作者:ゴルド 氏
プロローグ
俺は今、逃げている・・・・・ただ、やみくもに、ひたすら・・・
息が切れ、喉に何かが絡み、足が重く痛い・・・・。
しかし・・、俺は逃げなければならない・・・・・
止まったら捕まる・・・・。
捕まったら殺される・・・・。
そう・・・・後ろから確実に何かが俺を捕まえようと追いかけてきている・・・
正体は不明・・・・。
しかし、分かる事がひとつある。
それは、追いかけてくるのは大きな影だ・・・。
俺の倍近くある体をしてやがる。
俺はその影を「奴」と呼ぶ事にしよう・・。
奴の目的は一体、何なのか、俺にも分からない・・・。
しかし、俺は直感している・・。
奴は・・確実に俺を殺す気だ・・・。
一体何故・・・・
今の俺に出来ること・・・それは奴から逃げること・・・。
俺は今、この暗黙の闇の中を逃げている・・・。
しかし、悪夢はまだ始まったばかりだったのだ・・・。
そう・・・・・終わりなき果てしない悪夢・・・・。
俺は・・・・・・生き延びられるのだろうか・・・・・・
First 「目覚め」
「う~ん・・・今何時だ」
いつものように俺は寝ていた、しかし今日はどうも目覚めが悪い気がする。
「流石に寝すぎちまったな・・・・・・・ってまだ夜なのか?」
夜・・・・・目覚めたらまだ辺りは真っ暗だった。しかし、それ以前におかしい事が。
「あれ・・何で俺、こんなとこで寝てるんだ・・?」
こんなところ、俺はアスファルトの上で寝ていた、しかし何故・・。
「それに、此処は何処なんだ!!真っ暗で何も見えないし、誰もいないのか・・?」
あたり一面は寒気がするほど真っ暗で陰鬱な沈黙が漂っている。
カツン・・
「ん?何だこれ。」
足に何かが当たった感じがした、それを拾い上げてみると何やらスイッチのようなモノが指先に感じられる。
それを押してみると真っ直ぐ一直線に灯りが灯った、どうやらコレは懐中電灯らしい。
「ありがてぇ、コレがありゃぁ何とかなるかもな。」
灯りを灯す辺りは赤黒く錆び付いた壁で光が消えてしまう程長い道が見えた。
「さて・・と、此処は何処なんだろな・・・」
考えていても埒があかない、そこで俺は探索を開始した。
ひたすら真っ直ぐ真っ直ぐ、出口まで歩く・・・時おり・・。
「オーイ!!誰かいないのかぁ!!」
そう叫んでも返ってくるのは反響した自分の声、そしてすぐ戻る陰鬱な静けさだけだった。
Second 「奴」
何時間歩いたのか、いいかげんこの錆び臭さと暗闇のおかげで頭が変になりそうだ。
「ふぅ・・まだか・・・。」
この錆びた壁がまだ続くと考えると気が遠くなりそうだ。すると、急に錆び臭い感じが消えた。
「ん?あれ、急に消えた・・・・。」
どうやら俺が歩いていた場所はトンネルだったらしく今抜け出したみたいだ。でも、そこには未だに闇が広がっている。
「トンネル・・・?何で俺はこんなとこで・・・。」
さっきから気になっている事がある、此処は一体何処なんだ・・・トンネル抜けたとたん今度は何も無い道路に出てしまった、一体俺は何処を彷徨っているのか・・。
「錆び臭くないだけマシか。」
また、当てのない探索を開始・・・、しかし此処は一体何処なのかを特定できるモノを見つけた。
「アレは・・・立て札?・・・・何か張ってあるな。」
植わっていた立て札には地図が張ってある・・。
しかし、これはただの地図では無い。
「此処って・・・俺の住んでるとこなのか!?」
これに似た地図は見た事はあるが、本当に此処は俺の住んでいた場所なのか・・・。
ともあれ、その地図には何やら赤い印が付いている・・
「Go Here」
「此処に行けば何か分かるって事なのか・・・?」
地図を見ればこの道路を真っ直ぐ向かえば到着する、この赤い印の場所に・・・・・紅い・・?
「ん?鉄臭い・・・・、この赤印から・・・・紅!?」
とっさに異変に気づいた、地図の紅い印からは異臭がする。
それだけではない、この立て札自体からも・・・・
「ウッ・・・ウワァァァァァァァァ!!!!!!!!」
俺が立て札だと思っていたモノには紅い血がベットリと付着していたのだ、それも・・・今さっき抜いたばかりのような新鮮な・・・
「俺は・・・・夢でも見ているのか・・・!?」
何で今まで気づかなかったんだ・・こんな悪臭がするモノに、吐き気がする・・・こんなモノから離れよう・・。
「ふぅ・・・・本当に此処は俺の住んでる場所なのか・・・」
色々考えておきたいが、今はここに向かうのが先決だ。
重い足を引きずり歩いていると・・・。
「アレは・・・・・人!?」
ライトの照らした先には人影が見えた、黒い羽織モノを着ているのか、闇にまぎれているみたいだ。
「オーイ!!!」
叫んでもその人は見向きもしない、ずっと背を向けたままだ。
「なぁ、アンタ何あったか知ってるか?」
しかし、その人はやはり何も返さない・・。
「おい!!聞いてんのかよ!!」
すると、その人は急に振り向いた・・・・、紅い目がギラリと俺を睨む・・。
「!!??」
俺は直感した、コイツは人間じゃない!!化け物だ!!
そう思った瞬間、俺の腹部に強烈な衝撃が伝わるのを感じた・・。
「ガハッ!!!!な・・に・・しや・・が・る・・」
俺の腹をソイツは太い腕で思い切り突いたらしく、俺はあまりの痛みに動けなかった・・。
「ヒュ~・・・ヒュ~・・・」
荒い息遣いを発しながら俺に近づいてくる・・・
―――ヤバイ!!逃げないと・・・殺される殺される殺される殺される―――
第六感が警音を出している・・・明らかに危険だと体が微動する・・・
「ガァァァァァァァ!!!」
ソイツの鼓膜をブチ破るほどの唸り声で俺は我に返った・・・・。
今、すべき事、それは・・・・コイツのもとから逃げること・・。
「ウワァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!!!!!」
叫び声とともに胃から酸っぱい臭いがした・・・でも、俺はそんなの気にせず逃げることで一杯だった・・。
――足が突っ張る、脇腹が焼けるように痛い・・
でも、そんなの気にしせず走り続けた・・・、すると地図の赤印の場所に到着していた・・・・
「団地・・・・・・?」
Third 「迷走」-Ⅰ-
「団地か・・・・。」
目の前には見覚えのある団地が聳え立っていた。
「此処は、俺のアパート?」
そう、此処は俺が住んでいるアパートに似ている・・・・いや、似ているんじゃない、「俺のアパート」なんだ。
「とりあえず、奴は・・・・。」
振り返っても奴の気配は無い、どうやら振り切ったみたいだな。
でも、この場でジッとしてたら何も始まらない。
「とりあえず自室に行ってみよう、何かあるかもしれない。」
――コーン コーン コーン―――
この無常な静けさには慣れたが、やはり可笑しいとは感じるな。
しかも、此処もさっきのトンネルと同じで錆び臭い・・・・
やっぱりどうかしちまったんだな、俺。
そう考えてる間に自室に着いた、無論、鍵が開いてるなんて事は気にもしなかった。
「ただいまぁ~・・・なんてな。」
普段なら笑えるノリなのに今日に限っては笑える気にはなれない。
しかも何だこの部屋は、何年・・・いや何十年も経過したような感じになっている。
「畜生、此処もかよ!!!」
流石に自室がこんな感じじゃ苛立つのも可笑しくはないな。
ボロボロの家具、赤黒く錆びた壁と天井、辺り一面には破れた新聞紙が散らばっている・・・新聞?
「これは、俺!?」
一つだけ唯一読める状態の新聞があった。
――某廃屋にて殺人事件、被害者〇〇さん――
この下からは鮮血で飾られていて読めない。
「俺が死んだ?へッ!!馬鹿げてる、当の俺は生きてるのによ。」
確かに今現在、俺は生きてる・・・、でも気になる事が一つだけある。
「この新聞、今日の日付だ・・・。」
その新聞には確かに今日の日付が書いてある。
どうせ、誰かの悪戯だと自分に言い聞かせ俺は自室を後にした。
――――すると・・・・
トシャッ トシャッ トシャッ
耳障りな足跡が聞こえてくる、まさかと思い階段の窓から外を見下ろすと・・・。
「―――ッ!!!!」
奴だ、奴が来やがった!俺は奴の眼光を浴びるだけで背筋が凍りつき、足が震える。
奴は俺を発見するいなや階段を上り始めた、耳障りな足音をたてながら。
「ヤバイ!登ってきやがる!」
そう直感した俺は屋上まで一気に駆け上がった、しかしこの時俺は逃げる事だけで後先も何も考えて無かった・・・。
「此処が、屋上か;」
どれくらい登ったのか、喉には何かが絡み、胃からは酸っぱい臭いがする。
そんな事どうでもいい、早く屋上に・・・開かない、だと?
「クソ!!開け!!」
こんな在り来たりな事お話の中だけで十分なのに何でこうもまた。
コツーン コツーン コツーン
音の振動が近い、ということはもう奴は下まで来ている。
「何!もぅ、そこまで・・・・、開け!開け!!――頼む!!!開けぇぇぇぇぇ!!!!」
その叫びに答えたかのように重く閉ざされた扉は開いた。
俺は急いで扉を閉め鍵をかけた、幸い鍵は壊れていないようだな。
その扉から退き、後退していくが・・・・
「うぉぉっと!!」
後ろには金網がなく真っ暗な闇が広がる摩天楼のようになっていたのだ。
「おぃおぃ、冗談だろ;逃げ場なしじゃん;」
今更気づいても遅かった。
そう後悔していると
ギィィィィ・・・・・
後ろの方で扉が開く音がした。
背中に嫌なモノを感じる、背筋が凍りつき足が振るえ、自分の心音が体中を突き抜ける。
固唾を飲み込み振り返ると・・・・。
「コヒュー・・・コヒュー・・・」
そこには荒い息遣いをし真紅の眼光を光らせる奴が立っていた。
「ア・・アア・・」
俺は恐怖という縄に縛られ動けない、そんな俺を奴はお構いなしに突き飛ばしたのだ。
「ウグッ!」
強烈な衝撃が俺の体を突き抜け、そのまま俺は成す術もないまま奈落の摩天楼へと落ちていった・・・・・・・
Third 「迷走」-Ⅱ-
―受け入れろ―
「誰だ。」
―受け入れろ受け入れろ受け入れろ―
「やめろよ。」」
―受け入れろ受け入れろ受け入れろ受け入れろ受け入れろ―
「やめろ…。」
―受け入れろ受け入れろ受け入れろ受け入れろ受け入れろ受け入れろ受け入れろ受け入れろ受け入れろ受け入れろ受け入れろ受け入れろ―
「やめろ!」
―受け入れろ受け入れろ受け入れろ受け入れろ受け入れろ受け入れろ受け入れろ受け入れろ受け入れろ受け入れろ受け入れろ受け入れろ受け入れろ受け入れろ受け入れろ受け入れろ受け入れろ受け入れろ受け入れろ受け入れろ受け入れろ受け入れろ受け入れろ受け入れろ受け入れろ受け入れろ受け入れろ受け入れろ受け入れろ受け入れろ受け入れろ受け入れろ受け入れろ受け入れろ受け入れろ受け入れろ―
「やめろぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!!!!」
―――ハッ!!
「此処は…」
あの時、俺は奴に突き落とされたハズだった。
でも、悪運だけは俺を見放しはしなかったようだな。
「……手、動くな。脚、大丈夫だな。 よしッ!!四肢良好。」
俺が落ちたのはゴミ置き場らしい、幸いこの生臭いゴミがクッションになったらしく助かったみたいだ。
…まぁ、ゴミに感謝はしたくはない。
「クソ、悪夢ん中で悪夢を見るなんて…」
それにしても、あの悪夢は何だったのだろうか…「受け入れろ」一体何を受け入れろというのだ…。
上下左右見渡したが奴の気配は無い。どうやら俺が死んだと思っているみたいだな。
「いつつ…あの野朗、思いっきし殴りやがったな。」
俺は殴られて青くなっている腹筋と肩を撫でながらゴミ置き場から降りた。すると、何かを踏んずけた音がした。金属音…。
「ん?何だコレ。」
手にしても真っ暗でかすかにしか確認できない。
「えっと、ライトライト……あった!」
どうやら懐中電灯の方も無事な様である。
「これは……ナイフ?」
落ちていたのはやや小振りのサバイバルナイフだ。奴にこれで勝とうなど無謀だが持っておいて損は無いハズだ。
「ん~…一応持っていくか、何かの役に立ちそうだしな。」
……ジャリ
耳障りな足音が後ろの方でする。奴だ。
「来やがった…。」
後ろを振り向くと奴がこちらをあの真紅の眼光で睨みつけていた。
「おぃおぃおぃ…いくら何でも早過ぎじゃねぇか;」
しかし、俺は熟知していた。奴は足が遅い、全力で走れば逃げ切れる、と。
でも、それは間違いだったのだ。
「オォォォォォォォォォ!!!!!!!!!!!!!!!」
相変わらず地の底から叫ぶような唸り声だ、しかしそれだけならよかった…。
ドシャ、ドシャ ドシャ ドシャ
「マジかよッ!!!!」
奴は急に走り出した、しかもあの鈍重な見かけとは裏腹に速いスピードで。
俺は再び「恐怖」というモノがこみ上げてきた。
――殺される――
「うっ…ウワァァァァァ!!!!!!!!」
叫んだ頃には奴は既に近くまで接近していた。
もう逃げるしかない、地図なんて無い、向かうべき場所も分からない…
今の俺にできる事は奴から逃げる事だけ…。
闇を照らすライトを右手に、何に使うか分からないナイフを左手に握り締め、再び俺の「悪夢」が幕を開けた。
Third 「迷走」-Ⅲ-
―ハァ…ハァ…ハァ―
あれからどれだけ走ったのか、足が突っ張りそうに痛み、息は切れ、胃から喉を刺すような酸っぱいモノが絶えずこみ上げてくる。
それに、此処の形状は何処か可笑しい…自分の意志を欺くかのように隠れそうな建物はなく、あったとしても侵入できない形状をしているのだ。
まるで、俺自身をある場所まで導いているかのように見えてくる。
「ゼェ、ゼェ、ックソ!!どこまで走ればいいだ。」
此処まで逃げてきても隠れれる建物は一つもなかった。
たとえ、見込みのありそうなモノがあっても鍵が壊れていたり、扉を潰されていたりされていたのだ。
「もぅ…走れねぇ、何処か休めれる場所ねぇのか。」
息を抑えながら周りをライトで照らしてみると
「アレは…ッ!!」
うっすらしか見えないが近づいてみるとそこそこ大きな建物であるのは確認できた。
「病院?よりによって病院かよ;」
この状況で病院とは少し気が引けるが丁度傷も負っている事なので好都合ではあった。
しかしここからが問題だ、果たしてこの建物に入る事はできるのだろうか、希望を少し抱き入ってみる試みをしてみた。
「あ~女神様、どうか開いていますように…」
ドアの取っ手を握り、引いてみるが。
―ガシャン!!―
希望は速攻で撃沈した。
「クソ!!!此処もかよ;」
やっとまともな建物かと思っていたらこの様と痛感していると、左手の方に何かが確認できる。
「ん?何だありゃ。」
布…?壁の一部に布ようなモノが貼り付けられていた。
「柔らかい…ここだけ空洞がありそうだな。」
触ってみると布の後ろに空洞があるような感触する。
「やっとコレの出番だな。」
やっとこのナイフが役立つ時がきた、早速そのナイフで布を切り始める。
―ブッブッ、バリッバリッ―
布にしては何やら嫌な音を発している…いや、コレは布ではなかった。
「ん?この臭いって、まさか…」
ライトをよく照らすと俺が布だと思っていたのは何かの皮だった。
それも、人間の皮の様、今さっき剥がした様なモノだ。
「ウッ…うげぇぇ;;!!!」
あまりの悪臭とそれを知った衝撃で嘔吐をしてしまった。
胃酸のようなモノとネバネバした水が口から垂れ出てくる。
「ゲホッゲホ!!!何で、またこんなものが;」
とにかく、此処でジッとしてたらまた奴に見つかってしまう。
悪臭と口の中の酸っぱい臭いをガマンしながらその皮を切開していった。
そして、やっとのことで切り終え、中に侵入することに成功した。
「ふぅ…やっと入れたなって此処もか…」
病院の中はやはり荒廃しており決して居心地が良いという場所ではなかった。
「まぁ、隠れれるくらいはありがたいかな。」
そう独り言を呟き、病院内を探索し始めた。
病院内はやや広いといった程度、しかも部屋の数々は入る事ができなくなっていた。
しかも、辺りには手術をしたあとの様な痕跡を確認できる血まみれのストレッチャー、破れた輸血パック、メスなどが散乱していた。
そしてこの陰鬱な暗闇、普通ならば恐怖を覚えるが俺は違った。
俺の今一番の恐怖は「奴」なのだから…。
そう自分なりの論理を考えていると奥手に半開きの部屋が見えた。
「お、あそこなら入れるかな。」
近づいてみるとそこは処置室、薬の一つや二つならおいてあるだろう。
早速入ってみると…
「う;;またか;」
処置室には先程人間の皮のようなモノが野ざらしにされていた。
しかし、そんな部屋にも薬棚は存在していた。
「ラッキー!何かあるか。」
薬棚の中には消毒用のアルコールとバンドエイドが入ったケースが置かれていた。
「よかった、これでなんとかなるな。」
でも、こんな部屋での治療は流石に嫌気がさす。
違う部屋を見つけることにした。
しかし、この階の部屋はほとんど探索したが入れたのはここくらい。
1階にとどまれば奴が来ると思い2階を探索したのだった。
「1階に戻ってみっかな…危険だけど。」
俺はもと来た道を戻り1階に戻った、幸い奴はまだ来ていないようだな。
「ほっ、さてと入れる部屋を探してみますかなっと。」
やはり2階同様、隠れれる部屋は見つからない、でもやっとの事で見つかった。
「トイレ…?おいおい、マジかよ;」
不衛生だということは分かるがこの際はしょうがない、此処に隠れるとしよう。
トイレの中は個室が5つ、男性用の便器が6つならんでいる場所だ。
しかし、場が場というだけあった臭いがキツく、ジメジメしている。
「ワガママは言ってられねぇな。」
俺は先程調達したモノで手当てを始めた、よく見てみると結構傷ができていたことが確認できる。
「…よし、これでよしっと。」
傷の手当てを終え、一段落したところ、睡魔が襲ってくる。
「眠い…、まぁ、奴は暫く来ないな…」
勝手に決めつけ俺は個室に入りしばしの眠りに落ちた。
…奴がもうそこまで来ているとは知らずに…
Forth 「追憶」
死んだら何処に行くと思う? 天国?それとも地獄?
地獄は怖いか…?反吐がでら、もっと怖い場所知ってんぜ。
そこはな…
「―――ッ!!」
とっさに俺は起き上がったが今のは何だったのだろうか…、悪夢を見るのはもう慣れたハズだった。
一体誰が語りかけていたのだろうか…、天国と地獄よりも怖いものか。
「…ん、何だ、今物音が。」
微かに耳に入った物音、どうやらロビーの方で聴こえてくる。
「まさか…奴か;」
大体想像はできているが肯定はしたくない。
恐る恐るドアを開けてみると…
「あ…ああ…」
悲鳴すらでなかった、俺の眼中には死体の皮を剥ぎ取っている奴が見えたのだから。
何というおぞましき光景だろうか、皮を剥がす音だけでも嘔吐しそうなくらいだ。
「俺も捕まったら…」
考えると体が震えだす、今まで恐怖をたっぷりと感じてきたがこれ程までに恐ろしい事はなかった。
しかし、動揺とは実に嫌らしいモノだ、あまりの恐ろしさに後退した結果、近辺に積んであった掃除用具を倒してしまったのだ。
「ヤベッ;」
「ヒュー…ヒュー…」
無論奴が気づかないわけが無い。
俺はまんまと奴に発見されてしまったのだ。
俺はすかさず一番奥の個室に隠れた、息を殺し、震える体を抑えながら…。
バキィッ!!!!!!
奴がドアをぶち抜いた音だろうか、鼓膜が痛くなる程の轟音が狭い室内に響き渡る。
そして、また…
バキィッ!!!!!!
今度は個室のドアをぶち抜く、そして次、また次にと…
「ハァ…ハァ…ハァ…ハァ…」
恐怖が肺を締め付け呼吸をかき乱す。
「頼む…来るな…来るなぁ…」
そして俺の隣の個室がぶち抜かれた。
「――――ッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
終わりだ…全てが絶望と思ったとき…
「…アレ?」
ドアはぶち抜かれておらず、奴の気配も感じられない。
「助かったのか?…ハァーーーー。」
ホッとしたせいか盛大なため息をついた。
恐る恐るドアを開けてみると奴はいなかった。
「よかった、奴はどっかに行っちまったみてぇだな。」
しかし…俺は鷹をくくりすぎていた…
フシュー…
背中に嫌なモノ感じる、振り向きたくない感じもする。
「ま…さ…か……」
振り向くとそこには奴の姿があった、どうやら俺は奴にはめられたようだ。
「ウグッ!!!!」
奴は俺の首を掴み上げ、締め上げようとする。
奴の握力は相当なモノだった、だんだんと意識が薄れていく。
「く…あ…ぁ」
もう駄目かと思った、しかし、微かに手に何かを感じられた。
先程拾ったナイフの感触を…
「こ…の野朗!!!!!!!!」
死力を尽くし、俺は奴の目にナイフをぶっさした。
これには流石の奴も答えたらしくその場に跪いた。
「ゲホ!!ゲェホ!!!!いまのうちに…」
病院を後に俺は何処に向かうのか…
とにかく俺は病院が見えなくなるまで暗黒の中を疾走したのだった。
Fifth 「Final Nightmare/最後の悪夢」
こう走っていると何度も頭に浮かぶ言葉がある。
―もう、逃げても無駄なんじゃないか―
奴に捕まり殺されるのは死んでもごめんだ、しかし、その考えも何か薄れていくような感じがするな。
何なんだろうか、この感じは…。
「ゼェ…ゼェ…もう限界だ…」
俺は闇雲に逃げたせいか見知れぬ場所に到着していた…何で気づかなかったのか。
「俺…何でこんな場所に居るんだ?さっきまで街中にいたのに…」
俺の周りは荒地を雑木林が囲っているような場所だった。
そんなへんぴな場所にポツンと目立つように納屋が建っている。
「ハァ…、あそこしかねぇってわけか。」
重たい足を引きずり、納屋へ侵入した。
ギィィィィィ
さび付いた扉が沈黙に音を奏でる。
納屋の内部はカビ臭く、何やら古めかしい感じが漂っている。
「さてと、隠れれる場所はないかな~…ん?」
俺の目線の先にある棚にまたしても新聞紙が置いてあった。
「さっきの事の続きだ!!」
その記事には先程のアパートで発見し、読めなくなっていた部分が描写されていたのだ。
―被害者〇〇さんは△△地の納屋で殺害されたモノだと報告された。
〇〇さんは刃物で胸を刺され死亡した。即死の可能性が高い。
犯人は既に捕まり「ただ殺したかった」と供述しており、検査の結果、重度の精神不安定と発覚。
…俺は、どうしちまったんだ。今居る俺は何なんだ。
奴は俺を殺した犯人なのか。
それとも違うのか。
誰か教えてくれよ。
…これ以上深入りするのはよそう、ホントにいかれちまう。
「この写真からして某納屋って此処だよな…よそう、頭がいてぇ。」
とりあえず、奴に見つからないように2階に移動した。
「ここは仮眠室か。」
2階には仮眠室があり、そこに隠れることにした。
まだ、奴は追いついていない…まぁ、結果的には追いつかれるが。
今までの事を少し整理してみることのした。
そもそも此処は俺の住んでいる場所に類似している。建物のつくり等では全くと言っていいほど同じだ。
そして、奴や周りの新聞、そしてあの悪夢は俺に「何か」を訴えているように見えてくる。
最後に、俺は本当に「生きている」のか「死んでいる」のかが最大のポイントか。
これくらいだろうか、あまりに複雑すぎて頭が痛い。
「やめた、難し過ぎて頭いてぇぜ;」
ふと、窓際にさしかかった時…
「来やがった…」
奴だ。奴が来た、もう逃げ場が無い状況で最悪の展開だった。
急に恐怖がこみ上げてきた。
「隠れる場所は、…押入れしかねぇな;」
押入れの中は何も入っておらず、隠れるのに最適であった。
「ハァ、ハァ、ハァ…もう嫌だ、さっさと覚めてくれ。」
ギィィィィィィ
耳障りな音が静かな納屋に響く、そして、奴の気配が徐々に強くなってくる。
奴は俺が隠れているのを知ってるかのように2階に上がってくる。
カツッカツッカツッ…
段々と近づく足音、その音はもう目の前まで迫っていた。
「…ハァ、ハァ…」
奴はもうすぐ近くにいる。押入れの目の前に。
そしてゆっくりと戸が開き始める。
「来るな…来るな…来るな来るな来るな来るなぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
そう叫んだとき戸が一気に開いた。
そこにいたのは…
「ウワァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
思い切り叫んだ、しかしそこに居たのは中年の男性だった。
「おめぇこんなとこで何してんだ?」
「え…?アレ?」
やっと正気に戻った時、さっきまで周りを覆っていた陰鬱な静けさと暗黒は姿を消していた。
「此処は立ち入り禁止の場所だぞ、勝手に入ったらあかんべな!」
「…ア…アァ、スイマセン;」
終わったのか?こんな形で、それもいきなり…。
まぁ、何にせよ忌まわしい悪夢が終わった事に安心した。
アレはやっぱり悪い夢だったのだ、あの記事も奴も全部嘘だったのだ、と自分に言い聞かせていた。
俺はこの場を離れるため玄関へと向かった、すると男が唐突にこんな話をしてきた。
「知ってっか、坊主?」
「はい?何ですか?」
「此処でよう人殺しがあったんだと。」
「え…えぇ、ホントですか?」
「あぁ、でな…その殺された奴がよぉ坊主にそっくりなんだと。」
「俺…!?」 ・・・
「それもな、今日殺されるんだと……この俺になぁ…」
「!?」
その男がニヤリと笑みを浮かべると瞬く間に体が黒く、そして巨大化し奴へと変貌した。
「あ…ああ…あ」
その瞬間、周りは再び陰鬱な静けさと暗黒に姿を変えた。
しかし、今回は違う、前も後ろも何もかもが真っ暗だ、見えるのは自分の手だけ…
「やっと…やっとだ…」
どこからか声がする、耳障りな足音と共にそれは近づいてくる。
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ」
息が苦しい、俺はその場から逃げる事も動くことすらできない。
と、その時いきなり首を捕まれた。
「うがぁ!!!」
真っ暗なせいか奴が見えない、徐々に絞める力が強くなっていく。
「あ…がが…」
抵抗する力もなく、段々意識が遠のく…
そして…
ズシャァ!!!!!!
俺の胸に激痛が走る、俺の胸からは真っ赤な鮮血が垂れ流れている。
奴の手が俺の胸を貫いたと気づいたとき、俺は何も見えなくなってしまった…、ただ痛みが体中を巡ることだけを感じながら…
「死んだ人間はどうなるか知ってるか?」
「え?天国か地獄に行くんじゃねぇの?」 ・・・・・
「そうなんだけどよ、それはな「自分が死んだ事を受け入れたからみたいだぜ。」 ・・・・・・・
「へぇ、じゃあさ「死んだ事を受け入れてない場合はどうなるんだ?」
「異界行きなんだと。」
「異界?」
「終わることの無い時間をさまよう事になるみてぇだ。」
「うっわ、死んでもそれは嫌だな。」
「まぁ、言わば「終わらない悪夢」とでも言っておこうか。」
「!!!!」
とっさに目が覚めたら俺は真っ暗な場所にいた。
今見た悪夢で俺はやっと気づいた、俺は死んでいたのだ。
奴は恐らく俺に「死んだ事」を受け入れさせるために俺を追い回していた。
しかし、俺がそれを拒んだ結果、受け入れられずに殺された。
…何だ、体がおかしいぞ。俺はこんなに体は重くなかった。
言い知れぬ不安に襲われ近辺に確認できた灯りに寄っていくと…
信じたくない運命が俺を待ち受けていた。
「奴になってやがる……」
俺は、「奴」になっていたのだ。
受け入れない結果がこういう事になってしまったのだ。
当然の報いと言うべきか…
すると、俺に誰かが寄ってくる。…俺がそこにいた。
「おい!!!!お前は死んだんだ!!!!だから早く受け入れろ!!!!」
「お…おぃおぃ、逃げるなよ!!!!!待て、待ちやがれ!!!」
俺は逃げてしまった、自分が死んでいるという事を受け入れてない…
「受け入れさせてやる…たとえ、俺自身が狂おうとなぁ…」
「俺は今逃げている」
「俺は今逃げられている」
奴も俺自身だった。
受け入れない俺と、受け入れた俺。
足して引いても何も変わらない。
結局はふりだしに戻る。
この悪夢に終わりは存在しない。
…そう、まさしく―Endless Nightmare/終わり無き悪夢―
―end―
最終更新:2008年12月10日 00:20