最近、美希ちゃんの態度が少し変わったみたい。ワンテンポ遅いっていうか、何か考え事をしてることが多いみたい。それと、目が合った時にそらすのが早くなった気もするの。
これが、わたしに対してだけだったら傷つくところだけど、ラブちゃん、せつなちゃんにも同じような状態だから――。何か困ってることがあるなら、わたしたちに話してくれてもいいのにな。
4人でいるときの雰囲気がおかしい。それぞれに様子見というか、探りあいの様相を呈している。
最初に変わったのが美希で、少しばかり反応が遅かったぐらいだったし、ただ調子が悪いのかと思っていた。しかし、それが続くようになると、次にブッキーが、続いてラブが、お互いの注視をはじめた。
会話に気をつかうせいか、気持ち間延びしたようにもなっている。私は元より、ラブたちの流れを眺めているところがあったから、何か変わったところはないと思う。
みきたんの態度がおかしくなるのはたまにあることだから、特に気にしていなかったんだ。ほっといても大抵のケースは、すぐ元に戻るんだよね。
けど今回は長引いていて、ブッキーも随分と気がかりになっているみたいでさ。せつなも心配な顔してるし、あたしの知らないところで何かあったのかねえ。そろそろ相談してくれてもいいんじゃないかな。
でも頑固だからなあ、美希。
思い返せば、ブッキーのアタシに対する態度は、そのように見えなくもない。でもあの子は恥ずかしがり屋、はにかみ屋だから、別に不思議に思うことはなかった。
でも身近なところで、ラブに対する態度とは違うことがわかった。それは、どことなく染まった表情だとか、目が合ったときの瞳だとか、から見てとれた。
美希ちゃんがこうなったのはいつからだったっけ。
そう、あの日、美希ちゃんとわたしの二人が先に、カオルちゃんのお店に来て、ラブちゃんとせつなちゃんを待っていた。私はその前の夜に、読書でついつい夜更かししたせいで、うたた寝をしていたみたい。気付くと、もう二人は来ていたけれど、わたしを起こさないように静かにしていたらしいの。
今思えば、あのときからだった気がする。美希ちゃんが変になったのは。
ブッキーは美希を、美希はラブを見ていることが多いと感じる。ラブは特にそういった印象はない。私は、同居もあって、結果的にラブを見ていることになるだろう。一足早く、美希の変化を気にしだしたのが、ブッキーなのも道理だ。ラブはふたりを見ていて疑問に思ったのだろう。
それともブッキー、本当は美希がこうなった原因を知っているのだろうか。ブッキーは結構、自分の感情を表に出そうとしないから、はじめのうちは知らない振りをしていただけ、なんてね。ラブは今回のことを、全く知らないから気にしているといった様子だ。
あたしは昔から、みきたんの妹みたいなものだった。きっと、危なっかしいあたしをほっとけなかったんだろう。実際お姉ちゃんだし、面倒見がよかったんだよね。今でもあたしを叱咤してくれることが多い。でもこれはあたしが、もっとしっかりしなきゃダメってことなんだよね。
私は、この世界の小説を読むようになって、これまで縁がなかったことを知った。そう、恋愛についてだ。
しかし、知れば知るほど、自分が異常に感じるようになった。どうやら、わたしの好意も、身の回りで向けられている好意を見る私の認識も、普通ではないものとして捉えられるものらしい。
私は異常だと思われたくない。ラブたちに迷惑をかけたくない。けれど、相反して想いは確かなものになる。そうきっと、もう好きになったから――。
きっと偶然だわ。意味が違うのよ。部分的にしか聞こえなかったってこと。発しなかった部分にもっと別の言葉があったの。
聞こえなければよかったのに。どうしたって意識してしまう。それまで別になんとも思ってなかった人に、告白されてから気になるようになったって話は、アタシも聞いたことがある。でもまさか、自分の身に降りかかろうとは。どうすることもできない。意識があって言われたものではないから、返事は必要ないし。
それにアタシが、好きなのは――。
あたしは知ってる.みんなの想いを.
あたしは知らない.あたしの想いを.
美希ちゃん、美希ちゃんの好きな人、わたしは気付いてるよ。
でも美希ちゃん、わたしの好きな人、美希ちゃんは気付いてるのかな。
うたた寝するブッキーから零れた寝言が、美希の心に波紋を広げた。
美希ちゃん……好きなの――
Fin
最終更新:2011年10月02日 21:14