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私の取り柄って何だろう。
笑顔とダンスが無くなったら何も残らないんじゃ・・・。


一人になると、不意に自己嫌悪に陥る事がある。


美希たんは背が高くて綺麗でモデルさん。
ブッキーは胸が大きくて優しい獣医さん。
せつなは色白で純粋無垢なお姫様。

それに引き換え、自分はなんなんだろ?見失いそうになっちゃう・・・。
しいて言うなら料理ぐらいかも、自慢出来るとしたら。


お父さんやお母さんは私を大切に育ててくれた。
友達のみんなも私を大切にしてくれる。
だけど、私と来たらそれに答えられてるのかな・・・。

笑顔をいっぱい振りまいて。踊ってる姿はみんなを喜ばせているの?


大丈夫!絶対みんなは幸せゲットしてくれてる!

それはエゴ。ラブの思い違い。笑顔の押し売りだよ。

ラブとラブが私の心の中でいつも戦っていた。




「いい加減にしてよ」





私らしくない。いつからこんな風になっちゃったんだろ?ホント私らしくないから。
そんな時、私の心を癒してくれるの場所がココ。四葉町が見渡せる丘。
いつでも私を快く出迎えてくれる。

目を閉じて横になると自然に落ち着けるんだ。心が安らぐ瞬間を感じれる。



いつしか眠ってしまった私に誰かが声をかける。聞き覚えのある声だ。
「また悩み事?スランプ続いてるわね。」 

「美希たん・・・」

「悩んで辛くなった時はいっつもココにいたよね。」


「辛くなんか。。私はただ・・・。ただね・・・。」
私がここに来てる事を知ってた驚きと、気持ちを悟られたくない葛藤で
返す言葉を誤魔化していた。

「隣空いてるでしょ?」

「うん。」


「ラブ~、最近笑顔が完璧じゃないぞ~」

「そんな事ないよ!いつだって私は全力の笑顔なんだから!」

「そうかしら?いきなりムキになっちゃうトコとかバレバレよ。ラブは昔っから嘘ヘタすぎ。」
美希たんはそう言うとジッと私の瞳を見つめて。とても勝てそうにない。まるでおまわりさんだよね。



「美希たんに嘘つくなんて無理、やっぱ。」


「正直で宜しい。で、どうしたの?ここんとこずっと、ラブの事ばっか頭をよぎってね~。」



「自分が嫌になっちゃって。・・・。笑顔とダンスしか私って取り柄ないんだよ?」
悔しかった。あまりのネガティブさに自分でも腹が立ったぐらいで。



あっと言う間に8月が終わろうとしている。あんなに暑かった夏が終わろうとしている。
そんな夕日を背に、美希たんは口を開く。



「私ね、ラブがいつもそばにいてくれたらなって思う。ラブの笑顔、ラブの怒った顔、ラブの泣いた顔。もっと見ていたい。」
ゆっくりと話す口調はまるでお母さんのようだった。美希たんの声がこんなに優しかったなんて。



「いつも笑顔でいたい。だけど押し付けがましくないかな?踊っている時もホント幸せ。ただこの二つしか私には無い・・・」
さっきから愚痴ばっかり。ホント情けなかった。黙って聞いてくれてる美希たんには頭が下がる思いで一杯だった。

「それでイイじゃない。笑顔で踊れるなんて最高。ブッキーやせつなも羨ましがるハズよ。でもね・・・」

「でも?」

「自分を・・・、自分を殺しすぎだよラブは・・・。他人を喜ばせる事ばかり考えて。
私は・・・、そんなラブが可哀想で仕方なかったよ。もっと早く助けてあげるべきだったよね・・・。」


「ううん。ありがと美希たん。気にしてくれてたんだね。」


「私はラブの笑顔がホーントに好き。だけど私にはそんな笑顔が作れない・・・。悩んでるのに、そばにもいてあげれなかった。」
美希たんの目は潤んでいた。せつなはすぐ傍にいるのに、ブッキーは優しく包んでくれるのに、どうして自分は・・・。
そんな想いをさせてしまった事を、今でも私は悔やんでいる。



「私がモデルになった理由、話してなかったよね。」


「うん。」


「綺麗になればいつか、私が大切に想ってる人はこっちを振り向いてくれるって信じて・・・ね・・・。
一杯努力して、ダイエットもして、とことん目立ってやろう!って。」



「美希たん・・・、もしかして・・・」
いつの間にやら私がドキドキしていた。私の悩みや愚痴は遠い昔のようで。ちょっぴり恥ずかしくもあり。


「好きとかそう言うレベルじゃないのかも。」

「え・・・」



「愛している、その人を。今でもずっと・・・」

「美希・・・たん・・・」

「私だってホントは完璧じゃない。だからその人の気持ちが良くわかるの・・・。」



「その人って、料理上手だったりする~?」

「どうかしら?お母さんは上手だったわね。」

「じゃあ笑顔が飛びっきりのもぎたてフレッシュ~?」

「さっきまでは愚痴って悩んでばかりだったような気もするけど。」

「じゃあ、誰よりも目立ちたがり屋の踊り大好き少女~?」

「確か、いっつも幸せ幸せって言ってたような。」

「それワタシで・す・ケ・ド!」

「うふふ。ごめんごめん。」

「美希たん、愛してる~っ!!!」

「私も愛してる、ラブ・・・。」

美希たんの愛してるは大人の味がした。ちょっと背伸びしちゃったケド、その分は笑顔でお返ししま~す!

~END~
最終更新:2009年08月22日 21:50