあ、一時の気紛れかもしれないが。
酷く歪な、この少年。
詰まるところ、この少年は自分のことが嫌いなのだ。
自分の価値を認められず。
誰かの為に生命を消費することを選ぶ。
アーチャーから見ても、それはとても腹が立つ。
人間とは、無様に己のことを考えて足掻き神を崇めて生きていれば良いのだ。
身に余る願いを抱き、神以外の誰かの為に己を磨り減らそうなど、傲慢にも程がある。
…ああ、そうだ。人間は、自分のために生きているものだ。
それを根本的に勘違いしている少年に、アーチャーは腹を立てているのだ。

「…わかった。これは心の贅肉ね。本来こんなこと、するべきじゃないししたくもないんだけど。
いいわ。これはただの気紛れ。
貴方が少しだけ自分を好きになれるように―――真人間になれるように、手伝ったげる。
感謝しなさいよ。こんなこと、滅多にないんだから」

アーチャーは、眠っている士郎の顔を横目に眺めながら。
そう、小さく呟いた。

【出展】Fate/Grand order
【CLASS】アーチャー
【真名】イシュタル
【属性】秩序・善
【ステータス】
筋力B 耐久B 俊敏B 魔力EX 幸運A 宝具A++

【クラス別スキル】
単独行動:A
 マスター不在でも行動できる。
 ただし宝具の使用などの膨大な魔力を必要とする場合はマスターのバックアップが必要。

対魔力:A
魔術に対する抵抗力。一定ランクまでの魔術は無効化し、それ以上のランクのものは効果を削減する。
 事実上、現代の魔術師の扱う魔術ではダメージを与えることができない。

女神の神核:B
自身に与ダメージ力プラスを付与。弱体耐性をアップ。

【保有スキル】
美の顕現:EX→B
美の女神としての恐るべきカリスマ性。
他者を惹き付ける力。憑依しているだけの状態ながら、既に人の域を超えている。
本来は強力な誘惑を主体とした複合スキル(ゲージ吸収、呪い、スキル封印)となるはずが、憑依された人間の強い意向によって相手への束縛効果が外されて、実質的にはカリスマ単体のスキルになっている。
(本来ならEXランクだが、Bに下がっている)

輝ける王冠:A
 ゲーム内効果ではランダムに自身に効果を発動(NPを増やす・無敵付与・無敵貫通付与)

魔力放出(宝石):A+
ありあまる魔力を武器に付加させ攻撃力を増す。
本来、イシュタルの神気は自由自在でほとんど万能なのだが、憑依体の影響か、なぜか宝石にしか魔力を蓄積することができなくなっている。
強力な魔力放出スキルではあるが、宝石に込めてから放つ、という工程が必要なため、使いどころがやや難しい。

【宝具】

『山脈震撼す明星の薪(アンガルタ・キガルシュ)』
ランク:A++ 種別:対山宝具 レンジ:不明 最大補足:不明

シュメル神話においてイシュタルが行った最も「破壊的で」「残忍な」行為―――神々の王でさえ恐れ、敬った霊峰エビフ山を"ただ気にくわないから"と蹂躙し、死滅させた逸話を宝具にしたもの。
メソポタミア神話曰く、イシュタルはエビフ山に分け入り、一歩ごとにその神威を増し、最後には山脈の頂を鷲づかみにし、その地脈の心臓部に槍を突き刺し、エビフ山を崩壊させたという。
この逸話を元に、宝具使用の際は金星にワープ、管理者権限で金星の概念を手中に収め、概念惑星としてマアンナの弾倉に詰めて放つ、
という神をも恐れぬ行為をやってのける。またの名をジュベル・ハムリン・ブレイカー。
とてつもない魔力消費のため、使用するなら令呪一画は必須か。

【人物背景】

メソポタミア神話における美と豊穣、そして戦の女神。神々にもっとも甘やかされた。もとい、愛された女神とも言われる。
この姿はイシュタル女神としてのものではなく、彼女に波長の近い人間を依り代にした擬似サーヴァント状態。
女神らしく人間を見守るのが役割と語るが、「さあて、人間は生き延びるのかしら、それとも滅亡するのかしら?」とニマニマ笑いながら見守る、という意味。まさに金星の(赤い)悪魔。
シュメル神名ではイナンナといい、名としてはこちらの方が古い。イシュタルはアッカド神名。
金星の女神であり、人に?壓栄をもたらす豊穣の女神であり、戦いと破壊を司る女神でもあり、『天の牡牛』という恐るべき神獣をウルク市へ送り込んだ、とにかく傍迷惑な女神。
愛が多かったのも有名で、人間であれ神々であれ、気に入った相手は全力でモーションをかけたという。
一方、自分の意に染まらない者には悪魔の如き残忍さを見せたとも。
神獣を地上にもたらした理由も、ウルクの英雄王ギルガメッシュが自分の誘惑に応えなかったから、と言われる。
巨大な弓であり飛行船である『天舟マアンナ』を主武装とする。
マアンナはメソポタミア世界を駆ける
神の舟であり、地球と金星を結ぶ星間転移門(ゲート)でもあるが、疑似サーヴァントであるため、基本、ワープ機能は封じられている。
イシュタルは槍も扱うが、今回はアーチャーに徹している。メソポタミアの神と言いながら、イメージは金星から地球を攻めに飛来したインベーダーのそれである。ピピュン。

【サーヴァントとしての願い】
この少年を、何か放っておけないので更正させる。

【出展】
 Fate/stay night

【マスター】
 衛宮士郎

【参戦方法】
 どうやら衛宮切嗣の遺品にトランプが混じっていたらしい。本人未自覚。

【人物背景】
衛宮士郎。12歳。
冬木大災害の生存者で、天涯孤独となった彼は、自分を救ってくれた男・衛宮切嗣の養子となる。
五年後、切嗣は病のために死去。彼は、切嗣が最後に呟いた「正義の味方になりたかったんだ」という言葉から、その志を継ぐことを決意。
切嗣の影響で、全てを分け隔てなく救う「正義の味方」になることを本気で志している。
それはもともと切嗣が諦めた理想であり、その遺志を継ぐという考えと、「十年前の大災害で唯一生き残ってしまった」自分は人の為に生きねばならない、という強迫観念に似た義務感のため培われた理想である。
衛宮切嗣が死亡して少し経った後より参戦。

【weapon】
なし

【能力・技能】
魔術回路は27本で、代続きしていない魔術師としてはの多め。
しかし閉じているため、何とかして開くことが出来ればマスターとしても頼りになるか。

【マスターとしての願い】
 争いを止める。正義の味方になる。

【方針】
聖杯戦争を終わらせる。