暗い
怖い
誰か助けて……!
「っ……」
悲痛な嘆きに応える者はない。
だってそれは夢だから。
美希はのろのろと冷たいコンクリートの床から起き上がった。
薄暗い中正確に手を伸ばしてペットボトルを掴む。何の気まぐれか、イースが昨日置いていったものだ。
喉を潤すと、少しだけ気分も晴れるようだった。
(夢まで犯されるとか……)
夢の中に光はなかった。
ズキズキと痛む下腹部をさすりながら、壁にもたれかかる。今日はいつもより長く寝ていたかもしれない。
ここに時計はない。地下で外の様子を窺うこともできない。だからここにいるとき美希にとって時間というものはないに等しい。
唯一時間がわかるのはイースに連れられ上に行ったとき。
そのとき初めて、美希は一日を感じることができる。
太陽にさらされない肌は日増しに白く透明度を増す。
美希が見ることのできたのは、殆どが月だった。
コツ
コツ……コツ……
酷くゆっくりで、不規則な音だった。
コツ
…………コツ
「おはよう。目覚めはいかが?」
朱い瞳を見た瞬間、美希は顔をしかめ俯く。それに怒るわけでもなく、イースは牢屋に一歩近づき彼女を見下ろした。
「何?自分の血の色でも思い出した?」
「うるさい……」
消え入りそうな声で美希が応える。
暫く美希を見下ろしていたイースは、かちゃりと鍵を開けた。
行くわよ
と、ただ一言声をかける。
無言で美希は立ち上がった。
大きなベッドと少ない家具。
全く生活感のない部屋で唯一色を持っているのは、イースだけだった。
美希が床に座りベッドにもたれ掛かる。イースはベッドの上に寝転がり美希の髪を梳いたり、引っ張ったりといつもと違いぼーっとしているようだった。
「いたっ」
「ねぇ……」
ぐっと強めにイースが髪を引っ張った。美希は髪が絡まないようゆっくりと後ろを向く。
「純潔を女に奪われるってどんな気分?」
かぁっと美希の頬が朱くなる。昨日の事がフラッシュバックのように頭に過ぎった。
血に濡れたイースの細い指。
暗く微笑む彼女の瞳はきっと忘れることはない。
「大事なことなんでしょう?」
「……だから?」
上がって
甘えるような声に美希はとまどった。機嫌がいいのか何か企んでいるのか、イースは美希を自分の上に跨がらせる。
「占いは好き?」
「?……普通」
「へぇ、まぁそれぐらいが調度いいのかもね」
一つ美希のシャツのボタンを外す。
「最近毎日のように同じ女がお客で来ててね」
プチッ
二つ目を外す。
「この先の恋愛を占って欲しいって。分厚い眼鏡をかけてる暗そうな人。今付き合っている人と結婚してもいいのかって。相手がセックスを求めてくるけど結婚する人に純潔を捧げたいって」
プチッ
三つ目を外す。
「私は結婚すべき人じゃないって言ったの。でもね、結局彼女聞き入れなくて、やり逃げされたって泣いてきたわ。みっともなく鼻水たらして。ねぇ、私の占い信じる?」
「……半分」
「半分?」
探るような目つきでイースは笑う。イースにあまり体重をかけないように注意し、居心地の悪い思いをしながら美希は続ける。
「科学の発展してるラビリンスにいるあなたが占いを信じてるとは思えないし。水晶からオーラとか、何かが見えるような力もないと思う。でも、人を見る才能は優れてる気がする。見るっていうより観察する……かな」
「ふふっ」
ブチブチッ
イースは残りのシャツのボタンを全て引きちぎった。
「それで?」
「あなたはその人が占いには来ているけど他人の言葉に耳を貸さないことに気づいた。だから自分に有益な情報を与えた。もし外れても彼女が結婚して幸せになれば、占いなんて信じないで終わるだけ。でも結婚できると言って外れたら、占いのせいにされるかもしれないから。商売がしにくくなるし」
「名推理だこと。でも少し違うわ」
シャツを脱がせ、自分も半身を起こし美希に顔を近づける。
「彼女には、女の魅力がないって言ったの。だから結婚できない、すべきじゃないって。相手はあなたを一生かけて抱かないって」
クスクスと美希の耳元で笑う。
「一人ぐらい壊しても問題ないもの。もっともプライドの高い彼女が人に言わないのもわかったけど」
「…………」
「案の定慌ててセックスして、やり逃げされた。哀れよねぇ。純潔を奪われて酷く落ち込んでた。初めての人だからその人のことを忘れることはないって」
イースは美希の細い腰に手を回す。
そして、彼女の顔を見て小さく安堵の表情を見せた。
それを悟られないようすぐさま不敵に笑う。
「泣いてるの?共感した?不本意に純潔を奪われたことに。でもあなたと彼女じゃ大きく違うわ」
「……やめて」
「あなたは望まぬ相手から奪われたのだから」
美希の瞳に涙が溢れる。
どれだけポーカーフェイスを装おうとしても涙は止まらない。
美希の中にイースが刻まれた。
その事実を受け入れなければいけないことが酷く悔しくて……悲しかった。
「あんたの泣き顔は飽きないわ」
イースは美希に口づける。舌を入れ美希のものを絡めとる。
右手を秘所にもっていくと、そこはまだ渇いていた。
ゆっくりと刺激を与えれば、だんだんと湿り気をおびる。
イースが唇を離したときには下からはくちゅくちゅと音がした。
「反応してるわよ。入れて欲しいの?」
「んっ……っ」
望まぬ快楽に反応する身体。
まだ中学生という幼さの残っていた美希を、イースは無理矢理開花させていく。
ひどく優しく表面だけを撫でるイースの指。シーツを握る美希の指がさらに強くなる。
美希
イースの声が耳に甘く入り込んでくる。
背中をなぞっていた指が軽く爪をたてる。
「………離し……て」
「何?」
「お願いだから……」
掠れた声で美希が囁いた。
。ズズッ……とイースの爪が美希の背中に朱い線をつける。痛みに呻く美希を、イースが楽しそうに眺める。
「私なしではいられなくしてあげる」
ぐちゅり
軽い抵抗を受けながらイースの指が美希の中に押し入る。
「私の指を締め上げようとしてるわ。気持ちいい?」
「あ、んっ、―――っ」
必死に声を押し殺す。反応する自分の声が忌ま忌ましい。
声を出さなければ聞こえてくるのは粘液の音。
ピストン運動を繰り返すイースの指が中から愛液を掻き出そうとする。
ぐちゅぐちゅと頭に響く卑猥な音。イースの指が速くなり、彼女の声にも熱がこもる。
「あっ――――」
ぎゅううう
とイースの指を締め上げる美希。
本来なら相手を果てさせ、終わりを導く機能。
しかし相手が果てぬなら、それは終わりなき行為。
自らの体力、精神を徐々に貪っていく。
イースが美希の胸に顔を埋める。僅かに開いた口で軽く甘噛みを繰り返す。
「イー、ス、っもう……あたし」
イースは指を再び動かす。
イッたばかりのけだるい身体にさらなる快楽が注ぎ込まれる。
身体に朱い痕が散らばる。モデルだからと痕がつかないよう気をつけていたあの頃が懐かしい。
時折歯をたてられる。それだけで身体が更なる刺激を求めだす。
「あーあ、モデルの身体がだいなし」
「あっ……お願……もう、やめて」
「もっともその身体と顔なら幾人もの男を虜にできるわよ」
美希の哀願にもイースの手は止まらない。
連日の疲れでとっくにキャパオーバーな美希の身体。抵抗の意思すら取ることができなくなる。
薄れゆく意識の中、美希の瞳にはイースが映される。
いい?あなたは私のものなの
逃げることも拒むことも許さない
あなたは私のためだけに生きるの―――――
意識を手放し、崩れ落ちるようにベッドへ倒れ込んだ美希をイースは覗き込んだ。その顔には少しばかりの汗が浮かんでいる。
イースは美希から引き抜いた濡れた指を嘗め蜜を味わった。
「どんな状況なら、あなたは終わりを望むのかしら?」
聞こえないことがわかっていて、微かに色づく頬を優しく撫でて語りかける。
「監禁されたら?こんな風に凌辱されたら?」
焦れるように自身の服を脱ぎ捨てる。
そして美希の脚を少し持ち上げ自分の片脚と交差させた。
「でもね、終わりは望むものじゃなくて……訪れるものよ」
脚が乗っているだけとはいえ、いつもなら軽く感じる美希の身体が重い。
意識がないだけでこうも違うのかとイースは不思議に思った。
身体を前に移動し、彼女の秘所と自分のモノを触れ合わせる。ひくり、とイースの身体が震えた。
「忘れることはない……か」
それは誰に語りかけたものだったのか。
イースは自虐的に笑った。
少し腰を動かしただけで、くちゅくちゅと音がする。それは美希だけではなくイースも濡れている証。
「はっ……あ、んん、はぁ」
腰の動きが早くなり、擦れ合う音と抑えるつもりのない声が静かな部屋に響く。
ん……と小さく美希が唸った。起きる気配はない。
一気にラストスパートをかける。汗で顔についた髪も気にせず振り乱す。銀髪から美希のお腹に滴が落ちた。
駆け巡る快感に抗わず、イースは美希を欲望で濡らした。
彼女は愛玩具でしょ?
いつかサウラーに言われた言葉。意識のない美希を見つめながら、イースは思い出して苦笑する。
「不確かなものほど、怖いものはないわ」
終わりも
始まりも
彼女の想いも。
ばさっと美希にシーツを被せると、イースは美希の着ていたシャツを羽織りベッドを離れた。
簡易キッチンでお湯を沸かし、紅茶の準備をする。
お湯の温度もミルクを入れるタイミングも、飲み方も。
「染みついてる……」
バシャ
飲みかけの紅茶を捨て、珈琲の準備を始める。乱暴にインスタント珈琲を作り、砂糖もミルクも入れず飲み始めた。
「まずい……」
それでも最後まで飲み干した。
閉め忘れたカーテン。窓の外から月明かりが入り込む。
「イー、ス……?」
足音に美希が気づき、ゆっくりと目を開ける。
今日は満月だった
イースが窓に近づいてカーテンに手をかける。
朱い瞳が蒼の少女をとらえた。暗闇でイースがふっと笑う。
「朱い月は不吉だって」
「……知ってるわ」
終わりなき宴など存在しない。
終わりがあるから儚い。
「刹那……」
「どうしたの?」
美希が訝しがる。
彼女が偽りの姿の時の名前、『せつな』と口にしたから。イースは美希の頬に指をはわせる。
「あなたは一生逃げられないわ」
寒いのだろう、と美希は思った。
イースの手が少しだけ、震えていたから。
END
最終更新:2011年09月30日 00:46