前々回に鉄ピストンを入れる利点を書きました。
あれだけの利点が有ればもうお腹一杯なのですが今回の鉄ピストン化で最も知りたいのがエンジンの高級感が上がるか?と言う事です。
正直言って今迄のSDのエンジンフィーリングは今一つと感じています。と言うのもエンジンの回り方が妙に軽いのです。
中々力強いし粘りも有る良いエンジンですがその点だけが気になっていました。良くも悪くもトライアンフ、といった感じ。
戦後のトライアンフ2気筒とノートン2気筒はそれなりの数を触って来ましたがエンジンの高級感、安定感はどうやってもノートンの方が上です。
最初はやや短めなストロークの数値などに原因を求めましたが早くからこの点に注目し探求をされたT尊師からストロークの数値はエンジンの味付けとはほぼ無関係と一蹴されてしまいました。
根拠として色々な話が出ましたが一番面白かったのが戦後のヴェロセットのお話。
50年初頭にリジットからスイングアームに変わったベロセットの500ccは同時にストロークの値が小さくなりました。
その理由を設計者がただ単に新しい
フレームにエンジンが載らなかった為と言放ち、続けてストロークの数値が如何なるものでも我々は思った通りのエンジンフィーリングにする事が出来ると当時のバイク雑誌上で語っていたそうです。
様々な合理的理由にプラスしてヴェロセットの設計者にそこまではっきり言われてしまうとストローク値がエンジンの味付けに直接的には関与しないと言わざるおえません。
エンジンの高級感を決める要素は大きく言って2つ、”エンジン剛性”と”クランク設計”にあるとT尊師は言います。
エンジン剛性は特にエンジン腰上の剛性、エンジン自体のマウント方法、エンジンの中心であるクランクにその他エンジン部品が少しでも近い事などが挙げられます。
上記に挙げたヴェロセットはこの辺りを最もよく理解し実践したメーカーと言えるでしょう。
2次スプロケットの内側に配したクラッチやプッシュロッドを短くするためのシリンダー配置等、現代風に言えばマスの集中化によって同年代のその他の英国車に比べてエンジン剛性が高いと思われます。
その為実際に乗ってみても250ccのMOVから500ccのMSSまで非常に高級感のある重厚な乗り味です。
ヴェロセットに関してはクランクが大きく重たいので高級感が有る、と言う意見も聞かれますが実際計測しても同時期の他の英国車のクランクと直径、重量共に特筆するほどの程の差は有りません。
恐らくヴェロセットに関してはエンジン剛性が高い設計になっているのが高級感を上げる最大の要因なのではと思います。
その他にもトライアンフの2気筒でも同様にエンジン剛性を上げる事によるエンジンフィーリングの変化が見られます。
650ccから750ccに排気量が上がったと同時にシリンダーがフィン一枚分減って短くなり更にシリンダーヘッドのスタッドボルトが9本から10本に増えます。
元々のエンジン剛性が高くないトライアンフ2気筒ですがこう云った変更でエンジン腰上剛性が上がったと見えてエンジンの回り方が大分高級になります。
感覚なので中々文章にするのも難しいですがそれまでバタバタしていたエンジンの回り方がより安定したブーンと言う感じで回るのです。
コレも恐らくはエンジン剛性、特に重要な腰上の剛性が上がったからであると思います。
クランク設計に関しては私は全く語れませんが大きく、重たい程に重厚に回る、と言うのは間違いなさそうです。、、語れないので相当テキトウですが。
プラスしてウェイトの置き方にもノウハウが有るようでトラ2気筒は適当に重量を乗っけただけですがノートン2気筒はメインのオモリをビックエンドの反対側に配置しその左右に補助のオモリを配置するという凝ったレイアウトになっています。
尊師曰くウェイトの置き方でも回り方が相当変わるとの事なのでトライアンフ社で散々トライアンフ2気筒を見てノートン2気筒を設計したバート・ホプウッドはその辺も考えて設計したものと思います。
以上の点から改めてトライアンフ2気筒とノートン2気筒を眺めるとエンジン剛性、クランク設計共にノートン2気筒の圧勝なのは明白で乗り比べてもノートンの方が高級なのは当たり前の事かも知れません。
勿論だからと言ってトライアンフ2気筒が駄目と言う訳ではなくそれはそれで面白いエンジンです。理詰めで見て優れているからと言ってもそれが絶対的に素晴らしくならないのがモーターサイクルの難しく面白い点ですね。
だってあの理詰めの天才、フィル・アービングが作った、、、、(以下略
最終更新:2010年12月07日 02:07