新-745

「美希ちゃん、あの……わたしの胸……、気に入ってくれた?」
「うん。だから、あともう少しだけさわっててもいい?」
「いいよ、美希ちゃんの好きなだけさわって」

 祈里が恥じらいを微笑でごまかしながら答える。
 彼女の手が乳房から離れ、パジャマの前掛けボタンに伸びても、祈里の表情は微笑みを崩さなかった。それどころか、緊張した美希の指先がボタンを外すのに手こずっていると、「ちょっと待ってね」と自分からボタンを外していった。
 はだけられたパジャマの内側に、美希の手を誘う。

「恥ずかしいから……、ラブちゃんやせつなちゃんには絶対内緒だよ?」
「わかってる。誰にも言わない」

 美希が約束して、祈里の胸に指先を触れさせた。
 スベスベとなめらかな皮膚の感触。しっとりと乳脂肪を詰めた柔らかなふくらみ。揉む動きをみせた指に、たぷたぷとした肉感が伝わってくる。
 ダンスの練習で揺れるというのも頷ける ――― そう納得しつつ美希が円を描くような手つきで乳房の稜線をまんべんなく撫でていった。

「ブッキーの胸って直接さわるとねえ……軟らかくてフワフワのプリンって感じ」
「やだっ、美希ちゃんっ」
「褒めてるのよ。おいしそう…って」
「そうなの? ふふっ、じゃあ、うれしい」

 こうやって胸をさわられていると、身体が甘く溶けてしまいそうな気分になる。
 ただくすぐったかっただけの乳房の先端も、美希の手で撫でられているうちにぷっくりと乳頭が尖り始め、感度が強まっていく。
 乙女のふくらみをゆっくりと揉み転がす手の平が、『キュンッ』とこわばった胸先の突起をなぞった途端、生まれて初めて味わう甘美なくすぐったさに、

「 ―――――― っっ!?」

 びくんっ!
 祈里の上半身が跳ねるように身悶えた。
 美希がいったん手の動きをとめて、祈里の耳もとに「…大丈夫?」とささやいてみる。すぐに「うん、平気」と返事が返ってきたが、彼女の声がわずかに震えていることに気付く。
 そこからは、あえて敏感な先っぽを避けるようにしてさわり続けたが、乳房の丸みを手の平で愛でるたび、やわらかなバストを優しく揉むたび、祈里はなまめかしく肢体をくねらせ、熱い吐息を口から洩らした。

(……なんでだろう? 美希ちゃんにさわられてると、カラダが……熱いよぉ)

 だんだんと切なく乱れだした自分の呼吸をうまく抑えられない。
 胸をさわられているのに、身体の奥のほうがムズムズしてくる不思議な感じに戸惑ってしまう。この事を美希に知られたら……と思うと、何故だか分からないが、恥ずかしくてたまらなくなる。
 喉から突き上げてきそうになる声をこらえ続けていたが、もう限界だ。ついに祈里の白い喉が震えて、「はあっ、あああっ…」と喘ぎ声を部屋に響かせてしまった。

 …………急に空気が重苦しくなった。
 美希がそっと乳房から手を離しても反応しない。祈里は顔を固くうつむかせ、身を焼くような羞恥から来る全身の震えを必死に押し殺していた。

「ごめんね、変な声…出しちゃった」

 感情を抑えた、泣き出す一歩手前の声。
 美希は掛け布団を引っぱり上げて、彼女を頭からすっぽりと覆ってやる。そして、掛け布団の上から腕を回し、祈里を強く抱きしめた。

「ウンッ! ブッキーは偉い。恥ずかしいのガマンして、すごくがんばった。本当に偉い」

 見えないけれど、祈里がぽろぽろ…と涙を流して泣いているのが分かる。美希は羽毛布団越しに、彼女の頭を強めの力で何度も繰り返し撫でてやった。

「ほら、もう大丈夫。ね、ブッキー? 大丈夫……大丈夫だから……」

 ようやく羽毛布団の下から鼻をすする音が聞こえなくなった頃、美希は覚悟を決めた貌(かお)になって深呼吸を一回。
 祈里という少女が愛おしくて ――― とにかく何でもいいからしてあげたい。
 そんな気持ちが美希の胸いっぱいにあふれかえる。

「がんばったね、ブッキーは。……だから、アタシが今から特別なクリスマスプレゼントあげる」

 美希が掛け布団の下に腕を戻して、自分のパジャマの前掛けボタンを順々に外してゆく。緊張はあるけれど、迷いはなかった。全部外し終えると、次はブラジャーのフロントホック。
 白い雪の肌に包まれたふくらみがこぼれる。祈里の胸と比べると、なだらかな隆起という感じだろう。ボリュームにはかけるものの、乳房の稜線は瑞々しい張りで綺麗に描かれている。
 ――― これで恥ずかしいのはおあいこ。
 祈里の頭を優しく撫でながら、そっと胸へと抱き寄せた。

「美希…ちゃん……」

 母の胸に甘える子供みたいに両目を閉じて、祈里は二つのふくらみに顔をうずめた。ぐっ、と柔らかに跳ね返してくる乳房の弾力が気持ち良くて、思わず頬ずりしてしまう。

(あっ、美希ちゃん、汗かいてるんだ)

 頬に感じる体温の火照りに、祈里の胸がドキドキと恍惚の鼓動を打つ。
 手入れの行き届いた肌のなめらかさが気持ちよくて、左右の美丘へ交互に頬をすべらせながら、うっとりと満喫させてもらう。
 美希ちゃん ――― 声に出さずにつぶやいてみる。
 息をすると、生々しい肌の匂いとぬくもりを嗅いでしまい、余計に心臓がドキドキする。
 羽毛布団の下で胸に甘え続ける祈里の髪を、美希が穏やかな手つきで撫でてきた。『もっと甘えていいよ』と言ってくれているみたいな気がした。
 これは、大切な親友であるラブやせつなにも内緒の、祈里と美希だけの秘密。
 思春期の胸のふくらみにギュッと頬をくっつけて、幸せそうな表情になる。

 美希ちゃんはわたしの胸を『好き』って言ってくれた。
 わたしもね、美希ちゃんの胸が『好き』になっちゃった。

 ――― 素敵なクリスマスプレゼントをありがとう、美希ちゃん。
 幼なじみの乳房に手を添えて、感謝の気持ちと共に静かに唇を這わせた。
 ちゅっ…。
 甘やかな音が、美希の肌に響く。
 祈里の頭が、一瞬、ぎゅうっと強く抱きしめられた。

(好きな人と愛し合うのって、こういう感じなのかな……?)

 美希が恋人。それもいいかもしれない。やわらかなバストを両手でマッサージするように愛でつつ、彼女の胸の谷間に、そして乳房の内側にも、祈里の唇が優しくキスの雨を降らせていった。


 祈里の唇が肌の上で、「ちゅっ…」という音を鳴らす。
 くちづけの甘いこそばゆさに、美希は再び祈里の枕の端を強く噛んだ。もう何回目だろう、こうやって耐え凌ぐのは。
 胸に触れられる感覚は、美希の予想よりもくすぐったく、そして、恥ずかしかった。
 女の子同士だから平気……などという考えは、最初の頬ずりを受けた時点で消し飛んだ。祈里のサラサラの髪に乳房を撫でられ、全身が跳ね悶えそうになった。
(だいじょうぶ、ガマンできる。アタシ完璧、完璧……)
 心の中で自己暗示のごとくつぶやきながら、祈里の髪をいらうことで気を紛らわせていたら、今度は自分の胸で、肌に吸いつく『ちゅっ』という音が……。
 とっさに祈里の頭にクリンチしてしまった。

(わっ、わっ、わっ、え…ウソ、キス? アタシの胸、メチャメチャ愛されてるっ!?)

 混乱する美希の表情が、みるみる紅潮してゆく。変に格好つけるんじゃなかったと後悔しても、もう遅い。なんだか、さっきよりも敏感になってしまった肌に降る甘いキスの雨。
 全身が『カァーーッ』とのぼせてしまうような、妙に体の奥がむずがゆくなってくるような、初めて覚える感覚に、美希の理性が翻弄されそうになった。
 ――― これ、絶対マズイ。アタシ……、アタシ……、
 顔のすぐそばにあった祈里の枕の端をガジガジ噛むことで、声の洩れは防いでいるが、それもいつまで持つか……。
 何より、こうやって祈里に胸のふくらみをさわられたり、キスされたりするのが全然嫌じゃないのだ。そのため、美希の心が抵抗できない。

(好きな相手にカラダを求められるのって、こういう感じなのかな……?)

 祈里が恋人? なんでそうなっちゃうんだろう。でも、乳房を優しく撫でられ、愛しげなくちづけを与えてもらう内に、彼女を恋人にするのも悪くない ――― そういう気分になってしまった。
 枕の端を噛んで声をこらえながら、今度こそ本当に祈里を抱きしめた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「アタシ、格好悪い…」

 翌日、朝。
 見事に風邪の症状が再発していた。治りきってもいないのに、一晩中、パジャマをはだけていたのはマズかったかもしれない。
 祈里が用意してくれた濡れマスクのおかげで、喉の調子はだいぶ楽だ。

「美希ちゃん、だいじょうぶ? お粥、もう少ししたら出来るからね」

 ドアを開けて部屋に入ってきた祈里は、パジャマの上からエプロンをまとっていて、とても家庭的な雰囲気だ。ほくほくとお粥の匂いがしている。
 美希は上体を起き上がらせ、口もとのマスクを下げた。

「ありがと。ブッキーのお粥食べて、早く風邪治さないとね」
「熱は今どんな感じ?」

 そう言って近づいてきた祈里が、美希とおでこをくっつき合わせる。体温計があるからそっちを使えばいいのに、と思わないこともない。
 とりあえず唇同士の距離が近いなあ…などと美希が考えていたら、それが伝わったのか、祈里の顔がサッと離れてしまった。

「なに照れてるのよ。昨日はあんなにキスしてきたくせに」
「だって、あれは…その……」
「 ――― で、こっちへのキスはいつしてくれるの?」

 美希が自分の唇を指でなぞってみる。祈里は花も恥らうぐらいの可愛らしさでエプロンの裾を掴んでモジモジするばかり。そんな彼女の様子をじっくり観賞してから提案する。

「もし、昨日感じた気持ちが二人とも変わらないまま大人になれたら、その時にしよっか。アタシたちの独身20周年記念ってことで」

 祈里が嬉しそうに赤らめた顔を、こくっ、と縦に振った。そして、キュッ…と握った右手のこぶしを口もとに当て、微妙に美希から視線をそらして言う。

「早く風邪治してね。初詣で一緒にお願いしてほしい事があるから」
「ん? アタシに彼氏が出来ないように…とか?」
「ううん、そうじゃなくて……あのね、わたしの胸が大きくなるようにって……」

 パタパタと逃げるように小走りでドアの前まで行って、そこでまたモジモジしながら続きの言葉を口にする。

「美希ちゃんは、胸のおっきい女の子が好きだもんね」
「……へっ?」
「うんっ、わたし、がんばるからっ!」

 はじけるような笑顔で振り向いた祈里が「すぐにお粥持ってくるから」と部屋を出て行った。残された美希が、祈里は何をどうがんばるつもりなんだろう?とベッドの上で考え込む。
 昨夜の、二人だけの甘いクリスマス・イブを経て、何故かよく分からない勘違いが生じてしまっているらしい。あとで一つ訂正を入れておこうと美希は思った。
 自分が好きなのは、胸の大きな女の子ではなく、山吹祈里という女の子だけなのだ、と。

(アタシもがんばったほうがいいかな? 胸のサイズでブッキーにどんどん置いていかれそうな気がする……)

 再びベッドに横になってマスクを戻そうとした美希が「くしゅんっ!」と可愛らしいくしゃみをした。


(おわり)
最終更新:2011年12月31日 11:25