*毛利蘭&アーチャー◆3SNKkWKBjc 違和感を抱くのに時間は必要なかった。 アメリカ大陸西部のスノーフィールドは『彼女』にとっては異国の土地であったのに、何故か生活に溶け込んでいた。 英語も、日本語のようにスラスラ読み書きできるし、生活のあれこれにも困った事がなく。 彼女は日本から留学して来た高校生。という設定だった。 自分は留学しようとした覚えはない。 第一、自分が留学している最中、家はどうなっていることやら……… 家には父親と居候中の小学生の二人のみ。 酒癖が悪い父が、一体どうして家事をこなせるだろう。 居候中の小学生――彼の名前は江戸川コナンというが、彼は子供ながらしっかりした部分もあり、 かと思えば父親の仕事である事件に首を突っ込んだり……とにかく、放っておけない場面が多くあった。 つまり、その二人を何事もなく置いてきた自分自身がありえない。 彼女――毛利蘭は確信を抱いたのだ。 自分は誘拐でもされたのか? いや、そんな覚えはない。 最後の記憶に残っているのは『白紙のトランプ』だ。 蘭の父親は、そこそこ有名になった探偵・毛利小五郎。 事務所兼自宅には様々な依頼人が訪れたり、依頼が文書で届いたりする。 奇妙な封筒が一つ、郵便受けに入ってて、中身を開けたら何も書かれていない『白紙のトランプ』だった。 不信に思って誰かに相談しようと考えた途中なのだ。 蘭が強制的にスノーフィールドへ転送されてしまったのは。 (でも、私……あのトランプは持ってない) 記憶が正しければ、真っ白な『トランプ』自体が珍しい。 だけど、ここへ来てから蘭の視界に『トランプ』は―――…… 否。 考えている場合ではない。 蘭はホームスティ先の一軒家へ戻ると、見知らぬ夫婦が出迎えてくれる。 娘息子が旅立って、物寂しいからホームスティを始めたと話を聞いていたのは蘭の知識に残っていた。 蘭の慌てた様子に妻が「どうしたの?」と心配してくれる。 咄嗟にいつも通り、明るく振舞って「ちょっと家族と電話がしたいんです」と頼んだ蘭。 嬉しい知らせでもあるのだろうと、察してくれた妻が電話の場所まで蘭を案内してくれた。 (こ、こういう場合……国際電話になるのよね? えっと、確か……) こんな無駄知識。新一が教えてくれた気がすると、幼馴染を脳裏に浮かべた蘭はハッとした。 (そうだ! 新一!!) 彼に関しては、そもそも蘭が日本にいない事すら把握していない筈。 意味不明な状況から脱する為にも、頼りになる彼を。 どうして忘れていたんだろう? あまりに異常な事に蘭の動作は停止してしまった。 自身の手の甲に痛みと、それからポケットに不自然な違和感を覚えた。 手の甲には悪趣味な刺青が浮かびあがり、ポケットには――驚いた事にあの『白紙のトランプ』が入っている。 「え!? どういうこと……!!?」 光り輝く『白紙のトランプ』に戸惑う蘭は、仕方なく用意された自分の部屋へ駆けこんだ。 あまりに異常過ぎる。 思えばあの夫婦にトランプを見せるべきだったのでは? と後悔したが、思い返せば、しなくて正解であった。 『白紙のトランプ』が蘭の手から離れ。一人の少女の姿となって、形取った。 幻想的な赤髪と、現代ではあまりに浮世離れした弓を背負った。 その英霊は儚げに告げた。 「私は……サーヴァント、アーチャーです。 偉大なるコサラの王『ラーマ』として召喚されました。真名は『シータ』になります」 ○ ○ ○ 「えっと……ラーマさん、じゃなくってシータさん?」 「ここでは『アーチャー』と呼んで下さい。マスター」 穏やかな物腰で語るアーチャーを前に、蘭は混乱と同時に申し訳なさを抱いた。 聖杯戦争の知識を得て、自分の身に何が起きているか理解すると同時に。 戦争、あるいはマスターを死が必要となる状況を受け入れ難かった。 探偵の父や幼馴染、弁護士の母の元へ人殺しになってまで帰りたくは断じてない。 無理で無謀な話だった。 だけどこれが、本来『白紙のトランプ』が手に渡る相手だった父や、居候のコナンの手に渡らなくて安心した気持ちもある。 気不味そうに蘭はアーチャーに尋ねた。 「アーチャーさんは、願い事。あるんですか?」 「……ラーマ様に会いたいのです」 「ラーマ……えっと、アーチャーさんが『ラーマ』さんとして召喚されたって言ってた。あの?」 「はい。私たち夫婦は呪いによって、英霊の身となってなお、引き裂かれています」 「!」 「私か『彼』。どちらかが『ラーマ』として召喚され、同時に召喚されることも決してありません」 だからこそ。 聖杯の力を求めている。聖杯で呪いが解かれれば、アーチャーは……シータはラーマと再会できる機会に恵まれる。 深刻な願いに蘭はますます動揺してしまう。 何故かと言えば、蘭も 「私も……分かる気がします」 英霊のソレとは比較してはならないだろうが。蘭も同じであったのだ。 幼馴染の新一……工藤新一とは、遊園地でのデート以来、満足に再会し続けられない状況ばかり。 電話で会話したり、思わぬ形で再会するなど。 接触の機会が多々あったにも関わらず。新一とは離れ離れよりかは、新一そのものが希釈されそうな。 表現し難い不安が、蘭の中に渦巻いている事もあった。 こんなもの。二度と再会が叶わないアーチャーと比較しては大分劣るだろう。 だが、似通っている境遇だからこそ、アーチャーの願いを深く共感できる蘭は非常に申し訳ない。 彼女は深く頭を下げた。 「ごめんなさい! アーチャーさん。貴方の願い、とっても大切だって分かります。 でも、私は……人を殺す事なんて出来ません。殺人を犯して、新一や……皆のところに帰るなんて私には無理なんです」 多くの殺人事件を目の当たりにした蘭だからこそ、殺人の罪が如何に重いか承知していた。 殺人を犯せば、きっと蘭自身が罪の意識に耐えられるか定かじゃない。 同じだから分かる。 そう語る蘭の様子を伺い、アーチャーは静かに答えた。 「聖杯戦争から逃れるのは非常に難しいことです。避けられぬ運命のようなもの……」 「分かっています。でも――」 「……せめて。せめて、マスターだけは大切な方の元へ、御戻りになられるよう。私は最善を尽くそうと思います」 「えっ」 「大丈夫です。私の力は『ラーマ』様の力。ラーマ様を[[世界で一番]]強い御方です。私達がマスターの力になります」 「本当に……いいんですか?」 「このままでは、マスターも私と同じ運命になります。マスター、ご自分を信じて下さい。 如何なる噂をされても、無実と純潔を訴える意思をお持ち下さい。どうか、お願いします」 蘭が突き進もうとするのは茨の道だとアーチャーが十分理解していた。 彼女だって百も承知。 アーチャーの言葉に対し、強い眼差しで頷いたのであった。 【クラス】アーチャー 【真名】シータ(ラーマ)@Fate/Grand Order 【属性】秩序・善 【ステータス】 筋力:C 耐久:C 敏捷:B+ 魔力:B 幸運:B 宝具:A 【クラススキル】 対魔力:A Aランク以下の魔術を完全に無効化する。 事実上、現代の魔術師では、魔術で傷をつけることは出来ない。 単独行動:C マスター不在・魔力供給なしでも長時間現界していられる能力。 Cランクは、マスターを失ってからでも1日は現界可能。 【保有スキル】 離別の呪い:A ラーマがバーリの妻に掛けられた呪い。 これにより、シータはラーマの持つ一部のスキルや宝具を共有している。 武の祝福:A 天性の武の素質。 武器を用いた攻撃は通常サーヴァントのそれを上回る。 弓矢による攻撃が全てB~Aランクの熟練度を発揮させられる。 心眼(偽):B 直感・第六感による危険回避。 虫の知らせとも言われる、天性の才能による危険予知。 視覚妨害による補正への耐性も併せ持つ。 千里眼:C 視力の良さ。遠方の標的の捕捉、動体視力の向上。 ランクが高くなると、透視、未来視さえ可能になる。 【宝具】 『羅刹を穿つ不滅(ブラフマーストラ)』 ランク:A+ 種別:対魔宝具 レンジ:1~10 最大補足:1人 魔王ラーヴァナを倒すために、ラーマが生まれたときから身につけていた『不滅の刃』。 魔性の存在を相手に絶大な威力を誇る弓に番えて射つ矢。『離別の呪い』によってシータが使用可能な宝具。 【weapon】 弓矢 【人物背景】 古代インドの民族叙事詩『ラーマーヤナ』の主人公であるラーマの妻。 魔王によって攫われ、夫に救出されたが、民衆に疑いの目を向けられ追放。 シーターが大地に自分が貞節であると訴えると、大地が割れ現れた大地の女神と共に姿を消した。 ラーマとシータは英霊枠を共有している為、同じ聖杯戦争でラーマとシータが同時に召喚されることはなく、 どちらかが『ラーマ』として召喚される制約が設けられている。 ラーマは宝具を改造してまでセイバーとしての召喚を望むが、シータはアーチャーの『ラーマ』として召喚される。 【サーヴァントとしての願い】 ラーマとの再会 だが、マスターを元の世界に帰してあげたい 【マスター】 毛利蘭@名探偵コナン 【マスターとしての願い】 生きて帰りたいし、誰も殺したくはない。 でも、シータには同情している。 【能力・技能】 関東大会優勝経験のある空手の腕前。 ナイフを折ったり、銃弾をよけたり出来る程度の身体能力。 【人物背景】 帝丹高校に通う高校生。 父は探偵。母は弁護士。だが母は別居中なので彼女が家事全般をこなしている。 基本的には優しい性格。所謂お人よしな部分がある。 一方で怪しい人物には攻撃的だったり、危険を顧みず無鉄砲になることも。 幼馴染の工藤新一と会えない日々が続いている。