「あー……」
前日の疲れは取れていなかったらしく、あたしはベッドの上でうとうとと意識を飛ばしては、意地で起き続けていた。せっかくの休みを寝て過ごすのはもったいないから。
そのうち目を閉じているあたしの側に人の気配を感じた。彼女が何事か話しかけているがあたしの意識はもうほとんど蕩けかけていて言語の意味を結んでくれない。
すると、唇に何かが触れた。
キスされてるんだなぁと感覚で理解する。無理矢理唇が開かれたのには少しムッとする。この時にはあたしは昼寝することを選択していたから。
眠いからやめて
とあたしは目をつぶったまま口にしたつもりだったが、耳で聞きとれたのはふにゃふにゃと緩い言葉だけ。本人でも聞き取れないのだから彼女に通じているわけがない。
舌を絡め取られ緩く開いた口からは唾液がこぼれ落ちていく。
眠気というのはなかなかくせ者だ。この状態でもあたしに瞼を開ける力すら与えてくれない。
むしろ彼女のテクに便乗するようにあたしから力を奪っていく。
一通り堪能して満足したのか、彼女は口を離すと今度はあたしのシャツに手をかけた。
「っ―――!!」
あたしはその動作を感覚で認識するとぱちりと目を開けた。起きたの?と声をかけてきた彼女は、髪を結んでアップにしているあたしと違い、対して長さの変わらない桃色の髪を結びもせず涼しい顔をしている。
「なにするの!?」
「寝顔可愛いかったわよ」
あたしの怪訝な顔での質問をどう勘違いしたのか彼女はそんな風に答えた。そして相変わらず爽やかな笑顔であたしに跨がったまま。
「どいて?」
「嫌」
あたしのシフォンスカートから生える生脚に手を乗せ、子犬のように無邪気でそれでいて不意に妖艶な瞳を向けてくる。
「ねぇパッション、何がしたいの?」
その瞬間のパッションの笑顔を見てあたしは冷や汗をかいた。会話の間もパッションの手は脚の上にある。
「あたし、そろそろ帰ろうかしら……」
「来たばっかりなのに?」
不穏な空気を感じ取りあたしがそう口にすると、パッションは優しく頭を撫でてきた。彼女の脚はあたしの腰をがっちりホールドしていて逃がしてくれそうもない。
それでも抵抗を示そうと身体をよじろうとしたら両腕を押さえつけられる。
「ちょっ、離して!」
「セックスしましょう」
ひっとあたしは声にならない声をあげる。中学二年生の経験もないあたしがその言葉を聞き慣れているはずもなく、瞬時に顔が赤くなったのが自分でもわかった。
「せ……セックスって」
「性行為。一般的なものとは異なるかもしれないけど同性同士でも十分気持ちよくなれると思うわ。美希の場合感度が高い場所は
「違う!!セックスについて聞いてるんじゃなくてなんで今セックスって言う単語が出てくるか意味がわかんないの!!!」
セックスセックスとおよそママが聞いたら心配するだろう言葉を連呼して。一息で言い切って肩で息をするあたしを相変わらずパッションは平然と見ている。しまいにはムキになるところも可愛いとか言い出した。
「あ、あたしたちまだ中学生だし、順序ってものが……」
「お互いを好きで恋人でキスもしてるのに、他に足りないものはある」
「うっ…………じ、時間が足りない」
「時間?」
「心の準備ができてないから……」
しどろもどろに答えると、ああそういうこと、とパッションはとても軽く応えた。そしてあたしの左腕を解放する。自由になったはずの左腕を動かすこともせずあたしはなぜか身震いしてしまった。そして見事に嫌な予感は的中する。
「ひゃああぁ」
パッションが上半身を倒したかと思うと首もとにぬるっとした感触が広がる。気づけば両手を手首から彼女の右手で纏めて押さえられ、ますます身動きは困難になっていた。
「んっ……あっ、つ」
嘗めて吸って、時おり彼女は軽く歯を立て、痛くない程度にあたしに刺激を与えてきた。悔しいぐらいそれはあたしを高ぶらせていく。静かな部屋に彼女の粘液とあたしの乱れた呼吸だけが音をなす。
「ふあっ、はぁ……!…やっ!?駄目っ」
そして今まで手持ち無沙汰であっただろう左手が行動を開始する。シャツの間をあたしの肌に沿ってゆっくりと上がってきた。行き着く先を予想してあたしは今まで以上に本気の抵抗を示す。そんな抵抗をあっさりとパッションは押さえつけた。
そして左手が目的の場所にたどり着くと、彼女はそれと同時にゆっくりと顔を上げた。
「お願い……止めて」
ブラの上にあるパッションの指は今は置かれているだけで何もしてこない。今ならまだ間に合う。
「泣きそうな顔しないで。すぐ気持ちよくなるわ」
ちゅっとおでこに優しいキスが落とされる。そしてパッションの手がゆっくりとブラの中に侵入してきた。
「ん?」
「っ………!」
最悪だ
あたしは瞳に涙を溜め、彼女と視線が合わないように横を向いた。彼女はそんなあたしを見てゆっくりと両手を解放する。
「気にしてたの?」
とうとうあたしは我慢できなくなって涙を流した。自由になった両手で顔を覆い、彼女の視線を遮る。
「っ―――パッションにはわかんないわよ!」
モデルはないほうがいいと言われるがそれもある程度の話。豊満な親友たちとの差を嫌でも感じ、昔のように一緒にお風呂に入らなくなった。
自然と服はごまかしがきくものを選び、下着も寄せてあげる高性能のもの。
いつかはわかることでも、彼女にだけはまだ知られたくなかった。
「美希、泣かないで」
「はやく……手どかしてよ」
消え入りそうな声で頼んでも彼女の手は一向に離れない。もう一度声をかけようとしたとき、今まで制止していた手の平があたしの胸を優しく包み込んだ。
「やっ、なに!?」
「気にすることないわ。私が気持ちよくさせてあげる」
そういうとパッションは右手で一気にシャツとブラを押し上げた。いきなり外気にさらされた肌にひくりとあたしは身震いする。
綺麗よと彼女が優しく囁いた。恥ずかしくなって服を元に戻そうとするとまた腕を絡め取られる。力ではラビリンスの特殊訓練を受けた彼女に敵うはずもなかった。
「私は美希の全てが好きよ。笑顔も怒った顔も、髪も……小さい胸も」
「今笑ったでしょ!」
「可愛いなぁって。ほどよく手の中に収まるし綺麗なピンク色で
「生々しいこと言わないで」
「心の準備、今の内にしておいた方がいいわよ」
パッションはクスリと微笑むとゆっくりと手を動かした。
「あっ、ん、んんっ」
決して私に全てを任せたわけではないけれど、上気した肌と甘い声は少なからず彼女が感じていることを私に伝えてくれる。
小さいながらもふわりと柔らかく張りのある胸は触るごとに私の指に心地好い感触をくれた。ぴんと立った可愛いらしい乳首を優しく摘むと、彼女から堪えきれない嬌声が洩れる。
「気持ちいい?」
自分自身も興奮を抑えられなくなってきていた。彼女が答えを紡ぐ前にその口を塞ぎ、胸とは違う柔らかさを堪能する。
「んんっ」
苦しそうに呻く美希を気遣ってそっと拘束していた腕を離すと、強くない力で私の肩を押して顔を引き離した。ぽたりと、彼女の顔にどちらのものかわからない唾液が落ちる。
「やっぱり、止めよう?もう少ししてからでも遅くないでしょ」
「もう……止められない」
私の甘えた声に美希がたじろぐ。自分自身こんな声が出せるのかとどこか思考の遠いところで驚いた。
「ずっと、我慢してたんだもの」
愛することを愛されることを教えてくれた存在。手の届く距離になって欲望はさらに強くなる。彼女が欲しいと身体が心が求めていた。
「私に、美希を頂戴」
「パッション……」
頬を優しく包んでキスを落とすと、今度は躊躇いながらも美希は背中に手をまわしてくれた。
存分に彼女の唇を味わって、私は全身にキスの雨を降らせる。
首に
胸に
背中に……。
胸元にあった彼女のシャツとブラジャーを焦れて乱暴に脱がすと、髪を引っ張ってしまったらしく小さく美希が恨み言を言った。今は結ばれていたはずの彼女の髪はいつものようにさらりと長さを保っている。
「あんまり見ないで……」
「嫌よ」
顔を真っ赤にして軽く睨みつけるように抗議してくる彼女は、あたしだけなの?と訴えてきた。
「脱がせてくれる?」
「あたしが?」
「他に誰がいるのよ」
美希は起き上がると私と向き合うように座った。彼女が私に手をかけようとした瞬間、私はその手をかわして彼女との距離をつめる。
「な、何?」
「下も脱がしたい」
手早く彼女のスカートを脱がし、最後の一枚に手をかける。突然のことに呆気にとられていた美希はハッとして私の手を遮った。
「やだ。パッションも脱いでくれなきゃ……」
「ああ、うん」
全然余裕がなかった。
心ない返事をして今は弊害でしかない自らの服を手早く脱ぎ捨てる。
「あ、あたしが脱がすんじゃないの?」
「今度ね」
下着を脱ぐ時間すら惜しく、ベッドの端に無造作に投げたときには美希の身体を押し倒していた。
「じゃあ、脱がすわよ」
そして、彼女の最後の一枚をとっていく。自分はすでに何も着けていないということを思いだしたのは、彼女と私の素肌が触れ合ったときだった。
「綺麗よ……美希」
生まれたままの姿の彼女は美しかった。陶磁器のようにキメが細かく白い肌。長い手足とくびれた腰は彼女がモデルをしているのも頷ける。
その身体に手を伸ばそうとしたとき、ふと視線を感じた。
「そんなに気になる?」
「だって……」
蒼い瞳は私の胸をとらえていた。
胸ばかり見られていては流石に私も先に進むのが憚られる。
少し考えてぱふっとベッドに沈んで彼女の横に並んだ。
「パッション?」
「私も気持ちよくして?」
私より少し背の高い美希の細い腰を掴んで、その身体を引き寄せた。突然のことに彼女は慌てふためいている。
「は、え、何?」
「触りたいでしょ」
「あの……」
「私も美希に触って欲しい」
それでも動揺して固まっている美希に苦笑して私は自分が動き出す。カリッと優しく突起に歯をたてると、美希が声をあげた。それが快感からくるものだと今の私には手にとるようにわかる。
「美希がしないなら、私はやりたいようにやるわよ」
今までもやりたいようにやってきたのだが、今の美希にツッコミを入れる余裕も気づく余裕もない。
名残惜しく舌で一嘗めして私はもう一度少し距離を取る。
すると全身を淡くピンク色に染めた美希は、おずおずと手を伸ばしてきた。
「んっ!?」
「おっきいね。柔らかいし……痛くない?」
「ええ……」
私は内心動揺を表に出さないようにするのに必死だった。美希が触れた場所が熱を持ったように熱くなる。大きく深呼吸をして、彼女の首元に顔を埋めた。
「ねぇ近い、見えないわ」
「見なくていい。それよりも美希に触れていたい」
声を上げそうになるのを必死に堪えて、快感にのまれそうなときは彼女の首筋を噛む。
美希は要領がいいだけあって段々と私の弱いところを探り当て刺激を与えてくる。
「もー、顔見せて。気持ちいいの?」
「っ……ん、美希、そろそろ」
一旦中断しようとした瞬間、私の恐れていたことが起こる。
お返しとばかりに美希が私の突起を口に含んだ。
「っ―――!!!」
…………不覚にも軽くイッてしまった気がする。
よくわからない敗北感にうちひしがれ荒く呼吸を繰り返す私を見て、そんな私の内心を気づくはずもなく美希は無垢な瞳で大丈夫?と聞いてきた。
蒼い髪をくしゃりと一掴みしてもう一度深呼吸。
「うん。よかったわ……美希」
「何?」
「キスして」
「あ、うん……」
彼女からキスされることなんて滅多にないことで、自分からお願いしたとはいえとても幸せな気持ちになる。
ゆっくりと顔が近づき吐息が感じられる距離にきたとき彼女はボソッと呟いた。
「エロい顔してる」
人差し指で軽く私の唇をなぞってから、ちゅと触れるだけのキス。それで満足できるはずもなく、私はかぷりと美希の鼻を甘噛みする。
「いひゃい」
「だぁめ、ちゃんとして」
うぅと唸って顔を真っ赤にして美希がもう一度キスの体制に入る。こんな風にころころと表情を変える美希を見たらラブや祈里は驚くだろうなと思う。
先ほどとは違い目を閉じて彼女は顔を近づけた。
「っっ!?」
かちんとお互いの歯が音を立てた。圧力のかかった唇がひりひりと痛むがそれは彼女も同じだろう。せめてもう少し加減してくれていたら……。
予想外の出来事に離れようとした彼女を抱き寄せ深く口づけを交わす。
舌を差し入れるといつもとは違う味に私は眉を寄せた。どうやら口を切ってしまったらしい。確かに鈍痛が口の中に広がっていく。そう思いつつ、私はさらに彼女の口内を犯していく。
一通り堪能して離れたら、美希は反射的に唇についた私の血を拭い泣きそうな顔になる。
「ごめんなさい!血がでてる」
「ドジ……やりなれてないからよ」
今度から特訓ね
耳元で優しく囁いたのに美希の顔はひきつっていた。
くっくっと堪えきれずに笑って、私は美希を仰向けにして上にいく。
きゅっとお互いの指を絡め、美希の瞳を覗き込む。
「美希、止めるなら今よ」
「パッション……」
美希は暫く不安そうな顔をしていたが、ぎゅっと私の手を握りかえしてきた。
その蒼い瞳は潤みながらもしっかりと私をとらえている。
大好きよ―――
微笑んで
キスをして
私は彼女を強く抱きしめた。
―――――――――
「怒ってるの?」
「……怒らないからとりあえずどいて欲しい」
「腰が痛くて無理」
「自業自得じゃない!」
「いろいろ試してみたかったの……」
俯せのあたしに乗っかかり、子供の猿みたいにぎゅーと抱き着いているパッション。
何も身につけていないのでしっとりとした肌が触れ合って熱を生む。
「あっつい」
「こういうとき髪長いと大変よね」
「だからどけばいいでしょ」
「ここが居心地がいいの」
どいてくれる気はさらさらないらしい……。
午前中に遊びにきたはずなのにいつの間にか太陽は沈みかけていて、時間を忘れるほど没頭していたのかと急に恥ずかしさが襲ってきた。
「顔赤いわよ?」
「なんでもないっ……あたし帰らなきゃ」
「どうやって?服はヨレヨレだけど」
あたしの服は今だ乱雑にベッド脇に置かれたまま。
気に入ってたのに。
あの状態の服を着て流石に世間は歩けない。
「アカルンで」
「残念でした。アカルンはここにいません」
かちゃかちゃとリンクルンを振って、パッションはとてもいい笑顔をしている。
「はぁ!?」
「大丈夫。あの子一人でいた時間長かったから出歩いても心配かけるようなことはしないわ」
「そうじゃなくて!あたしはどうやって帰ればいいのよ」
「わがままは駄目よ美希。おとなしく桃園家の夕食が始まるまではまったりしましょう」
「今日はあゆみさん出掛けてて夕飯遅いって言ってなかった!?」
そうね
とサラッと答えたパッションに
それだけ一緒にいられるから
と優しく頬にキスをされた。
「…………今日は七夕だし、天の川くらいは一緒に見ようかな」
「ええ」
「そういえば玄関に笹が飾ってあったわよね?短冊何て書いたの?」
「美希とセックスできますように」
「最悪……」
「叶ったわ」
「帰るとき外すから!!」
『美希を幸せにできますように』
嘘つきで気まぐれで、ちょっとだけ意地悪な彼女の紫色の短冊は、夜風にふわりと舞い上がった。
END
最終更新:2011年07月08日 01:46