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新-301

「うぁあああーん」
「美希ちゃん、大丈夫だからね。パパと和希とはまた会えるから」

パパと弟がいなくなってあたしは毎日のように、朝起きた時に泣いていた。
それがどれだけママに負担をかけていたか今ならわかるけど、あの頃は……あの頃は、いきなり家族二人きりになってしまった現状を受け入れることができなかった。


「ママ今日は午後からお店開けるけど、美希ちゃんも店に来る?」
「ううん。お外に遊びに行く」

最後の一切れだったホットケーキをぱくりと口にふくむと、美希はそれをジュースで流し込んだ。


玄関でサンダルを履こうとしていると母親がリビングから声をかけてくる。

「日焼け止めは塗ったの?」
「ぬったー。いってきまーす」
「太陽が出てるうちに帰ってくるのよー」

ぴょんとジャンプして美希は家を出る。じりじりと焼け付くような暑さに恨めしげに空を見上げた。

「どうしようかな。今日はラブもブッキーもいないし……」

てくてくと歩きながら、向かう場所に迷いはない。目的の場所にたどり着くと、自然と足が軽くなる。

「あっ、ブランコあいてる」

いつもなら競争になるブランコが空いてることを確認し、一目散にそこへ走っていく。乗ってから美希はあることに気づいた。

「なんか今日人少ないな」

この時間の公園はいつもなら子供達で賑わっているが、今日は閑散としている。美希からは大分離れたところにまばらに人がいるくらいだ。

キィキィとこぎながら、次は何をしようか考えていた時、ふと横を見た美希の視界は一点にとらわれた。いつの間にそこにいたのだろう。
本来ここにはあまりない色。あるとすれば遊具の一部に使われるペンキの色だろうか。

「銀色だ」

思わず声に出してしまうと、近くにいた少女が美希を見た。そして一歩、また一歩近づいてくる。顔を正面からとらえた美希はハッと息をのむ。自分に勝るとも劣らない美貌の少女は顔色一つ変えず美希を見つめたまま。

「ねぇ、これ楽しい?」

今は制止している美希のブランコを掴み、少女はそう聞いた。美希は一瞬何を聞かれたのかよくわからなかったが、彼女がブランコのことを言っているのだとわかるとこくりと頷いた。

「どうやるの?」
「知らないの?すわってこぐだけだよ」

こぐ?今度は少女がきょとんと首を傾げた。

体で覚えてしまったことを説明するのは幼い美希には難しかった。だから、と何度も説明するが相手の少女にはいまいち伝わってないらしい。美希の説明を不思議そうに聞いている。

「うぅー、じゃあいっしょにのろう?あたしこぐから。すわって」
「うん」

今まで自分がいた場所に少女を座らせると、美希はサンダルを脱いで彼女の座っている場所の両側に足をかけ立ちあがった。

「あたしがこぐから、動かないでね。くさりはなしちゃダメだからね」
「わかった」

よっと力をいれてバランスをとりながら美希はブランコをこいでいく。
空気の抵抗を体全体で心地よく感じながらブランコはスピードをましていく。

「どう、楽しい?」
「うん。楽しい」

スピードが安定してきた時、美希が問いかけると少女はふわりと笑い頷いた――――


「ねぇ、名前は?あたしはみき」
「イース」
「いーす?外国人?だからかみが銀色なの?」
「あなたも青色でしょ」
「あたしは生まれつきだもん」
「私も生まれつきよ」

今は一人一つのブランコをこぎながら、美希はイースと名乗った少女を質問攻めにした。近所で見たこともない、少し無愛想だが可愛らしく、どこか不思議な感じのする女の子。

「家は近く?」
「ううん……遠くからここを見に来たの」
「かぞくと?」
「かぞく?」

なにそれ?と言わんばかりのイースの表情に美希はえっと驚いた。

「お父さんとかお母さんとか兄弟とか」
「ああ。私にはいないもん。知り合いと来たの」
「そう……なんだ」

いけないことを聞いてしまった気がして美希はしゅんと俯いた。そんな美希を見たイースは、自分は何か間違ったことを言ってしまったのだろうかと首を捻る。

「なんでそんな顔するの?」
「だって……かぞくのこと聞かない方がよかったかなって」
「そんなの気にするの?地球人って変なの」
「イースも人間でしょ」
「人間だけど」

地球人じゃないもん

その言葉が喉まででかかって、ごくっと飲み込む。

「そんな顔されるとうざい」
「ひどいっ。うざいなんていっちゃダメなんだよ!」
「テレビで言ってたもん」

立ち上がってイースの前に立ち、美希はむーっと頬を膨らませた。

「おこってるの?」
「おこってるよ」
「ふーん」

イースもブランコから立ち上がり、美希に向かい合う。無垢で真っすぐな瞳で見つめられ美希はたじろいだ。
そんな美希の手を掴むとイースはぐっと距離を縮めた。

「な、なにっ?むっ―――」


時間にして10秒ほど。美希は目の前で起こった出来事が理解できず動くことができなかった。
そしてイースがゆっくりと離れたとき何をされたのかハッと気づく。

「なにするのよっ!!!」
「テレビでこうやっていかりをしずめてたよ」

違ったの?

と幾分冷めた目で返され、美希は自分が間違っているような気分になった。

「ちがうもん!ちゅーはすきな人としかしちゃいけないもん」
「ふーん」
「ひどいよぉ」

わーんと泣き出してしまった美希。居心地の悪い思いをしながらもイースはそこを離れようとはしなかった。

「ふぇ……」
「もう泣くな」
「やぁ、ほっぺたむにむにしないで」
「泣き止んだ」
「うー、ばかぁ」

きゅっと瞳に残っていた涙を拭い、美希はイースを睨みつける。それは拗ねているようにしか見えず、イースは小さく微笑んだ。

「私そろそろ行かなきゃ」
「もうかえっちゃうの?」
「うん。ウエスターが太陽がしずむ前にもどってきなさいって。細かいことにうるさいから」
「えー、でもそれはイースのことしんぱいして、あ」
「なに?」
「ママが……ううん。あたしもかえろっと。また会える?」
「うん」

イースは嘘をついた。彼女は今日地球を離れる。本当ならつかなくてもよかった嘘。ただ、気まぐれに、美希の笑顔が見たかったから。

「じゃあまたね。ばいばーい」

美希がぶんぶんと小さい体で大きく手を振ると、イースも小さく振り返した。

もう一人で泣くことはないだろう。父親と弟と離れていても美希には母親がいる。美希のことを大切に思ってくれている。心配してくれる。
それはとても幸せなことで大事なこと。
家族にこだわらなくてもいい。
離れていても繋がる気持ちはあるのだから。

ありがとう、イース


「美希ちゃーん。いっしょにかえろー」
「ブッキー」

てこてこと可愛らしい女の子が近づいてくる。美希とイースは声のした方を見た。

祈里はイースを視界に捉える。

「わぁ、おさるさんのおしりより真っ赤なおめめ」

ガーン

―――――――

『○○動物園では日本猿の赤ちゃんが―――』


「…………」
「どうしたのせつな。食い入るようにテレビ見て」
「何でテレビ睨みつけてるの?」
「なんかトラウマが……なんでもない」

ボソッ「真っ赤なおめめ(笑)」
「ブッキー!!」
「しーらない」



END
最終更新:2011年08月28日 19:52