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新-449

「わっは~、ふっかふか。美希たんのベッドは柔らかくって気持ちいい~!」


 綺麗に整頓された美希の部屋。行き届いたベッドメイク。さっきまで、枕投げで散らかっていたはずなのに。
 青一色に整えられた部屋は、奥行きが広く感じられ、さながら小さな海のよう。
 真っ白なシーツは、打ち寄せる小波。
 違うのは匂い。磯の荒々しい臭いじゃなくて、甘く爽やかなラベンダーの薫り。


「ラベンダーは安眠効果が高いのよ。きっと、素敵な夢が見られるわ」


 美希が説明するのを待たず、ラブが飛び出した。
 まずはベッドにほお擦りして、ゴロンと敷き布団の上を転がって、みんなもおいでよと手招きする。


「ちょっと、ラブ! プールじゃあるまいし飛び込まないでよ」
「あ~あ、せっかく美希ちゃんが食事中に抜け出して整えてくれたのに」

「そうそうって、なんでブッキーが知ってるのよ?」
「おばさんじゃなかったんだ」
「顔に書いてあるよ?」

「ないわよっ! せつなもジロジロ見ないの、そんなわけないでしょ」
「美希は、見えないところでいつも頑張ってるのね」

「ラブちゃんは相変わらず。せつなちゃんと二人の時もこうなの?」
「そうね、あんまり変わらないわよ」


 呆れた顔で話すせつなの表情は、でも、楽しいって感情を隠しきれずにほころんでいた。
 子どもなんだから、と溜息を漏らすせつなにラブが抗議する。


「えっ~せつなだってこの前は」


 バフン!

 せつなの投げた枕が、ラブの顔面を直撃する。
 かくして――――止めようとする美希の奮闘も空しく、枕投げの第二ラウンドが勃発したのであった。







帰ってきたせっちゃん――ある日のせっちゃん。パジャマパーティー――』







『お邪魔しま~す!!!』


 ジャージ姿で蒼乃家の門をくぐる、ラブ、祈里、せつな。扉を開いた美希も、首にスポーツタオルをかけたトレーニングスタイルだ。
 休日を利用しての、早朝からのダンスレッスン。昼からミユキさんもコーチに加わってのハードメニューだった。
 みんなクタクタに疲れていたのだが、表情は活き活きと弾む。
 理由は、各自が抱える大きなバックが物語っていた。今日は――――パジャマパーティーなのだから。


「いらっしゃ~い。みんな、ゆっくりしていってね」
「ゆっくりはするわよ、お泊りなんだから」

「もう、美希ちゃんのイジワル。そんな言い方しなくたっていいのに」
「ゴメンってば。今夜の夕食はアタシたちが作るから、ママものんびりしてよね」

「それは助かるわぁ~、美希ちゃんのお料理は味気なくって」
「アタシはママから教わったんだけど……」


 後ろでクスクス笑い出した三人に気が付いて、美希が顔を赤らめる。「行くわよ」と、レミを置いてさっさと自分の部屋に上がる。
 慌てて後を追うラブたちを、レミは可愛らしく手を振って見送った。


「おばさん、相変わらずね。母娘というより、友達同士の会話みたい」
「もう、恥ずかしいんだから」

「でも、見ていて仲がいいのが伝わってくるわ」
「うん、あたしたちもおかあさんと仲良しだけど、美希たんのとこと少し違うよね」
「そうね。アタシはママの娘だけど、気の合う友達であり、相談相手でもあるのよ」

「だって、美希ちゃんしっかりしてるんですもの。あたしとしては、もう少し頼って欲しいのだけど」
「それはママがだらしないから……。って、なんでここにいるのよっ!」

「お風呂沸いたわよ、って伝えにきたのよ。ローズマリーを浮かべておいたから、サッパリするわよ~」


 怒って追い出す美希と、懲りた様子のないレミ。こんな性格だから、二人っきりの暮らしも寂しくないのだろう。


「それにしても、美希たん家のハーブ湯なんて久しぶり~」
「せっかくだから、みんなで入っちゃおうか?」
「ええっ? 私は恥ずかしいから後で入るわ」
「わたしも、自信ないからやめとく」

「お風呂に何の自信がいるのよ? 女の子同士なんだから気にしないの」
「そうそう。行くよっ! せつな」
「きゃっ! ちょっと、ラブったら押さないで」
「わたし、信じてる……」

「だから、何をよ……」







 二人暮しとは思えない、豪華で広いバスルーム。アイドルだったレミは、お風呂には特にこだわりがあった。
 湯船には可愛らしい花柄模様の布袋が浮かぶ。中にはハーブの茎葉がたっぷりと入っていた。


「美希のアロマ好きは、お母様ゆずりだったのね」
「いい匂い。ずっとこうしていたいくらい」

「そんなの、バスタブに体を隠してる理由にはならないわよ?」
「せつな、背中流してあげる」

「「嫌だって、言ってるのに……」」


 生き返ったようにツヤツヤしているラブ。緊張してグッタリ疲れたせつなに、何やら落ち込んでいる様子の祈里。
 そんな中、美希はテキパキと髪にタオルを巻き、ローションマスクを貼り付けていく。


「美希たん、毎晩そんなことしてるんだ?」
「当然でしょ? 入浴後は時間との戦いなのよ。さっ、みんなも早くするのよ」


 初めての体験に、みんなくすぐったがったり、おかしくなって笑ったり。にらめっこしてるんじゃないんだから、と美希にたしなめられる。
 パジャマパーティー。一日だけでも違う家庭の暮らしに触れると、新しい発見も多い。
 感じ方や考え方の違い。個性と呼ばれる人のあり方の違いの多くは、日々の暮らしから生まれるものなのだろう。

 スキンケアが終わるのを待てずに、ラブがキョロキョロしながら辺りを物色し始める。
 勝手知ったる幼馴染の部屋。トランプを見つけて遊ぼうと持ちかける。


「はしゃぐのはもう少し後にしてね。後十分くらいは動いちゃダメよ」
「じゃあね、せつな、占いしてよ」
「いいけど、何を占えばいいの?」

「え~っと、明日の運勢とかかな?」
「せつなちゃん、また占いするようになったのね」
「アタシは占いなんて信じないわよ」

「ふ~ん? じゃあ、美希の運勢を占ってあげる。最悪ね、この先きっと良くないことが起こるわ」
「ちょっと! 縁起でもないこと言わないでったら」

「冗談よ、やっぱり気になるんじゃない」
「ゴメンナサイ……」

「でも、運勢ってなんだろう。運命って始めから決まってるものなのかな?」
「わからないわ。私にとっては、運命はメビウス様が決定されるものだったから……」

「せつなっ!」
「せつなちゃん?」
「せつな、あなた……」

「いいの。もう、私はイースであったことを受け入れようって決めたの」


 せつなは、真摯な眼差しでみんなを見つめる。
 それは、あの日に決意した想い。未来にかける願い。ダンスユニット“クローバー”の再結成の誓い。
 そんなせつなの想いを受け止めて、みんなは――――みんなは……一斉に吹き出した。


「ちょっと、何が面白いのよっ!?」
「だって……、ククク」
「そんな顔で、アハハ」
「パックが崩れちゃう……、クスクス」

「もうっ! 許さないんだから!」


 せつなの投げた枕が、美希の頭をわずかに掠める。美希はチラリと時計を見てから、不敵な表情でパックを外した。
 ラブと祈里も、顔を見合わせて同時に剥がした。
 せつなも力強く剥ぎ取った。パックにも劣らない真っ白な素顔が、戦士の表情を形作る。


「ちょうど十分ね、受けて立つわ!」
「私に勝てると思ってるの?」
「恒例、枕投げ対決、行くよ!」
「負けないんだから!」


 ここに、パジャマパーティー史上、最大の決戦の火蓋が切って落とされたのだった。







「今夜はあたしの特製のハンバーグだよ」
「私も、クリームコロッケに挑戦するわ」
「じゃあ、アタシは付け合せのサラダでも作ろうかな」
「わたしは……。みんなのお手伝いをするね」


 今度はみんなで夕食の準備。
 パジャマ姿のままで、上からエプロンを付ける。一見、お遊戯じみているが、実は彼女たちの腕は中々のものだった。
 各自の得意料理。別々に作るかと思いきや、ラブとせつなは作業を分担しあって調理を進めていく。
 包丁を握るラブと、下味をつけるせつな。左右に行き交う食材たち。
“焼き”と“揚げ”だけは、それぞれの手で行った。


「この二人って、……一体……」
「シェフじゃないんだから……」


 前回のパジャマパーティーと比べても、遥かに腕を上げた二人の手付きに目を見張る。
 美希も負けじと、豊富な食材を使って、色とりどりのサラダを完成させた。
 テーブルを埋め尽くす料理の数々に、レミも驚きの表情を浮かべる。
 ハンバーグにコロッケ。サラダに炒め野菜。スープにデザート。
 栄養のバランスもしっかりと考えられていて、ボリュームはあるが見た目ほど量が多いわけでもない。


『いただきま~す』

「いいわねぇ~、家庭でこんなに美味しいご飯が食べられるなんて」
「いやぁ~、それほどでも」
「おかあさんは、もっと上手なんです」

「わたしのお母さんのお料理も、負けないくらい美味しいのよ」
「要するに、ママがダメなのよね」
「ヒドイ! 美希ちゃん」


 絶え間なく沸き起こる笑い。食卓を囲む笑顔。久しぶりに賑やかな蒼乃家の食卓に、レミも嬉しそうだった。
 食後の後片付け。四人一緒だと、そんなことも楽しくて。お話しながら、ゆっくりとテーブルやキッチンを綺麗にしていく。


「美希のお母様は、とても綺麗ね」
「急にどうしたの? 初めて会うわけでもないのに」

「容姿のことじゃなくて、姿勢とか、立ち振る舞いとか、食事の作法とか」
「うん、ママが言ってたの。美しくなりたいのなら、常に他人の視線を意識しなさいって」


 せつなはテーブルを拭いてるレミに目を向ける。作業としては決して誉められた手付きじゃないけれど、物腰がとても上品で優雅だった。
 経験が人を形作り、それが後の自分の生き方や、家族や友人にまで影響を与えていく。
 美希のモデルへの憧れも、アイドルであった母親の、生き方や美しさと無縁ではないのだろう。
 そして、思う。
 だとしたら、自分は過去から何を得たのだろう。この先、それによって何を伝えていけるのだろうかと。







 食事を終えて美希の部屋に戻る。そこで二度目の枕投げの後、一息ついてから、今度は美希が小さい頃の写真を引っ張り出してきた。
 ラブと祈里も、申し合わせていたのだろう。それぞれバックの中から、古い表紙の分厚いアルバムを取り出した。
 三人の写真は、本当に小さな頃から一緒に映っているものが多かった。
 同じ日に撮ったのだろうと思われる写真もあった。


「こっちが弟の和希。アタシとラブとブッキーは~」
「クスッ、わかるわよ。面影がそのまんまじゃない」

「あはは、まだ十五歳だし、あんまり変わらないよね」
「わたし……可愛い」
「えっ?」
「ブッキー、今、なんて?」

「あっ、ううん、なんでもない!」


 なぜか拳を握り締めた祈里に、一同が訝しがる。
 そんなつぶやきはともかくとして、幼い頃の三人はどれも愛らしかった。


「本当に可愛い。抱きしめてあげたくなるくらい」
「ホントッ? 恥ずかしいけど、せつななら……」

「ばかっ、小さい頃のラブの話よ」
「たはは、でも、せつなの小さい頃だってすっごく可愛かったろうな~」

「……なかったと思うわ。可愛げなんてなかったもの」
「そんなことないよっ! 目付きの悪い小さなイースだって、絶対に可愛いって!」
「ラブちゃん、それ、フォローになってないと思う……」
「ゴメン、せつな。悲しいこと思い出させちゃった?」

「平気よ。アルバム見せてもらうの初めてだったから、とっても嬉しいわ」
「それはね――――」


 早くから美希の提案で、アルバムはせつなには見せないようにしようと話していたらしい。
 幼い頃の思い出のないせつなにとって、羨ましい写真かもしれないからって。
 同じ理由で、それぞれの誕生日パーティーを盛大に祝うこともしないようにしていたのだとか。


「ごめんなさい、気を使わせていたのね。でも、今になってどうして?」
「最近、せつなの様子が変わったからかな」
「美希ちゃんがね、今ならいいんじゃないかって」
「ゴメン。あたし、せつなの気持ちも考えないで、おじいちゃんの写真で騒いじゃったことあったよね」


 せつなは首を振って、謝るラブたちに微笑みかける。本当に、自分の知らないみんなの姿を見ることができて嬉しいって。
 正確には、せつなは幼い頃の写真がないわけではない。データーという形で、幼少時の姿は記録されている。
 しかし――――それは思い出と呼ぶにはかけ離れたものだった。
 心の通わない、証明写真のようなものだった。

 そんなことまで素直に話せる自分を不思議に思いながら、アルバムを通して、しばらく三人の思い出の中を旅した。


「ねえ、ラブ? これは……。クスッ、もう寝ちゃったのね」
「ブッキーもよ。二人とも、ダンスの練習で疲れていたのね」

「美希は平気みたいね?」
「アタシは鍛え方が違うもの。せつなこそ余裕そうじゃない?」

「そうね。それも……寂しい過去で、笑顔と引き換えにして得たものよ」


 美希は立ち上がり、ベッドを占拠して眠るラブと祈里にそっと布団を掛けた。
 二人は互いに向き合って、体を丸めて、おでこをくっつけ合うようにして眠っていた。

「こうして見ると、まるで姉妹ね。ううん、美希もそう」
「否定しないわ。幼馴染って、姉妹にも似た関係なんだと思うもの」


 ラブと祈里は一人っ子。美希には弟がいるが、離れ離れに暮らしているのでやっぱり一人。
 そんな寂しさを埋めあうように、三人はいつも一緒に過ごしてきた。


「それで、ラブに何を聞こうとしていたの?」
「この写真よ、三人とも泣いているわ。それに、ラブがなんだか怒ってるみたいで」

「ああ、それはね……」







 それは、美希が弟の和希と別れ別れになって、しばらくした頃のことだった。
 当時、美希は少しだけ荒れていて、祈里に八つ当たりして泣かせてしまったことがあった。
 駆けつけたラブが祈里を庇って、美希に食ってかかったのだ。そして喧嘩になって、結局は三人とも泣き出してしまった。


「アタシってもともと生意気な子だったし、あの頃は特にね。だから、ラブまでアタシを嫌ったんだって思って泣いちゃったの」
「ラブは、誰かを嫌ったりなんかしないわ」

「そうなの。後でわかったんだけど、ラブはブッキーを庇ったんじゃなくて、アタシを心配して叱ってくれたらしいの」
「ラブは、小さな頃からラブなのね」

「うん。あの時ラブが叱ってくれなかったら、アタシはきっと嫌な子になってたと思う」
「それで、いつもラブがリーダーなのね」

「そうよ、ほらっ、あの子って怒らせると恐いでしょ?」
「クスッ、そうね。それはよくわかるわ」


 ちょっとだけ似た境遇。小さな秘密を分かち合って、美希とせつなは顔を見合わせてクスリと笑う。
 美希がラブと出会って変わったのなら、それは自分と同じだと思う。
 いや、同じではないのだろう。
 幼い頃に出会っていたら、人格がかたまる前に知り合っていたら、自分も幼馴染であったのなら……。
 一体、どんな人間になれたんだろう。

 遅すぎる出会い。取り返しの付かない過ち。夢であってほしかった現実。
 もっと早くに、幼馴染として出会えたなら……。そうしたら、どんな今があったんだろう。


「美希、ここだけの秘密にしておいて。私は、やっぱりあなたたちがうらやましい。私も、この中の一人になりたかった」
「もう、なってるじゃない? 幼馴染じゃなくても、せつなはアタシたちにとって、他の二人と同じくらい大切な仲間よ」

「だって、遅すぎるじゃない」
「ねえ、聞いて」


 美希は静かに話す。ずっと一緒、そう思っていた三人が、バラバラになってしまった日のことを。
 当時、小学校六年生だった美希は、読者モデルとしての第一歩を踏み始めた時期だった。
 読モとは言え、本物のモデル業界の厳しさを肌で感じ取った美希は、このままでは夢が叶わないことを知った。

 そこでレミと相談して、芸能学校である、私立鳥越学園への進学を決意したのだ。
 それは、ラブや祈里と別れ別れになることを意味していた。

 ラブは涙を堪えて、懸命に堪えて、がんばってと応援してくれた。
 祈里はしばらく泣きじゃくったが、やがて自分も獣医の夢を求めて、進学校である私立白詰草女子学院に行くことにした。
 中学生になってからも交流は続いたが、別々の時間を、別々の友人と過ごすことも多くなっていた。
 いつも一緒。そんな関係は、夢と自立の名の元に崩れ去っていった。


「このまま、少しづつ距離が開いていくと思ったの。そして、いつかは会うこともなくなるんじゃないかって」
「でも、そうはならなかった。私たちの、ラビリンスの襲撃があったからね?」

「ええ、プリキュアとダンスね。同じ使命と夢を持てたアタシたちは、また一緒に行動するようになった」
「皮肉なものね。大きな不幸が、小さな幸せをもたらしたなんて」

「アタシにとっては小さくなかったわ。イースが現れてアタシたちは集い、せつなの加入でアタシたちは一つになれたのよ」
「私が遅れて来たことにも、意味があったのかしら」

「アタシは三人で完璧だって思ってた。でも、違ったの。せつなが加わって四人になって、それでクローバーは初めて完璧になるのよ」


 美希は続ける。せつながこの世界に来て様々な幸せを学んだように、美希たちもまた、せつなの不幸からたくさんの大切なものを学んだのだと。
 失ってはならないものが何なのか。本当に人を幸せにするものは何なのか。それをせつなが教えてくれたのだと。
 だから、自分たちもまた、あんな答えが出せたのだと。


「私の過去も、無駄ではなかったってこと? 笑顔と幸せを、導く力になれるってこと?」
「それは、この先のアタシたち次第なんじゃないかしら?」

「精一杯、頑張るしかないってことね」
「そしたらきっとできるわ、アタシたちは完璧なんだから。でも、一言だけ伝えたいの」

「なあに?」
「せつなのおかげで、アタシたちはまたクローバーを結成できた。だから……ありがとう」

「美希、私も占いなんて信じない。運命が無数の選択肢なら、最高のものを掴み取るわ。ないなら、無理やりにでも作るから」
「じゃあ、占いはやめちゃうの?」

「やめないわ。それも、私の過去の一部だもの。納得の行く結果が出るまで、何度だって占うだけよ」
「クールなイースが、大人しいせつなが、実はこんなに熱い子だったなんてね」


 そう言いながら、美希は布団をせつなに被せて、自分も一緒に潜り込んだ。
 せつなの手を握って、何か言おうとするせつなを、「おやすみなさい」って言葉で遮った。


「おやすみなさい、美希」


 その夜、せつなは夢を見る。小さなせつなが、四つ葉町に来た夢を。
 初めて見るはずなのに、不思議と馴染みのある公園。そこで仲良く遊ぶ、同じ歳くらいの三人の女の子たち。
 ツインテールの子が、せつなの視線に気が付いて手を差し伸べる。


「あたし、ラブってゆーの。よかったら、いっしょにあそぼう!」
「わたしは、せつなよ。ひがしせつな。あそんでくれるの?」

「アタシは、あおのみき。みきってよんでいいわ」
「わたしは、やまぶきいのり。ぶっきーよ。せつなちゃんでいい?」

「さあ、いこう。おにごっこしってる? あたしがおいかけるから、せつなはにげるんだよ」
「わたしをつかまえられるとおもってるの?」

「そんなのわかんないよ、はじめてだもん」
「よーい、どーん!」
「いーち、にー、さーん」

「みてないで、にげるのよ、せつな」
「あなたは、みき?」


 青い髪の女の子が、せつなの手を引いて逃げる。風に揺れる長い髪が綺麗で、あたたかい手の感覚が嬉しくて。
 追いかけて来る、ツインテールの髪の子の笑顔がまぶしくて。
 いっそ、捕まってしまいたいくらいに嬉しかった。
 気が付くと、隣のサイドポニーの髪の子が、心配そうにせつなを見つめていた。
 目が合って、嬉しそうに笑う。

 せつなは走る。この素敵な仲間たちと、過去から未来に向けて真っ直ぐに。


 いつまでも――――どこまでも。



最終更新:2011年10月09日 23:20